『アマンダと僕』監督ミカエル・アース×主演ヴァンサン・ラコストに聞く、音楽的映画論。パリで音楽を楽しむこと。

『アマンダと僕』監督ミカエル・アース×主演ヴァンサン・ラコストに聞く、音楽的映画論。パリで音楽を楽しむこと。

フランス映画のイメージといえば「スノッブで暗くて小むずかしい」…?ノンノン!そんな先入観を振り払ってくれる映画『アマンダと僕』が公開中です。本作でミカエル・アース監督は、フランス映画界で大注目の26歳、ヴァンサン・ラコストを主演に迎え、無差別テロで大切な誰かを失った人々の再生の物語を、あえて穏やかな何気ないタッチで描きます。「僕の映画づくりは音楽的」だと繰り返し語る監督、それもそのはずで彼は音楽大好物な元バンドマン。ヴァンサンさんもカルチャー好きとのことで、パリから来日したおふたりに、“音楽的な映画づくり”とは何かということから、パリで今熱い音楽スポットまで伺いました


 

シリアスなテーマも穏やかに描く。
秘けつは“ユーモア”

──ミカエル・アース監督の映画『アマンダと僕』(18)『サマーフィーリング』(15)が今夏、立て続けに日本公開されます。普段フランス映画を観ていると、道ですれ違って肩が当たっただけで相手に文句を言うみたいな、よく言えば大胆な人、悪く言えば口が悪い人がわりとよく登場する気がしていて(笑)。でも監督の映画には、そういうキャラクターはあまり出てきませんね。

ミカエル・アース(以下、ミカエル) フランスでも、僕の映画には「人の好いキャラクターが多い」とよく言われます。でもそのあたりはあくまでも、自分が持っている感性の問題なので。それにフランス映画の中にも、僕の映画のように穏やかな人が出てくるものが多々あるし、怒りっぽい人が出てくるようなものばかりではないと思いますしね。

 

──『アマンダと僕』『サマーフィーリング』はともに、突然の悲劇に傷ついた人々が悲しみを乗り越えるまでの姿を、まるで見守るようにやさしく描く映画です。『アマンダと僕』は“無差別テロ”という特にシリアスなテーマを扱ってはいますが、決して深刻になりすぎない、穏やかな表現が印象的でした。

ヴァンサン・ラコスト(以下、ヴァンサン) たしかに本作は悲しい物語ではありますが、最後には光が差します。僕は、すべてを真に受けたような、大げさでユーモアのない映画が嫌いです。シリアスなテーマをまじめに受け取り、まじめに描くだけでは、その映画は決しておもしろくなりませんから。ミカエル監督の映画はそういうものではありません。とてもやさしくて繊細で、僕ら俳優が演じるキャラクターの心情が正確に表現されている作品だと思います。

 

──たしかに監督の映画には、悲しみと同じくらいユーモアがあるように思いますが、そのユーモアは、ヴァンサンさんが主人公ダヴィッドを演じていることからも生まれている気がします。チャーミングで軽やかな魅力がある俳優さんだなと思うので。

ヴァンサン ありがとうございます。僕自身にとっても、ユーモアは大切なものですね。ユーモアがなければ俳優じゃなくて銀行マンになってたかも?(笑)。「笑いたい」「たのしみたい」と常に考えていて、人生はたのしまないと価値がないと思ってさえいます。もちろんときには疲れてテンションが下がるときもありますけどね。でも僕の友だちの中には、いつ会っても上機嫌な、だいぶアッパーな奴もいます(笑)。

ミカエル ヴァンサンがさっき言ってくれたように、僕の映画はたのしいだけの映画ではありませんけれど、それでもやはりユーモアは大切なものです。人生において憂鬱なことは多々ありますが、たのしく生きること、ものごとを真に受けないこと、心を動かされたままにならないことは本当に大切だと思います。僕自身もたのしむことや、ふざけることが大好きです……ってまじめにそういうことを言う自分(笑)。

ヴァンサン (笑)。僕もふざけるのは大好き!

アマンダと僕 インタビュー

──先ほど監督は「フランス映画にも、穏やかな人が出てくるものも多々ある」とおっしゃっていましたが、監督がお好きだと公言されているエリック・ロメール(※1)やフランソワ・トリュフォー(※2)の映画にも、穏やかなキャラクターがよく登場するかもしれません。ヴァンサンさんもこのふたりのフランス人監督のことがお好きだと、以前のインタビューで読んだことがあります。

ヴァンサン 僕の両親は映画の仕事こそしていないんですが、ものすごくシネフィルで。子どもの頃から親の影響で映画をたくさん観る習慣がありました。最初はブライアン・デ・パルマ、フランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシといった、いわゆるアメリカン・ニューシネマ(※3)の監督の映画から観はじめたんですが、そうした監督はそもそもフランスの映画運動、ヌーヴェル・ヴァーグから影響を受けていることがわかって。それで僕も徐々にトリュフォーやロメールなどを観るようになりました。僕自身も今では映画好きになり、映画館にもよく観に行くし、映画の話をするのも好きですね。

ミカエル 僕はヴァンサンやご両親のように、映画に強迫観念を持っているようなシネフィルタイプではないから(笑)、普段から「この映画監督が〜」という風に名指しすることはほぼないんです。でもさっきおっしゃってくださったようにロメールは別格で、大好きですね。

 

──ロメール作品のどんなところに魅かれるんでしょう?

ミカエル 何より、映画に“音楽性”があるところ。それも彼にしか生み出せない音楽性で、ものすごく真実味があるんです。実在する場所からインスピレーションを得て、映画の中でその場所をすごくうまく描いているところも好きですね。「写実的」というのとは違うんだけど、ある種の本当らしさを、ロメールの映画を観ていると感じるんです。キャラクターの感情表現だったり……そこに自分の映画づくりと近いものを感じています。トリュフォーに関しては、好きな映画とそうでもない映画に分かれますね。

 

──トリュフォーだとどの映画がお好きなんですか?

ミカエル 『恋のエチュード』(71)、『大人は判ってくれない』(59)……

ヴァンサン 『柔らかい肌』(64)!

ミカエル そうそう。それ以外は嫌いというのではないけれど、深く共感する作品ではないですね。

アマンダと僕 インタビュー

ⓒ2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

 

ホラー映画で知られる作曲家に
映画音楽を依頼したわけ

──『アマンダと僕』の音楽を担当したのは、NY生まれの作曲家、アントン・サンコです。彼のフィルモグラフィーを見ると、ホラー映画やスリラー映画がほとんどですね。そんな彼に、本作のようなヒューマンドラマの音楽をどうしてお願いしようと思ったのでしょう?

ミカエル アントンにお願いしたきっかけは、彼が音楽を担当した『ラビット・ホール』(10)というハリウッド映画を観たことです。ニコール・キッドマン演じる女性主人公が子どもを亡くすという物語なのですが、その映画の音楽を聴いた瞬間に心を打たれ、アントンの才能に惚れ込んだんですね。それで前作の『サマーフィーリング』をつくっていた最中に、アントンに連絡をとり、編集作業中に自分の気分を乗せるために聴く音楽をつくってもらったんです。映画の中に使ってはいないんですけど。

 

──あくまで編集作業用のBGMをお願いしたということですね。なんと贅沢!そんなおふたりの満を持してのコラボレーションが、『アマンダと僕』で実現したわけですね。

ミカエル ええ。アントンの音楽が持つリズムが、本作のリズムと合うと確信したので。彼には今回、撮影完了後に一度パリに来てもらって、僕らが編集作業を行っていた部屋の隣でデモテープをつくってもらいました。そのあと彼はアメリカに戻り、ソルトレイクシティで、オーケストラの演奏で録音を行ってくれました。

 

──そうしたひと苦労の甲斐あって、音楽もすばらしかったです。映画音楽を極力切り詰めるような映画監督もいる一方で、ミカエル監督はむしろ音楽で観客の感情を高めていきますよね。下手すると、観客を泣かせるのが目的の“お涙頂戴映画”のように見えてしまいかねないと思うのですが、でも『アマンダと僕』の音楽の使い方には、そうはならない抑制がちゃんと効いているように思いました。

ミカエル それはよかった。映画音楽の使い方で大事なのはバランスだと思いますね。音楽が映像をつぶさないような、繊細で透明感のある使い方を心がけています。たとえばシーンごとの状況に応じて、マンドリンやウクレレなどの明るい音色の楽器を全面に出した音楽と、あるいはそうした楽器を打ち消すようにした音楽を使い分けたり。本作のクライマックスの、テニスのウィンブルドン選手権の会場にて、主人公ダヴィッドと姪アマンダ(イゾール・ミュルトリエ)が会話するシーンでは、アントン・サンコの曲ではなく、アーロン・コープランド(※4)のクラリネットやバイオリンを用いた協奏曲を使っていたりもします。

アマンダと僕 インタビュー

ⓒ2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

 

「音楽のような映画づくりが理想」
そんな監督に伺う、パリの音楽的名所

──ミカエル監督の映画を拝見していると、きっと音楽好きなんだろうなぁとたびたび思うんです。前作の『サマーフィーリング』には、インディーロック界で人気のシンガーソングライター、マック・デマルコのライブシーンがありましたし、The Kinks(※5)などのバンドTも劇中にたくさん登場します。『アマンダと僕』でも、エンディングの音楽をPulpのジャーヴィス・コッカー(※6)に依頼できて、「若い頃の夢が叶った」とプレス資料のインタビューでおっしゃっていました。そんな音楽好きで、かつ映画の仕事をしている監督にお聞きしたいのは、“音楽にはできない、映画にしか実現できない何かはあるのか?”ということなんです。

ミカエル うーん……僕はティーンの頃、音楽をつくることが好きで、本当は音楽の道に進みたかったんですよ。才能がなかったので諦めましたが。もし音楽の才能があったら、ライブの場でお客さんとフィーリングを直に共有し合えるはずで、それはすばらしいことだと思いますね。僕は映画の道を選びましたが、映画もひとつの音楽のように感じているんです。先ほどロメールの映画について言ったこととつながるかもしれませんが、自分では、音楽のような映画をつくっているつもりなんです。決して知的な映画ではなく、観る人が心地よく感じられるような映画です。音楽って知的解釈をするのではなく、メロディーを聴いて感じるものですよね。それと同じような映画づくりをしているんです。

 

──なるほど。監督の中で音楽づくりと映画づくりは共通したものなんですね。ちなみにですが、ティーンの頃のバンド活動とはどのような……?

ミカエル 高校生のときにインディーロックバンドを組んでいて、僕はギターを弾いていました。周りのバンドがせっせとLed Zeppelinのコピーをしている中で、僕らだけはコピーせず、もちろん下手なりにだけど、まったくのオリジナル曲を演奏していましたね。

ヴァンサン 監督にそんな時代があったなんて(笑)。

 

──最初からオリジナル曲というバンドもまれですよね。監督は昔から一貫して“つくること”がお好きなんですね、きっと。

ミカエル 実は高校生当時のバンドメンバーのひとりが日仏のハーフなんですが、今横浜に住んでいるんです。明日の朝ひさしぶりに会って一緒に朝食をとる予定で、すごくたのしみなんですよ。

アマンダと僕 インタビュー

──今回の日本滞在に、そんな素敵なプランがあったんですね!最後に、音楽好きな監督、そしてヴァンサンさんのおふたりはともにパリにお住まいですが、よければパリ旅行を計画中のGINZA読者のために、おすすめの音楽スポットを教えていただけないでしょうか?

ミカエル もちろんOKですよ!レコード屋なら、12区にあるインディーロック専門の「Hands And Arms」かな。あと9区の「Balades Sonores」も、オールジャンルを網羅していておすすめです。

ヴァンサン 僕もこの2店には結構行きますが、両方こじんまりしたいい店ですよ。

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Le BitterSweet(Paradise) édition 2019 : c’est parti 🎉

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ミカエル あと11区にインディーロックを聴けるバーがあって、選曲センスが最高なんです。「Le Motel」っていうんですけど。ときどきライブイベントを開いていたり、店内の壁には音楽系のヴィンテージポスターが貼られていたり、音楽好き・カルチャー好きの方ならすごくたのしめると思います。

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Motel de nuit. #lemotel #indiebar #bar

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──今すぐ行ってみたい! 今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

アマンダと僕 インタビュー

 

※1エリック・ロメール…フランスの映画監督。1950年代末に始まったフランスにおける映画運動・ヌーヴェル・ヴァーグの中心人物で、恋愛模様を軽快なタッチで描く、会話劇的な作品に定評がある。代表作に『海辺のポーリーヌ』(83)、『緑の光線』(86)など。
※2 フランソワ・トリュフォー…フランスの映画監督。ロメールに同じくヌーヴェル・ヴァーグの中心人物で、“女性と子どもと書物”への愛情をおもなモチーフとして作品を発表してきた。
※3 アメリカン・ニューシネマ…1960年代後半〜1970年代半ばにかけてアメリカで製作された、アウトローな若者たちの心情を綴る映画作品群をまとめて指す呼称。
※4 アーロン・コープランド…20世紀アメリカを代表する作曲家のひとり。アメリカの古い民謡を取り入れた、親しみやすく明快な曲調で知られる。
※5 The Kinks…1964年結成のイギリスのロックバンドで、当時のロック界に対して重要な影響を与えたバンドのひとつと言われる。
※6 Pulpのジャーヴィス・コッカー…Pulpは1978年結成のイギリスのロックバンドで、社会現象的な人気を誇った。ジャーヴィスはそのメンバーで、ギターとヴォーカルを担当。


『アマンダと僕』
監督・脚本:ミカエル・アース
出演:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトリエ、ステイシー・マーティン、オフェリア・コルブ、マリアンヌ・バスレー、ジョナタン・コーエン、グレタ・スカッキ
配給:ビターズ・エンド
上映時間:107分
シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開中!
ⓒ2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA
www.bitters.co.jp/amanda/

ミカエル・アース Mikhaël Hers

1975年、パリ生まれ。映画監督。これまでに監督した長編映画は『Memory Lane』(10)、『サマーフィーリング』(15)、『アマンダと僕』(18)の3作。

ヴァンサン・ラコスト Vincent Lacoste

1993年、パリ生まれ。俳優。『アマンダと僕』でセザール賞の主演男優賞にノミネート。今フランスで注目の若手俳優のひとり。

Photo: Midori Kondoh Edit,Text: Milli Kawaguchi

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