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レディの肖像 満島ひかり

レディの肖像 満島ひかり

わくわくを止めないで、いたずらも止めない。

「どんな役をやりたい?」というプロデューサーの問いかけに、満島ひかりさんは「明智小五郎」と答えた。2016年にスタートした、NHK BSプレミアムの『満島ひかり×江戸川乱歩』シリーズ。江戸川乱歩の短編を映像化するという企画なのだがフツウじゃない。満島さんが明智を演じるというだけでもトリッキーなのに、監督、衣裳、メイク、美術……さまざまな気鋭のクリエイターが集結し、やりたい放題(失礼!)。乱歩の文章は1字1句変えられないという制限があるぶん、作り手たちが想像力を全開させ、うっとりさせつつも不可思議でおかしみのある世界を創出。「ものづくりはかくあるべき!」と快哉を叫びたくなるようなシリーズなのだ。12月30日にその第3弾『お勢登場』『算盤が恋を語る話』『人でなしの恋』が放送される。今回は、宮藤官九郎やハライチの岩井勇気、高良健吾らが出演。満島さんは明智ではなく、3人の癖のある女性を演じている。ほかにも劇中オペラ、ナレーション、幕間の楽しい箸休め映像の作成など、八面六臂の活躍をした満島さん。ライフワークにしたいと話している、乱歩シリーズの話から、いま考えていることを惜しみなく話してくれた。

―『江戸川乱歩短編集』の第3弾、一足早く拝見しました。最高でした。

「よかったです。乱歩シリーズは毎回3話ずつ放送をしていて、3話それぞれにいろんな分野の映像監督さんがいるんです。〝びっくりさせ合いっこ〟しているんじゃない?ってくらい、完成するまでいつも、仕上がりがどうなるのか予想できなくて。撮影中は、もうテンヤワンヤの事件多発だし、現場自体がウェス・アンダーソンの映画のようですよ(笑)。おしゃれや文学が好きで、わくわくを止めないで、いたずらも止めないチームです」

―とても楽しそうです。

「みんなの才能が面白くて!参加してくれた俳優さんたちの、役柄を楽しんでいる姿を見られるのも幸せです。『人でなしの恋』に参加してくれた高良健吾くんが『こういうの、いいですね』と言ってくれて、すごくうれしかった。乱歩の宇宙で自由に遊んで、その集結したパワーが画面に映れば、と思っています。〝リズミカルで物語る言葉〟の軸があるし、気持ちもあるから、どれだけ振り切っても大丈夫なんです。乱歩作品から感じられる夢かうつつか幻か、それから下手さや色っぽさも、共有している気がします。日本でしか作れないものを作りたいと話しているんです」

―江戸川乱歩はもともと好きだったんですか?

「はい、好きでした。繊細で大胆で、イケてるのかイケてないのかわからないナルシストな明智のトリック(笑)、犯罪をもてあそぶ明智の態度も好きです。乱歩というと、淫靡さや湿度の高さに焦点のあたることが多いけれど、単純だったり、いかがわしかったり、愛らしくバカっぽいところも拾いたいなと思いながらやっています。ずっと続けていきたいです」

自分で言ったのか、何かに言わされたのか。

―10歳からFolderとして活躍して、その後は自分から「俳優になりたい」と当時の所属事務所の社長さんに直談判されたそうですね。

「17歳のときです。大きな決断をするときって、不思議ですけど、自分で言っているのに自分ではない感じ、何かに言わされているような感覚になることがあります」

―それはもう、「お芝居の神様に」でしょう!

「どうでしょう(笑)。子どものときのオーディションの映像で、『将来何になりたいですか?』という質問に、『女優さん、ンフフ』って半笑いで答えていました。どうしてそんなことを言ったのか、なぞです。3歳のときにも祖母に、『おばあちゃんが見られるように、ひかりはテレビの女優さんになるね』って話していたよとも教えられて、びっくりしました」

―女優になって、一番よかったことは何だと思いますか?

「いろんな分野のプロフェッショナルの方に出会えて、研究し尽くしたことをお裾分けしてもらえることかな。あとは、人間のとってもピュアな部分と会話をしている感じのすること。作品を世に発表するのは恥ずかしいし、怖いことだけど、その現場では作り手たちの、恐ろしくて恥ずかしくて、大胆で愛おしいところに触れられるんです。カラフルさも好き。メイクや衣裳もそうですが、いろんな場所に行けるし、誰かのふとしたひと言とか、照明の当て方ひとつで〝違う場所〟にもなるんです」

惹かれるもの、美しいことに、いつも不思議がある。

―映画『愚行録』は驚きました。日本で撮ったとは思えないほど、叙情的に映っていて。

「ポーランド人のカメラマン、ピオトル・ニエミイスキが写しただけで、日本映画が違って見えましたよね。『Beautiful』の言葉とともにカメラを回していて、いつもグッときていました。彼の目から見た風景は新鮮でした。なんだか、惹かれるものや美しいと感じることには、いつも不思議がある気がします。なぜ、この映画を観ると必ず泣いてしまうんだろう?と思うと祖父(イタリア系アメリカ人)の血の土地で作られた映画だったり。今度きょうだいで『遺伝子検査して、ルーツを調べてみようよ』って話しているんです。きっと、日本に生まれ育ってきたことには何か意味があると思うので、日本の美しいものをもっと表現できるようになりたいなと思っています」

―世界に通用する作品に、たくさん出ていらっしゃいますよね?奄美を舞台にした『海辺の生と死』は、忙しない日常のなかで、どこかに置き忘れた魂を取り戻させてくれるような映画でした。

「うれしいです。そういう映画ですね。私もいま、自分に帰りたいと思っています。でも本当の自分に帰ってしまったら、いままでとは変わるだろうなと、怖さもあります」

―表舞台に立つ自分は、本来の自分ではない気がしていましたか?

「そんなことはないです。ずっと自分は自分でした。説明が難しいですね(笑)。自分探しの話ではないんです。何もしない時間のなかで、ふわーっと感じていたくて。出すことばかりで、〝感じる〟が乏しくなった気がしたんです」

―魂を込めた演技を毎作品、絶え間なくされているから、余計そうなのかもしれませんね。

「作品のなかではとても集中していて、全身で〝感じて〟いるのですが……。この頃、『ドラゴンボール』を1話から見ていて(笑)。悟空は界王拳を使うと、使ったぶんだけ体にダメージを受けるじゃないですか。ああいう感じです。ただの自分のまま平和に過ごそうとしたら、界王拳なんて使えない。界王拳を使っても自分が滅びないようにすることができないかなと、いまは少し休んで、気をためています」

未完成でいいから楽しむことと遊ぶこと。

―3月にフリーランスになられたんですよね?

「はい。11歳から事務所に所属して、20年以上になりました。社会の一員になるのが早かったから、その分のバランスをとりたかったのかもしれません。でも一番は、カラダに『休ませてー』って、ストップをかけられたことです。結構ボロボロで、『気がつかなくてごめんね』って反省でした。光の速度で情報がやってきて、それにちゃんと心で向き合っていたら、カラダの声に全然気づいてあげられなくて。自分がどこでどういうことになっているのかも知りたかった。ちょっと離れてみると、なるほど、と日々気づくことがあります」

―仕事の歯車にのまれて、その回転の速さに本当は息切れしているけれど、逃れられないという思いをしている人は、一般社会でも大勢いる気がします。

「ランニングマシーンに乗っていて、いきなりポーンと横に飛び降りた感じです。高速から急に止まったから、まだなれなくて、おっとっと、おっとっとってグラグラしています(笑)」

―そのうち、やりたいことがワーッと湧いてくるのではないでしょうか?

「役者さんは続けたいです。今年は先輩たちがたくさん現実世界からいなくなってしまって、何だか妙な焦りもあります。叶うかわからないけれど、ある大好きな先輩女優さんの企画もちょっと考えているんです。プレイヤーでいたいですが、魅力的な役者さんたちの、新しく観てみたい作品もたくさんあって。何かできないかしらと、まだイメージを泳がせているところですが。きらきらした良いものに触れて、いっぱい感動して、良く寝て、笑って、もうちょっと気がたまったら(笑)、自分の持っている良いものを、今までよりももっと大切に使いたいなと考えています」

―2017年から2018年にかけては、音楽でも活躍されていましたね。

「新しい経験でした。みなさんとても表現豊かでカラフルな世界を持っていて、いろんな国の戦士に会った気分、みたいな。レコーディング方法もライブもリハーサルも、それぞれに違っていました。大きなライブでは、楽器演奏や照明、演出、楽隊の女性たちの衣裳や美術の色ぬり、物販のデザインまで一緒に参加して、すごく楽しかったです。いままで使ってこなかった能力を使える場があると、さらに新しいことが見えてくることを実感しました。アイデアがかたちになるときって、感動でした」

―初めて携わる分野の仕事に、不安やプレッシャーはありませんでしたか?

「それはなかったです。いろんなアイデアを面白がってもらえて、そこからまたいろんなプロフェッショナルの方が豊かに拡げてくれて。そうやって、変化していく様も良いと感じられたので。でも無事に終わって、ホッとしました。いまはゆったりと、いろんなことに興味を持ちたいです。完成のためじゃなくて、未完成でも良いから楽しむこととか遊ぶこととか、していたいです」

―満島さんは、なんでもできちゃうんですね!

「全然ですよ!とってもヘナチョコですよ。車の運転できないし、自転車もまだ下手っぴだし、たまに勇気を振り絞るだけです。だけど伊達にいろんな仕事してないです(笑)、なんて。これまでにいろんなパワーの方に会ってきたな、と。違う人の人生みたいです」

新しい人生がまた始まったような。

―10代から走り続けて、いま振り返ると、「よくやったなあ」と思いませんか?

「へぇ、あれも自分なんだーって思います。日々に起こることの展開が早いので、記憶力は良い方なんだけど、出来事の多さについていけていません。私の人生、いい小説になるんじゃないかな?と思う。とか言って、自分のことを一番知っているだけで、みんなそれぞれに人生があるんですもんね。でも昨日ふと、カルマが解消されて、また新しい人生が始まったような感じがしたんです。生まれたてほやほやです」

―それは!お誕生おめでとうございます!

「ありがとうございます。すべてに意味があったと思います(笑)。奉仕しすぎるきらいがあるので、これからはもう少し自分のためにやろうと思います(笑)……、かっこよくありたいですね。少女の頃、髪をサラッとなびかせて歩く、ハンサムな女性に憧れていたことを思い出したので、つぎは、目指せハンサムな女性!でしょうか」

満島ひかり

ドレス ¥231,000(フェンディ │ フェンディ ジャパン 03-3514-6187)/トークハット ¥171,000(ニナ リッチ │ コロネット 03-5216-6518)/ピアス*本人私物

満島ひかり

1985年生まれ。最近の出演ドラマに『トットてれび』『カルテット』『監獄のお姫さま』など。『満島ひかり×江戸川乱歩』は2018年12月30日午後11時30分〜NHK BSプレミアムにて放送。2019年1月にはシーズン2の再放送もある。

Photo: Yasuhide Kuge  Styling: BABY MIX  Hair: Toshihiko Shingu(VRAI)  Make-up: Naoki Ishikawa Text: Tomoko Kurose

GINZA2019年1月号掲載

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