2018年に大ヒットした『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が今回、新作をひっさげて来日!新作は傑作ホラーのリメイク『サスペリア』。「ダンサーを夢見る主人公スージーが足を踏み入れたベルリンのダンスカンパニーは、実は魔女の集団だった!」という物語は正直コワイ…でもあのトム・ヨークが初めて映画音楽を担当、セリーヌのニットウェアデザイナーによる衣裳など、GINZA的にも気になるポイントがあったのでお話をうかがってきました。今注目の監督の、クリエイションの心得に迫ります。
「トム・ヨークがくれたメモは大切にとってあるよ」。『君の名前で僕を呼んで』監督が豪華布陣で挑んだ新作

映画衣裳は“ファッション”じゃない。
キャラクターを描くための表現手段。
──さっそくですが、今日のコーディネートが素敵ですね。カジュアルアイテムのスウェットをシックに着こなされていて。
ルカ・グァダニーノ(以下、ルカ) ありがとう。今日は全身アルマーニなんだ。
──私服もスタイリッシュなんですね。ルカ監督の作品では過去に『胸騒ぎのシチリア』と『君の名前で僕を呼んで』、そして今作の『サスペリア』でも、衣裳デザイナーにセリーヌのニットウェアデザイナー、ジュリア・ピエルサンティを起用されていますよね。
ルカ ジュリアはすばらしい才能の持ち主ですごく信頼しているからね。僕たちは親しい友人同士でかれこれ20年ほどの付き合いなんだ。今作も含め、僕の映画の多くをプロデュースしてくれているマルコ・モラビートの奥さんでもあるし。
──今回の衣裳は、彼女とのどのようなやりとりを経て生まれたのでしょうか?
ルカ 細かいやりとりをすることはないよ。僕たちにはすでに信頼関係があるから、ジュリアが台本を読み込んで作品への理解を深めてくれるだけで充分なんだ。強いて言えば、今作には大胆なデザインの衣裳がほしかった。それだけ伝えたら、あとはジュリアが素材選びからデザインまでやってくれて、見事な仕事ぶりだったよ。
一方で、彼女と組むときはいつもお互いに、参考になりそうなイメージをシェアするんだ。『サスペリア』では、たとえばライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督(※ドイツの映画監督。1960年代後半〜1980年代にかけての映画運動「ニュー・ジャーマン・シネマ」の中心的存在で、タブーを恐れない作風に定評がある)の映画や、フランスの画家バルテュスの絵(※女性や少女像を多く描いたことで知られる)をイメージとして共有したよ。
──映画衣裳の専門家ではなく、ファッションデザイナーを起用するところにルカ監督の個性が表れているように思います。それだけ、監督にとっては衣裳が重要なものなのでしょうか?
ルカ それはちょっと違うかもしれない。僕自身は普段ファッションが好きだし着るものには気を配るけど、自分の映画を作っているときにファッションのことは考えていないんだ。ジュリアを起用している理由はファッションデザイナーだからではなく、彼女の才能を深く信頼しているから。それに、いわゆる映画衣裳のデザイナーと仕事をしていないのは、残念なことに彼らが衣裳を単に“服”として捉えているからなんだ。
──つまりルカ監督は、映画の衣裳を“服”や“ファッション”だとは思っていないということですか?
ルカ そのとおり。衣裳は登場人物の感情や人となりを伝えるものでなければならない。映画には様々な登場人物が登場してきて、一人ひとりにそれぞれの旅路がある。そのことをビジュアルで伝える表現のひとつとして衣裳があるんだ。優れた衣裳は、身につけている登場人物のキャラクターを、より生き生きと見せてくれるんだよ。
──監督の作品の多くで、衣裳は、今おっしゃられたようにキャラクターを伝える表現であると同時に、造形的にも美しいですよね。衣裳以外でも、美術やカメラワークなどすべてが美しく設計され、見とれてしまうほどなのですが、自作における“美しさ”について何か意識されていることは?
ルカ うーん。さっきファッションについて伝えたことと似ているんだけど、僕自身は映画の中で“美”を追求しているわけではないんだよ。でも作品というのは往々にして、その作者の意思を越えているものだから、そういうところもあるのかもしれない。いずれにせよ僕自身が意図していることではないから、ヒョウが「なんでまだら模様なの?」と聞かれてもうまく答えられない、そんな感覚かな。
トム・ヨークがくれた素敵な贈りもの。
──今作では、世界的に有名なアーティストであるトム・ヨークが音楽を担当しています。トムが映画音楽を作るのは初めてだったそうですが、彼を起用したきっかけは?
ルカ 『サスペリア』の音楽には、恐怖や悪を表現するための特別なエネルギーがほしかった。同時に、現代性も必要だった。それを表現できるのはまさにトムしかいないと思ったんだ。彼は常に音楽作りの探求を怠らないから、彼の声は僕たちの世代に響く。そういう“世代を代表する声”を僕は求めていたんだ。彼に自分の映画の音楽を頼むことはある意味、僕の野心だったんだよ。なぜなら僕はレディオヘッドやトム・ヨークをずっと聴いてきたし、彼らを崇拝する大勢のファンの内の一人だったからね。
──トムは快諾してくれましたか?
ルカ 彼にとっては初めての映画音楽だから想定内だったけど、すぐには引き受けてくれなかったよ。でも頼み込んで説得したら、ようやく「YES」と言ってくれたんだ。というのは、僕はいわゆる典型的なホラー映画の音楽には興味がなくて、もっと複雑なものを求めていた。その考え方を伝えたら彼も共感してくれたんだよ。
──トムが手掛けた表題曲『Susperium』の歌詞は、映画のストーリーを連想させるようなミステリアスなものですね。
ルカ 歌詞すべてがすばらしいと思うけど、特に冒頭の“This is a walz thinking about our bodies / What they mean for our salvation(日本語訳:これはワルツ わたしたちが身体について考え 救済を受けるための)”のフレーズは好きで、まさにダンスとは何たるかを言い得ていると思う。ダンスは『サスペリア』の重要なテーマのひとつだからね。ところで思い出したんだけど、この『Susperium』の歌詞にはトムとのエピソードがあって…
──トム・ヨークとのエピソード!ぜひお聞かせください。
ルカ その日僕はロンドンのホテルにいて、トムと電話している最中に、初めてこの曲を聴かせてもらったんだ。しかもデモ音源ではなく、彼自身が電話口で歌ってくれて…感動したし、圧倒されたよ。ただ歌詞をすべては聞き取れなかったので「もう一度教えて」と頼んだら、あとでトムが歌詞を手書きしたメモをくれたんだ。そのメモは今でも大切にとってあるよ。ちなみにその『Susperium』を初めて聴いた日は、実はちょうどトムの誕生日でね(笑)。
──トムの誕生日なのに、トムからのサプライズプレゼント。素敵なエピソードですね!先ほどレディオヘッドやトム・ヨークのファンだとおっしゃっていましたが、その他には普段どんな音楽を聴かれているんですか?
ルカ 僕は古めかしい人間だから、実は流行りのものはほとんど聴かないんだ。マーラー(※19世紀〜20世紀初期にかけて活躍したクラシック音楽の指揮者・作曲家)やジョン・アダムズ(※現在も第一線で活動するアメリカの作曲家。ルカ監督は『胸騒ぎのシチリア』や『君の名前で僕を呼んで』でジョンの曲を使用)といったクラシック音楽を愛していて、同じ曲ばかり繰り返し聴いている。音楽は創作のインスピレーションでもあって、来年撮影予定の作品は、ボブ・ディランのアルバム『血の轍(Blood on the Tracks)』から影響を受けた物語なんだ。
相思相愛な女性キャストたちとの撮影。
「僕が魅力を感じる人たちを集めた」
──前作『君の名前で僕を呼んで』で、美少年と青年の恋を描いていたのとはある意味対照的に、『サスペリア』には大勢の女性が登場しますよね。40人近い女性キャストたちとの撮影はいかがでしたか?
ルカ 全部で“38人”だよ(笑)。今回の主なロケ地はイタリア・アルプスの山の麓にある廃屋になったホテル。そんな閉鎖された空間で女性キャストたちと撮影を行っていったわけだけど、すばらしい経験だったよ!彼女たちは僕を愛してくれたし、僕も彼女たちが大好きだった。
『サスペリア』は女性の中の闇を描く、いわば“女性の映画”だ。だからメインキャストも女性だけにしたいと思ったんだ。主な登場人物の中で唯一の男性であるクレンペラー博士役も、女優のティルダ・スウィントンに特殊メイクで演じてもらった。このキャスティングは僕の案で、特にこだわったところだよ。
──ティルダが特殊メイクで男性を演じていたのには本当に驚きました。彼女は監督の長編デビュー作『The Protagonists』からはじまり、『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』でも主演を務めていますね。いわば監督にとってのミューズだと思うのですが。
ルカ ティルダはとても近しい友人であり、同時に尊敬もしている。もう25年間にもわたる付き合いで、『サスペリア』のことも長年彼女と話し合って計画してきたんだ。彼女と一緒に映画のアイデアを詰めていくのは楽しいし、持ち前のユーモアでいつも笑わせてくれる。実験的な挑戦にも意欲的で、いい意味で驚かされてばかりなんだ。
──『サスペリア』では南スーダン出身のモデル、アレック・ウェック、『胸騒ぎのシチリア』では二世モデルのリリー・マクメナミーと、世界的に活躍するファッションモデルを立て続けに起用されていますね。ふたりとも演技経験は少ないと思うんですが、それでも監督が彼女たちに惹かれた理由は?
ルカ 質問に答える前に、『サスペリア』に出ていたファッションモデルはアレックだけじゃないんだ。マルゴシア・ベラは知ってる?彼女もトップモデルの一人だよ。(と言ってiPadで検索して彼女の画像を見せてくれる)
──(マルゴシアの画像を見て)あ、わかりました!主人公スージーの母を演じていた方ですね。
ルカ そう。重要なモデルを見逃していたね(笑)。アレックにマルゴシアにリリー、みんなそれぞれにとてもおもしろい人たちだから、同じモデルだからといって、彼女たちの魅力を一括りにして語ることはできないんだ。
──モデルという職業は関係なく、彼女たち3人それぞれに固有のキャスティング理由があるんですね。
ルカ これは彼女たちに限らずなんだけど、キャストやスタッフを決めるときには、監督である僕自身がその相手に人間的な魅力を感じるかどうかが大切で、その人が役者であろうとモデルであろうと肩書きは関係ないんだよ。僕が魅力を感じる才能ある人たちをチームに集め、お互いに強い信頼関係を築くことで、すばらしい映画が生まれてくる。映画作りはこれに尽きると思うんだ。
──衣裳のジュリア、音楽のトム、そしてメインキャストの女性たちと、監督が人間的に惹かれる方たちを集めて作られた作品が『サスペリア』なんですね。公開がたのしみです。今日はありがとうございました!
『サスペリア』
監督:ルカ・グァダニーノ(『君の名前で僕を呼んで』)
音楽:トム・ヨーク(レディオヘッド)
出演:ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン、ミア・ゴス、ルッツ・エバースドルフ、ジェシカ・ハーパー、クロエ・グレース・モレッツ
配給:ギャガ
上映時間:152分
2019年1月25日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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ルカ・グァダニーノ
1971年、イタリア・シチリア州生まれ。1999年ベネチア国際映画祭にて好評を得たティルダ・スウィントン主演『The Protagonists』で映画監督デビュー。代表作に『ミラノ、愛に生きる』(09)、『胸騒ぎのシチリア』(15)など。2017年公開の『君の名前で僕を呼んで』は世界的な大ヒットとなり、2018年アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、脚色賞、歌曲賞の4部門にノミネートされる。鋭い美的感覚を持ち、インテリアデザイナーとして活躍する一面も。