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インタープリター・和田夏実が語る、創造のタネと情熱の源|あのフィールドの旬な人 vol.2

インタープリター・和田夏実が語る、創造のタネと情熱の源|あのフィールドの旬な人 vol.2

小説、建築、パティスリーやグラフィック…さまざまな分野でいま、脚光を浴びているキーパーソンにじっくり話を聞きました。あなたの創造のタネ、情熱の源はいったいどこにあるの?


Interpreter

和田夏実

手話だから味わえる
豊かで面白い世界のこと

「手が生み出す表現は、とても純粋で美しく、ワクワクするんです」

と、妖精みたいにきれいな声で話す和田夏実さん。ろう者の両親のもとで育ち、家では手話、学校では音声言語を使っていた。音のない世界と音のある世界で過ごしていた和田さんは、高校生の時に見た手話の映像に衝撃を受ける。

「なんて美しいんだろう、今私が使っている手の表現には果てしない可能性があるんじゃないか、そう気づいたんです」

SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)に入学してろう者の研究を始め、大学院在学中に手話通訳を中心としたフリーランスのインタープリター(解釈者)の活動もスタートした。ここ数年は、デザインやテクノロジーと手話を融合させたコミュニケーションゲームや映像も手がけていて、これが大人でもはしゃいでしまうほどに面白い!体を使うものや、頭の中の像を表すもの、エロスの記憶を探るようなものもある。たとえば棒を使った『LINKAGE』は、カードの指示に合わせ、参加者の指同士を棒でつないでいくだけのゲーム。

「触手話という、盲ろうの方が手話を手で触って読み取るコミュニケーションが元になっています。触れることによる会話方法は、想いやニュアンスが声より直接的に伝わる、つまりだだ漏れしてしまうものなんですね。このゲームも、棒を押す力や支え方からにじみ出る〝その人らしさ〟を共有できるのが面白いんです」

『Shape it!』は、「頭の中のモンスター」「メガネを探す」というようなテーマを、色と形のパーツを組み合わせて表現するゲーム。テーマの指示も質問も、手の動きだけで行うのがお約束だ。

「実は手話って〝夢で見た世界〟のようなイメージを相手に伝えることがとても得意なんです。頭の中の像でも手で模倣しながら表現できるから。逆にそういうイメージは言葉で伝えるのがもどかしいこともある。私は、言葉を空洞のハコだと思っていて。〝美しい〟とか〝せつない〟とか、共通のラベルは付いているけれど、ハコの中にある本当の意味や本質は、ひとりひとり違うはず。その芯の姿を伝え理解し合うのは難しいですよね」

考えてみれば、手話は、手を動かすことで3次元の形を宙に描き出し、それを変形させたり動かしたりして物語まで伝えられる表現法。VRやミックスリアリティにも近いのだ。

「それを200年以上も前から、ろう者の方々は自然にやっていたんです。私は、彼らが自分たちの体の中で手話という領域を生み出し、開拓し、それが言語となって文化にまで昇華している事実こそが尊いなって思う。手話は長い間、記録保存する方法がなかったために歴史として残りづらかったけれど、今はスマホの映像で簡単に記録できる。世界中の人とシェアしやすい環境になったと思います」

ところで、和田さんにとって、他人はどこまで理解しうるものなのだろう?

「いえ、理解できるとは思ってなくて、でも、近づきたいし知りたいという気持ちは強いんです。この人には世界がどう見えているんだろう、自分とは異なる身体性をもつこの人と、どうしたら感覚を1ミリでも多く共有できるんだろう、切実にそう思う。それに、手話でコミュニケーションをとっていると、自分の体だけでは得られない感覚に飛び込めた!と感じることもよくあって。自分の想像が相手の頭の中に触れる感じがする。私には一番のときめきポイントです」

先に紹介した棒やカードのゲームも同じで、言葉では伝わりづらかったことが、手や感触のコミュニケーションによって、〝あ、わかる!〟となることもしばしば。

「あの喜びを体感として知っている人を、増やしたいんです。手話の世界を未知の領域だと感じている人は多いと思うし、ハードルが低いともまだ言えない。でもその壁の先に、とても豊かで美しい世界が広がっていることは確かですから」

和田夏実 わだ・なつみ

1993年長野県生まれ。視覚身体言語の研究や、多彩な身体性をもつ人との協働活動を行う。『Forbes JAPAN』による「次世代を担う30 UNDER 30」に選出。www.signed.site/project

Photo: Keisuke Fukamizu Text&Edit: Masae Wako

GINZA2021年3月号掲載

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