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エドガー・ライト監督にインタビュー。スウィンギング・ロンドンな衣装からサイケな照明まで、最新作に詰めた1960sカルチャー愛

エドガー・ライト監督にインタビュー。スウィンギング・ロンドンな衣装からサイケな照明まで、最新作に詰めた1960sカルチャー愛

1960年代のロンドンといえば、ユースカルチャーの震源地。ビートルズやローリング・ストーンズがデビューし、ツイッギーが〈マリークヮント〉のミューズとしてミニスカートを流行らせた、おしゃれやカルチャー好きな人なら一度は憧れる時代です。
そんな60年代と現代のロンドンを行き来する、タイムリープ・サイコホラー『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』。監督を務めたのは、2017年に『ベイビー・ドライバー』で世界的ヒットを巻き起こしたエドガー・ライトです。映画とサブカルをこよなく愛する彼は今回、衣装、ヘアメイク、照明など、随所に60年代への目配せを散りばめたといいます。


──アメリカ・アトランタで撮影した『ベイビー・ドライバー』(17)とは打って変わり、今回の『ラストナイト・イン・ソーホー』は、自身のホームであるイギリス・ロンドンのソーホー地区が舞台ですね。

これまでのフィルモグラフィとは違うタイプの「イギリス映画」を作りたいと思って撮った作品なんです。僕自身ソーホーに27年間住んできて、街自体にインスピレーションを受けているというか。僕は60年代のロンドンのカルチャーに目がなくて、ソーホーはまさにその中心地。ただ、当時の一見華やかなショービジネスの裏には、犯罪などの危険と隣り合わせというダークな側面もあった。自分の中にある、ソーホーについての経験や知識が、全て一緒くたになってできたのがこの映画です。

 

──劇中、主人公のエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は夢の中で60年代のソーホーにタイムスリップし、歌手を目指すサンディ(アニャ=テイラー・ジョイ)に身も心もシンクロします。サンディの姿を通して、ショービジネスにおける女性の苦しみが描かれますね。

脚本を書く前、60年代のロンドンの実態についてかなり調べたのですが、当時のショービジネス界では女性が辛い目にあうことが多かったそうです。誰かがプレゼントでくれた『Hammer Glamour』という、ハマー・フィルム(※イギリスにかつて存在し、名門ホラーメーカーとして知られた映画制作会社)の作品に出演した女優たちの写真集があって。彼女たちの略歴を読むと、なんらかの悲劇によって、若くして亡くなった人、あるいはキャリアを中断せざるを得なかった人が何人もいて、衝撃を受けたんです。脚本を書く上でそのことも、自分の中にすごく残っていました。

 

──本作では、60年代の映画にオマージュを捧げた視覚表現が多用されています。たとえば顔じゅうにグリッターを塗ったサンディをカラーライトで照らすサイケデリックな演出。1964年にアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が、最終的にお蔵入りになった映画『インフェルノ』のために主演女優ロミー・シュナイダーを撮影した、有名なカメラテストを思い出しました。

2009年に公開された、『インフェルノ』についてのドキュメンタリー映画を観て、あのカメラテストにはやっぱり魅了されたので。それ以外にも、マリオ・バーヴァ監督の『モデル連続殺人事件!』(64)や、マイケル・パウエル監督の『血を吸うカメラ』(60)といった、60年代のホラー映画の、照明やカメラのテクニックに挑戦しました。どうやったら当時の色彩を再現できるか、カメラテストを重ねて研究しながら撮りましたね。

 

──ちなみに、エロイーズがハロウィンパーティに繰り出すシーンの、クラブの名前も「インフェルノ」でしたよね?

そっちはホラー映画の巨匠、ダリオ・アルジェント監督の『インフェルノ』(80)が元ネタです。実はオリジナルのタイトルロゴを、同じフォントのまま劇中に使わせてもらえて。最近、ダリオが(娘で女優の)アーシア・アルジェントと一緒に、『ラストナイト・イン・ソーホー』を観てくれたそうで、クラブの名前に大喜びしていました(笑)。

 

──ダブル主演を務めたのは、『ジョジョ・ラビット』(19)のトーマシン・マッケンジーと、『クイーンズ・ギャンビット』(20)のアニャ・テイラー=ジョイ。一緒に仕事をしてわかった、二人の魅力を教えてください。

撮影当時、トーマシンは18歳、アニャは22歳と若かった。でもすでに、二人ともにものすごい才能を感じました。トーマシンは今回出ずっぱりだったにもかかわらず、観客がずっと感情移入していられるような演技がすばらしかった。アニャには映画スターのオーラがあり、演技だけでなく、歌もダンスも上手です。二人には今回いろいろとこなしてもらわなきゃならないことがあったけど、彼女たちならできるって1秒も疑いませんでした。

 

──60年代に実在したクラブ、カフェ・ド・パリでのダンスシーンは圧巻。後にサンディのマネージャーになるジャック(マット・スミス)を相手に、エロイーズとサンディが入れ替わり立ち替わり踊るさまが、長回しで捉えられています。

あのシーンの撮影は楽しかったですね。実際に、マットを中心にトーマシンとアニャが交代しながら踊るのを、カメラが彼らの周りを回りながら撮りました。振付師のジェニファー・ホワイトがカメラの動きもふまえ、複雑な振付を見事に考え出してくれて、カメラオペレーターのクリス・ベインも頑張ってくれました。半ば本当に撮影し、半ばデジタルを活用し、クレバーなトリックをたくさん使っています。

 

──撮影監督を務めたチョン・ジョンフンは、パク・チャヌク監督と何度も組んできた、韓国出身の名カメラマンです。彼との初タッグはどうでしたか?

今話したダンスシーンの撮影で面白い話があって、ジョンフンは試しに小さな鏡を使い、本物のフレア(※カメラのレンズやボディの中で光が反射することで、画面全体が白っぽくなる現象)を起こそうとしたんですが、何テイクかやってみた後で「難しすぎる! やっぱりフレアは後で足そう」と(笑)。彼は才能豊かで、人柄も最高。僕らはすっかりいい友だちになりました。また一緒にやれるチャンスがあればうれしいですね。

 

──衣装のことも聞きたいです。監督は今回、キャストやスタッフに作品のイメージを共有すべく、約50本の映画リストを作ったそうですね。衣装のオディール・ディックス=ミローは、それらを全て観たと聞いています。

名誉のために一つ言いたいんですが、僕はみんなに「50本、絶対に観なさい!」と宿題を出したわけじゃないですからね!(笑) オディールはスタッフの中では唯一、完走したんじゃないかな? トーマシンもたしか49本観てくれました。ちなみにジャンルは、60年代に作られたサイコスリラーやホラー映画、当時についてのドキュメンタリーなどさまざまでした。

 

──エロイーズがサンディに影響を受けるさまが、ファッションの変化で表現されていましたよね。前髪重めのブロンドヘアに囲み目アイライン、光沢のある白のPVCコートといった、スウィンギング・ロンドンなスタイリングもかわいかったです。

オディールは『17歳の肖像』(09)を手がけていて、あの作品も60年代のロンドンが舞台ですが、衣装がすばらしかった。彼女も僕みたいに当時のカルチャーに心酔していて、知識がすごいんですよね。今回は脚本を読んだ上で、ルックブックを作ってきてくれました。それを見たら、ばっちりイメージどおりだったんです。ヘアメイクのリジー・ヤニ=ジョージオも同じでした。二人とも、こちらから特に何も言わなくても、脚本から僕の意図をすくいとり、見事に形にしてくれた。オディールは50本の映画も観てくれたし……繰り返しますが、決して「観ろ!」と強要したわけじゃないからね!(笑)

『ラストナイト・イン・ソーホー』

ファッションデザイナーを夢見るエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、ロンドンのデザイン学校に入学する。しかし同級生たちとの寮生活に馴染めず、ソーホー地区の片隅で一人暮らしを始めることに。新居のアパートで眠りに着くと、夢の中で60年代のソーホーにいた。そこで歌手を夢見る魅惑的なサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)に出会うと、身体も感覚も彼女とシンクロしていく。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズは、タイムリープを繰り返していく。だがある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。その日を境に、謎の亡霊が現実に現れ始め、徐々に精神を蝕まれるエロイーズ。そんな中、サンディを殺した殺人鬼が現代にも生きている可能性に気づき、エロイーズはたった一人で事件の真相を追いかけるのだが……。
果たして、殺人鬼は一体誰なのか? そして亡霊の目的とは——!?


監督: エドガー・ライト
脚本: エドガー・ライト、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
出演: トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス、テレンス・スタンプ、マイケル・アジャオ
配給: パルコ、ユニバーサル映画

2021年/イギリス/カラー/デジタル/英語/原題:LAST NIGHT IN SOHO/R15+

12月10日(金)、TOHO シネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
©2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

公式HPはこちら

Edgar Wright エドガー・ライト

1974年生まれ、イングランド・ドーセット出身。少年時代から映画を撮り始め、2004年にジョージ・A・ロメロ監督による名作『ゾンビ』(78)へのオマージュを詰め込んだコメディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』で長編デビュー。その後、『ホットファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(07)、『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』(10)、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(13)を発表。2017年の『ベイビー・ドライバー』は全世界で2億200万ドル以上の興収を上げ、アカデミー賞3部門にノミネート、また英国アカデミー賞(BAFTA)2部門にノミネートし、編集賞を受賞。2021年は、キャリア初のドキュメンタリー作品『The Sparks Brothers(原題)』も公開に。次回作は『バトルランナー』(87)をリメイクする『The Running Man(原題)』。

Text&Edit: Milli Kawaguchi

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