20 Aug 2020
待望のシスターフッドコメディ『ブックスマート』オリヴィア・ワイルド監督インタビュー

勉強ばかりの高校生活を送っていた生徒会長のモリーと奥手なレズビアンのエイミーが、遊んでいたはずの同級生たちもハイレベルな大学に進学することを知り、青春を取り戻すべく卒業パーティーへ繰り出す。高校最後の一夜に繰り広げられる騒動を描く青春コメディ『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は、ナード女子が恋を勝ち取るために変身することも、目標のために何
──20歳からエンタメ業界で仕事をされていますが、女性のエンパワーメントができる作品をつくりたいという思いは、どういう過程で意識し始めたのでしょうか?
映画やテレビに出演しながらも、本当に素敵な女性のキャラが少ないとは思っていて。男性との色恋が主軸にない女性ヒロインの作品はまだそこまで数がないんです。同時に、女友達同士の深い愛情を描いた作品もほとんどなかった。私自身は女友達との関係が人生のとても重要な部分を占めているのに、なぜそういう作品がないんだろうと疑問だったんです。その隙間を埋められたらいいなと、『ブックスマート』をつくったわけです。
──ちなみに、オリヴィアさんはどんな高校生だったんでしょうか? エイミーとモリーのような関係の親友はいました?
かなりの優等生でしたね(笑)。モリーに近いかもしれない。でも、彼女たちのように幼い頃からずっと特定の人と一緒というタイプの友情関係はなかったかな。素敵な女友達には人生のあらゆるステージで出会うことができた方だけれど。なので、幼なじみの親友同士を見る度に、ソウルメイトのようなすごく濃厚な関係に驚かされていたんです。いわば、人生で初めて経験する親密な関係じゃないですか。私は彼女たちよりもちょっと反抗的で、早く外に出て大人になりたいと思っていたタイプかもしれない。ただ、彼女たちと私の経験が違うからこそ、自由に物語を創作できた部分も大きいんです。もし自伝的な作品だったら、映画に起こりがちな不可抗力な変更を受け入れられなかった気がする(笑)。
──卒業前に経験した、最も冒険的な出来事があれば教えてください。
マサチューセッツにある全寮制の高校に通っていたので、映画に出てくるようなLAのパーティにはかなり憧れがありました。極寒の寮の部屋で、LAのティーンが屋外で遊びまくっている映画を観ては、そこにいる自分を想像したりして。そこまで自由ではなかったけれど、何かしらワクワクできることを見つけようとしていた気がする。たとえば、自慢できることじゃないけど、13歳でタトゥーを入れたりとか。リミットを超える方法をいつも探していたし、思い出をつくることに取り憑かれていたんです。10代の頃って、周りにどういう人として記憶されるかとか、
──ストーリーは4人の女性脚本家と共同で生まれていったそうですね。
異なる女性の視点のおかげで、素晴らしい物語になったと思います。最終稿は、プロデュースパートナーである脚本家のケイティ・シルバーマンと調整したんですが、実は、私たちの関係性がかなり主人公の二人に反映されているんです。エイミーとモリーが、「自分のほうが相手のことを知ってる」というおふざけマウントをよくしますよね。「あなたがどんな人かを知っているし、私があなたのアイデンティティを正しい方向に保つ役目を担っている」という女性同士の所有意識って、笑えるから。でもそれが抑圧にもなって、
──ケイティさんとオリヴィアさんは、具体的にどんな場面でそういったやりとりをするんですか?
すごくくだらないんだけど、たとえば、コーヒーショップで私がいつもと違う注文をしたりすると、「どういうつもり?それはあなたの注文じゃないし、あなたが飲むべきものじゃない」とまくしたてられたり(笑)。親友に対して、あなたをよく知っているからこそ変わってほしくな
──まさにエイミーとモリーが対面する状況ですね。本作は脚本、監督は女性が手がけていますが、製作総指揮として、アダム・マッケイとウィル・ファレルも参加していたり、平等性の高い現場だったのかなという印象を受けました。女性と男性が平等に働く上で重要な意識について、どう考えていますか?
性別で判断するのではなく、個人としてお互いを大切にすること。思春期に植え付けられるジェンダーバイアスが、女性である自分を制限してしまうという問題については、この映画で描きたかったことのひとつです。トリプルA(モリー・ゴードン)という女性が出てきますが、彼女は女性がいかに自分とは異なるタイプの女性を傷つけているかを語る上で重要なキャラクターです。自分の人生でも、不当にジャッジしてしまった人がいたかもしれない、と観ている人が問うことができるような役にしたかった。若い時って、同性の友人関係よりも男性からどう見られるかを大事にしてしまうことがありますよね。でも女性が女性を攻撃し始めると、お互いに守る義務があることを忘れてしまう。私はその問題を指摘したくて。男の子の集団の中で、からかいやいじりに加担しても女性は強くなんてなれないし、クールでもなんでもない。最もクールなのは、仲間である女性と一緒に立ち上がれること。
──この映画を監督したことを通じて学んだことはありますか?
自分がいいリーダーになれるんだと気づけたこと。女性って、リーダーシップを発揮することを恐れがちだと思うんです。周りに多くを期待すれば厳しい人だと言われたり、意地悪と陰口を叩かれたりしてしまうから。そういう不当なジャッジをされてきた歴史が、女性がリーダーシップを発揮することを阻んでいたんじゃないかと。でもいざやってみると、私は上司向きというか、思いやりを持ってリードすることを楽しめるタイプだなって。本質的に、リーダー気質なんだと思います(笑)。
──プロダクション・ノートにも、出演陣がこぞってあなたのことを「大好き!」とコメントしていました。それは、あなたが彼らをコントロールすることなく、尊重しながらリードしていたからこそですよね。
監督が全てをコントロールしているという考え方は、間違ってると私は思うんです。本当のリーダーは、共同作業ができる人。才能ある人たちを集めて、彼らが最高の仕事をするための環境を整えることができる立場というだけで、率いている人たちをコントロールしていいということじゃない。それと、スタッフ全員がストーリーやシーンの意味を本当に理解しているかどうかをきちんと確認しながら進めたことは効果的だったと思っています。監督がメインの俳優にしか話しかけない現場も、意外とあるんです。でも、どんなスタッフであっても、ストーリーの意味を理解していた方がいいじゃないですか。誰もが誇りを持って作品に投資していると感じられることが、現場に活力を与えてくれたんだと思います。
──それはいろんな監督のもとで演技するなかで育まれた考えなん
スパイク・ジョーンズやマーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョン・ファヴローといった素晴らしい監督たちから学んだことですね。自信のなさがすべてをコントロールしようとする原因になりがちですが、ちゃんとした力量があれば、オープンマインドになれる。いろんな現場で、映画に携わるすべてのスタッフにきちんと関与させてくれる、自信に満ちた監督をたくさん見てきたので、彼らのいいところを全部お手本にしながら必死でやっていました。
──これまで人生において、どんな女性に勇気づけられてきましたか?
私には、本当にさまざまなタイプの女性のメンターがいるんです。母も知性と自信に溢れたお手本のような人ですし、映画業界であれば、故・ノーラ・エフロンは、女性がいい監督になれる理由として、思いやりと謙虚さ、物事を育成するエネルギーがあると思わせてくれた人で尊敬してます。『ブックスマート 』がまさに影響を受けている、『初体験/リッジモント・ハイ』や『クルーレス』の監督、エイミー・ ヘッカーリングも。ラッキーなことに、今映画業界では女性監督による作品が続々と生み出されていて、去年はルル・ワン、グレタ・ガーウィグ、アルマ・ハレルといった、この業界の知恵が集結したんじゃないかっていうくらい素晴らしい監督女性らたちのグループに参加できたことに興奮しましたし、業界の変化の兆しを感じました。
──最後に、自身の会社でヴィンテージコレクションを発表されたりと環境問題への意識も高いオリヴィアさんにとって、ファッションを楽しむことは何を意味しますか?
初めて東京に行ったときにものすごく感動したのが、日本に残る温故知新という考え方でした。 私がファッションについて思うことを完全に要約する言葉です。身につけるものは、その瞬間の自分自身を物語るものだし、ファッションは自分というストーリーを語る唯一の方法だと思うんです。だからこそ、過去をリスペクトしながら今を形づくり、未来への期待も感じさせるヴィンテージが好き。一瞬で使い捨てになるものを大量生産するよりも、買ったものをどうやって大切に受け継いでいくかを考えていくことが大事だし、新しいものはよく、古いものはよくないという考えは捨てていくべきかなと。いつの時代もおしゃれだなと感じられる部分はあるし、常にすべてが新しいものである必要はないと思ってます。
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
原題: Booksmart
監督:オリヴィア・ワイルド
脚本: エミリー・ハルパーン、サラ・ハスキンズ、 スザンナ・フォーゲル、ケイティ・シルバーマン
出演: ケイトリン・デヴァー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ、ジェイソン・サダイキス、ビリー・ロードほか
配給: ロングライド 2019年/アメリカ/英語/102分/スコープ/カラー/5.1ch/
2020年8月21日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
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Profile

オリヴィア・ワイルド
1984年、アメリカ、ニューヨーク州出身。プロデューサー兼ジャーナリストの母と、ハーパーズ・マガジンなどに携わるジャーナリストの父の間に生まれる。2004年『ガール・ネクスト・ドア』でスクリーンデビュー。「The OC」(03-07)、「Dr.HOUSE」(07)などのドラマシリーズで人気を博す。映画、TVドラマへの出演とともに、ドキュメンタリー映画の制作、短編映画、MVの監督としても活躍。さらに、バラク・オバマの大統領選の若手俳優による選挙支援団体への参加や、ハイチの復興支援、フェミニスト活動など、多才な能力を多方面で発揮している。2019年サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)の映画部門で、プレミア上映された長編初監督となる本作は、批評家、観客から絶賛され、ハリウッド映画賞ブレイクスルー監督賞など数々の賞を受賞。一気に監督としてブレイクを果たした。
Photo by Sam Jones
Text & Translation: Tomoko Ogawa