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映画『カモン カモン』マイク・ミルズ監督にインタビュー。「ブルースやジャズのように、人々をつなげるユーモアを」

映画『カモン カモン』マイク・ミルズ監督にインタビュー。「ブルースやジャズのように、人々をつなげるユーモアを」

一貫してパーソナルな映画作りを続けてきたマイク・ミルズ監督が、自身の子育てから着想を得た新作映画『カモン カモン』。トランプ政権時代のアメリカ社会を背景に、ある伯父と甥が共に過ごした親密なひとときを優しいタッチで描いています。「こんな暗い時代だからこそ、希望やユーモアを感じられる映画を作りたい」。ジャズやブルースの精神を引き合いに出しながら、監督はそう話してくれました。


──まずお聞きしたかったんですが、『カモン カモン』には主人公・ジョニーの妹として「ヴィヴ」という女性が登場します。パンクバンド、ザ・スリッツのギタリストだったヴィヴ・アルバータインのことを連想しましたが、ひょっとして関係あります?

そうですね。私はザ・スリッツが大好きだし、ヴィヴ・アルバータインの回顧録(※日本語版『服 服 服、音楽 音楽 音楽、ボーイズ ボーイズ ボーイズ』が河出書房新社より発売中)も読んでいました。「ヴィヴ」という名前が気に入っていて、「生命」や「生きること」を意味しているように感じられるんです。この名前を通じて、ザ・スリッツに目配せするのは、とても楽しいことでした。

 

──この映画は、ラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)と、その甥・ジェシー(ウディ・ノーマン)の束の間の親密な共同生活を描いています。監督のお子さんであるホッパー(※2012 年にミランダ・ジュライとの間に授かった子ども)との暮らしにインスパイアされて撮った作品でありながら、伯父と甥という少し離れた関係にした理由を教えてください。

私とホッパーの話を、ホッパーのプライバシーを守りながら語るにはどうすればいいか何年も考えあぐねていたところ、あるとき「主人公を子どもがいない伯父さんにしよう」と思い付きました。でもいざ脚本を書き始めてみると、もっと深い意味があることが分かったんです。ジョニーが子育ての仕方を知らないということは、すべてのシーンが、彼が学んでいく過程になります。それは映画にとって素晴らしいことですよね? キャラクターが問題を抱えたり失敗したりする姿は、ストーリーを進める原動力になりますから。さらにそのうち、面白いことに、「これこそ実際に父親になって感じることだ」と思うようになったんです。

 

──育児に不慣れな伯父を主人公にすることでかえって、父親としての心境がリアルに描けたと。

毎月のように子どもは変わりますし、子どもと接するための新しいルールが分からなくなります。そのたび、「僕はまた子育ての初心者に戻ったんだな」と思うんです。だからジョニーの経験はすべて、父親として本当に共感できました。
また、「誰でも父親になれる」ということを明確にしたいとも思っていました。女性が父親になることもあるし、血のつながっていない人が父親になることもあるんだと。

 

──誰でも父親になれる。

私にとって「家族」とは、血がつながっている必要はないんです。それが誰であっても、自分が最初に経験する人間関係であれば、その相手は家族です。兄弟、姉妹、子ども、親、祖父母……、すべての人間関係が絡み合い、ある時点から私たちは、彼らとの関係性の中で自分自身を理解することになります。

 

──ジョニーがジェシーと絆を深めていく一方、ジェシーの実の父・ポール(スクート・マクネイリー)は、仕事の重責から精神的に参ってしまっています。

ポールは躁うつ病です。私はこれまでに撮った3作と同じように、親子間の遺伝について考えているんだと思います。子どもは親とどう違っていて、どう無意識に似ているのか。親のメンタルヘルスの問題が、どのように子どもに伝わるのか、その潜在的な影響について興味があります。親として、また子どもとして、そのことが気になります。家族関係について考えたときの、より興味深いレイヤーの一つだと思います。

 

──ジョニーの妹、つまりジェシーの母が、最初に名前を挙げたヴィヴ(ギャビー・ホフマン)です。監督は過去に『人生はビギナーズ』(10)、『20センチュリー・ウーマン』(16)をそれぞれ、自身のお父さん、お母さんとの関係をもとに作りましたが、両作の主人公は一人っ子でしたよね。今回はなぜ兄妹の設定にしましたか?

実生活では、私には二人の姉がいます。彼女たちは私の人生の重要な一部ですが、プライバシーを守るために、映画には登場させたことがないんです。そんなことしたら殺されるでしょうね(笑)。妹を登場させたのは結果的に、「映画=私の人生」ではないことを示すための方法の一つでした。伯父と甥の話にしようと決めてから母親が必要になり、ある意味では偶然、妹を登場させることになったんです。ホアキンとギャビーにも兄弟や姉妹がいますから、兄妹関係をうまく表現してくれました。

 

──兄妹が登場することで、ある家族の出来事に対して、それぞれに異なった立場が見えるのも面白いですね。

家族というのは実際そういうものですよね。同じ出来事に対して、二人の人間が全く違う反応をする。そうやってお互いが見えるようになるというか。あとこの映画には、ジョニーとジェシーがお互いにヴィヴのことを聞き合うシーンがたくさんあります。二人とも、相手が語る物語を通してヴィヴを理解しようとするんです。直接的にではなく、他の家族を通して誰かのことを知ることもあるんだと、そこはすごく意識して描きました。

 

──「誰かの物語を聞く」といえば、ジョニーの仕事はラジオジャーナリストで、アメリカ中の子どもたちに、未来や社会についてインタビューをしていますね。なぜジョニーの仕事をラジオジャーナリストにしたんですか?

ただの直感です。年齢を重ねるにつれ、理由をあまり深く考えないようになってきたんですよね(笑)。そもそも私はラジオに目がないんです。スタッズ・ターケル(※作家、ラジオパーソナリティ、ニュースキャスターなど幅広く活躍。インタビューに定評があり、ピュリツァー賞も受賞)や、アイラ・グラス(※現在も活躍するラジオパーソナリティ)が大好きで、大きな影響を受けました。ラジオはシンプルですよね。ビジュアルがない分、より簡単に、より少ない費用で、より時間をかけて作ることができます。もしジョニーを映画監督にしていたら……、ちょっとマニアックなストーリーになるし、自己顕示欲が強すぎるというか。直感で決めて取り組むうち、やがて「あ、この直感にはちゃんとした理由があったんだ」と分かるときが来るんです。

 

──ラジオジャーナリストの設定にも後から理由が見つかりました?

ええ。「聞く」というモチーフには深いテーマがあります。それはつまり、他人を理解しようとすることです。そして、「音」。音は私にとって興味深いものでした。なぜかというと、音は時間と切り離すことができないからです。時間が経つにつれ、私たちは人生から、あるいは子どもとの関係から、なんの記憶を失っていくんでしょう? あるいは、何を覚えているんでしょう? この映画では、そうした儚さみたいなものを表現しています。

 

──監督は過去作ではモノローグを多く取り入れていましたが、この映画ではほとんど使っていません。それはどうしてですか?

単に、これまでの作品で取り入れたことがあるからです。今回、脚本を書き終えるより前に、この映画のルールのようなものをいくつかリストアップしました。モノクロで、ナレーションもスチール写真も視覚効果も使わない。最初に明確なルールを決めておくと、作品を理解するのに役立ちます。つまり、私はどんな動物を作ろうとしているのか? たとえば、この動物には尻尾があって、食べるものはこれで、みたいに(笑)。このリストが映画作りのガイドになりました。

 

──その傍ら、『20センチュリー・ウーマン』同様、この映画でも『オズの魔法使い』などいくつかの本の一節を引用していますよね。

そうすることで、映画に私自身の声のみならず、他の人の声が加わるのがエキサイティングだと感じますし、何よりキャラクターを表現しようとしているんです。その人が何を読んでいるかで、人となりが分かりますよね。ですから、劇中でジョニーが読んでいる本の一節を引用することにより、彼の意識や感情について、また別の切り口が生まれるわけです。このように、私はキャラクターを描くためのさまざまな方法を考えることが好きなんです。

 

──世の中の影響か、映画にはダークだったり露悪的だったりする作品がますます増えているように思います。でもマイク・ミルズ監督の作品はそうではありません。監督にとって映画作りは、良心やユーモアとどのように関わっていますか?

そうコントロールしているわけではないのですが、私のクリエイティビティは良心から生まれてくるんです。それが幸せというか。私はミヒャエル・ハネケ(※オーストリアの映画監督。凄惨な出来事を淡々と描くなど、不穏な作風で知られる)を心から尊敬しています。もし私が彼のような映画を作ったら、すっかり落ち込んでしまうでしょう。だから、作りません。ただでさえ暗い時代ですし、自分の人生を生きるだけで、もう十分に落ち込んでいます。これ以上、絶望を増やしたくないんです。
私は映画を通して、他の人たちとつながっているんだと思えたり、希望や、挑戦する勇気を感じられたりする方法を見つけようとしています。それから、ブルースやジャズのようなユーモアも。そうした音楽の根本にあるのは、「その悲しみは、あなた一人が経験していることではない。実はあなたを他の人たちと結びつけるものなんだ」という精神です。ユーモアが効いていますよね。私はダークなユーモアも大好物です。人生がいかにめちゃくちゃなものであるかについて、笑い飛ばすんです。

 

──『カモン カモン』の終盤で、「Be funny, comma, when you can, period.(ふざけよう、コンマ、そうできるときは、ピリオド)」というジェシーのセリフがあって、これはもともと監督のお子さんであるホッパーの言葉だったそうですね?

はい。ホッパーは自分のアーティストとしての道をしっかり歩んでいて、クリエイティブな問題に対処するのが得意なんです。そのとき私は脚本に悩んでいて、これは果たして幸せなストーリーなのか悲しいストーリーなのか、そもそも面白いかどうかさえ分からなくなっていたとき、ホッパーが「ふざけよう、コンマ、そうできるときは、ピリオド」と言ったわけです。人生の指針にできそうな、素晴らしいメッセージですよね。劇中では、父・ポールがジェシーに言った言葉として取り入れました。

 

──とても印象深いシーンでした。ところで、(ZOOMの画面越しで)後ろの壁に喜劇俳優のレジェンド、バスター・キートンのポスターが貼ってありますね。

このオフィスの建物があるロサンゼルスは、かつてバスター・キートンが人生の一部を過ごした街です。建物は1927年、彼がまさにこの辺りで働いていた頃に建てられました。私はバスター・キートンがサイレント映画の時代に見せたような、身体的なユーモアも大好きです。それに、彼は脚本家・兼・監督でもあるので、私の先祖のようなもの。自分のスタジオを持っていて、非常に独立した仕事の仕方をしていました。しかも、とてもハンサムですよね。ポスターの写真を見るたび、なんて魅力的な男性だろうと思います。

『カモン カモン』

『カモン カモン』 マイク・ミルズ監督 インタビュー

ニューヨークでラジオジャーナリストとして一人で暮らすジョニー(ホアキン・フェニックス)は、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を数日間みることに。ロサンゼルスの妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる一方で、ジョニーの仕事や録音機材に興味を示し、二人は次第に距離を縮めていく。仕事のためNYに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが……。

監督・脚本: マイク・ミルズ
出演: ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン、モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング=ホワイト
音楽: アーロン・デスナー、ブライス・デスナー(ザ・ナショナル)
配給: ハピネットファントム・スタジオ

2021年/アメリカ/108分/ビスタ/5.1ch/モノクロ/原題:C’MON C’MON

4月22日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

公式HPはこちら

Mike Mills マイク・ミルズ

1966年、アメリカ・カリフォルニア州バークリー生まれ。アディダス、ナイキ、ギャップなどのCMやエール、ブロンド・レッドヘッド、パルプなどのMVを監督。また、ソニック・ユースやビースティ・ボーイズのレコードカバーのデザインも手掛け、グラフィックアーティスト、デザイナーとして1990年代のニューヨークのカルチャーシーンで活躍。2005年、『サムサッカー』で長編映画監督デビュー。自身の体験をもとに父と子の関係を描いた『人生はビギナーズ』(10)では、同性愛をカミングアウトした父親役を演じたクリストファー・プラマーが第84回アカデミー賞助演男優賞を獲得。同作は数々の映画賞で高く評価され、ゴッサム・インディペンデント映画賞では作品賞を受賞した。続く『20センチュリー・ウーマン』(16)は、批評家・観客の双方から称賛され、アカデミー賞脚本賞にノミネート。自身初の快挙となった。また、2007年に制作した長編ドキュメンタリー『マイク・ミルズのうつの話』では、急速にうつが日常化した日本で撮影を敢行し、現代社会が抱える問題を描き上げた。なおザ・ナショナルの8枚目のアルバム『I Am Easy To Find』の発売に合わせてリリースされた、同名の短編映画の監督も務めている。

Text&Edit: Milli Kawaguchi

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