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「SUMI BAKE SHOP」主宰・山中さよこが語る、創造のタネと情熱の源|あのフィールドの旬な人 vol.3

「SUMI BAKE SHOP」主宰・山中さよこが語る、創造のタネと情熱の源|あのフィールドの旬な人 vol.3

小説、建築、パティスリーやグラフィック…さまざまな分野で いま、脚光を浴びているキーパーソンにじっくり話を聞きました。あなたの創造のタネ、情熱の源はいったいどこにあるの?


pâtissier

山中さよこ

そのひと口に幸せな裏切りを
予測できない味を目指したい

宝石のようにキラキラ光る甘酸っぱい苺や、奄美大島の「吉見農園」で採れたジューシーな柑橘類。季節の果実をふんだんに使った「SUMI BAKE SHOP」のタルトときたら、しばらく立ち上がれないほどにおいしくて—。それは2020年5月に宅配だけでひっそりと始まった菓子工房。噂が噂を呼び、あっという間にファンが増え、わずか8カ月後に実店舗を構えることとあいなった。

相模原市橋本の駅近くに建つ三角形の古いビル。そのワンフロアを改装した心地よい店のあるじは、人懐っこい笑顔が印象的な山中さよこさん。西荻窪の名ビストロ「Organ」で料理や器づかいを学んだ後、大好きな焼き菓子の店を始めた注目のパティシエだ。現在はテイクアウトのみの営業で、ショーケースには季節のタルトとケーキが5種類ほど。この日は、みずみずしい九州の苺にカスタード&生クリームのディプロマットクリームを合わせた真っ赤なタルトが並んでいて、サクサクしたパート・シュクレの内側には、バターたっぷりのタルト生地。食べ進めると、ふいに、カリッと香ばしいマカダミアナッツやプチプチのざくろがあらわれる。最初は甘さにうっとりしていた舌が、後半になるとパート・シュクレに効かせた粗めの塩をキャッチして、フォークで切り取ったどのひと口も、猛烈においしい。

「お菓子はまずヴィジュアル。見た目にもいろいろありますが、私は味が想像できてしまったらちょっと面白くないかなって思っています。目にしただけでは想像できず、口にして〝こういう甘さだったのか!〟と発見があるのが好き。予想と違う味に裏切られるのがうれしくて、タルトを作っているんです。それに、味や食感に変化があれば、最後まで飽きずに食べてもらえる。ひとつのタルトの中にどんな複雑さをデザインするか、作戦を考えるのはとても楽しい」

そう話す山中さんだが、お菓子づくりはほぼ独学。もともとは美術畑にどっぷりだったという。金属彫刻家とジュエリー作家の母のもとで育ち、自身も美術大学と大学院で日本画を勉強した。

「岩絵の具の色や質感は、見る角度や光のあたり具合によって変化します。日本画ではよく使う銀箔や金箔も、時間の経過とともに色が変わったり剝げたりする。そういう素材の性質やテクスチャーの面白さに惹かれて、日本画を専攻したんです。和紙や絹などの画材もマテリアルとして魅力的でしたし、そういえば父も真鍮や銅などの金属を化学反応で変色させて彫刻作品をつくっている……あれ?私が好きな〝変化する味や食感〟のルーツって、実はものすごく身近なところにあったのかもしれません」

描いていたモチーフは一貫して豆。実家のキッチンに、模様のついた豆や平べったいレンズ豆を幾層にも重ねたような瓶詰めがたくさんあって、それを〝ああ、すごくきれいだな〟と思ったのが始まりだ。1m以上ある大きな和紙に原寸大の豆をちまちま描き続けたり、新たな画題を探して地方にしかない地豆を買いあさったり。そうやってジワジワと、美術界隈から食の世界へと近づいていた山中さんが、仕事としてスイーツの世界に身を置くようになったきっかけは、バースデーケーキ。最初に働いていた飲食店でデザートを担当していたころ、時折常連客に頼まれたりして、果物をのせた特別なホールケーキを焼いていた。

「お誕生日ケーキって、その場にいるみんなが一瞬でハッピーになる、幸福感の塊みたいな存在じゃないですか。コロナ禍のこんな時に、よく店を始めたねって言われることもありますが、だからこそ甘いケーキで、少しでも幸せを感じてほしい。お菓子は食べなくても生きていけるものだけれど、人を無条件に安心させる力を持っている。〝その欲求は甘いお菓子でしか満たされない〟っていうものがある気がするんです」

店の内装デザインも手がけたという山中さん。季節のタルトは1ピース ¥600〜。住所:神奈川県相模原市緑区橋本6-19-1 ルート橋本ビル 4F  *販売状況はInstagramを要確認。Instagram→ @sumibakeshop

山中さよこ やまなか・さよこ

神奈川県生まれ。多摩美術大学で日本画を専攻した後、相模原市の飲食店で料理とデザートを担当。西荻窪のビストロ「Organ」勤務を経て2020年に焼き菓子工房「SUMI BAKE SHOP」を開店。

Photo: Keisuke Fukamizu Text&Edit: Masae Wako

GINZA2021年3月号掲載

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