女王蜂・アヴちゃんの心の旅。バンド結成から今に至るまでの10年

女王蜂・アヴちゃんの心の旅。バンド結成から今に至るまでの10年

取材の終わりがけ、「え、もう終わり?みんなでこのままファミレス行きたいね!」と和ませてくれたアヴちゃん。常日頃、うつくしくてユーモアもある人って最強だなぁと思うんですが、彼女もそんな人でした。普段はバンド・女王蜂を率いるアヴちゃんが、間もなく人気ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』に出演します。実は、学生時代にその映画版に出会うも、当時はあまり本作が好きではなかったそう。『ヘドウィグ』への揺れ動く思いとともに、女王蜂結成から2019年の今に至るまで10年間の、アヴちゃんの心の旅について伺います。


──『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(以下、『ヘドウィグ』)は、1997年からオフ・ブロードウェイで上演され、ロングランを記録した人気ミュージカルです。主人公はドラァグクイーンのヘドウィグで、アヴちゃんは「いつかヘドウィグを演じたい」と公言していますよね。

ヘドウィグって、自分のパラレルワールドというか、「もし自分があのときこうだったらこうなってたかも」っていう子なんです。周囲に感謝の気持ちを持つより先に、「なんで?こんな目に遭うなんておかしいわ」っていうネガティブな気持ちが勝っちゃうような。今の自分とは180度違う、あえて言えば陰と陽みたいな、すごく離れたところにヘドウィグがいるので、そこにタッチしてみたいという思いがあるんです。

 

──“そうだったかもしれない自分”をあえて疑似体験したいというか。

ええ。“ヘドウィグだったかもしれない人生”を生きている人間からすると、やっぱりこの作品には挑戦してみたくなるんです。「自分がヘドウィグを演じたらどうなるんだろう?」と、彼女を演じている役者さんを観るたびにそう思います。

 

──本作は日本でもスタッフ・キャストを変えて何度も上演されています。アヴちゃんは森山未來さん主演版(2012年)と、原作と主演を手がけたジョン・キャメロン・ミッチェル本人主演版(2017年)を観ているんですよね。2002年に日本公開された映画版も観ていますか?今でもカルト的人気を誇る作品です。

はい、観ました。学生のときに、おませなお友だちが「『ヘドウィグ』ほんといいから」と言って、『レント』などと一緒にDVDを貸してくれたんです。『ヘドウィグ』にはヘドウィグ、『レント』にはエンジェル、そういうジェンダーに違和感を抱えたキャラクターが登場する作品をまとめて貸してくれて。でもそのときは、うれしくなかった。

 

──「観ておもしろかった」「おもしろくなかった」とかではなく、「うれしくなかった」。

うん、まったくうれしくなくて。「え、あたしそういうジェンダーで生きてないから」っていうのもあったし、「このキャラクターっぽいよね」って決めつけられるのもいやだった。わたしの人生は“キャラクター”ではないし、おしゃれひとつとっても、ほかの誰でもなく自分で選んでここまできたという自負があるので。

 

──その友だちに悪気はなかったとしても、決めつけられるのはいやだったわけですね。

そう。悪気はないけど、「こういうキャラが好きだからそうなってるんじゃないの?」っていう風に決めつけられたところに対してはまあ、(おもむろに薬指を立てる)……って感じがあった。当時は若かったから、今考えれば短絡的だけれど「思い込みをぶつけられることがいや=作品も好きじゃない」みたいに思ってしまって。

 

──じゃあティーンの頃は『ヘドウィグ』にいい印象はなかった、と。

でも自分がバンド・女王蜂をはじめ、作品を出す側の人間になって、まっすぐに『ヘドウィグ』という作品の根底にあるものを見つめてみたら、多感な子に刺さる、すごく力を持った作品だと思った。それで「ヘドウィグやりたい」っていう風に、今やっと思えたというところがあるかな。

 

──音楽という表現活動をはじめてから、ヘドウィグというキャラクター像への見方が変わってきたということですね。

そうですね。わたし自身、いざライブハウスや劇場のステージに立つとなったら、ありえない空間を作り出すために、上から下からいろんなものを召喚しますから。そういうことを自分でやってみてはじめて、ヘドウィグの在り方について「なるほど」と感じ入りましたね。すごく、ひしひしと。

アヴちゃん インタビュー

──ヘドウィグに対して、さまざまな気持ちの変遷があったんですね。そんなアヴちゃんが出演するミュージカル『ヘドウィグ』の開演が間近に控えています。今回アヴちゃんは、ヘドウィグの相棒・イツァークを演じます。イツァークはどんな人物だと思っていますか?

イツァークは怒りん坊!わたしも怒りん坊だけど、“かわいこ怒りん坊”なので。イツァークは元々ドラァグクイーンで、本当はヘドウィグを食うくらいの存在。なのにヘドウィグから「ウィッグをつけちゃダメ!」「目立たないで、あたしより!」と言われるのはすごく辛かったと思うんです。でもだからこそ最後に輝くんだとも思う。今回イツァークを演じるにあたっては、ガチで、「なんだあのイケメンは?」みたいに光れたらなと思ってます。

 

──気合充分なのが伝わってきます。多くの人の共感を呼び続けている作品ですものね。

発表当時はショッキングだったけれど、ある種古典的になったミュージカルを、“今の作品”としてアップデートできるいいチャンスだと思って、たのしみにしています。今の時代、『ヘドウィグ』が最初に発表された1990年代より、望みどおりの性別のアバターで生きる人は増えました。そうしてジェンダーというものがあいまいになり、男も女もわりと一緒だなとなったときに、「じゃあ自分はいったい誰なんだろう?」と観た人に考えさせるような作品にできたらと思います。

 

──ヘドウィグを演じる浦井健治さんとは、共演してみていかがですか?

浦井さんとはもうね、ギャル友って感じ!ふふ。稽古が終わったあと、「みんなでタピオカ飲も!」「火鍋ー!」とかね。やっぱりこう、常に同じものを好きだったり嫌いだったりする人だけが集まれるわけではないですよね。でも何かを作り上げようとするときには、同じものを目指しているということはとても大事だと思っていて。それで言うと今回の舞台のメンバーには、頼もしいグルーヴ感があるんじゃないかと思っています。

 

──浦井健治さんとのWEB対談で読んだのですが、浦井さんはアヴちゃんのことを「セルフプロデュースがすごく上手」とおっしゃっていましたね。

読んでくださってうれしいです。(横のテーブルで別の取材を受けていた浦井さんへ)「セルフプロデュースが上手」って言ってくれてたよね、浦井さんっ!(「ねっ!」と答える浦井さん。)ねっ!

 

──(笑)。でも浦井さんのおっしゃるとおりで、いつもアヴちゃんが女王蜂全員やご自身のスタイリングをしているんですよね?その上、インスタで見たんですが、新曲『Introduction』MVの衣装はスタイリングのみならず、ビーズ刺繍や衣装の脱色・染色まで自分たちで手がけたそうで。そういう自分の見せ方を知っているところって、ヘドウィグにも通じる部分かなと思ったんです。

たしかに、ヘドウィグはおしゃれさんだもんね。わたし自身としては、「セルフプロデュースが上手だね」って言われると「ありがとうございます」とは思うけど、それはセルフプロデュースというよりか……、わたしにはやりたいことがとてもあるんですね。

 

──やりたいこと、ですか?

そう。ここにくるまでに、本当は服飾の学校に行きたかったし、音楽にしても、小さい頃ピアノやりたかったし、バレエだってやりたかった。いろんなことがやりたかったけど、いろんな理由で叶わなかった。お金をかけなくても自分のことを解放できる唯一の方法が、バンドだったんです。楽器を買って、あとはスタジオ代がかかるだけ。それくらいならバイトすればいいから。

 

──なるほど……!

そういう意味でゼロをイチにしやすかったのがバンドなんですけど、そこでひとつ風穴が開いたときに、それをグワーッと広げたのはたしかに自分。バンドをはじめてから、「あ!着たいものが着れるかも」とか「ハイヒール履きたい!」とか、“ああしたいこうしたい”が叶い続けたまま10年間やってこれちゃったという中で、どんどん自分の思いを実現する力がついてきた。ついてくるにつれて、ミュージカルをはじめ、ひとりでできないことに対する憧れも高まってきていて。わたしは自分が強くなれば強くなるほど、また勉強して、どんどん強くなってしまう。今回の『ヘドウィグ』でもまた強くなって女王蜂に帰っていくという……、その繰り返しですね。

アヴちゃん インタビュー
アヴちゃん インタビュー

──人の目にどう映りたいかを軸に自分をプロデュースしてきたのではなく、自分の「これしたい!」や「これ着たい!」という気持ちに対してまっすぐにやってきた、と。

そう。だって今日のスタイリングのことを言うなら、このミニバッグかわいくない!?しかもミュールと揃ったら超かわいくない!?今日はちょっとアムロちゃんを意識して。アムロちゃんのセットアップの感じに、このローブを合わせてみたんです。

 

──かわいい!アムロちゃんだったり、そうしてインスピレーションを受ける中で、「誰々みたいになりたいな」という気持ちになることはあります?

それは特にないです。憧れる人はいっぱいいますけどね。でもこう、「あの方のような存在感を出したい」というよりかは、「あの方のようにわたしも、死してなお概念となって人を支えたい」という風に思ったりはします。あとは推しみたいな人もいますし、わたしもオタクなので「推しが元気で今日もうれしい」みたいな気持ちはあるんですけど。「具体的な誰々になりたい」ということは、やっぱり一世一代という感じで生きているので、特には。生意気かもしれないですけど。

 

──じゃあ今の自分に無理はない?

ないです(即答)。全然のびのびと、ギャルマインドで。ギャルだしヤンキーだけど、シリアスでもあるかな。たのしいけれども、当然やらなくてはならないこともあるので。

 

──そうかぁ、素敵……。

ありがとうございます。でも、なんといったらいいかな。「昔は何もできなかったよね、わたしって」って思うけど、今ふたを開けてみたら、本当は何でもできるんだよね……ってなったときに、みんなも本当は何でもできるけど、できないフリしてる気がする。たとえばヘドウィグのように、今からどんな手でも尽くせば、性別を変えることはできるし、VISAを取って違う国の人になることもできると思うし。難しいことなんてないですよね。

 

──お話を聞いていると、そんな気がして勇気が湧いてきます。

もちろん一般的なレールからそれることへの恥ずかしさもあるでしょうし、「今更やっても……」っていう気持ちとみんな戦っているとは思うんですけど。わたしの場合、10代のときに「ええい、どうにでもなれ!」と思い切ったままここまでこれたので、あのときの熱のままずっと走っていきたい気持ちがあります。でも一方で、当時すでに出会っているけどまっすぐに受け取ることができなかった『ヘドウィグ』と今対峙していることは本当に運命だと思いますし、これで広がることもまたどんどんあると思うし。すごいですね、人生って。


ロックミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』
作:ジョン・キャメロン・ミッチェル
作詞・作曲:スティーヴン・トラスク
翻訳・演出:福山桜子
出演:ヘドウィグ=浦井健治 イツァーク=アヴちゃん(女王蜂)
会場:東京(EX THEATER ROPPONGI)ほか福岡、名古屋、大阪、東京FINAL
公演日:2019年8月31日(土)~9月29日(日)
入場料:全席指定 ¥8,800(税込) ※別途1ドリンク代¥500必要
主催:テレビ朝日/ニッポン放送
お問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(全日10:00〜18:00)
www.hedwig2019.jp

アヴちゃん(女王蜂)

2009 年結成のバンド「女王蜂」のヴォーカルを担当し、作詞作曲も手がける。高音と低音を使い分ける個性的な歌声、独創的かつ衝撃的なパフォーマンスが、音楽業界のみならず各方面で話題となり、2011 年メジャーデビュー。 圧倒的なステージングによって、話題・実力ともに音楽シーンを席巻。2019年5月には映画『東京喰種【S】』の主題歌『Introduction』を収録したアルバム『十』を発売。11月からは全国ホールツアーを開催。
www.ziyoou-vachi.com

Photo: Kikuko Usuyama Edit, Text: Milli Kawaguchi

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