18 Apr 2016
【INTERVIEW】遠藤憲一:役者以外に感動できることはほかにない

エンケンさんはふと取材用のボイスレコーダーに目を留めた。
「これ、何時間くらい録音できる?」
あ、わりと何時間でもイケますよ。
「そうなんだ。オレいま日本史を勉強してるのね。学生の頃、全然勉強しなかったからまったくわからなくて。歴史の本を読んではいるけど、日本史に詳しい中学の同級生に講義してもらって録音するために探してるところなんだ。反復して聴きたいからね。でも、自分から勉強したいだなんて53歳にして初めて思った。人より40年遅れてるんだけどね(笑)」
名バイプレイヤー、エンケンこと遠藤憲一さん。話題作には必ずやこの人の姿がある、というか、CMやナレーションを含めれば、エンケンさんの姿を観ない日、声を聴かない日はないといっても過言じゃなく。
「全然器用じゃないよ。下準備をすごくするし、隙間の時間に台詞を覚えるなんてことも絶対にできないし。入り込んでしまわないとダメな人間。日本史の勉強と一緒。要は神経質なんです。適当にやるってことができない。どんなぶっとんだ役であれなんであれ、手を抜くことを知らない。だから最後はクッタクタになる。それが自分のいいところであり、キライなところでもあるんです」
身長182cm。長い手足はスーツがよく似合う。トレードマークのオールバックはどんなときも必ず自分でセット。そしてなにより印象的なのは〝目〟だ。エンケンさんの〝物語る目〟は観る者をドラマの世界にグイグイと引き込むのだ。
「最近はお父さん役も来るようになって。そうすると邪魔をするんです、この目が。ほっとくとギラついたものが出ちゃうから。自分を消す、柔らかくするのはもう少し身につけたほうがいいなと思う。圧倒的にギラついてる役が多いんだけどね(笑)」
中途半端な〝ツッパリ〟だったという高校時代。ダラダラするだけの生活に飽き、高1の2学期で中退。ほどなくして俳優養成所に入った。
「俳優なんかぜんぜん目指してなかった。いろんなバイトをやってたから、こんな仕事もあるんだと応募しただけ。すぐに俳優の仕事があると勘違いしてね。だから、高校を中退しなければ役者には絶対ならなかった。巡り合わせなんだなって」
エンケンさんのプライヴェートについて尋ねてみると……。
「仕事のスイッチが切れてしまうと自堕落になっちゃう。もともとが風来坊だから糸が切れるとどこへ飛んでっちゃうかもわからない。だから休みをくれないの、女房が。女房がマネジメントするようになってから僕のいまのこの状況がある。すべては女房の演出ですからね(笑)」
でも休みたいと思いません?
「結局、仕事がいちばん好きだから。役者以上に感動を得られることって、世の中に転がってるなかには見いだせない。仕事で満たされているから、それ以外は必要ないんだなって」
ところで日本史を勉強してみて何時代にいちばん興味をもちました?
「戦国時代。織田信長は圧倒的に面白い。好きになっちゃった。信長を演じてみたいね。なんの役をやりたいなんてことを言うのは珍しいんだオレ。あ、ここにあるサンドウィッチってもらってもいいの?」
もちろんです。エンケンさんは迷わずイチゴサンドを手に取った。
「生クリームとイチゴの組み合わせが大好きなんだよね(笑)」
遠藤憲一
Kenichi Endo
1961年東京生まれ。俳優。4月からは3本の連ドラに登場。堺雅人主演『Dr.倫太郎』(日本テレビ系)では精神科医役を、大島優子主演『ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜』(TBS系)では暴力団の組長役を、岡田将生主演『不便な便利屋』(テレビ東京系)では便利屋役を、バラエティ豊かな役に挑むエンケンさんに注目! ※GINZA本誌掲載時の情報です
Photo: Erina Fujiwara Styling: Kentaro Higaki Hair&Make-up: Madoka Murakami Text: Izumi Karashima Edit: Hiromi Kajiyama
GINZA2015