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映画『ストーリー・オブ・フィルム』マーク・カズンズ監督。誰よりも映画を愛する男が選ぶ、観逃せない日本映画3選!

映画『ストーリー・オブ・フィルム』マーク・カズンズ監督。誰よりも映画を愛する男が選ぶ、観逃せない日本映画3選!

2010年代以降、映画を取り巻く環境は大きく変わってきています。そんな革新の時代を、全111作もの映画のクリップでたどるドキュメンタリー『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』。マーク・カズンズ監督は1年365日、毎日欠かさず新しい映画を観ているそう。“究極の映画オタク”とも言うべき監督にとって、映画を観ることの効用とは? そして、必見の日本映画3本とは?


映画館の最前列で映画を観るわけ

──『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』に登場する映画は全111作。バリー・ジェンキンス監督作『ムーンライト』(16)が、ホウ・シャオシェン監督作『百年恋歌』(05)につながるなど、国もジャンルもさまざまな映画のクリップを、DJのように巧みにつなげていくさまが見事でした。

DJはとてもいい例えだね。僕は長い間、こうしたモンタージュ映画を作ってきたんだけど、この仕事はまさに映画で人々に喜びを与え、いわば「踊らせる」ことだと思ってるんだ。

 

──冒頭で、『ジョーカー』(19)が『アナと雪の女王』(14)につながるのも意外で驚きました。

でしょう? 電池のプラス極とマイナス極のように、まったく違う作品同士のクリップを組み合わせたら、思いがけず火花が飛び散る瞬間があって。それが映像編集のマジックなんだよね。

 

──そんな誰でも知っているような作品から始まりつつ、後半ではかなりマイナーな作品も登場しますね。

僕はワールドシネマのファンで、例えばインド映画はヨーロッパであまり知られていないけど、僕は大好きなんだ。それに、アート映画にも目がないし。だから自然と、みんなが知らないような作品も入ってくるというわけ。だけど、それこそ発見の喜びだよね? 僕自身、いつも「自分が知らないことを知りたい」と思っているんだ。何を観るべきか、アルゴリズムに教えてほしくはないね(笑)。

 

──『ストーリー・オブ・シネマ』では、監督自身がナレーションで各作品について解説していますよね。それを聞いていて思ったのですが、監督はただ映画だけに向き合っているのではなく、「現実」をふまえ「映画」について考えているように感じます。

映画とは、夢と現実を共に感じるものだからね。観ている最中は、危険であると同時に安全でもあるし、子どもになれると同時に大人にもなれる。そんな映画の複合的な性質を、今回の作品にも取り込みたかったんだ。

 

──そんなふうに映画を観ているんですね。

僕は必ず映画館で映画を観るんだけど、いつも最前列に座るんだ。それはできるだけ視界いっぱいで観たいから。映画は人生よりも大きなものであってほしい。山のように崇高であってほしい。だから家では観ないんだよね。

 

──最前列で観るというのは、ヌーヴェル・ヴァーグの映画監督たちみたいですね(笑)。

そうそう! フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールが、パリのシネマテーク・フランセーズで最前列に座って映画を観ていたようにね。何かに熱中しているとき、人はそれに近づきたいと思うものなんじゃないかな。

 

映画は「安全に危険を感じられる空間」

──監督にとって「いい映画」と「悪い映画」とは?

他の作品をただコピーしただけの映画は好きじゃないね。たしかトリュフォーが「偉大な映画は、人生と映画について何かを伝えるべきだ」というようなことを語っていたはず。その点で言えば、例えば今村昌平は偉大な映画作家の一人だと思う。小津安二郎に師事していながら、小津の上品な作風とは程遠く、映画という言語をあえて大胆に、ぶしつけに使っているんだよね。内容においても表現手法においても、観る僕らに挑戦を仕掛けてくるんだ。

 

──つまり、いろいろな映画があるべきなのだと。『ストーリー・オブ・シネマ』にも、そういう思想が表れていますよね?

そのとおり! だし、映画の観方もさまざまだよね。映画は観客一人一人の内面を問いかけるものだから。コロナ禍で外出がままならなくなったとき、多くの人が癒しを求めて昔の名作を観ていたらしい。今回の作品では、映画の表現手法やテクノロジーのことだけでなく、「なぜ映画がしんどいときの助けになるのか?」についても伝えたかったんだ。

 

──その問いの答えは見つかりましたか?

僕自身の子ども時代を例に挙げよう。当時、故郷の北アイルランドでは紛争が起きていて(※1960年代末にプロテスタントとカトリックの間で勃発した「北アイルランド紛争」)。外は危険な状態だったけど、映画館に入ると安心できたんだ。そこでNYが舞台の作品や、大人のラブストーリーなど、あらゆるテーマの映画を観ることで、生きるための実験をしたというわけ。「安全に危険を感じられる空間」として、映画はとても重要だと思うんだ。

 

──安全に危険を感じられる空間。

俳優のティルダ・スウィントンをはじめ親しい仕事仲間とよく、映画における「Transgression(=逸脱)」の要素について話しているんだ。「映画は、自分の中にある野蛮な恐怖や幻想を満喫できる、唯一の場所だよね」と。

 

──ティルダとはスコットランドの高地地方で、大型トラックに映写機を乗せて旅をしながら映画を上映するプロジェクトを行ったそうですね。

そのときの写真があるよ。これが、ティルダと僕が映写機を乗せたトラックをロープで引っ張っているところ。37トンもあってすごく重かったんだ…。他にも、北京の映画館の中を森みたいに仕立て上げて映画祭を開いたり、8歳半の誕生日を迎えた子どもに映画体験を贈る「8 1/2財団」を立ち上げたり。やっていることが子どもみたいだよね(笑)。僕らは、子どもはクリエイティブな存在だと信じていて。だから僕らの活動では、子どもの頃の精神を活かそうとしているんだ。

 

観逃せない日本映画3選

──監督は毎日欠かさず新しい映画を観ているそうですね。GINZA読者に向けて、「日本映画の名作」を3作レコメンドしてもらえないでしょうか?

OK! まずは、さっきも言った今村昌平の『にっぽん昆虫記』(63/Netflixなどで配信中)だね。20世紀で最も視覚的に美しい作品の一つなんだ。超ワイドな構図において、主人公を奥のほうに配置して、前方まで(部屋のふすまなど)何層ものレイヤーを設けた上で撮っていたり。

 

──東北の貧しい農村に生まれ、やがてコールガール組織のマダムにのし上がっていく女性の一代記。衝撃的だけど不思議に明るい映画ですね。

今村作品には、労働者階級の女性がよく登場するんだ。彼女たちは人生の荒波をたくましく生き抜いていく。そのパワーには忘れがたいものがあるよね。

 

──では、2作目は?

大島渚の『少年』(69/U-NEXTなどで配信中)。車の前にわざと身を投げ、運転手を脅してお金を取る、“当たり屋”で生計を立てている家族の物語なんだ。生き抜くためならどんなひどい行為も辞さない人たちの姿を通して、人間や社会を本当に正直に描いた作品だと思う。

 

──大島渚監督の魅力を教えてください。

日本映画なら、やっぱり大島は欠かせない! ラディカルな思想の持ち主で、映画でブルジョワ社会の足元をすくおうとしていたんだよね。だから性や生存本能をテーマに、大胆な作品を撮り続けたんだ。

 

──最後の作品も気になります!

田中絹代の監督デビュー作『恋文』(53/現在配信なし)だね。

 

──戦後、米兵の愛人になった女性向けに、ラブレターの英語代筆業をしている主人公の男性が、代筆を依頼してきた元恋人に再会して…という物語ですね。田中絹代さんといえば、女優としても大変有名です。

そうだね。溝口健二を含め何人もの男性監督から、映画監督への挑戦を止められたにもかかわらず、彼女はこのデビュー作から見事に撮ってのけていて。的確なショットで、感情を巧みに捉えた、すごく知的な作品なんだ。

 

──監督の腕には、田中絹代さんのサインのタトゥーが入っているそうですね!

そうだよ、ほら! それだけ彼女を尊敬しているんだ。初めて監督作を観てから10年以上、誰彼構わず彼女について話し続けてきた。それはもちろん素晴らしい作品に出合えた喜びゆえだけど、彼女の監督としての顔が全然知られていないことへのいら立ちもあったからで。映画史は男性によって書かれているからね…。だからこそ、女性監督の作品について語ることは重要なんだ。近年、田中絹代の監督作は4Kデジタル復元されて、日本や世界中で上映されているよね(※Amazonプライムでも『月は上りぬ』と『乳房よ永遠なれ』(共に55)が配信中)。評価が遅すぎるとはいえ、とてもいいことだと思ってるんだ。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』

映画 『ストーリー・オブ・フィルム』 マーク・カズンズ監督 インタビュー

“誰よりも映画を愛する男”と巡る、111の映画旅行! ドキュメンタリー監督として20年以上のキャリアを持ち、映画に関する著書も複数発表してきたマーク・カズンズ。本作では監督/ナレーションを務め、過去10年の間に製作された映画を中心に、全111作をマルチな視点から紐解いていく。『アナと雪の女王』(14)、『ジョーカー』(19)などのメジャー大作から、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作『光りの墓』(15)、アリ・アスター監督作『ミッドサマー』(19)などのインディペンデント作品まで、古今東西・ジャンルを問わない数々の映画が集結! 映画製作における表現手法を丁寧に解説しながら新たな発見を探求する。

監督&ナレーション: マーク・カズンズ
配給: JAIHO

2021年/イギリス/英語/167分/ビスタ/5.1ch/カラー/原題:The Story of Film : A New Generation(原題)

6月10日(金)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー!
© Story of Film Ltd 2020

公式HPはこちら

Mark Cousins マーク・カズンズ

1965年、北アイルランド・ベルファスト生まれ。エディンバラを拠点に活動するドキュメンタリー監督/作家。TV向けのドキュメンタリーからキャリアをスタートさせ、これまでの監督作は約20作に及ぶ。初の長編ドキュメンタリー映画は、イラクのクルド人自治区に暮らす子どもたちを捉えた『The First Movie(原題)』(09)。2作目の『What is this Film called Love?(原題)』(12)は世界20カ国で上映され、また英国映画テレビ芸術アカデミー・スコットランド(BAFTA Scotland)の最優秀監督賞にノミネート。2015年の『I am Belfast(原題)』では自身の故郷を取り上げ、撮影監督は世界的に知られるクリストファー・ドイルが務めた。2004年に発表した著書『The Story of Film』は世界各国の言語に翻訳され、タイムズ紙で“映画について書かれた本の中で最も素晴らしい”と評された。同書をきっかけに、映画が誕生した約120年前から現代まで、約1,000作品を取り上げた全15話からなるTVシリーズ『ストーリー・オブ・フィルム』(11/JAIHOで配信中)を監督。同作は、各国の映画祭で上映され、映画教育の場にも影響を与えた。さらに、マイケル・ムーア監督が主催するトラバースシティ映画祭にて、スタンリー・キューブリック賞を受賞。映画『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は、書籍・TVも含めた『ストーリー・オブ・フィルム』シリーズの最新作。

Text&Edit: Milli Kawaguchi

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