26 Aug 2019
女優・富田望生インタビュー:GINZA編集部が今会いたい!

太ることに対しても、痩せることに対しても
わたしは役者として何事も恐れていません
役づくりのために体重を増やす、弱冠19歳の女優、富田望生が話題だ。それは4年前に公開された映画『ソロモンの偽証』での出来事。原作は宮部みゆきの3部からなる長編小説で、映画も前編・後編にわたる超大作だ。登場する33名の中学生は、日本映画史上最大規模のオーディションで選ばれた。
「女の子は主人公の藤野涼子という役を狙って、男の子はその周りにいる主要メンバーを狙う人がほとんどのオーディションでしたが、わたしは浅井松子役としてオーディションに呼ばれました。大きい映画のオーディションなんて初めてだったから、しっかりかっちりやらなくちゃって緊張していたのですが、すごく自然にいろんなことを話せたんです。そのうち『あ、この人たちと(お仕事が)できる気がする、大丈夫だ!』って思えてきて……」
事務所に所属して3年目。数々のエキストラを経て、映画の大役をつかみとった。富田さんが演じた役は、塚地武雅さん演じる父と、池谷のぶえさん演じる母に大切に育てられた米屋の一人娘で物語のキーパーソン。しかし富田さんは考えた。演じる松子はもうちょっと太っているのではないかと。当時は中学3年生。おしゃれや異性に興味を持ち、みんなが自分をどう思うかが気になるお年頃にもかかわらず、2カ月半で体重を約15kg増やして撮影に挑んだ。
「松子ちゃんの候補になれるくらい、もともとぷっくりさんではあったんです。体重を増やすために特別な何かをやったわけではなく、母が作ってくれたおいしいごはんをいつもよりたくさんもりもり食べて、よく寝て、よく笑っていました。池谷のぶえさんも『一緒においしいものをいっぱい食べて、一緒にぷくぷくしようねえ』と言ってくださって。たぶん松子ちゃんもお母さんからこういう風に言われて育ったんだろうなと思うと、太ることに対してまったく苦はありませんでした。『おいしいものを食べている時が一番幸せ』という台詞があるのですが、松子ちゃんのキャラクターが魅力的だったので、そんな子になれるなら……という思いでした。食べることがすごく幸せに感じて、それでどんどん太っていった感じですね」
最近では『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)や、連続テレビ小説『なつぞら』(NHK)などの出演が記憶に新しいが、いずれの役もぷくぷくキャラだ。しかも役に応じて体重管理もしていると言う。
「作品と作品の合間に空きがあると痩せることはあります。『3年A組』の撮影が終わったあとは10kgくらい体重が落ちてしまいました。演じる役の子が食べたいと思うならわたしも食べたいのですが、映画『チア☆ダン』の時は苦労したんです。ダンスシーンも多く常に動いていたのでカロリーを消費して痩せちゃうんです。役によってどういうお家の子なんだろう、何を食べているんだろうって考えるのですが、その時演じた役の女の子は、母親から愛情を受けず、家にスナック菓子が散乱しているような家庭だったので、とにかくカロリーがとれる甘いものやお餅を積極的にとっていました」
しかし役になりきるがあまり、弊害も起きる。
「舞台だろうと収録だろうと作品に関わっている間は富田望生じゃなく、その役で生きたいという思いがしばらく強かったんです。でも『3年A組』をやるようになって、自分と役との切り替えをしっかりやらないとしんどいんだなって気づきました。役に引きずられて、私生活でもごはんを食べたくなくなったり、布団で寝るのにも罪悪感を持ってしまったり、結構引っ張られるんです。それをコントロールできる人に今度はならないといけないなって」
『ガラスの仮面』にたとえるなら、役になりきろうとする北島マヤと、役を作り上げようとする姫川亜弓、両方の資質を併せ持つハイブリッドタイプだ。
「わたしは役者として何事も恐れていません。太ることはもちろん、痩せることに対しても恐れていません。おしゃれな役をやることも、すっごい性格が悪い役も怖くありません。それで『富田って性格悪い』って思われるのも、なんかうれしいかなって思うんです」
女優魂炸裂である。
「『ソロモンの偽証』で松子ちゃんを演じるまで、役者さんになりたいとか、お芝居をしたいとか、そういう意識はありませんでした。バラエティ出ます!歌います!なんでもします!って感じだったんです。でも監督がどれだけ思いをもって作品に取り組んでいるかとか、スタッフの方々が『こいつらの一番いいとこ収めたいから』と、日が暮れても文句ひとつ言わず待っていてくださるとか、その思いに応えるべく取り組まないといい作品は作れないことに気づきました。そんな熱い思いをもったたくさんの人たちが関わっていることを身をもって知ったので、役に対して否定的な姿勢をとるのは大失礼だなって思うんです」
みなさん、あらためていいます。富田さんは19歳です。
「今は学生の役が多いのでとにかく楽しもうと思いますが、将来は年相応の役をしっかりやれるようになりたいです。お母さん役になったら、池谷のぶえさんにしていただいたように、子役の人に同じような愛情を注げるようになりたい。その役をやるまでに相当な挫折と愛をもらわないとできないと思っているので、これからも出会いを大切にしたいと思っています」
役者という仕事は天職だと言う富田さん。
「やるべきだったんだなって思っています。毎日が楽しいです」
と、陽だまりのような笑顔を残してスタジオを後にした。
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富田望生 とみた・みう
2000年生まれ、福島県出身。映画『ソロモンの偽証』でデビュー。舞台『ハングマン』、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』など数々の話題作に出演し、名バイプレイヤーとの呼び名も高い。年末には映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』の公開を控える。インスタグラムでの写真が編集者の目にとまり、雑誌『アップトゥボーイ プラス』にて仲良しの女優を撮り下ろす連載をスタート。
Photo: Yasuhide Kuge Styling: Mana Yamamoto Hair & Make-up: Mika Iwata (mod’s hair) Text: Harumi Hino Edit: Satomi Yamada
GINZA2019年8月号掲載