イギリス人の父と日本人の母をもち、ロンドンを拠点として創作活動を続けるリディアは、紙を素材として扱う“ペーパーアーティスト”。インスタグラムには、これまでに作り上げたカラフルな作品たちがアップされていて、見るだけでワクワクしてしまう。日本の家族からはミドルネームの「かすみ」と呼ばれているの、と微笑む姿がキュートでエキゾチックな彼女に、もの作り&プライベートライフについて聞いてみました。
──紙を素材として扱うアーティストになったいきさつは?
もともとジオメトリックなデザインに惹かれる傾向があったんです。その構造を考えるのが好きだったというか。学生の頃は数学と化学が大得意で、そのスキルと興味を使う仕事は?って考えたのがアートの道に進んだ理由。
実は、大学時代に作っていたのは主にスカルプチャー(彫刻)。大学内の広いスタジオを使えたから、サイズの大きな作品も色々作れたので。でも卒業したら、そんなに大きな作業場は確保できないし、いったい何をしようって考えちゃって。それで場所をとらず、コスト的にも手が届きやすいペーパーアートに目が向いたんです。それに当時は紙を使ったアーティストは今よりも少なかったこともあり、これなら自分のオリジナリティを出せるんじゃないかと。
そこからは、とにかく手探り(笑)。色々試した結果、現在は完全に手描きの方法と、デジタルに取り込んで、PCでデザインをつめていくやり方に落ち着きました。前者の場合、ペンやシャープペンでラインを描きながら、とにかく平面のプランにおこしてみる。線や角度が重要だから、定規や分度器を使って、黙々と。作業にはペイシェンス(忍耐力)が必要。ほんの数ミリの差を突き詰めるデザインに、何時間も費やすこともザラです。これを楽しめちゃう私は多分、わりと完璧主義なんだと思う(笑)。
──今回の来日は、コスメブランド〈SUQQU〉の来春シーズンプレスイベント会場のインスタレーションのお仕事。そちらはどんなイメージで。どんな風に?
春らしいカラーのバルーンを大小たくさん作って、プロダクトのローンチイベント会場に吊るしたんです。こういった大きなオブジェの場合、PCを使ってデータ化して、スクリーン上でデザインを調整していきます。それを平面の紙に落とし込んだら、スタジオに常備してある専用のマシンで折り目をつけて、立体物にしていく。今回はロンドンで作ったものを平面のままパッキングして日本に運ぶというミッションもあったので、ダメージを受けないように気を遣いました。紙は色を優先しつつ、デザインにあった厚さのもの選んでいます。
バルーンは、折り曲げながら3Dに仕立てるという構造上、扱いやすい薄めの紙をチョイス。頼りにしているのはバリエーションが豊富で、オンラインで買うと翌日配送ですぐ届く〈WHSmith〉。東京に来たら〈伊東屋〉は必ずチェックします。ブルー系のグリーンとか、イギリスではなかなかお目にかかれない色が揃っているから。
ハニカム(蜂の巣)オブジェ
──立方体をくり抜いたような形のハニカム(蜂の巣)オブジェをはじめ、これまでにさまざまな作品を手がけてきたリディア。ものづくりという観点から、大事にしていることは?
ただリアルに作るのではなく、“ネクストレベル”まで持っていくこと。ある日ふと夫が愛用している〈ナイキ〉のエアマックスをモチーフにしようと思い立って、実際に作ってみたのだけれど、あれはかなりチャレンジング(笑)。でも、コーデュロイ風のテクスチャーを出すためにあれこれ試行錯誤したことが、これまでに培ったテクニックを集約するという意味で貴重な経験になりました。
あとはバランス感覚、かな。フリーランスのアーティストでいるには、色々な意味で必要ですよね。例えば、仕事としての作品と、完全にプライベートな作品のバランス。企業から依頼されるコマーシャルな作品は、生活をするためにも欠かせないけれど、同時に自分自身のプロジェクトも大切にしたい。外部からの依頼が入る時はいつも突然で、締め切りもかなりタイトなことが多いので、気がついたら急に忙しくなって、自分の作品づくりがおろそかになってた!なんてことにならないように。時間があいたときには、自分自身のためにあてるよう心がけています。