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韓国映画界の新世代スター、イ・ジュヨン。『ベイビー・ブローカー』撮影中に考えていた「母親の権利ってなんだろう?」

韓国映画界の新世代スター、イ・ジュヨン。『ベイビー・ブローカー』撮影中に考えていた「母親の権利ってなんだろう?」

カメラの前ではクールな面持ち。でもいざインタビューが始まると、破顔一笑。「日本に仕事で来るのは初めてで、うれしい!」と話してくれたイ・ジュヨンさん。今回、彼女が出演したのは、是枝裕和監督がオール韓国ロケで撮った、公開中の新作映画『ベイビー・ブローカー』。赤ちゃんポストから赤ん坊を連れ去り、子どもがほしい家族に売っているベイビー・ブローカーらの姿を通して、現代の生命観、また母親像を問い直す物語です。ジュヨンさんは撮影中、どんなことを思っていたのでしょう?


──劇中、ベイビー・ブローカーのサンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)はお金目当てで、シングルマザーのソヨン(イ・ジウン)とともに、彼女が赤ちゃんポストに一度預けた息子を売ろうと奔走。でもやがて、真剣に新しい両親を探すようになっていきます。ジュヨンさんは「初めてシナリオを読んだとき、気づかないうちに涙があふれていた」とコメントを寄せていましたね。

ページをめくるにつれて少しずつ感情が動いていく感じがあって。それで、ソヨンの「生まれてくれてありがとう」というセリフを読んだときに、気づいたら涙していました。普段、シナリオを読んで泣くことはないんですけど、まるで自分が言われているような気がして……。この映画を観てくれる方もきっと、そう感じるだろうなぁと思います。

 

──束の間の温かいシーンでしたよね。ジュヨンさんが演じたのは、イ刑事。先輩のスジン(ぺ・ドゥナ)と二人で、サンヒョンたちを人身売買で現行犯逮捕しようと追い続けます。

スジンとイ刑事はいわば観察者なので、つまり、視点が観客と重なるわけです。そのことを意識した上で、イ刑事のように、生後間もない我が子を捨てるしかなかったソヨンの気持ちを理解しようとしながら、シナリオを読み進めました。だから、「生まれてくれてありがとう」というセリフで感情がたかぶった理由は、半分は自分が言われたように感じたからで、残り半分はソヨンの思いを想像していくプロセスにおいて大事なシーンだったからだと思います。

 

──つい最近、アメリカの連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた女性の権利」だとした1973年の判決を覆したばかり。この映画もまた違った意味を帯びてきそうですね。

是枝(裕和)監督は一貫して、家族をテーマに作品を撮り続けてきた方。今回はその延長線上で、未婚の母であるソヨンと赤ちゃんを主軸に物語を展開させています。イ刑事はソヨンについて、個人の責任を問うのではなく、制度的・社会的に彼女を守る必要があるという立場。私もこの映画に参加している間中、「母親の義務があるとすれば、母親の“権利”ってなんだろう?」と考えていました。

イ・ジュヨン 『ベイビー・ブローカー』 インタビュー

 

──イ刑事は主要キャラのうちで、最もまっとうに生きてきた人だと思います。そのまっとうさにより、スジンやソヨンとやりとりする中で、無意識に相手の心の傷に触れてしまう部分がありましたよね。

私も役作りのときに、そのことについてはかなり考えました。スジンはある過去が原因で、なかなかソヨンに寄り添おうとしません。そんなスジンに、イ刑事は「なぜあの女に厳しいんですか?」など、ストレートな質問をぶつけます。「スジンの過去を知っていたらこんなこと言わないですよね?」と、是枝監督とも話し合いました。

 

──二人のやりとりから自然に、スジンが何かを隠していることが伝わってきました。

スジンとイ刑事が、ソヨンとビルの屋上で会うシーンがあって。イ刑事はソヨンに「あなたを助けたい。気持ちを理解したい。犯罪に手を染めた理由があるなら、それを信じたい」といった言葉をかけるんですが、それがソヨンのなぐさめになったり、助けになったりすることはないんだろうなと。だから、セリフを言うときはなるべく淡々と、中途半端に同情しているような感じは出さないようにしたつもりです。

 

──スジンとイ刑事が、車内で食事を取るシーンが何度か登場しますよね。おでん、ミニトマト、辛ラーメン+ゆで卵、ハリボーのグミと、リアルにその辺で買ったものという感じがして、なんかセレクトがすごくよかったです(笑)。

ああ〜(笑)。おでんと辛ラーメンはシナリオに書いてあったと思います。でもミニトマトとハリボーは、待機中に私とペ・ドゥナさんが買って食べてたもので。「せっかくだからそれを食べながらやってみよう」と急きょ、演技に取り入れることになったんです。

イ・ジュヨン 『ベイビー・ブローカー』 インタビュー

 

──ミニトマトとハリボーは、お二人のチョイスでしたか!

私たち二人は車内のシーンが多く、動きがかなり制限されていました。だから、何か食べながらとか、ゴミを片づけながらとか、ちょっとした動きをつけたほうが演じやすかったんです。

 

──この映画の撮影監督は、『パラサイト 半地下の家族』(19)のホン・ギョンピョさんです。車内での撮影中は、是枝監督やホン・ギョンピョさんも車に乗っていたんですか?

ケースバイケースなんですが、是枝監督、ホン・ギョンピョさん、通訳さんの3人が一緒に乗っていたシーンもあります。カメラのアングル的に、監督が後部座席に乗ると映り込んでしまう場合は、監督だけ別の車に乗って、私たちの車を後ろから追いかけながらモニターでチェックするというやり方で撮りました。

 

──じゃあ最大で5人が、あのコンパクトな車内にいたわけですね。それは大変……。

撮影したのが5〜6月で、気温が高くて。しかもマイクが雑音が拾わないようにエアコンを消して、窓を開け放して撮っていたので、ほんっとうに暑かったです(笑)。

 

──そういえばペ・ドゥナさんについて、車内でスジンがイ刑事と話しながら、雨で車の窓に貼りついた花を取ろうとするシーンが叙情的で印象に残りました。

あのときは、急に雨が降ってきてしまって。直前のシーンからのつながりが不自然になってしまう可能性があったので、ホン・ギョンピョさんとどうするか話し合った上で、二人がサンヒョンたちを待ち伏せしている間に、雨が降った設定にしようということになりました。で、雨のせいでたまたま近くの木から、窓に花が落ちてきて。是枝監督がペ・ドゥナさんに「これを何か意味のあるものにしよう」と提案して、ああいうふうになったんです。

 

──その場で起きたことがいろいろと取り入れられているんですね。この映画でジュヨンさんは今年、カンヌ国際映画祭に初参加。どんな経験でしたか?

カンヌに行ったことがいまだに信じられないんです。家に帰ったら実感できるかなと思ったんですけど、全然そんなことなくて。すべてがまるで夢のようで、今回の日本でのプロモーションだってそう。日本に仕事で来るのも、観客のみなさんに会うのも初めてで、本当にうれしい! 私、日本旅行が大好きで、コロナ禍になってからずっと来られなくて残念だったんです。私にとって『ベイビー・ブローカー』は、まるでプレゼントのような作品。一生忘れられない思い出をたくさんもらいました。

 

──また日本に来てください!

はい、チャンスがあればぜひ。(日本語で)アリガトウゴザイマス!

イ・ジュヨン 『ベイビー・ブローカー』 インタビュー

 

『ベイビー・ブローカー』

イ・ジュヨン 『ベイビー・ブローカー』 インタビュー

クリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女性・ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊がいないことに気づき警察に通報しようとしたため、二人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らとともに養父母探しの旅に出ることに。一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事・スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていくが……。第75回カンヌ国際映画祭にて、最優秀男優賞(ソン・ガンホ)とエキュメニカル賞を受賞。

監督・脚本・編集: 是枝裕和
出演: ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジュヨン
配給: ギャガ

2022年/韓国/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/130分/原題:BROKER

TOHOシネマズ 日比谷ほか全国で好評公開中!
© 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

公式HPはこちら

イ・ジュヨン Lee Joo Young

1992年、韓国生まれ。2012年に俳優デビュー。2018年、主演映画『なまず』がインディーズ映画にもかかわらず異例のロングランを記録し、第23回釜山国際映画祭 今年の俳優賞を受賞。2019年、映画『野球少女』で野球にすべてを懸けた少女を熱演し、商業映画初主演にして第45回ソウル国際映画祭 独立スター賞を受賞。2020年、大ヒットドラマ『梨泰院クラス』のトランスジェンダーのヒョニ役で一躍注目を浴びる。飾らない魅力でファッションアイコンとしても活躍。日本での公開待機作に『なまず』(7/29(金)公開予定)がある。

Photo: Yuka Uesawa Text&Edit: Milli Kawaguchi

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