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名作ドラマ『ダウントン・アビー』脚本家ジュリアン・フェローズの創作術。「群像劇は、現代の“注意欠如世代”でも観飽きない」

名作ドラマ『ダウントン・アビー』脚本家ジュリアン・フェローズの創作術。「群像劇は、現代の“注意欠如世代”でも観飽きない」

イギリスの大邸宅を舞台にした人気ドラマシリーズ『ダウントン・アビー』。ドラマ完結後も2017年には続編映画が公開され、住人である貴族のクローリー家と、使用人たちの1912〜1927年にかけての暮らしを映し出してきました。
そして今回、続く1928年を描く映画第2作『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』が公開に。そこで、全シリーズの脚本を手掛けてきたジュリアン・フェローズにインタビュー。“英国版大河ドラマ”とも言うべき壮大な群像劇を書き上げる、その裏側について聞きました。


──イギリスの大邸宅、ダウントン・アビーを舞台にした本シリーズ。最大の特徴といえば、貴族から使用人まで、たくさんいるキャラクター一人一人にスポットライトが当たる、群像劇というところです。このような作風に行き着いたのはどうしてですか?

ロバート・アルトマン監督のために、やはりイギリスの大邸宅が舞台の映画『ゴスフォード・パーク』(01)の脚本を書いた経験が大きかったといえます。プロデューサーの一人からの申し出だったのですが、当時の私は子ども向けのテレビ番組の台本を書いたことがあっただけで、アルトマンとも面識がありませんでした。あんな巨匠に起用されるとは思えなかったのですが、ただ彼はアメリカ人なので、イギリスの階級社会を描くことには不慣れだろうと。それならチャンスがあるかもしれないと思いました。
そこで、アルトマン作品をたくさん観て、彼の作風に寄せた脚本を書いたんです。さまざまな物語が入り組み、あるものは映画全体を通して、あるものは3〜4シーンで解決されるように、バリエーションをつけました。後から聞けば、アルトマンは私の脚本を嫌々読んだそうです(笑)。でも即座にどう撮ったらいいかが分かり、それが監督を引き受ける決め手になったと話していました。「アルトマン作品で脚本を書きたい!」という野心から身につけたこの作風ですが、今では一番しっくりきます。

 

──ジュリアンさんは『ヴィクトリア 世紀の愛』(09)など、特定の中心人物がいる作品の脚本も書いています。その上で、『ダウントン・アビー』や、現在継続中のドラマシリーズ『ギルデッド・エイジ -ニューヨーク黄金時代-』のような、群像劇を手掛ける魅力とは?

『ヴィクトリア 世紀の愛』はリニア(直線的)な物語のいい例ですね。ヴィクトリア女王が王位を継いでから結婚するまでの、約2年半の出来事を連続して描いていて。あとは、アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップが共演した『ツーリスト』(10)もそうでした。
ただ、私はさっきも言ったように群像劇を書く方が好きです。物語が次々に展開するので、現代の私たちのような“注意欠如世代”でも観飽きないから。昔のように、途中でキッチンに行ってコーヒーを淹れてきてもほとんど何も観逃していない、そういう作品とはスタイルが完全に違います。

 

──『ダウントン・アビー』は、当初はシリアスなミステリーといった雰囲気で、現在のような明るいコメディドラマになっていくとは思いませんでした。

このシリーズを手掛けるきっかけは、「『ゴスフォード・パーク』のようなテレビドラマを作らないか?」と持ちかけられたことでした。『ゴスフォード・パーク』は、さまざまな境遇の人たちがそれぞれに折り合いをつけながら、不幸に生きているという暗い作品で。そんなドロドロしたドラマを視聴者が週に1回観たがるとは思えませんでした。「さあて、今晩も落ち込むか」なんて誰も考えませんよね(笑)。もっと温かみがなくてはと思いました。

 

──それで徐々に、シリアスな要素が差し引かれていったんですね。

でも、シリアスさも残っています。たとえば、ダウントン・アビーで下僕から執事になっていくトーマス(ロブ・ジェームス=コリアー)。同性愛者である彼を巡る物語は、シリーズを通してずっとシリアスです。あるいは、今回の新作映画では、クローリー家の主人ロバート(ヒュー・ボネヴィル)が、自分は母バイオレット(マギー・スミス)の隠し子かもしれないという疑いを持ったり、彼の妻コーラ(エリザベス・マクガヴァン)の病気が発覚したり。そういう悲しみの一方で楽しさもある、一種のクロスオーバーです。
コメディの要素が発展した理由としては、バイオレット役のマギーや、料理長パットモア役のレスリー・ニコル、執事を長年務めたカーソン役のジム・カーターが、コメディを得意としていたから。必然的に、ユーモラスなシーンが増えていきました。

 

──魅力的なキャラクター揃いですが、今回の映画だと、バイオレットと、その孫の一人メアリー(ミシェル・ドッカリー)の関係性が印象的でした。二人の間には特別な結びつきがあるように思いますが?

まるで“女王様”のような二人ですよね(笑)。幸運だったのは、マギーもミシェルも優秀な俳優で、ときに反感を買いかねないキャラクターを演じることにまったく抵抗がなかったこと。なんでも取り組む覚悟のある俳優の存在は、脚本家に大きな自由を与えてくれます。

 

──気位の高い女性の系図を描くのに、マギーとミシェルの存在が助けになったと。

クローリー家は、女性によって回っています。私の子ども時代にも、多くの家庭にたくましい女性がいました。おそらくそれは、戦争の結果だと思います。男性が戦地にいる間、女性は自分たちだけで生計を立て、苦難に対処しなければならなかったからです。嬉しいことに、「バイオレットを見るたび、叔母を思い出す」などとよく言われます。「一家の大黒柱である女性」は、世代も国籍も階級も超えて、私たちの社会によく見られる類型なんです。普遍的なキャラクターを描けて光栄でした。

 

──あとはやっぱり、トーマス。ずっと孤独だった彼は、映画の前作でついに恋に落ちました。そして今回の映画では、さらに大きな愛のプレゼントを受け取りましたね。あのロマンチックな設定を取り入れたのはなぜですか?

トーマスはもう十分に不幸を味わったので、そろそろ自分のことを悲観しないようにしてあげたいと思ったんです。人生の真理として、人は今いる社会において、できる限り自分が望む形で生きられる方法を模索しなければなりません。移住を選ぶ人もいますが、それは現代ならではの選択肢です。このシリーズで描かれている1910〜1920年代はそんなことほぼ不可能で、二人の男性あるいは二人の女性が一緒に暮らす場合、周りに詮索されないような、何か合理的な言い訳が必要でした。つまり、ゲイの人たちは生きるのを許されるために、嘘をつかざるをえなかったんです。
そのある意味で不正直な生き方を、当事者以外が非難するのは簡単。でも、劇中で家政婦長のヒューズ(フィリス・ローガン)が言うように、「普通の生活を送るために必要なことをした、その行為を非難してはいけない」ということを伝えたいと思いました。

 

──今にも通じる重いメッセージだと思います。

約12年前にトーマスのことを書き始めたとき、何人もの視聴者から「1912年当時、同性愛が違法だったってホントですか?」というメッセージが届きました。それに対して、「1912年だって? 私が学生だった1960年代でさえ違法でしたよ」と返事したものです。特に若い人たちは、私が大げさに誇張して書いているんだと思ったらしくて。つまりこのシリーズは、短期間に社会がどれだけ進歩したかという史実を、次世代に知らせるために役立ったわけです。生計を立てるために書いた脚本が、ときにこうして有益な効果を生むというのは喜ばしいことです。

『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』

『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』 ジュリアン・フェローズ インタビュー

1928年、イギリス北東部ダウントン。広大な領地を治めるグランサム伯爵ロバートらは喜びの日を迎えていた。亡き三女シビルの夫トムが、モード・バグショーの娘と結婚したのだ。華やかな宴とは裏腹に、屋敷は傷みが目立ち、長女メアリーが莫大な修繕費の工面に悩んでいたところへ、映画会社から新作を屋敷で撮影したいというオファーが。謝礼は高額だ。メアリーは父の反対を押し切って撮影を許可し、使用人たちは胸をときめかせる。
一方、ロバートは母バイオレットが、モンミライユ侯爵から南仏にある別荘を贈られたという知らせに驚く。その寛大すぎる申し出に疑問を持ち、妻コーラ、次女イーディス夫妻、トム夫妻、引退したはずの老執事カーソンとリヴィエラへ向かう。果たして海辺の別荘に隠された秘密は、一族の存続を揺るがすことになるのか――!?

監督: ジュリアン・フェローズ
脚本: サイモン・カーティス
出演: アレン・リーチ、タペンス・ミドルトン、イメルダ・スタウントン、エリザベス・マクガヴァン、ヒュー・ボネヴィル、ミシェル・ドッカリー、ローラ・カーマイケル、ハリー・ハッデン=パトン、ペネロープ・ウィルトン、フィリス・ローガン、ジム・カーター、ロブ・ジェームズ=コリアー、ジョアン・フロガット、ブレンダン・コイル、レスリー・ニコル、ソフィー・マックシェラ、ケヴィン・ドイル、マギー・スミス、ヒュー・ダンシー、ローラ・ハドック、ドミニク・ウェスト、ナタリー・バイ
配給: 東宝東和

2022年9月30日(金)公開
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
© 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公式HPはこちら

ジュリアン・フェローズ Julian Fellows

1949年生まれのイギリス人。外交官の父がエジプト・カイロに赴任していたときに生まれる。俳優、小説家、映画監督、脚本家という多才な肩書を持つ。また男爵の爵位を持ち、貴族院の議員でもある。脚本家としては、英国貴族の大邸宅を舞台にしたロバート・アルトマン監督作品『ゴスフォード・パーク』(01)で、アカデミー賞脚本賞を受賞。またドラマシリーズ『ダウントン・アビー』(10-15)では、2011年にエミー賞脚本賞を受賞。ほか、脚本を手掛けたおもな作品に、映画『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(09)、『ツーリスト』(10)、『ダウントン・アビー』(19)、Netflixシリーズ『ザ・イングリッシュゲーム』(20)など。2022年からはドラマシリーズ『ギルデッド・エイジ -ニューヨーク黄金時代-』がスタートし、シーズン2の制作が決定している。

Text&Edit: Milli Kawaguchi

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