〈ミナ ペルホネン〉の皆川明さんが明かす、ブランドを100年続けるための思考と行動:朝吹真理子のデザイナー訪問記

〈ミナ ペルホネン〉の皆川明さんが明かす、ブランドを100年続けるための思考と行動:朝吹真理子のデザイナー訪問記

作家・朝吹真理子が服作りのインスピレーション源を聞きに、 デザイナーを訪ねていく連載。 第3回は〈ミナ ペルホネン〉の皆川明さんが登場です。 着想の源である北欧の作家の話から始まり、最後はミナの 「時間とともに生きる洋服」という概念にたどり着きました。

皆川 明
〈ミナ ペルホネン〉デザイナー

デザイナー皆川明

みながわ・あきら>> 1967年東京生まれ。文化服装学院卒業後、95年に自身のブランド〈ミナ〉(2003年より〈ミナ ペルホネン〉)を設立。時の経過により色褪せることのないデザインと自然界にあるものを自由な感性で描くテキスタイルによる服作りで知られる。また、インテリアファブリックや家具などのプロダクトも多く発表。北欧のテキスタイルブランドへのデザイン提供、新聞の挿画なども手がける。

Inspiration from

RUT BRYK

ルート・ブリュック>> フィンランドを代表するアーティスト。1942年よりアラビア製陶所・美術部門の専属アーティストとして活躍。愛らしい陶板から始まり、膨大なピースを組み合わせた迫力あるモザイク壁画まで、幅広い作品を手がけた。独自の自然観に基づく繊細な図や形態は、今も人々を魅了する。1999年没。夫はデザイナー、彫刻家の故タピオ・ヴィルカラ。

どこかの誰かではなく 自分や家族のための物作りに 響き合うものがある。

朝吹 今回初めてルート・ブリュックさんのことを知ることができて、たいへん感激しています。

皆川 素晴らしいですよね。日本ではまだそれほど知られていないのが不思議なくらいで。19歳の時ですけれど、フィンランドに行って図書館で出会いました。今では娘のマーリアさんとも、彼女もアーティストなんですが、親しくしています。

朝吹 ルート・ブリュックの家族写真もとてもいいなと思いました。時間軸がずれるんですが、ルートさんが着ている洋服がふと、ミナに見えて。実際の時間軸ではそういうことはおきないんだけれども、もし同時代に生きていたらミナを着ていたんじゃないかと思ってしまうような写真がたくさんありました。皆川さんがルート・ブリュックに出会った瞬間にはルートはすでに亡くなっているんだけれども、なんだか不思議な……。

皆川 そうですね、多分、デザイナーになるとも決めてないときの旅で出会っていて。マーリアとヘルシンキで初めて会ったとき、「あなたがミナ ペルホネンね。私、洋服を持っているの」と言われたとき、なんか時間がぐるっと回ったような。自分は10代の頃にルートに惹かれて、その後に彼女の娘が自分の服を着ている。なんだか不思議な気分になりました。

朝吹 今回、お話しすることになって、ルート・ブリュックの名前だけ聞いて、どんな作品なのかわからないままパソコンでリンクを押した瞬間に小さな陶板がでてきて、なんとなく、(画家のロベール・)クートラスのことを思ったんですね。そうしたら、皆川さんの過去のインタビューでとても大切に思うアーティストの2人というのがルートとクートラスだとあって。響き合うものがあるのかなと思いました。

皆川 確かにそうですね。ルートの夫はタピオ・ヴィルカラというフィンランドを代表するアーティストなんです。日本でいうと、現代の深澤直人さん的な立場でしょうか。夫は外の、ある種、プロダクトデザイナーとして国の代表選手のような存在である中で、ルートは内に篭った仕事をしたんだと思うんです。誰かのためというよりも、自分のためとか家族のための作品であったりする。ものづくりの執着みたいな気持ちは、クートラスにも通じている、そんな感じが強くしますね。

朝吹 皆川さんも自分が面白いと思う、自分の周りの人が面白いと思う、そういうことだけを確信にして形にするというのを読んだことがあります。ルートとは、時間と国は違うけれども、響き合っているんだな、同じ創作の海にいるんだなと思いました。

皆川 僕らは自分の記憶から物に向かっていくということが大事で、自分の中に潜って、記憶に想像を埋め込んでいくといいますか。使ってくださる方がまた自分の記憶を感じたり、共感することもあるでしょうし、使っていく中で新しい記憶に変わる。記憶が物質化しているみたいな感じがあるんですよね。

朝吹真理子と皆川明

 

自分の記憶に潜り、想像を足していくのがミナの物作り。 洋服を買った人が使っていく中で新たな記憶に変える。 そうやって、記憶が物質化しているイメージ。

朝吹 ワタリウム美術館の側のお店(ミナ ペルホネン ピース,)に行ったことがあって、そこでとても感動したのが、余り布を売っていたんです。暮らしの長い時間の中で洋服に穴が開いてボロになっていく時間のことをデザイナーが考えているのは衝撃だったんですね。なんて素敵なんだろうと。そういう風に洋服が時とともに一緒にあるということに。

皆川 ありがとうございます。

朝吹 ミナ ペルホネンを100年続けるものにするために、もちろん人間の肉体には限りがあるので、誰かにバトンを渡す必要がある、もうその時期にきているんだよという記事を拝見しました。

皆川 はい。もともと、100年続けると考えたときに、逆算すると自分の持ち時間は30年くらい。最初のその30年で何をしたらいいんだろう。もの作りに対する姿勢やクォリティ、工場の方たちと信頼関係のもとで、お互いの喜びのためにやろうというミナの考え方もあります。大変なことは途中から始めづらいもので、最初に癖づけする必要があるというか。次の人が当たり前のこととして、それを続けていくといいなと思ったんですよね。

朝吹 渡される人たちはどんな心境なんでしょうか……。

皆川 多分、余裕なんじゃないですか(笑)。急にではなくて数年かけて、今まさにこれからというところですけれど。自分がぎりぎりまでやるのではなくて、次の人たちに、失敗してもリカバリーできる時間をもたせて渡す。そうすると15年くらいごとに、6、7人で100年引き継げて、ひとつの理念が維持される。

朝吹 先ほどすごく素敵だなと思ったのが、ルート・ブリュックの作品集に付箋がいくつも貼ってあって。皆川さんが貼ったのかもしれないし、「みんなもよく見ているので誰かが貼ったのかも」とさらりとおっしゃっていた。普通、トップの人が好きなものを勉強で見ることはあっても、ボスの本に付箋は貼らないですよね(笑)。そういうことが起こるのは、みんなで一緒に続けていくブランドなんだと考えていることが、浸透しているんだなと思いました。

展覧会『ルート・ブリュック 蝶の軌跡』が開催。

約200点のセラミックやテキスタイルなどを通じて、ルート・ブリュックの多彩な仕事を日本で初めて網羅する展覧会が、東京ステーションギャラリーにて開催。染織ブランド〈アトリエシムラ〉によるストールや、和菓子店「HIGASHIYA」による落雁など、ブリュックに着想した限定グッズも。入場料は一般 ¥1,100、6月16日まで。

 

皆川 僕は基本的には聞かれたことには答えますけど、それ以外はほぼなにも。こういう絵を描いてくれというのはないですし。何人かのスタッフが自由に描きつつ、足りない図柄を僕が描き足さなきゃいけないなとか、あの工場は仕事が足りていないなとか、半年で作れる量や時間もなんとなく頭にセットしながら描きます。

朝吹 そのあたりをすごく気にされていますね。工場とも春夏、秋冬、という形でしか付き合えないことの申し訳なさがあって、そこからファブリックやインテリアのことが出てきたと以前おっしゃっていました。取引する人との関係、消費社会とどう向き合うか、大きい仕組みや経済に、自分のクリエイションが関わっていることを深刻に受け止めている方だからそういう発想になるんだと思いました。 皆川 日本は少人数でやっている工場が多いので、僕らの発注が直接的に生活に影響する。当然、気にするということはあります。

朝吹 100年続くミナを考えて、いろいろな人がミナの部分を担っていくとなると、やっぱり工場の人達が、ミナを一緒に作るっていうことなんですよね。

 

渡す人も次の人もトップスピードに乗っている、 日本の短距離リレーのようにブランドのバトンを渡したい。

朝吹真理子
プレスルームにて。旅の途中の列車内を想像させる試着室。「試着室は大切にしている場所です。プライベートな空間で、なるべくゆったりとひとりになって洋服に向き合える場所にしたい」(皆川)

皆川 作る人たちと着る人たちの幸福感はイーブンでありたい。着る人たちのために、あなたたちは我慢して低賃金で働いてねというのは、デザイナーのハンドリングとしては不十分だと思うんです。

編集部 プロダクトだと形になるまでの工程に注目が集まりますが、服はそういう対象物ではないところがありますよね。

皆川 さっきの余り布も、物質的な無駄をなくすということになりがちですが、それだけで終わらせたくない。やっぱりこの中に刺繡や加工する時間が入っていて、その前には誰かが糸を作っている時間もある。いろんな時間が小さなピースの中にも入っているんです。

朝吹 買った人が持っていた時間に新たにその端切れの時間が加わっていく。面白いですね。

皆川 物質的な無駄だけではなくて、洋服が作られる工程で生まれる時間や、費やされた労力も捨てないで活かし切りたいと思っています。そこに生活の過程や時間が生まれるので、意外と最初の目的から外れたものが、「もういらないもの」になるとは限らないということです。

朝吹真理子 あさぶき・まりこ

1984年東京都生まれ。2009年に小説『流跡』でデビュー。11年には『きことわ』で芥川賞受賞。最新作は、恋愛感情のないまま結婚した男女を主人公に、幾層もの時間を描いた『TIMELESS』。今夏に2冊のエッセイ集を刊行予定。

Photo: Kenshu Shintsubo Text: Kaori Watanabe (FW)

GINZA2019年6月号掲載

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