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『ビルド・ア・ガール』原作者キャトリン・モランにインタビュー。「女性がすごいことをする物語ってまだまだ足りない」

『ビルド・ア・ガール』原作者キャトリン・モランにインタビュー。「女性がすごいことをする物語ってまだまだ足りない」

90年代イギリスの音楽業界にたった一人で挑む、ティーンの奮闘を描いた青春エンパワーメントムービー『ビルド・ア・ガール』。原作小説と脚本を手掛けたのは、イギリスで影響力のあるフェミニストで、ベストセラー作家のキャトリン・モランさんです。自身が16 歳のとき、音楽情報誌で書き手のキャリアをスタートした実話が物語のベースだといいます。長年、自らの経験をエッセイや小説に綴ることで、女性たちを励ましてきたキャトリンさん。今回の映画のことはもちろん、何かを発信したくなったときのアドバイスについても聞きました。


──『ビルド・ア・ガール』はキャトリンさんの半自伝的小説の映画化で、イギリス郊外で暮らす、16歳のエネルギッシュな女子高生ジョアンナ・モリガンの成長ストーリーです。映画を観て、「ティーンの頃にこんな映画を観たかった! ジョアンナみたいなロールモデルがほしかった!」と思いました。

ありがとう! 多くの方がそう言ってくれましたが、それこそ私がやりたかったことです。つまり若い女性たちに、あまりよくないことをして時間を無駄にしないよう情報を共有すること。30代以降になってから、歯ぎしりして「やんなきゃよかった!」って思わなくて済むようにね。

 

──(本を見せながら)日本語に翻訳されたキャトリンさんのエッセイ『女になる方法』を読んだのですが……、

日本語だとタイトルはなんていうの?

 

──「おんなになるほうほう」、です。

おん……わぁ、難しい! 変な発音を披露したくないからごめんなさい、言えません(笑)。

 

──(笑)。この中にも「ロールモデルはどうする?」という章があるほど、キャトリンさんはメディアによる女性のロールモデルの偏った提示の仕方を問題視してきたと思います。その点において、今回の脚本はどのように考えていきましたか?

大金をかけて映画を作っていいよと言われ、何をしたいか考えたときに、今までに観たことがないような、若い頃に「こういう物語があったらいいな」と思っていたような青春ドラマを撮りたいと思いました。たとえば、ジョアンナは貧困家庭出身です。そんな彼女がどうやってお金を稼ぐのかが、プロットにおいて重要なポイントでした。

 

──ジョアンナは兄クリッシーの勧めで、大手音楽情報誌『D&ME』のライターに応募。大都会ロンドンにある編集部へ乗り込み、仕事を手に入れることに成功します。

青春ドラマでよくあるのが、彼氏をゲットしたいとか、プロムパーティがあるとかで、主人公が垢抜けて大変身することがメインのプロット。でもどんな女の子だって遅かれ早かれ、家賃を自分で払わなきゃいけないわけですからね。

 

──ジョアンナは貧しくも優しい両親や兄弟に囲まれていますが、学校では冴えない子扱いされ、浮いてしまっています。

青春ドラマって、親友との関係性が描かれることが多いんですよね。でも友だちがいないティーンだってたくさんいる。私もそうだったから、一人ぼっちの女の子に向けた映画を作りたかったんです。だから劇中には、原作にはなかった「神の壁」が登場します。ジョアンナは寝室の壁一面に、女優のエリザベス・テイラーから、作家のブロンテ姉妹やシルヴィア・プラスまで、尊敬する歴史上の偉人たちのピンナップを貼り、彼らと友だちになるんです。

 

──兄クリッシーも、ジョアンナを勇気づけてくれる良き相棒ですよね。キャトリンさん自身は長女でお兄さんはいませんが、クリッシーのことはどこから着想を得ましたか?

妹のキャズ(キャロライン・モラン)です。彼女については本の中でいっぱい触れてきたし、テレビシリーズ『Raized by Wolves』(2013〜2016)では私たちの子ども時代について一緒に脚本を書きました。それでついに「もう私をベースにしたキャラクターを出すな!」と禁じられてしまったので、性別を変えてみました。彼女を騙したんです(笑)。

 

──クリッシーは音楽オタクで、ハッピー・マンデーズやライオット・ガール・ムーブメントなど好きな音楽を取り上げるファンジンを作っていますよね。お二人もそうでした?

ええ。ただハマったジャンルが違っていて、私はロック。それに反抗してか、キャズはドラムンベースやジャングル(※ともに高速で複雑なブレイクビーツサウンドを用いた、イギリス発祥のダンスミュージック)。そっち系のクラブは当時、警察から目をつけられ、催涙弾を撃ち込まれたりしていて。催涙弾の痛みをとるには牛乳がいいらしく、キャズはしばらく牛乳をバッグに入れていました(笑)。私よりいつもイケているのが彼女なんです。

 

──ジョアンナはやがて仕事を通じ、カリスマ的なロックスターのジョン・カイトに出会い、恋に落ちます。二人の関係性が素敵でした。

彼氏ができることがハッピーエンドじゃない。ジョアンナはジョンと友だちになり、むしろその方が価値があるというストーリーです。彼は何歳も歳下のジョアンナからのアプローチを、「君は僕にとって若すぎるんだ」と言って優しくお断りしますよね。これまで映画でそういうシーンを観たことがなかったので、絶対に入れたいなと思いました。

 

──ジョアンナを演じたのは、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)で一躍人気者になったビーニー・フェルドスタイン。明るい魅力のボディポジティブな彼女は、ジョアンナ役にぴったりでしたね。

『ピッチ・パーフェクト』シリーズ(2012〜2017)でレベル・ウィルソンが「ファット・エイミー」というあだ名のキャラクターを演じたように、これまでぽっちゃりした女性キャラクターはジョークのネタにされてばかりでしたよね。ジョアンナはそうじゃなくて、美しくてぽっちゃりしている。劇中で、一切誰も彼女の体型に触れることはないんです。

 

──ぽっちゃりしていてハッピーな女性像が描かれていました。

そういう描き方をしたいと思ったきっかけの一つは当時、下の娘が拒食症と闘っていたこと。娘は今18歳で、摂食障害は完全に治りました。この映画を私よりも大好きでいてくれて、最高のハッピーエンディングです。彼女が映画を観た後、「信じられないくらい最高だよ! 私の友だちみんな観るべきだと思う」と言ってくれたのが、一番うれしいレビューでしたね。

 

──最近、批評家スーザン・ソンタグの本を読んでいて、「物語を読むことは現実からの逃避などではなく、本当に人間らしくなるための手段なのです」という言葉が刺さりました。キャトリンさんは、物語が人に与える効用ってどういうものだと思いますか?

私はホームスクール出身で、学校に行ったことがありません。親が家で授業をしてくれるわけでもなかったから、毎日図書館に通っていました。なので、私の全ての知識は本から来ています。その頃から「私の好きな本は、自分に役立つ本なんだな」と感じていました。

 

──これまで大きな影響を受けた本として、シャーロット・ブロンテの小説『ジェーン・エア』や、ジャーメイン・グリアのフェミニズム本『去勢された女』などを挙げていますね。『ビルド・ア・ガール』にも、それらへの目くばせがありました。

著者が自分の知っていることを全て書き入れてくれたような、読み終わった後に自分が彼らの人生をすでに生きた感覚になるような、そんな本に惹かれます。特に「こういう失敗をした」とか、情報を共有してくれる本が好きです。自分の悩みに対する答えを見出せるかもしれないし、「悩んでいるのは私だけじゃないんだ」って感じられるから。

 

──キャトリンさんもエッセイや自伝的小説に自らの経験を綴ることで、多くの女性たちを励ましてきました。

女性に普通に起きることなのに、タブー視されて語られていないことが色々ありますよね。たとえばさっき挙げてくれた『女になる方法』では、マスターベーション、中絶、うまくいかなかった恋愛、摂食障害などを取り上げました。物書きとして、語られていない何かを見つけたらダッシュで向かい、大きなライトで照らし、ゴングをガンガン鳴らすようにして、「みんながこれを話すきっかけを作るんだ!」という覚悟で書き始めたいといつも思っています。

 

──女性が自分の経験を伝えることには大きな意味があるように思います。ただ一方で、それは自己満足だと受け取られてしまう可能性も。キャトリンさんは自らの経験を世の中に伝えるときに、どういうことを大切にしていますか?

エッセイの場合なら、みんなが体験しているであろうことについて書くということです。そうすれば読者が「あるある」と共感してくれるから。13歳で物書きになったこと、テレビに出演したこと、セレブと一緒に時間を過ごしたことなど、グラマラスな出来事はあえて書いていません。ただ『ビルド・ア・ガール』は私の実人生をフィクション化したものなので、そういう出来事も取り入れています。

 

──事実を色づけできるフィクションの場合は、取り上げる出来事の幅が広がるんですね。

でも、もし音楽情報誌に原稿を書くことで週200ポンドを稼ぐ女の子の物語が、自分語りっぽく感じられる人がいたとしたら、「そういう男性の物語は世の中にたくさんあるじゃないか」と言いたいですね。女性がすごいことをしている物語ってまだまだ足りない。『ビルド・ア・ガール』は少しでもそのバランスを正す物語の一つなんじゃないかと自負しています。思うんだけど、自分語り的な物語の最たる例といえば、『バットマン』じゃないですか? 億万長者で、かっこいい車をこれ見よがしに乗り回し、犯罪者を違法にぶっ飛ばす(笑)。

 

──(笑)。プロの書き手じゃなくても、本当はSNSやブログで発信したいのに「自己満足だって批判されるかも」と怖気づいている人もいるんじゃないかと思うんですが、そんなに心配する必要はない?

もちろん! そもそも“自己満足”って、とてもラブリーな言葉じゃないですか。だってみんな、自分に対して満足したいでしょ? ある実験で、男女が集まり会話している最中に女性が40%話しただけで、その場にいる全員が「女性の方が会話を主に引っ張っている」と感じたそう。つまり、女性側にも遠慮があるんですよね。もっと女性が発信していかなきゃいけないと思います。

 

──最後に、続編小説『How to be Famous』の映画化の予定はありますか?

年末までに作れるかどうかがわかるんですよ。『ビルド・ア・ガール』が日本でヒットすれば続編も作れるので(笑)、たくさんの方に観てほしいです。今までで最も笑える#MeTooな映画になっているはず!

『ビルド・ア・ガール』

『ビルド・ア・ガール』 キャトリン・モラン インタビュー

1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らすジョアンナは、底なしの想像力と文才に長けた16歳の高校生。だが学校では冴えない子扱い。そんな悶々とした日々を変えたい彼女は、大手音楽情報誌『D&ME』のライターに応募。単身で大都会ロンドンへ乗り込み、仕事を手に入れることに成功する。だが取材で出会ったロックスターのジョンに夢中になってしまい、冷静な記事を書けずに大失敗。編集部のアドバイスにより“嫌われ者”の辛口批評家として再び音楽業界に返り咲くジョアンナ。過激な毒舌記事を書きまくる“ドリー・ワイルド”へと変身した彼女の人気が爆発するが、徐々に自分の心を見失っていき……。

原作: キャトリン・モラン著『How to Build a Girl』
脚本: キャトリン・モラン
監督: コーキー・ギェドロイツ
製作: アリソン・オーウェン(『ウォルト・ディズニーの約束』、『エリザベス』)、デブラ・ヘイワード(『レ・ミゼラブル』、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ)
出演: ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、フランク・ディレイン、クリス・オダウド、エマ・トンプソン
配給: ポニーキャニオン、フラッグ

2019年/イギリス/英語/105分/DCP/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/R-15

10/22(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
©️ Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019

公式HPはこちら

Profile

Caitlin Moran キャトリン・モラン

イギリスのジャーナリスト、作家、テレビ司会者。15歳でイギリスの新聞『オブザーバー』紙の若者レポーター賞を受賞し、1991年に16歳で初の小説『ナルモ年代記』を出版。同年、週刊音楽雑誌『メロディ・メイカー』で歴代最年少のロック評論家として活躍し始める。17歳で、『タイム』紙の週刊コラムニストとなり、チャンネル4の音楽番組『ネイキッド・シティ』の司会者に抜擢される。その後25年に渡り、英国記者賞や英国雑誌編集者協会(BSME)賞など多様な賞を毎年のように受賞してきた。2011年のギャラクシー・ブリティッシュ・ブック賞最優秀図書賞を受賞したエッセイ『女になる方法』は、これまで日本語も含め25か国語に翻訳され、世界的ベストセラーとなっている。2014年発表の半自伝的小説『How to Build a Girl』(※原作)、2018年発表の続編『How to be Famous』はともに、イギリスでは発売するなり書籍販売数首位となった。

Edit&Text: Milli Kawaguchi

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