11年ぶりの新作アルバムの傑作ぶりに国内外が騒然! コーネリアスこと小山田圭吾スペシャルインタビュー

11年ぶりの新作アルバムの傑作ぶりに国内外が騒然! コーネリアスこと小山田圭吾スペシャルインタビュー

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“悪くない。この感じ。 いまこの歳になったからこそ、ラブソングが歌える”

国も時代も次元も、あらゆる枠組みを越えた異次元の音楽を作り続ける小山田圭吾さん。6月28日にリリースされる11年ぶりの オリジナルアルバム『Mellow Waves』は、メロウなラブソングがちりばめられた大傑作。歌うことから距離を置いていた彼が、 なぜいま「ラブソング」を「歌う」のか。彼の音楽について小西康陽さん、ショーン・レノンさんもエッセイを寄稿してくれました。


 彼のオフィスを訪ねた日の午後。シングル曲「あなたがいるなら」のミュージックビデオが公開になった。さっそくノートパソコンを開きサイトをのぞく。映像作家・辻川幸一郎によるシュールレアリスム絵画のような不思議な映像に乗って、メロウなラブソングが流れる。すると10分も経たないうちに、どんどんとコメントがアップされていく。そのほとんどが海外からのアクセスだ。前作『SENSUOUS』(06年)から11年。彼の〝新曲〟を待っていた人は世界中にいる、とあらためて感じる瞬間だった。コーネリアスこと小山田圭吾。彼のことを20代の読者に説明するならどう語るべきだろう。1989年に小沢健二とともにフリッパーズ・ギターとしてデビューし、93年にソロプロジェクト「コーネリアス」を開始、「渋谷系」音楽の中心人物となって……という常套句なのか。もっと若い世代には、ティーンの〝インフルエンサー〟小山田米呂の父であるというべきか。いやいやいや。もう一度言うが、「彼の〝新曲〟を待っている人は世界中にいる」。日本の音楽家でそういう存在ってほかにいるだろうか?希有だ。小山田圭吾とはそんな人なのだ。

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ただ 見てるだけで
なぜ わけもなく
切なく なるのだろう?
動くだけで なぜ 意味もなく どき どき してくるのだろう?

あなたが いるなら
あなたが いるなら
この世は まだましだな

「あなたがいるなら」
作詞/坂本慎太郎

―この11年間、何してました?というトボけた質問から始めます(笑)。

「めちゃめちゃいろんなことをやってましたと言うしかないけど(笑)。いろんな人をプロデュースしたりリミックスしたり。YMO、プラスティック・オノ・バンド、METAFIVE、アニメ『攻殻機動隊』のプロジェクト……。でも、年をとると時間が経つのを速く感じるようになるじゃない。10年、11年ぶりだと言われて、え?って。そんな感じですね」

 

―そして、久々のオリジナルアルバム『Mellow Waves』。タイトル通り、ゆらゆらとメロウな音の波の連続で、シンプルで穏やかで、ハイレベルに構築されたサウンドで、でも、ポップでアタマがぐるんぐるんしてくるようなトリップ感もある。異次元の音とはこういうことだなって。なかでもいちばん驚いたのは、小山田さんが「ラブソングを歌ってる」こと。前作も、その前の『POINT』(01年)も、言葉を「音」ととらえ「歌う」ことからは離れていましたよね。

「心境の変化がいろいろあったというか。ひとつは、これまでとは雰囲気を変えたいなと。すると、『自分で歌う』というのが消去法で残った(笑)。あとは、免許。2年半前にクルマの免許を取って音楽を聴く時間が増えたんです。運転しながら聴くためにiPodでプレイリスト作ったりして。オッサンだから昔聴いてた曲、好きだった曲をつい入れちゃうじゃない。ザ・スミスとかプリファブ・スプラウトとか。やっぱ歌モノはいいなあって。以前は、無味無臭、水や空気をイメージして音を作っていたけど、今回は、それよりももうちょっと匂いのあるもの、クセのあるものがほしくなった。たとえば、ブルーチーズは子どもの頃は食えなかったけどいまは病みつきとかあるじゃない」

 

―それはつまり……。

「加齢ですよ(笑)。体温や匂いを感じられる、エモーショナルなものがいいなと思うようになった。だから、ラブソングもいまなら歌えるなって。それで坂本慎太郎君に詞を書いてもらったり、僕自身も言葉遊び的なものではなく、もう少し有機的な詞を書いてみたり」

―アルバムには坂本さんのほかに、イギリスのインディーズバンドLUSHのミキ・ベレーニさんが詞とヴォーカルを担当された曲もありますね。

「ミキちゃんはお母さんが日本人でお父さんがハンガリー人。そのお母さんは僕の父のいとこなんです。だからミキちゃんは僕のはとこにあたる。ちなみに、ハナレグミの永積崇君とミキちゃんはいとこ同士で、永積君も僕のはとこ」

 

―ちょっとこんがらがりそうなんですが(笑)、要約すると、小山田さんとミキさんと永積さんは父方の親戚関係だと。

「そうそう。ちなみに、ジャケットのアートワークは版画家の中林忠良さんの作品で、中林さんは僕の父の妹の夫、つまり僕の叔父さんにあたる人」

 

―へえ! 何気に小山田家の「ファミリーヒストリー」がこのアルバムに。

「父が10年前に亡くなったとき、親戚一同がズラッと集まったんです。それまで僕は、父方の親戚とはあまり交流がなかった。父と母が離婚してたから。でも父の死をキッカケに、あらためて小山田家のことをいろいろ知るようになったんです。たとえば、小山田家の先祖は柳生一族の家老だったけど剣術が得意ではなく財政担当だったとか、曾お祖父ちゃんが東京に出てきて財を成したとか、岡本太郎も遠縁にいるらしいとか(笑)。だからある意味、父が亡くなってからの10年は、僕が〝いまここ〟へと至ったそのルーツをたどった期間でもあって。それがアルバムとして結実した部分もあるんです」

 

―なるほど、腑に落ちました。というのも、今回のアルバムには浮遊する魂のようなものを感じるんです。小山田さんや坂本さんが紡いだ言葉をおっていくと、「死」の影や匂いを感じるというか。

「それも加齢だよね(笑)。自分が憧れていた人たちが最近どんどんいなくなるじゃない。(デヴィッド・)ボウイもプリンスもムッシュ(かまやつ)も。僕自身も老眼になって目が見えないとか、肩があがらないとかあるしさ。いよいよ中年も深まってきたなって(笑)。『死を想う』というと、ネガティブに感じてしまうかもしれないけれど、でもそこには甘美な魅力もあって。それも中年の哀愁だなって。老いること、失っていくことへの悲しみはある。だけど中年になるのも『悪くない。この感じ』。ブルーチーズだよね。ちょっと臭いけど美味しいよねって」

 

―ところで、10代のリスナー代表でもある米呂君の新曲についての感想は?

「最近は彼もレコード屋でバイトしてるから、レコ屋の店員の意見としてどう?って聞いたら、ひと言、『カッコいいじゃん』。彼とは趣味が近いから音楽の話が合うんです。だから息子というより友だちのような存在。最近は、彼のおかげで10代の若い友だちもできたんですよ」

 

―10代の若い友だちは小山田さんのことをなんと呼んでるんですか?

「マイロパパですね(笑)」

 

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おやまだ・けいご≫ 1969年東京都生まれ。93年、コーネリアスとして活動開始。98年、アルバム『ファンタズマ』でアメリカデビュー。以後、海外へも活動の幅を広げる。映像と演奏がシンクロするライヴパフォーマンスは海外で高い評価を得ており美術館での公演も多い。秋からは全国ツアーがスタートする。

 


Cornelius & Me

小山田圭吾とはどんな人ですか?


 

from 小西康陽
「コーネリアスの新譜はもう聴きました?」と訊かれた夜

コーネリアスこと小山田圭吾さんの新作が話題になっていることは知っています。ちょうど先行して発表された「あなたがいるなら」のアナログ7インチがレコードショップに並んだ直後の週末、自分は渋谷のクラブでDJしていましたが、その夜は何人もの人から「コーネリアスの新しいのはもう聴きました?」と尋ねられました。

自分の周囲、と言ってもクラブで会うような知り合いはいまではほぼ全員が年下ですが、彼らはみな小山田さんと小沢健二さんが大好きであるようです。それはかつて、音楽業界に入ってから知り合った人たちの誰もがYMOの大ファンだったことを思い出させます。

そんなファンにとって、今度のコーネリアスの新作は、まさに待望の作品だと思います。考え抜かれ、削ぎ落とされたサウンドはもちろん、何より小山田さんのヴォーカルが聴きたかった、というファンばかりのはずですから。

かつてフリッパーズ・ギターの最終作『ヘッド博士の世界塔』、そしてコーネリアスの第1作『ザ・ファースト・クエスチョン・アワード』の2作品を聴いた頃から確信しているのは、小山田さんが「〜だろう」と歌うときの素晴らしさです。この「〜だろう」というフレージングを作詞者のひとりである坂本慎太郎さんは見逃すことなく歌詞に取り入れています。かつて小沢さんや小山田さん自身が書いた歌詞の「〜だろう」は予言あるいは予測の意味を持つものでしたが、新作の「あなたがいるなら」やアナログ第2シングルのB面に収録された「悪くない。この感じ」で聴くことのできる「〜だろう」は戸惑いを伴う自問の響き。これこそ、長年のファンたちが聴きたかったものなのでしょう。

もうひとつ。「あなたがいるなら」という曲では、小山田さんのヴォーカルの周囲をキックやスネア、鍵盤、ギター、とさまざまな楽器によるフレーズが過剰なほど現れては消えていきます。最初にこの曲を聴いたとき、自分ならもっとシンプルなサウンドを用意するだろうと考えました。

ところが先日、都内の名画座で俳優イーサン・ホークが監督した元ピアニスト、現ピアノ教師のシーモア・バーンスタインのドキュメンタリー映画を観ていて、はたと気づきました。

映画の中でピアノ教師は、指を置いたピアノの音がやがて消えていくそのことを「die」という言葉を用いて話すのです。小山田さんが表現したいのは、これと同じことなのか、とそのとき考えました。  編集者の方からは、小山田圭吾さんとはどういう人か、書いてほしい、とのことでしたが、自分のバンドのアルバムをプロデュースしていただいてからは、それほど頻繁にお会いする関係ではありません。最後にお目にかかったのはカジヒデキさんのコンサートの楽屋で、お互いに目礼しただけです。これからも、ますます素晴らしい作品を発表なさいますよう。

こにし・やすはる≫ 1959年北海道生まれ。作詞・作曲家、プロデューサー。ピチカート・ファイヴ時代『ボサ・ノヴァ2001』(93年)のプロデュースを小山田圭吾に依頼した。

 


 

from ショーン・オノ・レノン
彼は科学者や錬金術師のように音を磨き、 独自のサウンドを構築している

Ever since Fantasma Keigo / Cornelius has been refining his personal sound with the precision of a scientist, or more specifically an alchemist. More than anyone I know he has invented his own musical vocabulary, a personal palette of colors with which he paints a kind of audio architecture.

This album is breath taking in its evolution, there are many new ingredients this time; he has added a large helping of love and even a sense of seduction and sensuality that I think brings his entire sound to another dimension.

コーネリアス/小山田圭吾のことをアルバム『ファンタズマ』で知って以来、彼が独自のサウンドを、まるで精密な科学者や錬金術師のように、どんどん磨いていくのを目撃してきた。本当に自分だけの「音」を独自の言語のように創造し、その音を色のようにパレットに並べて、新しい音のアーキテクチャを描いているコーネリアスは、今や世界の唯一無二なアーティストとなっている。

この新しいアルバム『Mellow Waves』では、彼のまたさらに進化した音の世界に息をのんだ。たくさんの新しい材料が組み込まれている。そのなかで特に印象に残るのが「愛」を思わせる音。その情感の表現が、時には誘惑を思わせるようなところもあり、彼のサウンドに新しい次元をもたらしていると思う。

訳: 本田ゆか

ショーン・オノ・レノン≫ 1975年ニューヨーク生まれ。ミュージシャン。2014年、小山田が音楽を担当したアニメ映画『攻殻機動隊 ARISE』の第3話エンディング曲に参加。

Photo: Hiroto Hata
Text & Edit: Izumi Karashima

GINZA2017年7月号掲載

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