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『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』アンドラ・デイにインタビュー。プラダを身にまとって演じた「闘うディーバ」

『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』アンドラ・デイにインタビュー。プラダを身にまとって演じた「闘うディーバ」

1959年に44歳の若さで亡くなった、伝説的なジャズシンガー、ビリー・ホリデイ。実は、人種差別に抗議した曲「奇妙な果実」を歌うことを禁じる政府の命令に、公然と反抗したことが早すぎる死につながったという。この知られざる実話をもとにした映画『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』(2月11日公開)でビリーを演じ、各映画賞で高い評価を受けたのは、シンガーソングライターのアンドラ・デイ。プラダ全面協力のゴージャスな衣装を身をまとい、全身全霊で挑んだ今作について話を聞いた。


──子どもの頃からビリー・ホリデイの大ファンだったそうですね。ビリーの音楽を初めて聴いたのはいつですか?

11歳のときです。もともとホイットニー・ヒューストンやアレサ・フランクリンのファンでしたが、女性シンガーをもっと幅広く知りたいと思っていたところ、音楽教室の先生からビリーを勧められて。最初は生意気にも「誰?」という感じだったんですが(笑)、あの振り絞るような独特の声に、まるで催眠術をかけられたように魅了されていきました。実は当時、自分の声が嫌いだったんです。でもビリーに出会ったことをきっかけに、自分らしい歌声を見つけることができました。

 

──今作では憧れのビリーを演じ、しかも本格的な演技は初めてだったとのこと。メガホンを取ったのは、『プレシャス』(09)、『大統領の執事の涙』(13)など、アフリカ系アメリカ人のアイデンティティを巡る作品で定評のあるリー・ダニエルズ監督です。大舞台に向けて、どのように準備をしましたか?

ビリーに関するあらゆる本や記事を読み、知識を身につけていきました。たとえば、香水。若い頃は「エメロード(Emeraude)」と「ナイト・イン・パリ(Evening in Paris)」、晩年は「ティグレス&ツイード(Tigress & Tweed)」を愛用していたそうです。ジュエリーや眼鏡などのブランドも調べ上げ、彼女のように話し、髪を結い、体重もかなり減らして。それから、普段の私はタバコもお酒もやりませんし、罵り言葉を使ったりもしませんが、この映画ではそうする必要がありました。すべてのディテールを通じて、ビリーを完成させていきました。

 

──生前の写真を見ると、ビリーはとてもおしゃれですよね。今作の衣装が全編、プラダとのコラボレーションというのも納得です。衣装デザインを担当したのは、ニッキー・ミナージュからキャメロン・ディアスまで、セレブのスタイリングも手掛けるパオロ・ニードゥ。衣装はビリーを演じる上での助けになりましたか?

洋服は、その人の人生を反映するものですよね。スウェットを着たとき、ドレスを着たとき、スーツを着たとき、それから私のお気に入りの、変てこなプリントのビッグT(笑)を着たときでは、気分はそれぞれ全く違います。この映画では、ゴールドのジュエリー、毛皮のコート、耳に挿したクチナシの花、深みのある色合いのドレスといった衣装を身につけることで、ゴージャスな世界観に浸ることができました。衣装はビリーになる上でというより、1940年代という時代にタイムスリップする上での助けになりましたね。当時は(人種差別が公然とあり)混沌とした時代でしたが、ビリーと仲間たちは、その中でも喜びを見出しながら生きていたんだと思います。

 

──身につけて印象的だったアイテムはありますか?

最後に「All of Me」を歌うシーンで着た(シフォンのような素材で繊細に作られた)ドレスが一番好きですね。あと、「God Bless The Child」を歌うシーンの、ベルベット生地のブラックドレスも、(肩ひもをわざと垂らした)ディティールが素晴らしかったです。実は私、衣装をいくつか自分のクローゼットに持って帰っちゃったんです(笑)。

 

──なんと、持って帰っちゃったんですか(笑)。

はい、盗みました。私は、逃げも隠れもしません(笑)。……というのはもちろん冗談で、それはそれは素敵なオリジナルのコートが衣装の中にありまして、なんと誕生日にプレゼントしてもらったんですよ。靴ももらいましたし、香水もうちのバスルームに並べています。あと、ビリーのシグネチャーアイテムとして有名な、黒人の女性の顔がモチーフのイヤリングももらいました。

 

──もう一つ、ビリーのシグネチャーアイテムといえば、耳に挿した髪飾りの花ですよね。衣装のパオロによると、撮影はカナダ・モントリオールで寒い時期に行われた関係で、クチナシやランの入手は相当大変だったようですね。

パオロは必要なシーンでは必ず生花を見つけてきてくれました。1回か2回、造花を使ったシーンもありますが、それはあえてでした。きっとモントリオール中を探し回ってくれたんでしょうね。パオロとの仕事は本当に楽しかったです。彼はファッションと1940年代のことについて、私もビリーと1940年のことについてよく知っていました。映画に真実味を出すために、まるで二人のスクールキッズのように、夢中で話し合ったものです。ビリーが晩年、髪が薄くなったときの描写もそこから生まれました。

 

──この映画は、アフリカ系アメリカ人の歴史のみならず、「インターセクショナリティ」の問題も描いています。つまり、ビリーは黒人で、女性でもあるという二重の差別を受けていました。演じる上で、その点も意識されましたか?

それどころか、三重の差別を受けていました。黒人で、女性で、クィアでしたから。彼女は多くの女性と関係を持っていたといわれています。そのために、自身の(アフリカ系アメリカ人の)コミュニティからは追放されていました。同胞たちは、ビリーの自由な振る舞いを好ましく思わなかったんですね。

 

──劇中にも、通りすがりの黒人の男性から「当局と問題ばかりだ。同胞の模範になる気はないんですか?」となじられたビリーが、「一番厳しいのが同胞ね」と皮肉を言うシーンがありましたね。

ビリーはもっとも早い時期に、人々がありのまま生きられるように闘っていた人だと思います。なぜ当時、多くの人が彼女に惹きつけられたのか。それは、彼女が誰のこともジャッジしなかったからです。来る者を拒まず、人々をありのままに愛していました。そして、ただ自由になるために闘いました。彼女にとっての「自由」とは、邪魔されることなく、攻撃されることなく生きること。彼女の闘いは、後世の私たちのためでもありました。ビリーという、断固として自由を諦めなかった人物を演じられて光栄です。私たちみんな、彼女のようになれたらいいんですけどね……。

 

──自由を求める闘いにおいて、ビリーは黒人へのリンチを告発する曲「奇妙な果実(Strange Fruits)」を歌い続けたわけですね。劇中の歌唱シーンの声は吹替ではなく、アンドラさん自身が歌っていると伺いました。

「奇妙な果実」は、痛々しくて醜い曲です。気楽に楽しむのではなく、しっかり歌詞を聴いて吸収してほしい、そういう願いが込められていると意識しながら歌いました。歌声は、普段とはガラッと変えないとなりませんでした。ビリーの声は喉の高いところから出ていて。険しい道を通り抜けた末、ようやく声となって発せられるような感じなんです。

 

──今作にはビリーの女性の恋人で、女優のタルーラ・バンクヘッドも登場します。タルーラはディズニーの人気ヴィラン、クルエラのモデルになった人物で、ビリー同様、“わきまえない女性”でした。タルーラを演じたナターシャ・リオンは人気シリーズ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』への出演で知られ、演出や脚本もこなす才能豊かな役者ですが、彼女との共演はいかがでしたか?

ナターシャは、今も大好きな仲間の一人です。撮影中、彼女は友だちであり、姉であり、先生でもありました。というのは、ビリーを演じる上で大切な“タバコの正しい吸い方“を教えてくれて(笑)。怒ったとき、悲しいとき、いちゃついているとき、タバコの吸い方はそれぞれ変わるんですって。実は初めての撮影は、ナターシャとのシーンでした。セントラルパークのシーンと、ジュエリー店のシーン(※ジュエリー店のシーンは、本国版の予告編で観られるが、本編からは削除された)です。この二つのシーンは私にとって、奇跡としか言いようがありません。彼女のおかげで演じ切れました。すごい才能の持ち主で、共演できて本当に幸せでした。

 

──当初は連邦麻薬取締局からビリーのおとり捜査に送られ、後に彼女と親しくなる、黒人の捜査官ジミーを演じたのは、『ムーンライト』(16)のトレヴァンテ・ローズです。印象に残っている共演シーンはありますか?

トレヴァンテには、信じられないほど感謝しています。彼は私に、ビリーになるためのスペースを与えてくれたんです。私たちは撮影を通じて、とても親しくなりました。というのも、お互いに、正直にオープンでい続けたからです。好きなシーンを一つ挙げるなら、(ビリーとフレッチャーが打ち解けた様子で談笑する)ダイナーのシーンです。ビリーたちが南部をライブツアーで回る最中の、すごく短いシーンなんですけどね。あとは、最後のユーモラスなダンスシーン。ビリーがフレッチャーに口うるさく振付をレクチャーするという(笑)。両シーンとも、楽しい撮影でした。キャストはみんな素敵な人たちで、きっと神様が彼らを私の人生に引き入れてくれたんだなって。撮影から年月が経ちましたが、今でも彼らからインスピレーションを受けています。

『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』

『ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ』 アンドラ・デイ インタビュー

「ビリー・ホリデイを止めろ! 彼女の歌声が人々を惑わせる」。1940年代、人種差別の撤廃を求める人々が、国に立ち向かった公民権運動の黎明期。アメリカ合衆国政府から、反乱の芽を叩きつぶすよう命じられたFBIは、絶大なる人気を誇る黒人ジャズシンガー、ビリー・ホリデイにターゲットを絞る。大ヒット曲「奇妙な果実(Strange Fruit)」が運動を扇動すると危険視し、黒人の捜査官ジミー・フレッチャーをおとり捜査に送りこんだのだ。だが、逆境に立てば立つほど、ビリーの圧巻のステージパフォーマンスは輝きを増し、肌の色や身分の違いを超えてすべての人を魅了する。やがてジミーも彼女に心酔し始めた頃、FBIが仕掛けた罠、そしてその先に待つ陰謀とは──?

原作: ヨハン・ハリ『麻薬と人間 100年の物語』(作品社刊)
監督: リー・ダニエルズ
脚本: スーザン=ロリ・パークス
出演: アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ、ギャレット・ヘドランド、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ミス・ローレンス・ワシントン
配給: ギャガ

2021年/アメリカ/131分/5.1chデジタル/カラー/シネスコ/原題:THE UNITED STATES VS. BILLIE HOLIDAY

2月11日(金)新宿ピカデリーほかで全国公開
©2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.

公式HPはこちら

Andra Day アンドラ・デイ

1984年、アメリカ・ワシントン州生まれ。子どもの頃から教会で歌い、ビリー・ホリデイの歌声に魅了され、ビリーの通称“レディ・デイ”から“デイ”をもらう。スティーヴィー・ワンダーに歌声を気に入られ、2015年にメジャー・デビューを果たす。スティーヴィーと共演したCMやスパイク・リーが手掛けたMVでも話題を集める。デビュー・アルバム『Cheers To The Fall』でグラミー賞最優秀R&Bアルバム賞にノミネートされ、その代表曲でありプラチナ・ディスクとなった「Rise Up」は最優秀R&Bパフォーマンス賞候補となる。アニメーション映画『カーズ/クロスロード』(17)に声の出演をし、コモンとともに歌った『マーシャル 法廷を変えた男』(17)の主題歌「Stand Up for Something」がアカデミー賞歌曲賞にノミネート。今作で、ゴールデン・グローブ賞〈ドラマ部門〉主演女優賞を受賞し、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされる。

Text&Edit: Milli Kawaguchi

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