07 Jun 2022
天性のキュレーター!中村佳穂を取り巻く仲間たち

気になるアーティストには自ら直接コンタクト。いつもアンテナを張り巡らせている中村佳穂と、ともに歩むクリエイティブな面々。
川谷光平
写真家
新譜に収録された「アイミル」「さよならクレール」「Hank」の配信アートワークや、『NIA』のジャケット撮影を担当した川谷光平さん。海外での受賞をはじめ、いま国内外で注目を集めるクリエイターだ。
「2021年6月にLINE CUBE SHIBUYAで中村さんのライヴを観たんですが、音源の素晴らしさはもちろん、彼女のライヴにしかない言葉にし難いあの感覚、初めての体験でした。ジャケットとしてどう視覚化するのか、ADの加瀬透さんとは何度も話し合いました」と川谷さん。曲を聴き、映像を観直しているうちに、相反するものを両方とも認める姿勢があるように感じ、それは音楽の世界でのみ成り立つ貴重なことだと思ったという。
「『アイミル』では前日の雨で膝まで水浸しになりながらテニスコートで撮ったり、『NIA』では滋賀県にある現代美術家が作った公園を舞台にしたりと、どちらも他にはないような中村さんらしい撮影になりました」
かわたに・こうへい>> 1992年生まれ。2020年にKassel Dummy Award最優秀賞受賞、写真集をトルコの出版社MASAより出版。Instagram
君島大空
音楽家
LINE CUBE SHIBUYAで開かれたライヴ『うたのげんざいち』でゲストミュージシャンとして参加、京都ロームシアターでの公演ではセットの約半分を一緒に演奏した君島大空さん。「Hank」ではガットギターを弾いていて、西田修大さんとの2本のギターの音色が歌声と美しく響きあう曲に仕上がっている。
「録音もライヴも、演奏ではとにかく脱力することを意識しました。そうしないと手を取り合えない感覚があって」と君島さん。アーティスト中村佳穂については「とても丁寧で、静けさを大事にする人。佳穂ちゃんにしか読めない楽譜があって、それにはグッときました。あとピッコロを吹くのが上手いです」と君島さん。
2020年の2nd EP『縫層』のリリースから約半年、2021年4月にEP『袖の汀』をリリース。「静かなものが聴きたくなって、弾き語りの形を基盤に作りました」と、ガットギターを中心に据えた多重録音にて構成。2022年4月1日からの石若駿とのビルボードツアーも見逃せない。
きみしま・おおぞら>> 1995年生まれ。2014年から活動を開始。2019年1st EP『午後の反射光』を発表。
荒木正比呂
コンポーザー、電子音楽家
名古屋のバンド、レミ街のリーダーであり、プロデューサー、マニュピレーターとしても活動する荒木正比呂さんは、中村佳穂と長くをともにしてきた1人(『AINOU』『NIA』共同プロデューサー)。その魅力を「いまだに性格がつかみきれず謎な部分が多い。いったい次にどんなことをするんでしょう」と話す。
気をつけているのは“プロデュース仕事”っぽくしないこと。
「作られた感が似合わないので、たとえ別の人が書いた曲だとしても、彼女とじっくりコミットしてサウンドや歌の響きを作り込み、あくまで中村佳穂の作品にすることにたくさんの時間とエネルギーを使っています。よくスタジオ制作で曲の形ができてくると『ちょっと時間をください』と言って別の部屋に行って、数時間後には完成度の高い歌詞を作って戻ってくるんです。デモトラックだったものに血が通う瞬間。そうやってよい曲が生まれたシーンひとつひとつが、すべて深く印象に刻まれています」
あらき・まさひろ>> 三重県北勢部に暮らす電子音楽家であり、バンドマン。CMや映像音楽、サウンドデザインなどの分野で活動中。Instagram
西田修大
ギタリスト
2ndアルバム『AINOU』制作中よりライヴで共演するようになりレコーディングにも参加。発売後から今に至るまで、バンド編成でのライヴや配信など、いつも中村佳穂のクリエイティブを支えてきた西田修大さん。昨年のツアーではバンドマスター、ライヴアレンジも担当。新譜では「曲作りから荒木正比呂も一緒に、佳穂ちゃんと3人でがんばりました!」と語る。
「佳穂ちゃんの閃きをこぼさないようにすること。そして彼女がじっくり見つめたいことをできるだけ理解して、大事にすること。その上で自分も全力投球しています。人やもの、場所や時間のつながりを大切に、生活の機微をとらえて言葉や歌にしていく。“音楽は日々に影響するし、日々は音楽に影響する”ということを、彼女に出会って初めて肌で感じました。奄美大島で火を焚きながらライヴをしたり、山に登って曲を作ったり。語り尽くせないほどの思い出がありますが、そのすべてが一生大事にしていくものだと思います」
にしだ・しゅうた>> 1988年生まれ、広島県出身。『NIA』を共にサウンドプロデュースした荒木正比呂とチームで作品制作する予定。Instagram
加瀬 透
グラフィックデザイナー
「2016年にimaiさん(group_inou)とイラストレーターのobakさんの紹介で、『どこまで』という曲の7inchのレコードデザインで参加したのが最初です」と加瀬透さん。新譜の『NIA』では写真家の川谷さんとタッグを組み、アートワークなどのディレクション、デザインを担当。制作では予定調和にならないことを大切にして、中村佳穂本人やチームのメンバーとも事前に長く対話を重ねた。撮影当日は「楽しもう!」と臨み、おおよその場面だけ組み立て、シーン毎に協力し合ってカットを生み出していったそう。
「ロケだったので晴れてよかったですね(笑)」と振り返る。 「中村さんは関わる人々に対して深く信頼を持って接していると感じます。自分はこう思う、ということをちゃんと言葉で伝えてくれるし、周りの意見も大事に聞いていて。一緒に仕事をすると友達と話しているような楽しい場面が多いです。それだけ親身な方だけど、ステージに立つと大きい! 自由! 素敵ですね」
かせ・とおる>> グラフィックデザイナー。近年の展覧会に『2つの窓辺』(CAGE GALLERY)など。2021年JAGDA新人賞受賞。Instagram
konomad
クリエイティブユニット
2月の東京国際フォーラムでの『うたのげんざいち 2022』で、衣装・ヘアメイクをディレクションしたのがkonomad。ヘアスタイリストであり、独創的なウィッグ制作で知られる河野富広さんと、ヴィジュアルアーティスト兼フォトグラファーの丸山サヤカさんによるクリエイティブユニットだ。アーティストを集めた合同展示会を企画していて「そこに参加したクリエイターたちがチームとして集結してくれてライヴのスタイルが完成しました」と2人。
konomadに加えて、八木華さんやクリストファー・ローデンさんもそのメンバー。メイクは中村麻美子さんが担当。ピアノを中央に据えた舞台に華を添えた。「中村さんの理想のイメージ、方向性をつかんで、適正なアーティストを招集。制作についてはそれぞれにお任せしました。パフォーマンスでの輝きに満ちた存在感と明るいエネルギー。今回は制作チームとして舞台の袖から観覧できたのが貴重な経験です」
コノマド>> 河野富広と丸山サヤカのユニット。アートディレクションやヴィジュアル制作など幅広く手がける。アトリエにてポップアップを開催。Instagram
吉川和弥
グラフィックデザイナー
「アニメーションを中心に、コマーシャルムービーから楽曲のための映像まで、大体年一ペースで一緒に制作させてもらっています」と吉川和弥さん。「闖入者」CM(17)、『AINOU』アルバムトレーラー(18)、「LIVEWIRE」CM(20)、「アイミル」リリックビデオ(21)、そして最新作となる「さよならクレール」のリリックビデオ。いずれも記憶に残る作品ばかりだ。
「佳穂さんは上等なものをラフに扱える。大事にしすぎないのは難しいことなので、素敵だなぁと思います」と吉川さん。 「闖入者」のCM序盤、プールの水面のカットについてラフ確認時に「ここの揺れは少し抑えたほうが後のシーンが際立つし、“誰もいない寂しさ”が出るかも!」(中村)と感想をもらい「映像全体の流れを意識した的確なコメントに大変驚かされました」という。“歌詞”を引き立てることに注力した新作リリックビデオも必見!
きっかわ・かずや>> 1991年生まれ。京都の自室から制作物をアップロードし続けている。主な仕事にVaundy「不可幸力」MV、絵文字フォント「COMBI」など。Instagram
Christopher Loden
仕立屋
東京とオンラインを拠点に活動するクリストファー・ローデンさんは、「私たちの身体が変容・拡張・更新していく可能性を想起させる」ことを主題にした“装身具”を3Dプリントで制作するクリエイター。ライヴ『うたのげんざいち 2022』では、ヘアにあしらわれた装身具と生き物のような白いモコモコにビジューが無数にちりばめられたファンタジックな靴を仕立てた。コンセプトに合わせながら「佳穂さんの意思や姿勢を反映させ、そのイメージからの表出をどこに落とし込めばいいか」と思い描きながら作り上げたという。
近くで見る中村佳穂は「水の中にいる龍のような、どこまでも軽やかに、高く伸びやかに突き進む印象。それでいて、ふと孤独さを感じる瞬間もある」とローデンさん。「それぞれの表現が佳穂さんのなかで浮かび上がる豊かな体験でした。舞台演奏中、あふれてくる熱量はあの空間だからこそ生まれる現象だと実感しました」
クリストファー・ローデン>> 東京都生まれ。2022年4月には新宿歌舞伎町のデカメロンで『2121 SS/AW COLLECTION』という100年後の受注会を開催した。Instagram
八木 華
デザイナー
『うたのげんざいち 2022』の冒頭、中村佳穂はトレーンを引く巨大な“襤褸”をまとってピアノの前に座った。八木華さんが約100名に及ぶたくさんの人の手を借りながら時間をかけ縫い上げた1枚。
「2019年に制作して、International Talent Supportというファッションコンペで発表したものです。ライヴで着てもらったのは佳穂さんが初めて。バックステージにいたんですが、舞台に出ていく姿に感動しました。曲中、襤褸が脱げ落ちゴールドの衣装に変化する瞬間も、まるで羽化を見ているようでとても綺麗でした。その演出も本番直前に決まったんです」
変身後の腰に巻いた金色のガウンも八木さんが手がけたもの。「ソロの佳穂さんの佇まいやイメージを大切に、かつ自分の作品の手触りを感じられるように」と思いが込められた。「作り手やクリエイションそのものを信頼していて、ライヴ感やハプニングを楽しむ。その懐の深さに惹かれます」
やぎ・はな>> 1999年、東京都生まれ。都立総合芸術高校卒業。ファッションデザインを手がける。2022年4月に六本木ANB Tokyoにてグループ展を行った。
Model: Kaho Nakamura Photo: Yasutomo Ebisu Styling: Mana Yamamoto Hair: Miho Matsuura (TWIGGY.) Make-up: Tomohiro Muramatsu (SEKIKAWA OFFICE) Text&Edit: Aiko Ishii
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GINZA2022年4月号掲載