ふせえり
曲名♪京都慕情
生粋の洋楽好きが歌う、 昭和歌謡の魅力とは?
ローリング・ストーンズにシンディ・ローパー、マイケル・ジャクソンにマドンナにポール・マッカートニー……。断っておくが、「ロックの殿堂」に名を連ねるお歴々の名を、徒然なるままに綴っているわけじゃもちろんない。これすべて、女優のふせえりさんが日本公演を見に行ったアーティストたちだ。音源を聴くに留まらず、ライブにまで足を運ぶとは。さてはふせさん、相当な洋楽好きと見た。
「特にボン・ジョヴィが好きで、彼らに関しては来日するたびに行ってました。1980年代にAXIAっていうカセットテープのCMで彼らの『Livin’ On A Prayer』が流れててねぇ……って若い人は知らないか。数年前に来たときは、娘と一緒に行ったんですよ。だけど、私はウォーーーってノッているのに、娘は『古臭い』って言って座ったままで(笑)。まぁ、そのときのボン・ジョヴィは年をとったのか、キーは下げるし、アコースティック・バージョンは多めだしで。やっぱりあのCMの頃が彼らの全盛期だったんでしょうね」
ここまでくれば当然、カラオケのオハコも洋楽だろうと思うでしょうに、ふせさんが挙げたのは渚ゆう子が1970年にリリースしたヒット曲「京都慕情」。題名からしてドメスティック全開だ。
「いや、ボン・ジョヴィも歌いますけどね。でも、1曲目はこの曲なんです。スチールギターのタタタタタンっていうイントロがいいんですよ。河原町とか高瀬川とか、歌詞に京都の地名が出てくるので、聴くと〝そうだ、京都へ行こう〟って気分にもなれますし。まぁ、この曲に誘われて京都に行ったことはないんですけど(笑)。意外と知られざる曲らしくて、歌うと〝なんだ、この曲は?〟とみんなが注目してくれるのも面白いんです」
余談になるが、「京都慕情」きっかけで京都に行ったことはないふせさんだが、『ハリー・ポッター』きっかけでイギリスに行ったことはあるそう。ハリポタ好きの娘さんに誘われたんだとか。それはともかく、なんでまた東京都は大田区出身で洋楽好きなふせさんが、京都がテーマの歌謡曲をオハコにしているのか。
「この曲を知ったのは高校生の頃だったかな。洋楽しか聴かなかった父が持っていた、唯一の日本語のレコードだったんです。それで聴いたらいい曲で、気づいたらカラオケのオハコになっていました。作曲はザ・ベンチャーズがやっているんですよ」
なるほど、「京都慕情」の半分は洋楽でできていたのか(バファリンか!)。兎にも角にも、これをもって我々は思い知らされることになった。必ずしも〝名は体を表す〟とは限らない、と。ところで、ふせさんは、この「京都慕情」をカラオケとは比べものにならないレベルのステージで披露したことがあるそうな。「あるとき、『ビシバシステム』と『パラダイス山元と東京ラテンムードデラックス』が一緒に公演をすることになったんですよ。公演自体はいつものようにいくつかのコントをやるというものだったんですが、その幕間のつなぎで『何か歌ってよ』と山元さんに言われて、だったらと提案したのが『京都慕情』でした。そしたら、山元さんがかなりノッてくれて。彼らの生演奏をバックに歌ったんですよ、今はなき渋谷公会堂の舞台で。いやー、あれは気持ちよかったです。なんせ、観客が私を見てくれるんですから、こんなことが日常なミュージシャンに憧れもしました。とは思いつつも、音楽活動を本格化しようとしたことはなくて。やっぱり私は、歌うことより芝居のほうが好きってことなんでしょうね」
「京都慕情」/作詞=林 春生/作曲=ザ・ベンチャーズ/歌=渚 ゆう子