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『僕はイエス様が嫌い』新鋭映画監督・奥山大史インタビュー

『僕はイエス様が嫌い』新鋭映画監督・奥山大史インタビュー

東京から地方のミッション系の小学校へ転校してきたユラが初めて体験する宗教への戸惑い、自分だけに見える小さなイエス様との出会いと別れ。この一見重々しくなりそうなテーマを、軽やかにユーモアと詩的な映像美で見せ、かつて子どもだった頃の感情の揺れを鮮やかに呼び起こさせてくれた、『僕はイエス様が嫌い』のブルーレイ&DVDが発売された。

大学在学中に製作したこの長編デビュー作で、史上最年少、22歳(受賞時)で第66回サンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞に輝き、その後も、第29回ストックホルム国際映画祭、第13回ダブリン国際映画祭における最優秀撮影賞の受賞など、国内外で高い評価を集める奥山大史監督が、製作から2年を経て、作品について振り返る。


ーー奥山さんの子どもの頃の体験がベースになっているそうですが、どういうきっかけからこのテーマ映画を作ろうと思ったんですか?

こないだ冷静になぜこの企画になったかを思い出していたんですけど、就職活動をしていた大学生のときに、ある制作会社で「あなたが嫌いなものを教えてください」という課題が出されたんですね。そこで、ちょっと目立たないとなと思って、「私はイエス様が嫌い」というタイトルで課題を発表したんです。いざ卒業制作で映画を作ろうとなったときに、それをそのまま映画化しようかなと。

それでいざプロットを書いてみると、めちゃくちゃ重いものになってしまって。じゃあ、小さなイエス様を出そうかなと。もちろん、撮りたい絵があって、そこに近づけるために、時代を昔に設定したり、時期を冬にしたり、少年二人の友情を軸にしたりはしましたが、そもそものきっかけは就活かもしれないです。

 

ーーその一文だけで、すごく信じているんだなと逆説として伝わるので、インパクトありますよね。

その時の課題だと、「私は○○が嫌い」というタイトルにしなさいという規定があったので、「私はイエス様が嫌い」というタイトルにしていたんですよ。それがちょっといびつで面白い言葉だなと思って。だから、イエス様が嫌いだと思っていたわけではないんですけど、実際にすごく信じたときがあって、嫌いというよりも、なんかもういいやと思ってしまった時があったんですよね。

自分に都合よく解釈するものではないなと気づいたという出来事があったので。だから、自分に都合のよいイエス様との別れと、最後に本当の神様と出会ったのかな、どうなのかな?というところで終わる映画にしたかった、というのはありますね。

 

ーー本編の中で主人公のユラくんは、初めは「イエス様って、誰?本当にいるの?」という懐疑的なところにいて、小さなイエス様にお願いしたことが叶っていくことで、徐々に信じていきますよね。

そうですね。僕は、幼稚園の途中から大学までずっと同じキリスト教系の学校に通っていたので、進学の度に外部から入ってくる人を見てきたんですね。中学や高校だと、一方的に教え込まれる年でもないので、お祈りに一つを前にしても、「なんでこんなことしてるの?」と疑いから入る感じがあるんですよ。僕は小さい頃に教え込まれて、何の違和感もなくお祈りをしていましたけど、よく考えたら、日本の環境に慣れている中で突然キリスト教に触れたときの違和感は大きいだろうなと。その感覚はこの映画に入れようと思っていました。

 

ーーすごくプライベートなご自身の体験でありながら、とても普遍的な物語だと感じたのですが、いかに普遍的なものとしていくか、ということは意識されたんですか?

幅広い人に観てもらいたい、届けたいという思いがすごくあったので、なるべく自分が体験した物語として閉じるんじゃなく、あくまで達観して、取材したこと、観察したことを映画に取り入れる意識はすごくしました。そして、その思いがあったからこそ、公開劇場はTOHOシネマズ系だったりしましたし。DVDもどうしても出したいと思っていたので、お願いしました。幅広くという意味では、バリアフリー字幕も作ってるんです。

 

ーーバリアフリー字幕が付いているDVDって、まだ多くはないですもんね。

専用の字幕を作って、タイミング通りに映像を付けて、という作業だけでもお金と時間がかかるので、担当してくれた方からは「本当に付けます?」という雰囲気があったんですが、「でもぜひお願いします!」と。聴覚障害の方だけじゃなく、高齢の方もかなり観やすくなるみたいなので。

 

ーーそもそも、映画を作りたいという思いは、昔からあったんですか?

映画はずっと好きで観ていましたけど、最初に作ることに目覚めたのはどちらかというと演劇でした。高校生の頃に本多劇場の公演を手伝ったりしていましたね。でも実際に現場に行くようになると、いろんな制約があるなと気づいたんです。

たとえば、表現的なところだと、一場面しか描かなかったり、限られた空間しか描かなかったり。それは演劇の魅力でもあるんですけど、制約にもなっていて。お金の面でも、劇場は席数が決まっているので、最大で劇場の席数×公演数しか予算がない状態で始まるので、すごく頑張って時間と労力をかけて作っても、最大でもこの人数の人たちにしか届かないんだと目に見えちゃうという面では、映画の方が可能性が広いというか。

奥山 大史監督

 

ーーそれで映画を撮ろうとなるわけですね。

はい。とはいえ映画もなかなか金銭面では厳しいんだなと、作り始めてから気づきました。映画監督だけで食べられている人って、厳密にいえば指を折って数えられるくらいしかこの国にはいないと思うんです。だから、映画監督として自分の作りたいものを作るという当たり前のことをするためには、作ることと同時にお金を儲けることを目的にして映画を作らないほうがいいんだなと思っています。

例えば、こういう映画を作りたいと思っているときに、テーマが似ているこの原作を原案にしてくれたらお金が集まるよとなったら、本音ではやりたくなくても生活のためにそっちに流れちゃう気がするので、そうならないように自分の中でブレーキをかけるためにも。原作ものに興味がないとかでは全くないです。自分がやりたいと思える原作に出合えたらもちろんやりたいと思っています。

 

ーー純粋に作りたいものを作り続けるために、生活していく基盤は別でちゃんと作っておこうと。

そうですね。今は就職して広告も作っていますが、広告はお金がまわっているとはいえ表現の上でものすごく制約がありますし、結局どの世界に行っても制約はあるので、それと戦ったり逆手に取ったりしながら、作りたいものと向き合うしかないんだなって。好きな監督の共通点って、その人の軸があって、作りたいものだけを作っている人ですし、そのほうが圧倒的に格好いいですよね。もちろん、一番格好いいのは、作りたいものと売れるものが両立できる人だとも思いますが。難しさはありますけど、そこを目指して頑張っていきたいですね。今の、映画を作りながら広告を作っている生活は好きなので、これからも、ジャンルを狭めることなく何でも続けていきたいなとは思っています。

 

ーーちなみにどんな監督がお好きなんですか?

ジャック・タチやロイ・アンダーソンはすごく好きです。日本の監督だと、伊丹十三さん。現役の方だと是枝裕和さん、橋口亮輔さん、深田晃司さんですね。みなさん、映画を作りながらワークショップや大学の先生などされていますが、映画公開後に、上映と一緒に子どもたちに教えに来てほしいという依頼があって、実際にやってみて、これは作り手として自分にもかなり利があるなと気づきました。ただ映画を作って公開していると、なかなか若い人の意見が聞けないけれど、それがダイレクトに届く場なので。こちらが何か問いかけたときにフィードバックがあるって、作ることにすごく影響してくると思う。そういう視点で、特に子どもたちとの交流は僕にとっては大事なんだろうなと。

 

ーー子どもたちの居方がリアルで、遊んでいるシーンで出てくる言葉とかもものすごく自然でしたが、どうやって作っていったんですか?

僕、映画を作るときだけ、何かと人に任せられない病で、これも最初は監督と脚本だけのつもりでしたけど、気づいたら、監督・撮影・脚本・編集をやっていて。でも、なぜか演出だけは、ほとんど演者に任せちゃうんです。登場人物が子どもなら子どものほうが、女性なら女性のほうが、圧倒的に当事者の視点を持っていますし、なるべく任せたいなと考えていて。

たとえば、サッカーをするシーンは、脚本に「サッカーをする」としか書いていなくて、脚本があまりにスカスカなので、子どもたちに渡すと混乱するかなと思って、一切渡していません。子どもたちには実際に遊んでもらって、その間に技術の人たちに準備してもらって、僕は隣で子どもたちを見ていて、彼らから出た言葉でよかったものをメモっておいて、「今言ったこれとこれを言おうか」という方法で作っていきました。

 

ーードキュメンタリーのようでもありますよね。

それこそドキュメンタリーにはすごく興味がありますし、ドキュメンタリーのように撮りたいとは強く思っています。もちろんそれは表面的なただずっと手持ちのカメラでドキュメンタリーっぽい映像にしたいとかではなくて、単純に本当にその登場人物が前からそこで生活しているように撮りたいと思っています。

 

ーーサンセバスチャン国際映画祭で新人賞を取られたことで、いろんな可能性が広がったという実感はありますか?

本当に映画の一打の大きさがすごいなと思ったのは、この映画を通して、好きだった人やこれまで関わりのなかった人たちに出会えたことですね。去年の6月にシドニー映画祭で上映されたんですが、ポン・ジュノ監督も『パラサイト』の上映で来ていて、彼は日本語がちょっと喋れるんですよね。話したらすごく面白い方で、彼も『殺人の追憶』でサンセバスチャン映画祭の新人賞を取っているんですよ。

その話をしたら、サンセバスチャンは他の映画祭に比べると賞金の額が大きいのが監督の中では有名なので、「おめでとう」とかは一切言われず、「お前、めっちゃ金持ちじゃん」とカタコトの日本語で言われて(笑)。『パラサイト』はそこで英語字幕で観ましたが、僕は英語がそこまでわからないんですけど、全然問題なくストーリーが理解できたんです。舞台や広告に比べると、映画は海外に届きやすいからこそ、わかりやすく絵でメッセージを伝えるということは大事だなと改めて思いました。

 

ーー奥山さんは、わかりやすさについてはどう考えていますか?

わかりやすさは大事なんですけど、わかりやすさをどんどん突き詰めていくうちに、逆に解釈の範囲を狭めていくことになってしまうとも思います。説明しないものって、自分にとってはこうなのかなと想像したり、考えるきっかけがあるんじゃないかなと。自分もこういう経験があったなという少しでも感じられると、この映画って私の映画なのかも、僕の映画なのかもと思ってもらえるようになるはずなので。全部を細かく説明をしてしまうと、そういう考えもあるんだと他人事に感じちゃうので。説明過多になることで、観客と距離を作ることはしたくないなと思っています。

 

ーー日本での公開後、これまで世界の4カ国で公開されていますが、反応はいかがですか?

韓国、香港、スペインで公開していて、今フランスで公開中なんですけど、人気らしいんです。ちょうど雪が降っているし、タイミングがよかったのかもしれないけれど。韓国は、日韓関係が特に悪化しているときの公開でなかなか厳しかったですが、香港はちょうどキリスト教徒と警察がぶつかるデモがあって、制圧に入ったときに警察がキリスト教徒たちに「お前たちが言うイエス様を連れて来いよ」と言ったんですね。そういう時勢に合わせて香港の配給会社が「イエス様が本当に降りてきた」という意味の中国語タイトルをつけてくれたこともあり、お客さんがけっこう入ってました。どんな反応があるかが事前に予想できないですし、意外なところで共感してもらえる可能性が映画ってあるんだなって。

 

ーーちなみに、お兄さんである写真家の奥山由之さんとは、お互いの作品について話したりするんですか?

いや、ほとんど話さないですね。上映後トークショーに一回きてもらったんですけど、すごい気まずかった(笑)。普段そういう話をしないだけに貴重な時間でしたけど。写真と映像は全然違うので、写真について僕は全然口を出さないですけど、僕は兄の写真が好きなので、見ていて「いいなぁ」って勝手に思っているだけで。でも、大学の頃に広告の現場に撮影カメラマンとして呼んでもらったのは、完全に兄がきっかけなんですよね。

未だに兄が映像を撮るとなると一緒にやるんですよ、最近だとカネコアヤノさんや小沢健二さんのミュージックビデオとか。その二つは監督助手としてその日に行って、兄の隣でひたすらもっとこうしたほうがいいと文句を言い続けるという役をやっています。そうやって作りながら現場で意見交換をするのは、すごく楽しいですね。

 

ーー何歳違いなんでしたっけ?

5歳差なので、少し離れていますね。すぐ上に姉がいて、その上に兄がいて、その上に姉がいて、4人兄妹なんです。仲はいい方だと思うんですが、女子と男子で趣味嗜好がはっきり分かれていますね。

 

ーー最後に、自分の中でこれは大事にしているスタンスってありますか?

この映画を通じて、ロイ・アンダーソン監督にも会えたんですね。スウェーデンの映画祭に参加した時に、スタジオを見学させてもらえて。DVDを渡せるだけでも、本当に幸せだなと思ったんですけど、ちょっと作り始めちゃうと、そういう行動力みたいなものを、でしゃばりっぽいし恥ずかしいとか思うようになることもあって。でも、十代の頃は今よりはるかに恥ずかしがらずに行動できていたはずなので、その精神を忘れずにいきたいというのはあります。

アメリカの日本映画祭、ジャパン・カッツに向かう機内でそう思って、NYだし、A24に行こうと決めて、住所を調べて行ったんですよ。DVDを渡したら、受付の人、すごく嫌な顔をしていましたけど(笑)。「誰に渡せばいいんですか?」と聞かれて、「誰でもいいから渡してください」って。関係性が何もなくても、とりあえず行くみたいな行動力も大事だなと。すごく気持ち悪がって逆に観てくれている人ももしかしているかもしれない。そう思うだけでも楽しい気持ちになりますから。

 

『僕はイエス様が嫌い』Blu-ray & DVD 発売中


出演: 佐藤結良 大熊理樹 チャド・マレーン 佐伯日菜子 木引優子 ただのあつ子 二瓶鮫一 秋山建一 大迫一平 北山雅康
監督・撮影・脚本・編集: 奥山大史
発売・販売元: ギャガ
2019/日本/カラー/スタンダード/76分/5.1ch
© 2019 閉会宣言

Text: Tomoko Ogawa Photo: Koichi Tanoue

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