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『GAGARINE/ガガーリン』監督ペアにインタビュー。パリ郊外が舞台のリアルでエモい青春ドラマができるまで

『GAGARINE/ガガーリン』監督ペアにインタビュー。パリ郊外が舞台のリアルでエモい青春ドラマができるまで

人類初の有人宇宙飛行を成し遂げたユーリ・ガガーリンの名前を冠し、2019年までパリ郊外に実在していた「ガガーリン団地」。現在公開中の映画『GAGARINE/ガガーリン』は、団地を誰よりも大切に思う住民の青年ユーリの姿を描く青春ドラマです。監督のファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユは、数々のSF映画に着想を得たエモーショナルな映像演出により、フランスでは非行が蔓延した場所だと決めつけられがちな団地を、夢と希望をもって描いてみせました。


──今作の舞台は、パリ郊外で1963年に竣工し、2019年にオリンピックの再開発により取り壊された、ガガーリン団地です。映画の冒頭、この団地で一人暮らしをしている16歳の主人公ユーリ(アルセニ・バティリ)がベランダから望遠鏡を覗くと、住民たちの姿が映りますね。たとえば、中庭でシーシャを吸ってチルアウトしている青年がいたり、多様な住民が暮らしていることが伝わります。

ファニー あのシーンはすべてドキュメンタリーショットで構成していて、シーシャを吸っている青年を含め、みんな実際に当時あの地域で暮らしていた人々です。というのは(シナリオに沿った)フィクションの撮影とは別に、ガガーリン団地はもちろん、周辺の団地でも住民を撮って歩きました。現実をありのまま示すために撮ったショットなんです。

 

──劇中で、ガガーリン団地はコミュニティとして成立していますよね。団地住民たちが集まり、一緒に中庭で日蝕を見るシーンや、団地の取り壊しを見届けようとするシーンが登場します。そうしたシーンのエキストラの人たちも、本当の住民でしょうか?

ジェレミー そのとおりです。200人もの元住民が参加してくれました。ガガーリン団地を象徴するような集合的なシーンに、実際に住んでいた彼らの顔が登場するということはとても重要でした。2014年に団地に初めて足を運び、短編映画を撮影して以来ずっと、私たちは住民たちと交流し、強い絆を築いてきたので。特に団地の取り壊しを目前に控えたラストシーンの撮影は、本当に感動的でした。別の場所に引っ越してからすでに何年も経った人もいて、彼らにとってはこの撮影が、団地との2度目の別れだったんです。しかも、ずっと会っていなかったかつての隣人同士が再会できたわけですから。

 

──住民たちと、何年もかけて信頼関係を築いてきたんですね。

ファニー 短編映画を撮った時点で、多くの住民は私たちのプロジェクトが前向きでポジティブなものであって、これまでよくあったような、団地を(麻薬取引や暴力の温床として)批判的に描くものではないと理解してくれたようです。それに、これから団地が解体されるというタイミングでしたから、彼らとしても映画として記録が残ることは重要でした。

 

──ユーリを演じるアルセニ・バティリは、地域の高校でオーディションのチラシを見かけて応募した、演技未経験者だそうですね。それとは対照的に、ユーリが恋心を抱くロマの少女、ディアナを演じるリナ・クードリは演劇学校出身。最近はウェス・アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ』への出演でも注目されました。

ジェレミー 二人は年齢も違います。撮影当時、アルセニは17歳、リナは27歳でした。ですから、リナの方が人生においても演技においても経験があったんです。彼女はものすごく才能がある上、心が広いので、アルセニにもよく演技のノウハウを教えてあげていました。ただ、アルセニもその純粋さを強みに、役や映画に真っすぐ向き合ってくれました。そんな彼の姿に、リナをはじめプロの俳優はインスピレーションを受けたようです。

 

──キャリアの違いを超えて、二人の息はぴったりだったんですね。

ジェレミー ええ。二人は何度もリハーサルを重ね、自分たちの間にどんな化学反応が働くかを研究していました。彼らと共に働くのは最高です。仕事に情熱をもって取り組んでくれますから。アルセニはこの映画への出演をきっかけに、今ではパリの演劇学校に通うようになりました。俳優として、長いキャリアを築けるようにと祈っています。

 

──ユーリとディアナが夜、団地の向かいの建物の屋上のクレーンに登ってデートするシーンがありますよね。そこで「空の郊外」という詩的なセリフが登場しますが、本当にある言葉なんですか?

ジェレミー 私たちがフランス国立宇宙研究センターに滞在し、研修を受けていたときに出合った言葉です。初めて団地を訪れたときに、建物が巨大な宇宙船のように見えたことから、劇中でも“宇宙船”として描くにはどうすればいいんだろうと思い、研修に参加しました。滞在中はセンター内にある本や資料を自由に閲覧でき、宇宙での暮らしについて知ろうと片っぱしから読んでいました。そのうち、ある本に「空の郊外」という言葉を見つけたんです。それは、恒星の周りに集まったいくつもの惑星のことで、ある意味で恒星を守っています。たとえば太陽と、太陽系の惑星でいうと、太陽はパリのメタファーであり、光に溢れています。周りの惑星は郊外のメタファーで、光が乏しい。でもユーリにとっては郊外、つまりガガーリン団地は光に溢れて見えるんです。

 

──研修の甲斐あってか、今作のカメラワーク、ライティング、サウンドデザインは、まるで宇宙を漂うかのよう。団地をリアルに描写していながら、ときにエモーショナルで幻想的な演出が印象的でした。

ジェレミー 私たちがやろうとしていたことは、写実と幻想の間でうまくバランスを取ることでした。幻想的な方面のインスピレーションはどこから来たかというと、子ども時代から観てきたSF映画でしょうね。たとえば、キューブリックの『2001年宇宙の旅』、スピルバーグの『未知との遭遇』、タルコフスキーの『ソラリス』です。でも同時に、ユーリの“宇宙船”は独自のものとして創造しなくてはと考えました。ユーリが郊外に見ている夢を、そのまま形にしなければならないと。

 

──無重力になるシーンの演出はどのように着想しましたか?

ファニー 無重力のシーンはこの映画のピークです。撮影は一大チャレンジでした。なぜなら、実際に団地の中で撮影したいと思ったからです。

ジェレミー つまり、団地で撮影するという写実主義に片足を突っ込みながら、無重力という夢想的な状態を撮るということ。グリーンバックで撮影した方が簡単ですが、そうしたくはなかったんです。団地の部屋、機械室、階段の吹き抜けのそれぞれで、アルセニを吊るして浮かすためのシステムを考えなければなりませんでした。

ファニー でも、私たちは撮影に成功しました。頭の中にあったのは、先ほども伝えたような多くのSF映画ですが、実際のユーリの動きについては、振付家が大きな力になってくれました。彼がこんなふうに話していたのを覚えています。「初めて無重力を体験するときは、あまりにもすごいことだから、つい笑顔になってしまうんだ」と。

 

──そういえば別のインタビューで読んだのですが、アルセニは無重力のシーンの撮影中、高さ50メートルの階段の吹き抜けに吊るされて、とても楽しそうだったと(笑)。

ジェレミー 彼はアクション映画が好きですから(笑)。まるでスーパーヒーローのように、高さ50メートルの空中にいることが気に入ったようです。このシーンでは、外に太陽があるというイメージで、屋外から大きなクレーンで照明を当てていました。私が「アクション!」と言った瞬間、(後から映像に音楽を当てるので、黙る必要はないにもかかわらず)全員が沈黙しました。何か、荘厳な雰囲気が漂っていたからです。私はファニーと一緒にモニターのそばからアルセニを見ていたんですが、まるで彼が本当に浮いているように見えまして。現場の時点ですでに、魔法のように素晴らしいと思いました。

 

──ユーリの母親はよそで恋人と暮らしています。そんなユーリの母代わりの存在が、隣人のファリ(ファリダ・ラウアジ)です。ファリは、フランスに亡命してきた過去を持つ女性。彼女が車で団地から引っ越す際に、ユーリが運転を手伝うシーンで流れる、アラビア語の曲が素敵でした。

ファニー 気に入ってくれてうれしいです。実は、この映画のために作られた曲なんです。当初はファイルーズというレバノンの歌手の、「私たちと月は隣人」というタイトルの曲を使いたかったんですが、権利を買い取ることができなくて。そこで、この映画の作曲家の一人であるアミン・ブファハが、シリアの歌手のレナ・シャマミアンと共に、曲を作って歌ってくれました。慣れ親しんだ場所や家族や友人に別れを告げることを歌ったメランコリックな曲なので、あのシーンにぴったりでしたね。

 

──同じシーンで、ファリが「寂しくなるわ」と言うのに対して、ユーリの「僕も寂しい」という返事をセリフとして口から発さず、モノローグにしたのはなぜでしょうか?

ジェレミー 言葉には問題があります。人々は話したり、話さなかったりしますから。劇中、ディアナは団地の屋上で「言葉が通じない相手とはトラブルになる」と話しますよね。それでも、私たちはコミュニケーションをとっていかなければなりません。ただしそのコミュニケーションが、言葉以外で通じ合うこともあるんです。ユーリはファリに対して「寂しい」と口に出さず、流れる涙も隠してしまいます。でもユーリを大切に思っているファリには、彼の心の声が聴こえるんです。

 

──ガガーリン団地は今作の撮影後に取り壊され、いずれ環境重視のエコ団地へと生まれ変わる予定だそうですね。元住民のみなさんはもう映画を観たのでしょうか?

ファニー コロナ禍のせいで長い間待ちましたが、2021年の9月にようやく団地の近くの映画館で、元住民向けの上映会を開くことができたんです。あまりにたくさんの人が観に来たので、2回に分けて上映しました。知っている顔ばかりで、みんな感動してくれて。プラスの反応しか返ってこないのは当然ですが、素晴らしかったのは、終映後にある人が客席から立ち上がり、「この映画に参加した人は全員、舞台に上がるように!」と言って、大勢が壇上に上がったこと。それから「この混沌とした時代に、みんなで協力して作品を作り上げられたことが、何より素晴らしい」と言ってくれた人もいて、うれしく思いました。

『GAGARINE/ガガーリン』

『GAGARINE/ガガーリン』 ファニー・リアタール ジェレミー・トルイユ インタビュー

パリ郊外のイヴリー・シュル・セーヌにそびえ立つ大規模な公営住宅ガガーリン。人類初の有人宇宙飛行を成し遂げた、旧ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンと同じ名前を持つユーリ(アルセニ・バティリ)は、この団地を誰よりも大切に思っている16歳の少年だ。母親が恋人のもとに去り、8階の部屋で一人暮らしをしているユーリは、2024年のパリ・オリンピックに向けた再開発で建物が取り壊されるという噂を聞き、危機感を抱いている。この場所をなんとしても守りたいユーリは、親友のフサーム(ジャミル・マクレイヴン)と共に建物のあちこちを自主的に点検し、電球の交換や配線の修理を行っていた。ユーリはフサームからロマの少女・ディアナ(リナ・クードリ)を紹介され、自由で快活な彼女に心惹かれていく。そんな中で、ついに団地の解体が正式に決定してしまい……。

監督・脚本: ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ
出演: アルセニ・バティリ、リナ・クードリ、ジャミル・マクレイヴン、フィネガン・オールドフィールド、ファリダ・ラウアジ、ドニ・ラヴァン
配給: ツイン

2020年/フランス/98分/5.1ch/カラー/シネスコ/フランス語/原題:Gagarine

新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国にて好評公開中!
©2020 Haut et Court – France 3 CINÉMA 

公式HPはこちら

Fanny Liatard & Jérémy Trouilh ファニー・リアタール&ジェレミー・トルイユ

ファニーとジェレミーは、ボルドー政治学院で共に学び、その後、世界を旅する中で出会った人々の影響を受け、映画制作の道に転向した。政治学院を卒業後、ジェレミーはインド、南アメリカを旅して、フランスのアルデシュ県リュサにある学校でドキュメンタリー制作の修士課程を修了。ファニーはレバノンに渡った後、マルセイユで都市再生に関するアートプロジェクトを手掛けた。また、独学者向けの脚本講座である「La Ruche de Gindou Cinéma」に短編作品のアイデアを提出した。1 年半が過ぎ、それぞれに経験を積んだ二人は、映画の脚本・ 監督を手掛けたいという希望を胸にパリで再会。2014 年、二人は脚本コンテストで優勝し、短編作品 『Gagarine(原題)』(未)を制作。これがファニーとジェレミーが手掛けた初めての作品となった。完成した作品はInternational Film Festival Message to Man、Flickerfest、Sundance Channelなどの映画祭で上映された。その後は、『The Republic of Enchanters(英題)』(未)(パームスプリングス国際映画祭、クレルモン=フェラン国際短編映画祭にて上映)、『Blue Dog(英題)』(未)(2020 年のセザール賞ノミネート、ユニフランス国際映画批評家賞受賞)など、労働者階級の人々に焦点を当てた作品を監督。初の⻑編作品となる本作は、同名の短編を発展させたものである。

Text&Edit: Milli Kawaguchi

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