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全身クリエイター中村佳穂〜ものをつくる喜びを音楽として奏でる人〜

全身クリエイター中村佳穂〜ものをつくる喜びを音楽として奏でる人〜

中村佳穂とは、〝音楽〟である。その歌声、パフォーマンスを目にすれば、きっと誰もがそう感じるだろう。ロングインタビューと初のファッションシューティングを通して、生まれながらの表現者に迫る。


ジャケット*参考商品、ブラウス ¥482,900*予定価格、カラー*参考商品(以上ルイ・ヴィトン | ルイ・ヴィトン クライアントサービス)/アイウェア*本人私物

──〝中村佳穂がたぎっている〟。ニューアルバム『NIA』を一言で表すとそんな感じだと思いました。

「小爆発のような曲ばかりですよね」

 

──いえ、岡本太郎なみの大爆発です(笑)。ポップスの領域を拡大させ、中村佳穂という名を世に知らしめた前作『AINOU』の衝撃よ再び、というか。前作が上巻なら、今作は下巻の印象もあります。

「その通りなんです。『NIA』は『AINOU』と対になる作品にしたいと、その構想は前作を作り始めた6年前からあって。いろんな人の視点や解釈を取り入れながら作ったのが前作で、それをふまえて私自身が舵を切って作ったのが今作。前作から3年半、ずっと曲を磨き続ける作業を続けてきたんです。毎日毎日、聴き返しては、楽器を加えてみたり、変えてみたり。磨き続けた宝石という感じがします」

 

──単純な質問ですが〝NIA〟というのは?

「近い、nearを縮めてNIA。『AINOU』のときに曲数もかなり作っていたので、そのときの曲のメモやパーツを発展させ、いまの自分ならこうだな、と作った曲も結構あって。同じ素材でも、今日作るのと来年作るのではニュアンスが違ってくるんです。とにかく、『そのときすぐ近くにあるものがあなたのすべてである』と。自分が見えない、近い、何か。そういう意味でこのタイトルにしました」

 

──前作に続き、バンド「レミ街」のリーダー兼プロデューサーの荒木正比呂さん、佳穂さんのライヴのアレンジや昨年のツアーではバンマスも務めていたギタリストの西田修大さんも制作に加わっています。音楽作りは複数が基本ですか?

「ひとりで制作することもありますが、もともと人と一緒に作業をするのが好きで、前作、今作ともにしっかり共作したアルバムにしたいと思ったんです。前作は、荒木さん、西田くんのほかに、レミ街のドラマーでもある深谷雄一さん、シンガーでありビートメイカーでもあるMASAHIRO KITAGAWAさんとともに作りましたが、今回のメインは、私、荒木さん、西田くんの3人。コロナ禍というのもあって、遠隔でブラッシュアップを続ける日々でした」

 

──オンラインで制作を?

「zoomで作業をするんです。3人で同じソフトを立ち上げ、共有ツールを使って意見を言い合って。ただ、会わないと始まらないこともたくさんあるので、会えるときは集いました。

今作は特に、私が楽しい状況の中で曲作りをするというのがテーマだったので、3人で人があまりいない山へ、マンドリンとかなるべく荷物にならない楽器を持参して、ついでにワインとチーズも買って、ピクニックをしながら、『フンフンフ〜ン♪』ってゴキゲンで歌って」

 

──楽しそう!その場で録音するんですか?

「ボイスメモで録っておくんです。帰ってきたら、それを音楽ソフトに入れてシャッフルする。そうすると、自分の歌のようでそうじゃなくなっていくので、特別なカタチになるまで3人でどんどんブラッシュアップして。じゃあ、ここにギターを足すわ、ビートはこういう感じにしてみようか、とか。とにかく、自分が過ごしやすい環境で、ミラクルが起きるように、という作業が今作は多かったです」

初のファッション撮影に「ワクワクです」と笑顔で。スパングルが煌めく黒レースをあしらったジャケットに、水玉のフリルブラウスとビッグカラー。デコラティブな装飾がチャームを際立たせる。ジャケット*参考商品、ブラウス ¥482,900*予定価格、スカート*参考色 ¥266,200*予定価格、カラー*参考商品、シューズ ヒール5cm ¥213,400*予定価格(以上ルイ・ヴィトン | ルイ・ヴィトン クライアントサービス)/アイウェア*本人私物

 

──昨年は細田守監督のアニメ『竜とそばかすの姫』で主人公の歌姫・すず/ベルを演じ声優に初挑戦し、millennium paradeとともに作った主題歌「U」をはじめとする劇中歌で注目されました。細田さんとの出会いは佳穂さんの創作に影響はありましたか?

「細田さんと一緒に書いた劇中歌が何曲かあって。彼はすごくストレートな詞を書かれるんです。たとえば、空・青い・幸せ、のような、みんなが思う、素直でストレートな言葉を採用して。

私は曲げたいクセがあるので、もうちょっとヒネってもいいんじゃないか?と思ったりもしたんです。演じた主人公も変わってる子という設定だったので。でも、映画を観た人の多くは、彼のストレートな詞が心に刺さっているようにも思って。私自身の表現の差を考えるきっかけになりましたね」

 

──じゃあ、今作にはそれが反映されましたか?

「影響はすごくあったと思います。もともと、アンセムを作ろうと3人で話していたんです。みんながオーソドックスに『いい曲だ』と思うものを作ろうと。じゃあ、お互いにとってのアンセムとは何だろう?ということから話し合いを始めて、『これがオレのアンセムだ!』と思うものを出し合って。そういう意味で言えば、『さよならクレール』はストレートに書くことを意識した曲になってるんです」

 

──「アイミル」もストレートな印象を受けます。

「確かに。『アイミル』は小学生の友達に向けて書いた曲なんです。私がいま小学生に伝えることがあるとするなら、こういうことだなと。とにかく、ボールをまっすぐ投げることを怖がらなくなりました。

以前は、直球を投げるのはそのことに向いてる人がやるべきで、自分は向いてない、変化球がいい、そんなふうに思ってたんです。でも結局、ストレートな曲といいつつ、自分なりのまっすぐの形だなと感じますけれど」

 

──というか、いま聞き流しそうになりましたけど、〝小学生の友達〟がいるんですか?

「います。年齢や世代って全然関係ないと思うんです。面白い! 話が合う!となれば、小学生でも16歳でも70歳でも友人だと思って接しています」

 

──ちなみに、ご自身が子どもの頃はどうでしたか?やっぱり小さい頃から歌を?

「歌ってました。3歳の頃は、童謡ばかり、ノンストップで歌い続けてヤバかった、と母が」

 

──音楽好きのご両親のもとで育ったんですか?

「いえ、音楽的に特別な環境だったわけではないんです。父は教師でまじめな人。歌好きの母がよく聴いていたのは邦楽で、久保田利伸さん、槇原敬之さん、宇多田ヒカルさんといったJ-POPだったり、SOUL’d OUTさんやKREVAさんといったヒップホップだったり。私もそういった曲をいつも耳にしながら育った感じでした」

 

──音楽と同じぐらい美術も愛し、美大を目指して絵を描いていらっしゃったそうですね。

「幼稚園の頃から、絵か音楽か、どっちかをやるだろうと。かなりマセていた気がします。小学校の頃も、『いまはいちばん小学生の気持ちがわかってるから、これをアウトプットすればマジ売れる』とか思ってたんですよ」

 

──あはははは!

「そして、高3まで、音楽と美術、どちらを生業にするのか悩み続けて。結果、美大を受験し、合否が出て道が見え始めた瞬間、どうにもこうにも涙がでてきてしまって。ああ、この道は違うんだなと」

 

──両方、という選択肢はなかったんですか?

「高校時代の友達に言われました。『佳穂は器用貧乏だから、両方やるのはやめたほうがいいんじゃない?』って。で、『確かに』となって、二兎追うものは一兎をも得ずじゃないけれど、どっちかを選ぼうと。『音楽でいく』と」

ピクセルアートのように大胆にデフォルメされたドッグトゥース柄のコートと、同じく大柄の花モチーフをプリントしたノースリーブドレス。身体をすっぽりと覆うボリュームシルエットが、内からあふれ出るオーラと呼応し合う。カラーは黒と白だけでミニマルに。ポイントの蛍光グリーンが鮮やかに目に映る。コート ¥143,000、ドレス ¥121,000、シューズ ¥68,200、ソックス ¥4,400(以上コム デ ギャルソン)

 

──佳穂さんって、音楽家だけではなく、デザイナーだったり、写真家だったり、イラストレーターだったり、ありとあらゆる世代のクリエイターの創造力を掻きたて、巻き込んでいくパワーがあると思うんです。ミュージシャンだけど、アート活動として音楽が存在しているように感じますし、ものを作る喜びを音で表しているようにも感じます。それはやはり、美術を志していたというベースがあるからなんだろうなと。

「キュレーションするように音楽を作っているのかもしれません。美術展をずっとやってる感じかも」

 

──キュレーション!まさに。

「コンセプトや発案自体は私だし、歌も歌う。共同作業も好き。でも、語弊があるかもしれませんが、私は、人と人はわかり合えない、と思っているんです。だからこそ、『アンセムとは何か』とか、そういったことをトコトン話し合う。話し合いを重ねれば、根本的な部分を共有することができると信じているんです。その上で、話し合いを重ねた人の最後の解釈が、私が描いていたものと違っていたとしても一任してしまうことも多いんです。そのほうが絶対に面白く転がっていく。

今回のアルバムのジャケットもそう。こういうコンセプトで、こういうジャケットにしたいとデザイナーの加瀬透さんに説明をしたんですね。『よし、わかった!』と返事がきて。で、『デザインあがったよ!』って見てみれば、私がイメージしていたものとは全然違うんです。けど、根底ではちゃんとつながっている。爆笑! ヤバい! うれしい!って。やっぱり、考えてることは人それぞれ違う。でも、それを面白がれるのが楽しいなって」

 

──コンセプトは共有しつつ、違う解釈を楽しむ。

「無から有を生み出すと言ってくださる方もいて、もちろんうれしいんですが、それよりは、人ありき。その人が起こしてくれたウェイヴに自分がどうやって乗るのか、乗りこなすのか、それを楽しみにしてる自分がいるし、それが楽しい。そういうことでいえば、ライヴはそれを実践する場だと思う。本当にいつも楽しいんです」

 

──先日のライヴ(注: 2月4日、東京国際フォーラムにて)ではジャズピアニスト上原ひろみさんとのコラボが話題になりました。

「いままで経験したことのない最大級のホールでのライヴだったし、ここは、誰かと1対1でやったら面白いことが起こるに違いないと思ったときに、ふと、ひろみさんのことが思い浮かんでしまって」

 

──上原さんとは初共演だったそうですね。

「ダメもとでお願いしました。『もしよろしければ』と。直前だったにもかかわらず『ジャズみたいに誘ってくれてありがとう』と本当に来てくださった。感動しました。本番では、私がこう弾けば、ひろみさんはこう、という応酬がめっちゃ楽しくて。まるで高速餅つきのようでした(笑)」

 

──ところで、佳穂さんの声の美しさにずっと聴き惚れていますが、話し声もよく通りますね。

「居酒屋で重宝されます。『佳穂ちゃん、オーダーよろしく』って。『すいませ〜ん、おねがいしまーす』。すぐに注文とりに来てもらえるんです(笑)」

“時の経過”をガーメントに落とし込んだ今季の〈メゾン マルジェラ〉より。パフォーマンスは心赴くまま、大判の1枚布のように再構築されたコートを頭からかぶって。カットアウトドレスの上にはインサイドアウトのニットを重ねてある。コート ¥438,900*参考価格、ニット ¥136,400、中に着たドレス ¥283,800、シューズ ¥147,400、ソックス ¥14,300(以上メゾン マルジェラ | マルジェラ ジャパン クライアントサービス)

 

才能と出合い、共にクリエイト

──お話を聞いていると、佳穂さんのクリエイションには、チューニングの合う仲間たちの存在が欠かせないということがよくわかります。

「大学生のとき、音楽で食っていくぞ!と決めたとき、最初は、なにもわからず、自分1人でやってたんです。そのうち、声がかかるようになり、共演相手から『セッションしようぜ』と誘われて。初めて体験したとき、すごくビックリしたんです。

私がピアノをちょっと弾くだけで、ドラムとかベースとかギターとか、みんなパパッと合わせてくれる。え!こんなにすぐに合わせてくれるの?めっちゃ楽しい!って(笑)。今回のアルバム『NIA』を一緒に作った、荒木正比呂さんや西田修大くんもそうやって出会った人たちです」

ライヴ『うたのげんざいち 2022』より。衣装は若い才能とのコラボレーションに。

──最近ではmillennium paradeとのコラボも印象的でした。メンバーでもあるドラマーの石若駿さんは今回のアルバムでも1曲、「さよならクレール」に参加しています。石若さんとはいつ頃から?

「大学2年の頃だったかな。駿は同い年。めちゃくちゃすごいドラマーがいるという噂は会う前から聞いていて。彼はめちゃくちゃ耳がいいので、私のすごく小さい機微に対しても、ものすごく繊細に反応してくれるんです。まるで、落ちていく羽根みたいな人だなって。素晴らしい人です」

 

──君島大空さんもギタリストとして今回のアルバムの1曲「Hank」にゲスト参加していますね。

「キミとは、いつ出会っただろう。ライヴハウスでニアミスするうちに、ふんわり仲良くなっていった、そんな感覚です。彼のギターの上で歌っていると自分がピアノを演奏しているのかと一瞬錯覚してしまうくらい、ぴったりな瞬間があります。音楽の楽しさをいつも思い出させてくれる、大好きな人です」

 

──ミュージシャンだけでなく、グラフィックデザイナーやフォトグラファーといったクリエイターも佳穂さんの音楽を表現するために大事な存在です。

「クリエイトに関しては、まずは、私から連絡をとってお願いをすることが多いです。今回のジャケットをデザインしてくれた加瀬透さんもそう。学生の頃から彼のデザインのファンだったんです。フォトグラファーの川谷光平さんは加瀬さんからの紹介でした。日本人離れした、独特の距離感がある人です。

今回のアートワークは加瀬さん、川谷さんと一緒に詰めていきました。自分たちにとって今作のテーマである〝近い〟とはなんだろう、ということから考えて」

イメージを共有するための直筆の絵コンテ。インスピレーションとなった魚の名前も。

──「さよならクレール」のリリックビデオを作った吉川和弥さんは京都のアーティストですね。

「in the blue shirtの『Cluster A』というMVで衝撃を受けて。凄くドキドキしながらSNSからオファーしたのを覚えています。いまではデモを送りつけて感想を教えてもらうくらい仲良し。ビビるくらいおもろい人です」

 

──そういえば、2月のライヴのヘアや衣装がめちゃくちゃ可愛かったのですが、あれは?

「konomadというクリエイティブユニットの河野富広さんがヘアをやってくれました。彼自身もまた求心力がある人で。彼のアトリエでいろんなクリエイターを集めた展示会におじゃましたとき、ライヴの衣装を担当してくれた八木華さんと、靴を作ってくれたローデンさんを知りました。今回はこういうライヴで、こんなステージだから、こんな衣装にしたいと、デザインを描いてイメージを伝えて。河野さんが編成してくれたチーム全体、すごいエネルギーで作ってくれました」

 

──まだ世に広く知られていない才能を積極的に探し、声をかける佳穂さんは名キュレーターだと思うんです。人のつながりをどんどん広げていく感じは、常田大希さんのクリエイションと相通じるなって。

「常田くんもまた同い年。彼は相手が誰であろうとフラットに接している、そんな感覚です。だから、millennium paradeでご一緒したときは、キュレーター同士で意見をすり合わせる、そういう感じで接することができました。プロジェクトが終わったとき、『じゃあまた、いいときに』って常田くんに言われ、私も『✌』で返しました(笑)」

「これまで着たことのない雰囲気の1枚です」と中村さん。光沢のあるシルクサテン地にボリューム袖がロマンティックな、オフショルダーのマイクロミニドレス。足元はコンバットブーツで少しハードなバランスに。情熱的なヴァレンティノレッドが、彼女の持つ強さとコケティッシュな魅力を引き立てる。ドレス ¥495,000(ヴァレンティノ)、ブーツ ¥184,800(ヴァレンティノ ガラヴァーニ | 共にヴァレンティノ インフォメーションデスク)

 

[中村佳穂 TOUR ✌ NIA・near ✌]

Model: Kaho Nakamura   Photo: Yasutomo Ebisu    Styling: Mana Yamamoto   Hair: Miho Matsuura (TWIGGY.)   Make-up: Tomohiro Muramatsu (SEKIKAWA OFFICE)   Text: Izumi Karashima (interview)   Text&Edit: Aiko Ishii

GINZA2022年4月号掲載

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