K-POPを文化に成長させたマーケティング力。ヒット請負人シン・シティに聞く

K-POPを文化に成長させたマーケティング力。ヒット請負人シン・シティに聞く

Z世代に新たな韓国音楽とカルチャーを届ける新鋭クリエイティブ・プラットフォームのAXIS(エクシス)。その創業者であるSINXITY(シン・シティ)が語る韓国カルチャーとAXISの現在と未来。


韓国3大芸能事務所のひとつとして名高いYGエンタテインメント(以下、YG)。そこで取締役を務めたSINXITYは、社内ビジネス戦略だけにとどまらず、クリエイティヴおよびブランド戦略の最高責任者としてBIGBANG、2NE1、WINNER、iKON、BLACKPINK、ONEなどのプロデューシングまで手掛けてきた。そんな彼がYGから独立し、2018年2月末に創設したのがAXISだ。

AXISの第一弾アーティストとして同年にデビューしたKATIE(ケイティ)、そしてこのたび4月17日にグローバルデビューを果たしたクリエイタークルーのambitious ambition(アンビシャス アンビション、通称:aaクルー)。本格的なグローバル展開を目前に、両者の新作を引っ提げて来日したSINXITYに話を聞いた。

 

──YGでは主にどのようなことを担当されていたんですか?

ミュージックビデオ制作を含むビジュアル・ディレクターをはじめ、新人スカウトと開発、アーティスト企画と制作、マーケティング、ブランディング、海外ビジネスなどです。

 

──クリエイティヴ・ディレクターとしてのイメージが強かったのですが、ビジネスもリードされてたんですね。

実は出発がビジネスだったんです。2009年にYGに入社して、IPO(=株式公開)の準備や組織改編から始めました。マーケティングとブランディングの担当者としてIPOに向けた社内プロセス設計やシステム構築をしているうちに、アーティストのコンテンツを作ることの重要性に気付いたんです。エンタメ企業のブランディングと言えば、まさにそれですから。それで最初にトライしたのがBLACKPINKの練習生時代のテスト撮影です。その時にビジュアルに携わるようになり、最終的には音楽制作にまで関わるようになりました。

シン・シティ

 

──YGから独立してAXISを立ち上げようと思ったきっかけは?

YGが大きくなる上でのすべてのプロセスを経験してしまったので、自分自身の成長のために辞めなきゃって2015年頃からずっと思ってたんです。留学するか、それかBTSが所属しているBig Hitに行こうかなーと考えていました(笑)。当時はBig Hitがまだ成長過程だったので、僕がYGで経験したことが活かせると思って……。これは僕の勝手な妄想です(笑)。

でもYGのヤン・ヒョンソク会長から「せっかくYGですべてのプロセスを経験したんだから、自分で創業したほうがいいんじゃないか」って言われたんです。それにYGで一緒に仕事していたNAVER(=LINEの親会社)から投資の話もいただいたので、最終的に会社を立ち上げることを決断しました。

 

──AXISはクリエイティブ・プラットフォームという形態を取っていますが、一般的な芸能プロダクションとはどこが違うんですか?

一般的な芸能プロダクションは、専属アーティストのマネジメントが中心ですよね。でもAXISの場合は、専属アーティストが外部のアーティストやクリエイターと一緒により良いコンテンツを作れる環境を提供するシステムになってます。あとはアーティスト自身のマネジメントというより、アーティスト自体をひとつのコンテンツとして見て、クリエイティヴ面の向上に重点を置いてます。

 

──今後も音楽と映像をメインコンテンツとして活動していくのでしょうか?

それ以外にもさまざまな分野でAXISがプラットフォームとなって、エンタメ業界での相乗効果を狙っていくつもりです。アーティストたちにとってのハブ装置のような役割を果たしたいですね。

 

──韓国にはモバイル・コンテンツ制作会社のdingoや、動画配信アプリのV LIVEといったサービスが充実していて、エンタメ業界との相乗効果を多く生み出していますね。

実はV LIVEのリリースには僕が深く関わっていました。YGのヤン会長からの提案で、グローバルのファンが同時に楽しめるアプリを作ろうということになって。それでアメリカのチームと一緒に開発してたんですけど、これはひとつの芸能プロダクションで作れるレベルのものではないということで、当時NAVERが同じような企画を検討していて、合同のプロジェクトとして開発することになりました。その流れでV LIVEの最初のコンテンツにはYG所属のiKONやWINNERが出ました。

dingoもやはり韓国のアーティストたちにとっては大きな魅力で、最近ではテレビ番組や所属事務所のYouTubeチャンネルよりもdingoでプロモーションしますね。僕も数年前、iKONのBobbyがソロアルバムを出した時にプロモーション映像をdingoで独占配信したりしました。

 

──AXISの立ち上げと同時に、YGに所属していた女性シンガーのKATIEさんもAXISに移籍しました。KATIEさんを選んだ理由は?

2016年からKATIE、楽童ミュージシャン、ONE、イ・ハイの4組のアーティストと、HIGHGRNDというYG傘下のレーベルを僕が全面的に任されるようになりました。中でもKATIEはすべてのクリエイティヴを担当しながらデビューの準備をしてきたので、ヤン会長から「KATIEはこのまま君と一緒に活動したほうがいいんじゃないか」と提案されたんです。

移籍に関してはKATIEも悩んでたけど、2年くらい僕と一緒にやってたので信頼関係もできあがってたし、YGが楽曲の流通をサポートしてくれるということもあって、一緒に来てくれることになりました。

 

──KATIEさんのデビュー曲『Remember』のミュージックビデオには大勢のラッパーが出演していますが、このアイディアはどこから出たんですか?

映像制作を担当したVM Project Architectureのチョウ監督に『Remember』を聴いてもらった際に、コンテンポラリー・フューチャーR&Bなのにヒップホップ的な感じがするって思ったそうです。すごくSWAGだって。それでビデオのコンセプトを「カニエ・ウェストがアジアで生まれ変わって女性になった」というものにして、カニエのビジュアルをオマージュすることになりました。その上で監督が友人のラッパーたちに声を掛けて『Remember』を聴かせたら、みんな気に入って快く出演してくれたんですよ。

 

──aaクルーのデビューシングル4タイトルのうち、『black』はミュージックビデオも公開されますね。メンバーのLOGANさんとelanさんが出演していますが、このビデオのコンセプトも監督と話しながら作り上げたんですか?

はい。これはVISUALS FROM.という監督が手掛けたのですが、今AXISでは『XYZ』というドラマプロジェクトを準備していて、そのドラマの世界観と繋げたコンセプトにしました。LOGANがヴァーチャルリアリティーのプレイヤーで、elanがその中のキャラクターを演じています。

 

──ドラマプロジェクトとは興味深いですね。

これからの時代はNetflixだなって思って。Netflixのドラマに出演しているアーティストがもっとプロモーションになるだろうし、そこでコラボする音楽ももっと増えるだろうし。だから僕たちが次にアーティストを展開するプラットフォームは、Netflixが最高だと思うんです。そのためにミュージックビデオとテレビドラマを結合させた作品として『XYZ』を作っているところです。

 

──韓国は訪れるたびにどんどん変わっていく印象です。SINXITYさんから見て、この10年でソウルという街はどう変わったと思いますか?

この10年でソウルは民主主義の象徴になったと思います。前大統領による政治問題があって、ソウルの街で大規模デモが行われましたが、それによって個性とか自分の声をもっと出せるようになったと思います。それ以前はカルチャーでもひとつのトレンドだけを追う傾向があったけど、今はいろんなトレンドが出てきて、いろんな意見が溢れる街になったと思います。そこがこの10年で一番変わった点ですね。

 

──韓国は凄まじいスピードで世界、特にアメリカのトレンドについていきますよね。音楽だけ見ても、アメリカのトレンドを翌週くらいに取り入れる勢いです。このスピード感やエネルギーはどこから来るのでしょうか?

韓国人は熱くて、飽きやすくて、常に新しいものを求めるところがあるので、それが今のKコンテンツの原動力になってると思います。僕は2003~2004年に日本に住んで、その後も2011年頃までたびたび日本で仕事をしていましたが、その頃の日本と韓国はファッションやカルチャーのトレンドが全然違いました。でも今は違いを感じません。日韓のカルチャーがひとつになったのが、まさに今の時代だと思います。

 

──そのような状況は、最近K-POPグループに日本人メンバーが増えたことにも繋がってると思いますか?

それもあると思います。以前のK-POPは日本オリジナルソングが必須だったけど、今はいらなくなってきてますよね。ローカライゼーションがいらない時代になってます。AXISの方向性を決める上でも、その状況は改めて認識しました。

シン・シティ

 

──AXISとしても、あえてローカライゼーションはしないということでしょうか?

はい。どの国で何をやるというより、地球をひとつとして見ながら何をするのが一番効果的かを考えて動くようにしています。だからKATIEも今回グローバルデビューをしますが、あえて“アメリカ進出”という表現を使う必要はないって思ってます。彼女が慣れ親しんだ言語であり、世界に伝わる英語の曲でいろんな舞台で動いていけばいいなって。

 

──そのなかでもfrom韓国というアイデンティティは見せていくのでしょうか?

クリエイティヴなアイデンティティとして韓国らしさを見せていくことは、最近のトレンドではあると思います。それでも今はアメリカ、韓国、日本、どの国のトレンドもさほど変わりないので、あえて“韓国発信”ということを強調する必要はないと思います。SpotifyやApple Musicでグローバルに配信されている音楽を聴く時、リスナーはどこの国のアーティストなのかさほど意識しないですし。

 

──実際最近のK-POPグループは、K-POPではなくアジアングループとして認識してもらいたがってる傾向がありますね。

そうですね。最近はK-POPグループにもいろんなアジアの国出身のメンバーが増えていますが、そのメンバーが日本人なのか、中国人なのか、タイ人なのか、ファンもあまり意識していません。

 

──アジアのカルチャーがひとつになってきたという点では、最近88risingの勢いが目覚ましいです。アジアのヒップホップをこれほどかっこよく世界に見せたプラットフォームは過去になかったと思います。ヒップホップ以外のカルチャーもこの流れに続くと思いますか?

僕も88risingが大好きです。出張でLAに行った際には彼等のエネルギーを現地でも実感しました。彼らのコンテンツはユニークで素晴らしいですが、僕はもう少しマスを意識したコンテンツを考えています。例えば、もっとK-POP寄りとかです。K−POPも見せ方次第でグローバルのメインストリームになるチャンスはあると思うので、AXISではYouTubeを利用してそういったことにもチャレンジをしたいなと考えています。ちなみに、現在チャンネル準備中です。

 

シン・シティ

──メインストリームに届ける醍醐味は何だと思いますか?

多くのファンが楽しめることと、世の中に新しいインスピレーションを発信できることだと思っています。ただ、この業界に長くいると趣味がどんどん深くなってしまって、メインストリームから離れちゃうんですよね。アーティストをマネジメントする上でそこがいつも悩みです。

 

──AXISの所属アーティストもメインストリームに寄せていきますか?

AXISの第一弾アーティストであるKATIEは、ブランディングもあってセンセーショナルなクリエイティブからスタートしました。もっと多くの人々に届きやすいコンテンツを作りたいという思いもあって、今回デビューするaaクルーはメインストリームに寄せています。彼らは芸能人ではなく、あくまでクリエイターというアイデンティティですが、世の中にポジティヴなインスピレーションを与えられる活動を繰り広げていきたいです。

 

──今回AXISの日本法人を立ち上げた理由は?

日本のクリエイター・ビジネスマンと仕事をする環境を早く用意することが目的でした。2016年にBLACKPINKのプロモーションで来日した時、日本のクリエイターやビジネスマンはレベルが高いと感じました。みなさん仕事に取り組む姿勢が真面目だし、仕事のクオリティも高いし。それ以来、韓国の仕事にもすべて日本のクリエイターを入れるようになりました。今後は日本の方々とはもちろんですが、国籍問わず優秀な方々ともっと仕事がしたいと思っています。

 

──確かにKATIEさんの『Remember』のクレジットを見ると、日本人の名前がたくさん載ってますね。今後、日本でどのような活動を展開していく予定ですか?

韓国でものづくりをして世界に展開することもありますが、今後は積極的に日本で日本のクリエイターの方々とも一緒に作っていこうと思ってます。aaクルーのファッションマガジン『ambitious ambition』もそういう理由から日本で作りました。今後も国の垣根を越えて、幅広い活動を展開させていきたいです。韓国のクリエイターももちろん素晴らしいけど、日本をマーケットやロケーションだけで捉えるのではなく、今までにないコラボレーションをして、仕組みとしても新しいことにチャレンジしたいと思ってます。

 

Interview & Text: Sakiko Torii (BLOOMINT MUSIC) Photo: Kaori Akita Edit:Karin Ohira

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