前田敦子がいま女優として母として輝きを増す理由「悩んでも諦めずに考え続ける。一休さんみたいに」

前田敦子がいま女優として母として輝きを増す理由「悩んでも諦めずに考え続ける。一休さんみたいに」

2000年代以降を日本で過ごしてきた人なら誰でも、彼女のことをまだあどけない頃から知っているはず。14歳でアイドルデビュー後、“不動のセンター”としてAKB48の人気を培った立役者。2012年に21歳で同グループを卒業後は、女優として活躍、名だたる監督たちの心を鷲掴みしてきた。芸能界の第一線で長く活躍し、若くして結婚・出産も経た彼女だが、今でも理想の自分と現実のギャップに悩むことはあるという。そんなときは「立ち止まらずに考え続ける」。お話を伺って、彼女がいま一際輝く理由がわかった気がした。前田敦子は逃げないし、ブレないのだ。


新作映画『旅のおわり世界のはじまり』は、中央アジアの国ウズベキスタンで移ろっていく“心の物語”。主人公・葉子は旅番組のロケで、怪魚が棲むという湖や雄大な自然、そして首都タシケントの喧騒や熱っぽいバザールなどをめぐる。120分間の映画に、葉子がいない場面は一切ない。カメラはまるで葉子の人生と寄り添うように、1コマずつ、彼女の心の変化を追いかけていく。

「葉子は撮影クルーと一緒に異国を旅しているけれど、それは彼女を演じていた私自身の状況と重なります。言ってみれば、役と自分とにオン/オフがない状態だったんです。だから、なににも邪魔をされず、物語の世界に浸ることができました。普段なら不可欠な、役へ入り込むための集中を、あえてする必要がないというか。撮影のたび、自然と自分の立ち位置につけるというのは、幸福で不思議な感覚でした」

いまはテレビリポーターの仕事をしている葉子だけど、本当は舞台の上に立ち、歌をうたいたいと思っている。夢とリアルのズレを抱えている彼女を、前田敦子は繊細に演じた。

「葉子は、カメラが回れば気持ちを切り替えて前向きに仕事をこなすものの、それ以外の時間は他人に心を許さず、ずっと自分の世界に閉じこもっているんです。監督からは“周りに笑顔を振りまかないで、ADにはとくに冷たく”って指示されたんだけど、それが難しくて。ADを演じていたのが、普段から仲がいい(柄本)時生ということもあるし……だって、人と目が合ったら、どうしても笑顔になっちゃうじゃないですか」


旅のおわり世界のはじまり

この日、取材場所にあらわれたときから、にこにこ。話す相手としっかり目を合わせて微笑む彼女にとっては、たしかに難しいオーダーだったはず。だけど、通じ合える部分もあった。葉子と同じように彼女にも、思い描く自分と現実のギャップに悩んだ経験がある。

「そもそも私は、定期的にもがくタイプなんです。いまの自分となりたい自分を比べて“このままでいいの?”って思いはじめたら、止まらなくなっちゃう。だけど、絶対に立ち止まりません。前に進むためにいまできることをひたすら考えて、ちょっとしたことにもチャレンジし続けるのが好きなんです」

たとえば最近は、もうすこしマイペースに生活したいと考えた。家のなかにいても、朝起きたら洗濯をして、掃除機をかけて、子どもの世話をして……と、つい慌ただしく動いてしまう。

「でも、いつまでもそれじゃ疲れちゃうから、どうしたらいいのかなって考えたんです。それで、家のなかに観葉植物を増やしてみました。環境を変えたら、すこしゆとりができるんじゃないかな、って。もしそれでうまくいかなかったとしても、とりあえず試行錯誤するのが大事だと思うんですよね。あとは、人に聞いてみる!最近だと、壮ちゃん(俳優の池松壮亮さん)は私と似たタイプだなって思うから“こういうときはどうしてる?”って聞いたりしてます」

「映画をよく観ている」と言われれば、近ごろよかった作品タイトルを聞く。「公園を散歩するのはどう?」とすすめられれば、子どもと一緒に行くお買い物で、すこしだけ遠回りをしてみる。

「人に聞くのも、それを試してみるのも、昔から好き。誰かに対して“この人はなんでこんなふうにいられるのかな?”と感じるってことは、その人に憧れているってことだと思うんです。だから、素直に教えてもらう。きっかけは人の真似でもいいから、自分をよくするためになにができるのかって、常に考えています」

身近な存在に教えを請うのは、なかなか難しいことでもあるはず。でも、相手に対して嫉妬が生まれたり、プライドが邪魔したりすることはないという。

「むしろ“私はこの人よりここが劣ってる”という部分を、あえて見つけているかもしれないです。それに、素直に尊敬できるような人たちだからこそ、こうして一緒にいたいんだろうなって思うんでしょうし」

前田敦子 インタビュー

誰かをすごいと感じる気持ちが、自分自身の伸びしろになっていく。映画のなかで、いつも世界を恐れ、自分の殻に閉じこもっている葉子とは、正反対。「たしかに、葉子と私はそこが全然違いますね」と、無邪気に笑う。そんな前田敦子のことを、本作でメガホンをとった黒沢清監督は「独特の強さと孤独感が漂う稀有な女優」と評した。

「監督は、私がなにかと闘っていると思ってくれているみたいなのですが、やっぱり私のことをわかってくれているという気がします。というのは実際に、自分自身と闘っている感覚が、私にはすごくあるから。なんかもう、いろいろ考えすぎて、そんな自分のことを“まるで一休さんみたい”とさえ思うんです(笑)。でも人生って、“こうしたらこうでしょ?”みたいな答えは、なかなか見つけられないから」

もはや考えすぎること自体も、楽しんでいる彼女。子どもを出産してからは、また新しい自分にも出会えたそう。

「AKB48にいたときからずっと、“私は目の前の幸せに浸れてないんじゃないか”と感じる瞬間があったんです。シンプルに楽しめばいいのに、つい考えすぎちゃって。幸せを実感するまでに、遠回りをするタイプでした。でもいまは、隣にいつも子どもがいるから……いきなり漠然とした孤独感や不安感に襲われても、ぱっと隣を見るだけで“あ、大丈夫だった!”って思える。赤ちゃんってまっすぐで純粋だから、そこに存在しているだけで私を冷静にしてくれるんですよね。『そうか、私もこうあればいいんだな』って教えてもらっています。

子どもに対しては、本当に前向きな気持ちしかありません。つい考えすぎてしまう私だけど、子どものことはいくら考えてみても、マイナスな感情がないんです。それがなぜなのかはまだよくわかっていないけど……どうしてそう思えるのかは、きっと時間が経てば、いつかわかる気がしています」

前田敦子 インタビュー
前田敦子 インタビュー

結婚・出産に不安はまったくなかった。むしろ、「いつかは」と夢見てきた自分の子どもに出会えることが、ただただうれしかったのだという。人生のターニングポイントを経て、仕事と向き合う姿勢も、おのずと変化する。

「最近どんどん、自分がいいと思うものより、人がいいと言うものを信じられるようになりました。私の職業ではとくに、客観的な視線が正解だと思います。自己満足してもしょうがないんです。昔から、お芝居をするときは“監督の言うことが一番正しい”って思ってきたけれど、それをすべてに当てはめて。仕事における自分のことは、周りのプロフェッショナルに委ねようと思いはじめています」

晴れやかな表情のまま、言葉を続ける。

「出産するまでの私は、仕事のためにプライベートを生きているような感じだったんですよね。自分のことをひとつのことしかできない不器用な人間だと思ってたから、仕事とプライベートを分ける勇気はなかった。でも、子どもが生まれてプライベートが明確になった瞬間に、はじめてふたつの世界を切り離せたんです。お互いにお互いを持ち込まないスタイルが、じつは私のやり方だったのかもしれないって感じるようになりました。AKB48のときは女優一本でやるために卒業をして、“やりたいこと以外なにも考えられなくなっちゃう私はどこまでも不器用だな……”なんて悩んでたのに。あれは気のせいだったのか、それとも成長できたってことなのかは、わからないですけど」

そう笑う前田敦子は、母としての自分も、それを取り巻く感情も、まるごと肯定しながら生きている。アイドルをおわらせて女優をはじめたり、独身をおわらせて新しい家族をはじめたりしながら、変わり続けている。最後に、いま彼女の目に映る“旅のおわり世界のはじまり”を聞いてみた。

「小さなことなんですけど……パン食をおわらせたいです(笑)。妊娠中からパンが大好きになっちゃって、いまではパンしか食べない日もあるくらいなんですよね。でも、パンの原料である小麦粉や砂糖って体への負担が大きいとも聞きますし、一度それらを抜いてみたらどんな自分が待っているのか、すごく気になっていて。ただ、いまのところはパンの誘惑に勝てないんですけどね……。はじめたいことは、離乳食!息子がなにを食べるのが好きなのか、早く知りたい。そこでようやく彼の、一人の人間としての趣味嗜好が見えてくる気がするんです」

変化を恐れず、みずから意志を持って動き続けるのは、簡単なことじゃない。けれど、前田敦子はいつも世界に心をひらいて、立ち止まらないからこそ、いまとびきり輝いている。

前田敦子 インタビュー


『旅のおわり世界のはじまり』
監督・脚本:黒沢清
出演:前田敦子、加瀬 亮、染谷将太、柄本時生、アディズ・ラジャボフ
配給:テアトル
6月14日(金)より全国ロードショー
ⓒ2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
tabisekamovie.com/

前田敦子 Atsuko Maeda

1991年生まれ。千葉県出身。AKB48のメンバーとして活躍し、2012年に卒業。市川準監督の『あしたの私の作り方』(07)で映画デビュー。近年の主な映画出演作に『さよなら歌舞伎町』(15)、『イニシエーション・ラブ』(15)、『モヒカン故郷に帰る』(16)、『探偵はBARにいる3』(17)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18)、『のみとり侍』(18)、『食べる女』(18)など。黒沢清監督作品への出演は、『Seventh Code』(14)、『散歩する侵略者』(17)に続き、3作目となる。

Photo: Takuya Nagamine Stylist: Ayaka Takasaka Hair&Makeup: Minako Kumagai Text: Sakura Sugawara Edit: Milli Kawaguchi

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