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映画『エッフェル塔~創造者の愛~』名優ロマン・デュリスの完璧主義。「塔の建設技術をすべて理解した上で演じたんだ」

映画『エッフェル塔~創造者の愛~』名優ロマン・デュリスの完璧主義。「塔の建設技術をすべて理解した上で演じたんだ」

『エッフェル塔~創造者の愛~』は、誰もが知る〈エッフェル塔〉を設計したギュスターヴ・エッフェルの物語。塔の実現に向けて、壁にぶち当たっていたとき、昔の恋人と再会し…。世紀の愛に身を焦がすエッフェルを演じたのは、フランスの名優ロマン・デュリス。繊細な感情表現のかたわらで、今回特に意識したのは、いかにセリフ回しに建築技師らしさを出すかだったと話します。


──この映画の主人公は、パリのシンボル〈エッフェル塔〉を設計したギュスターヴ・エッフェル。ロマンさんはエッフェルを「19世紀版スティーブ・ジョブズ」と捉えて演じたそうですね。合理的で頭脳明晰な彼が50代にして情熱的な恋に落ちるという、史実に想像を混じえて描いた物語をどう受け止めましたか?

スティーブ・ジョブズにたとえたのは、彼が私たちの日常を変えるものをつくった人だからです。ギュスターヴ・エッフェルも、パリの景観を一変させる建造物を建てました。そういう偉大なアイデアを持った革命児である一方で、繊細な心の持ち主でもある。私生活のちょっとしたことで傷ついたり、そのギャップが面白いなと思いました。

 

──エッフェルの繊細さが一番現れるのは、時を経て再会した昔の恋人アドリエンヌとの関係性です。アドリエンヌを演じたのは、Netflixシリーズ『セックス・エデュケーション』のエマ・マッキー。フランス映画への出演は初めてで少し緊張していたそうですが、共演はいかがでしたか?

僕は共演者の声に耳を傾けることを大切にしていて、エマとも一つ一つのシーンを助け合いながら演じました。いろいろ話したりふざけ合ったりもしたし、エマもリラックスしていたんじゃないかな。彼女の知的で成熟した演技がすばらしかったです。
役づくりをする上で、いかに建築技師としての信憑性を持たせるかはかなり意識していたんですが、内面の繊細さについてはいつもどおり自然に演じました。

 

──ロマンさんは普段から絵を描き、個展を開いたり画集を出したりしています。この映画にも、エッフェルが設計図や絵を描くシーンがよく登場しますが、あれらは実際にロマンさんが描いているんでしょうか?

ケースバイケースです。設計図は小道具として準備されていたものもありますが、「自由に絵を描いていいよ」と言われたシーンでは自分で描きました。

 

──じゃあ物語のキーとなるあの「A」の文字も?

はい。一応サンプルをもらっていたんですが、「あとは任せる」とのことだったので、自分で描きました。好きですね、絵を描くことは。

『エッフェル塔~創造者の愛~』 ロマン・デュリス インタビュー

 

──さっき、いかに建築技師らしい雰囲気を出すかを意識したと話していましたが、具体的にはどのように?

父が建築家だったので、どういう仕事なのかはなんとなく分かっていて。でもそれ以上の信憑性が必要だと思ったので、必死に専門的な本をたくさん読んで、セリフの内容をすべて理解しようとしました。たとえばエッフェル塔の第一展望台をはめていくシーンなどは、橋の建設技術について、なんのためらいもなく自信を持って話さなくてはいけません。もう今となっては忘れてしまったんですが(笑)、撮影当日は完全に理解した上で演じました。
あと技術的なセリフについて「あんまりクリアな説明じゃないな。これだと観客に伝わらないな」と思ったら、マルタン(・ブルブロン監督)に相談して表現を変えたり。自由度の高い撮影現場で助かりました。

 

──劇中で興味深かったのは、エッフェルが労働者たちと塔を造り上げる様子です。まさに第一展望台をはめていくシーンがスリリングでしたが、どんな風に撮影したんですか?

現場にはエッフェル塔の4本脚のうち、一本脚の一部が実物大で、鉄で建てられました。第一展望台の高さまでは造られていなかったんですが、今言ってくれたシーンで僕らが歩いているのはそのセットの上の方です。実際の高さは地上20〜30mくらいなんですが、かなり俯瞰のカメラアングルによって、まるで地上50メートルくらいにいると錯覚させる撮り方をしていて。全部グリーンバックではなく、一部は実物大のセットで撮ったことが、この映画の魅力につながっているのかなと思います。

 

──美術のステファン・タイヤッソンは、この映画でセザール賞にノミネートされるなど、高く評価されました。印象に残っているセットを教えてください。

今話したエッフェル塔の一本脚は本当にいいアイデアだったと思います。そもそもパリ郊外のがらんとした空き地に、実物大の脚がそびえ立つ光景には、シュールな驚きがありました。
あとは、エッフェルのオフィス。ステファンはとてもセンスがいい人なので、どこを見てもディテールまで美しく、小道具もすばらしかったです。作り込みすぎることもなく、ちょうどいい塩梅。撮影中、「小道具を全部持って帰りたい」と思わずにはいられませんでした(笑)。

 

──以前のインタビューで、ロマンさんは「自分は生まれながらにして反権威主義を持っている」と話していました。この映画も含めですが、出演作を選ぶとき、権力側ではなく、民衆の力が描かれていることは決め手になりますか?

その考え方は僕にとってすごく大事です。この映画もお金持ちと労働者の間における平等を大事にしていて。エッフェルは社長でありながら、反権威主義的な考えを持っている進歩的な人ですから。ただ役者としては、エッフェルに似ても似つかないような、ひどい考え方の役を演じることももちろんあります。でも、個人的には平等な価値観が好きです。

『エッフェル塔~創造者の愛~』 ロマン・デュリス インタビュー

 

──最後に。エッフェル塔はこれまでも数々の作品に登場してきましたが、ロマンさんが特に好きな表現はありますか?

PNLというフランスのラップ・デュオの「Au DD」という曲のMVです。一番上にある第三展望台で撮影されていたりして、ここ数年の間に観た中で最も印象的なエッフェル塔の映像でした。
今言ってくれたように、エッフェル塔は数えきれないほどたくさんの映画・CM・絵・小説などで描かれています。にもかかわらず、誰もその美しく威厳のあるイメージを汚さなかったというのがすごい。パリ生まれの僕にとっても魔法のようなモニュメントで、子どもの頃からそばを通るたびにうっとりしてきました。この映画に参加できてうれしかったです。

『エッフェル塔~創造者の愛~』

『エッフェル塔~創造者の愛~』 ロマン・デュリス インタビュー

アメリカの自由の女神像の完成に協力したことで名声を獲得したギュスターヴ・エッフェルは、「パリ万国博覧会」のシンボルモニュメントの制作を政府から依頼される。だが、倒壊を恐れる住民や景観破壊を主張する芸術家たちが反対運動を巻き起こし、建造は中止に追い込まれる。栄光の頂点から絶望へと突き落とされたエッフェルの前に、かつて激しい恋の果てに彼の元を去ったアドリエンヌが現れる──。

監督: マルタン・ブルブロン
脚本: カロリーヌ・ボングラン
音楽: アレクサンドル・デスプラ
撮影: マティアス・ブカール
編集: ヴァレリー・ドゥセーヌ
美術: ステファン・タイヤッソン
出演: ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドル・スタイガー、アルマンド・ブーランジェ、ブルーノ・ラファエリ
配給: キノフィルムズ

3月3日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
© 2021 VVZ Production – Pathé Films – Constantin Film Produktion – M6 Films

公式HPはこちら

Romain Duris ロマン・デュリス

1974年、フランス・パリ生まれ。1994年にセドリック・クラピッシュ監督の『青春シンドローム』で映画デビュー。『ガッジョ・ディーロ』(97)でセザール賞有望若手男優賞にノミネートされ注目される。その後、クラピッシュ監督の『スパニッシュ・アパートメント』(02)が国内外で大ヒットとなり世界的に知られる。さらに、『真夜中のピアニスト』(05)、『ハートブレイカー』(10)、『彼は秘密の女ともだち』(14)、『パパは奮闘中!』(18)などでセザール賞にノミネートされ、リドリー・スコット監督の『ゲティ家の身代金』(17)などハリウッド大作にも出演し、フランスの名優としてその名を刻む。その他の出演作は、『猫が行方不明』(96)、『パリの確率』(99)、『ロシアン・ドールズ』(05)、『モリエール 恋こそ喜劇』(07)、『タイピスト!』(12)、『ニューヨークの巴里夫』(13)、『ムード・インディゴ うたかたの日々』(13)、『キャメラを止めるな!』(22)など。

Photo: Yuka Uesawa Text&Edit: Milli Kawaguchi

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