パンクやロックと結びつけて語られることの多い〈UNDERCOVER〉が、近年ラッパー/トラックメイカーの5lackと盛んに交流していることをご存知だろうか?東京にとらわれず海外進出も続ける〈UNDERCOVER〉のデザイナー・高橋盾と、東京を離れ拠点を福岡へと移した5lack。一見交わらないようにも思えるふたりは、しかし心からお互いを信頼しあっているのだという。そんな「親友」同士の対話からは、クリエイションに対する共通するスタンスが見えてきた。
5lackとアンダーカバー高橋盾が語る音楽とファッション。これからのクリエイションに大切なこと

異質なふたりの出会い
──5lackさんと〈UNDERCOVER〉のつながりをうまく想像できない方も多い気がするのですが、おふたりが出会ったきっかけは何だったんでしょうか?
5lack 守本(勝英)さんというカメラマンが共通の知り合いで、お互いのことを紹介してくれていたんです。初めて会ったのは何年前でしたっけ?
高橋盾(以下、高橋) 2年前のフジロックじゃない?俺たちはいつもキャンドル・ジュンくんが手がけているピラミッドガーデンでテントを張ってだらだら飲んでいて。5lackが(野田)洋次郎のライブに出てたんだよね。
5lack illion[編注:野田洋次郎のソロプロジェクト]のライブにフィーチャリングで出て、夜合流したんだ。
高橋 テントから出たら5lackがいて。モーリー(守本)から話は聞いていたしPSGや5lackの曲も聴いていたから、あぁ、と。酔っ払ってて何を話したかは全然覚えてないんだけど(笑)。
──高橋さんは5lackさんの活動もよく知っていたわけですね。5lackさんは〈UNDERCOVER〉についてよくご存知でしたか?
5lack いちいちブランドを区別して考えているわけじゃないですけどいわゆる「ハイブランド」みたいなイメージもあったし、あまり深く掘る機会はなくて。だから会ってからその凄まじさを知ることになったというか(笑)。知識がなかった分、逆にジョニオさん(高橋盾さんのニックネーム)ともいい感じに話せたんだと思います。初対面のときから貫禄はすごかったのを覚えてますけどね。
高橋 ただ年とってるだけでしょ(笑)。それから2016年の秋に地元の桐生で友だちとやってるイベントに無理やり誘ったんだよね。
5lack そこまでもいろいろありませんでしたっけ?
高橋 (松田)翔太と3人で飲んだりとか、ちょこちょこ会ってはいたね。モーリーたちと『7人の侍』のリマスター上映を観に行ったりとか(笑)。そのときすごく遅刻してきたよね。
5lack ギリギリでしたね。『7人の侍』のTシャツ着ていったから、気合い入りすぎてる感じで(笑)。その頃から改めて〈UNDERCOVER〉の服も見てみたいですと話すようになったり、よく飲むようになりましたね。
「疑問」を提示するクリエイション
──おふたりは世代も所属している領域も違うと思うんですが、お互いどういう印象をおもちですか?
高橋 5lackはいま31歳でしょ。20〜30代のムーブメントの中心にいるわけだから、どういうことが起きていてどういうことを考えているのか身近に感じられるからすごく刺激になる。
5lack ジョニオさんは謙虚だなと思いますね。常にフレッシュで、上下もない。そういう先輩を見てると、人は常に向上していくチャンスがあるんだなと思います。
高橋 上下みたいな意識はまったくないからね。ある意味進歩がないというか(笑)。俺は来年50歳でまわりからも大御所扱いされることが増えてきたけど、そういう自覚もないしみんなと遊んでるのが楽しいだけ(笑)。一緒に遊んでる人は音楽でも芸能でも時代をつくっている人ばかりだから、刺激が多い。
5lack 責任感があるのもすごいなと。
高橋 責任というか自分の立ち位置はわかっているから。自分が先輩から刺激を受けたことは下の世代にも伝えたいし、色々な人に会わせたいしね。
──高橋さんから見て5lackさんはどんなところが面白いなと思われました?
高橋 モーリーが親密にしてる時点で信頼はしてたんだけど(笑)、5lackは詞もいいしトラックもいい。新しいアルバムでも自分が疑問に思ってることをちゃんと歌っているし。自分の身の回りに起きていることを等身大で伝えてる感じがすごくいいよね。
5lack よく思われたいという体でつくることがないんですよね。いいことを歌いたいとかみんな幸せになれるとか現実離れしていることを歌う人は多いけど、俺にはそういう感覚が欠けていて。どちらかというと現状に対して疑問を投げかけたいというか。だからすでに誰かが完成させてしまったものには興味がなくて、駄目な部分とか片付いていない部分を改善していきたいんです。でもジョニオさんのつくっているものも、ただの反発じゃなくて疑問を投げかけている感じがします。
高橋 俺は疑問とか反発とか通り過ぎちゃってるけどね(笑)。
5lack 何になってるんですか?(笑)
高橋 物語みたいになってる。
5lack あー、たしかにメッセージはありますよね。そういうスタイルは勉強にもなりますよ。
ファッション・音楽・都市
──5lackさんにとっての「ファッション」ということでいえば、なにかファッションから影響を受けたり、こだわりはあったりするんでしょうか。
5lack そうですね。服に関しては自分の「これがいい」みたいな気持ちが強くて。ファッション関係の友だちもあんまりいなくて、いたとしても大抵守本さんつながりです。
高橋 ハイソックス一緒に買いに行ったことあるよね。
5lack 原宿のサンタモニカに(笑)。買いに行きませんかって誘って。店内の様子がおかしくなりましたね。
高橋 ハイソックス穿くんだなと思って(笑)。
5lack ハイソックスしか穿かないんですよね(笑)。ただ、サイズ感とかに関しては自分の好きなものが結構変わってしまうんですよね。絶対このサイズしか買わないと思ってたのに、半年後にはそれより細身の洋服を買い始めたり。
── 一方で、「UNDERCOVER」というとよくパンクとのつながりが語られることが多いですよね。高橋さんご自身はヒップホップからも影響を受けたりするんでしょうか。
高橋 逆にパンクなんか最近聴かないですよ(笑)。最初に衝撃を受けたのはパンクだったし、もちろんレベルミュージックとしてはいまも好きですけど。だからいまだにパンクとか言われると「まあ…」みたいな(笑)。
5lack 思えば俺も普段ヒップホップあんまり聴かないかもしれないですね。表現方法はヒップホップだけど、外から吸収したものを反映する感じ。
──そういう意味では、「ファッション」と「音楽」の関係性も1980〜1990年代と比べると大きく変わっているように感じます。
高橋 自分がデザインを始めたころはその人が何を聴いているかが格好に表れていたけど、90年代中ごろからミクスチャーの時代に入った。自分の聴く音楽も広がっていったし、もう音楽と格好がリンクする時代は終わったんだなと思います。ジャズ聴きながら全然違うデザインもするし、もちろんリンクするときもあるけどほとんど関係ないというか。自分は常に音楽を聴きながら仕事していて、大体午前中は“掘る”。メールのやり取りしながらずっと。最近はずっとテクノを聴いているので、beatportでずっと新譜を買い続けていて。
5lack 俺は逆に全然掘れないっすね。
高橋 仕事にしてるからじゃない?
5lack 朝起きたら昨晩ミックスした曲を聴き直して、変な部分を調節して。それで気がつくと3時間経ってたり。やればやるほど耳の「体力」を感じてきてますね。
高橋 たしかに掘ってるとすごい疲れるよね。気づいたらいつも昼ぐらいにぐったりしてる(笑)。
5lack 友だちと車乗っていても、急に音楽の音量を小さくすることもありますね。いまみんな耳疲れてるころだと思うよって。
──耳の疲れは環境によっても変わりそうですよね。5lackさんは数年前に福岡に移住されましたが、それによって音楽やファッションとの距離感は変わりましたか?
5lack どうだろう。福岡もお店や人がすごく多いですからね。ファッションについては身近に凄腕たちがいるので(笑)、その方々から得た知識を生かして自分なりに買い物をしています。東京は情報が溢れすぎてて逆にあんまり買い物しないかもしれないです。
高橋 新しいアルバム(『KESHIKI』)を聴けば聴くほど、都会に対して疲れた5lackみたいなものが見えてくる気がする。
5lack 東京にいると活動がルーティン化してしまって。そこから離れて客観的に見たいのかもしれないですね。東京にいるときも、街の中心には「通いたい」というか。仕事が終わったら自分しか知らない場所に帰りたくて。
高橋 板橋から渋谷の方に来るときも「都心に行きます」とか言ってたでしょ(笑)。俺が群馬から東京に出てきたときも群馬に疲れたみたいな感覚があって、それと通ずる部分はあるのかもしれないね。
初海外=パリコレがもたらしたもの
──近年、5lackさんは定期的に〈UNDERCOVER〉とコラボされている印象があります。2017年は〈sacai〉と〈UNDERCOVER〉の合同ショー「AT TOKYO」のイベント、2018年は〈UNDERCOVER〉京都店のオープニングイベントに出演されていますよね。
5lack おかげさまで(笑)。あとあれですよ、一緒にパリコレにも行きましたよね。
高橋 そうだ、パリに誘ったんですよ。「海外行ったことない」って言うから、じゃあ最初パリじゃない?みたいな感じで(笑)。パリコレの様子を見たら5lackのなかで面白いものが生まれるんじゃないかと思ったんです。
──初の海外がパリコレというのはすごそうですね(笑)。
5lack プロの「社会科見学」みたいな(笑)。準備から全部同行しましたよね。
高橋 パリのアトリエにも来てもらってずっと一緒にいたよね。守本もずっと一緒だったから、夜はみんなで飲んだりして。
5lack リハから始まって本番も観て終わりまで同行して、テレビ観てる感じでしたね(笑)。
──密着取材みたいな。
5lack すごかったっすよ。ショー自体もすごく盛り上がっていたし。
高橋 あれは2017年の3月だったと思うけど、個人的にも好きなショーだったからね。いわゆるファッションショーというより舞台に近いシーズンだったし、エンターテインメントとして観てもらいたくて。つくっているのは洋服でも発表の仕方はライブと一緒だから、なにか感じてくれたら嬉しいなと。
5lack だから自分のワンマンライブをつくるうえでもかなり影響はありました。プロはこういう細かいところまで自分でやるんだなとか、シンプルに勉強になりましたね。
高橋 楽しかったよね。
5lack そのおかげでフランスの印象がめっちゃいいですから(笑)。
──パリではいろいろな方と会ったりされたんですか?
5lack (野口)強さんと会いましたね。
高橋 俺と野口強とモーリーと5lackで飲むっていう(笑)。
5lack その時も俺は強さんのこと深く知らなかったから、逆に話しやすかったっていう。
──かなり強烈なメンバーですね(笑)。パリコレを通じて、ファッションの印象も変わったんでしょうか。
5lack テレビでファッションショーを見ると相当奇抜だし「こんなの買えないでしょ」と思ってたんですけど(笑)、アートや表現として服を使ってるんだなと。それまではコレクションてものもよくわかってなかったので、かなり捉え方は変わりましたね。
高橋 やっぱり海外に出たほうがね。音楽は言葉の壁もあるから、それを縮めることを考えると海外に慣れておかないと。うちらは洋服だから言葉の壁がほとんどない状態だけど、音楽はそこが大変だよね。だけど結局アーティスト同士が接していけば壁はなくなっていくはずだから。
5lack 外から見て客観視できるから、日本を知ることにもなりますよね。この場合は日本だとこうした方がいいだろうなとか、いろいろな発想も生まれました。
──おふたりのお話を伺って、お互いにいい影響を及ぼし合っているんだなと感じました。5lackさんと〈UNDERCOVER〉、今後もコラボの予定はあるんでしょうか?
高橋 ゆくゆくはもっと何かやってほしいなと思ってるんですけどね。
5lack そうですね。パリコレに行ったときはショーの音楽に使ってもらえないか売り込んだんですけど(笑)。
高橋 まあ、まだそのタイミングじゃないなと(笑)
5lack タイミングが大事なことはもちろん知ってますから。その時が来たらぜひ、と(笑)。