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映画『アネット』原案・音楽 スパークスにインタビュー。「やりたいことはなんでもやる」自由な発想で紡いだ、奇想天外な愛のロックオペラ

映画『アネット』原案・音楽 スパークスにインタビュー。「やりたいことはなんでもやる」自由な発想で紡いだ、奇想天外な愛のロックオペラ

レオス・カラックス監督の待望の最新作にして、アダム・ドライバー&マリオン・コティヤールがW主演したミュージカル映画『アネット』がいよいよ公開。セレブリティカップルが運命に翻弄されるさまをシニカルに描いた本作で、原案・音楽・脚本を手掛けたのは、ポップス界の奇才・スパークス。1971年デビューの、兄・ロンと弟・ラッセルのメイル兄弟によるバンドです。長年、映画作りを夢見てきた二人は、この念願の1作をどのように生み出していったのでしょうか。


──スパークスのお二人とレオス・カラックス監督は、もともとお互いの作品について、相思相愛状態だったそうですね。

ラッセル “ルールなんて気にせず、やりたいことがあればなんでもやる”という感性の部分が重なっていると思います。それぞれに映画、あるいはポップミュージックが「普通どうあるべきか?」という伝統を破ってきたんです。

ロン レオスも僕らも、作品で表現しているのは、たとえば「愛」のような普遍的な感情や思想。ただそれを “新しくユニークな方法”で伝えようとしているんです。あと、レオスはものすごい情熱の持ち主で。8年もの間、他の企画のことは考えず、『アネット』だけに向き合ってくれました。僕らスパークスも物事に取り組むときは必ず、片手間にはせず、100%集中するタイプです。そういった感性を共有できたことで、この映画はうまくいったんだと思います。

 

──カラックス監督がミュージカルを撮ると聞いた当初は驚きましたが、考えてみれば、彼はこれまでも音楽を印象的に使ってきましたよね。『汚れた血』(86)で、デヴィッド・ボウイの「Modern Love」が流れ、ドニ・ラヴァンが疾走するシーンとか、『ホーリー・モーターズ』(12)で、ドニとカイリー・ミノーグがデュエットするシーンとか。

ラッセル 『ホーリー・モーターズ』の、教会でアコーディオンを演奏するところなんかも、本当に特別なシーンでしたよね。非ミュージカル的な文脈におけるミュージカルシーンというか。実はレオスと親しい人たちからは「彼の次回作はミュージカルだと思う」と聞いていました。つまり、僕らが『ホーリー・モーターズ』の後、レオスに『アネット』のアイデアを提案したのは、まさに完璧なタイミングだったんです。

 

──この映画でお二人は脚本もカラックス監督と共に手掛けました。そもそもですが、なぜオペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)とスタンダップコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)のセレブリティカップルを主人公にしようと思ったんですか?

ラッセル オペラ歌手を登場させたのは、(通常のミュージカルの、不意に歌い出すキャラクターと違って)歌うのが当然だからです。その上で、彼女とは対照的な、全く異なるクリエイティブな世界にいる男性と関係を持たせたいと思い、神経質で喧嘩っ早いスタンドアップコメディアンを考え出しました。愛し合ってはいるけれど、それぞれの職業が象徴しているように、あまりにかけ離れたカップルなので、二人の間には特別な緊張感が生まれます。

ロン この映画は、主婦の妻とサラリーマンの夫といった、典型的な夫婦の物語ではありません。ロマンチックな関係性において、一人が大成功を収め、一人が落ちぶれたとき、何が起きるか。また、そのことがいかに子どもに影響を与えるか。それが、僕らが掘り下げたいと思ったキーポイントでした。

 

──物語の舞台はショービジネスの街・ロサンゼルス。セレブな二人を取り囲む大衆が、コーラス役を担っているのも面白かったです。

ロン それも今回やりたかったことの一つです。二人を追うパパラッチや、ヘンリーに反感を持つスタンダップの観客が、歌ったり踊ったりする。世間の反応をミュージカル的な文脈で捉えて見せるのは、とても楽しかったですね。そういう要素が、セレブのロマンスというアイデアにうまく作用したと思います。

 

──この映画は、どこかギリシャ悲劇を思わせもします。物語的にもそうですが、ギリシャ悲劇特有の、登場人物の言動と呼応するように歌い踊る、コロス(合唱隊)のような歌声が聴こえるシーンがあったので。

ロン たしかにコロスのような感じもありますよね。嵐が押し寄せるシーンなんかは、キャラクター自身ではなく、空気そのものが歌っているみたいで。

ラッセル それから、ヘンリーがバイクに乗っているときに流れる「True Love Always Finds a Way」という曲。「True love always finds a way. But, true love often goes astray(真実の愛は常に道を見つけることができる。しかし、真実の愛はしばしば道を踏み外す)」と、この映画の根幹を表現した歌詞ですが、歌い手の姿は見えません。ギリシャ悲劇のコロスのようなリフレインが、画面外から聴こえてくるわけです。

 

──音楽面でさまざまな挑戦を行っているんですね。では逆に、カラックス監督の演出に驚いたシーンはありますか?

ロン レオスの演出は常に、僕らの想像をはるかに超えるものでした。たとえば、一家が嵐にもかかわらず小型のクルーザーで海に出るシーンがありますよね。

 

──サンタ・モニカ湾でのクルージング中、アンとヘンリー、そして娘・アネットの三人を悲劇が襲う、運命的なシーンですね。

ロン 実際に海で撮るべきか、それともスタジオで撮るべきか?というときに、レオスは後者を選びました。撮影場所はベルギーにある、ヨーロッパ最大の水上ステージを備えたスタジオ。バックスクリーンに嵐の海が映し出され、明らかに不自然なのですが、それはヒッチコック映画のような、あえての不自然さです。俳優たちは、揺れる舞台の上で本当に水しぶきを浴びながら、生歌を歌いました。すべてが合わさって、とてもドラマチックなシーンに仕上がったと思います。

 

──劇中の歌声の大部分が、吹替ではなく生歌なんですよね。ラッセルさんも印象に残った演出はありますか?

ラッセル 冒頭の「So May We Start」という曲をみんなで歌うシーンですね。僕とロンが歌いながらレコーディングスタジオを出て、廊下でアダムやマリオンと合流し、夜のLAの街に繰り出します。ワンカットなので、カメラマンは3分間くらいずっと、僕らを正面から映しながら、道路を後ろ向きに歩き続けなければならなくて。彼がパーキングメーターにぶつかったとかで、18テイクは撮り直したかな(笑)。このシーンの振付が素晴らしくて。といっても、いわゆるダンスのような振付ではないんだけど。

ロン 僕らはこの映画で、ストリートで突然踊り出すような、ミュージカルにありがちな振付を取り入れるのには反対でした。そうではなく、ちょっとした手の動きや、体の動きで見せていきたいと思っていたんです。レオスもそのアイデアを気に入っていましたね。

 

──ヘンリーは“トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)”を象徴するキャラクターです。そんな彼が見せる、暴力的な仕草も印象的でした。

ラッセル ヘンリーがアンとのデート中に背後から、彼女に襲い掛かろうとするような仕草はレオスのアイデアです。またスタンダップの舞台で、ヘンリーがマイクを振り回しますが、あれはそのシーンで歌っている歌詞の延長ですよね。マイクを客席に放り投げるのは、アダムが思い付いたんだったかな。いずれにせよ、僕らが音楽を通じて伝えたかったことが、レオスの演出によってより高められたと思います。

ロン レオスは、いつも口調は優しいですが、伝える内容は的確です。俳優たちにも、どう演じてほしいか厳密に演出をつけます。彼らはきっと、レオスが細かい動作まで指示してくれることに感謝しているはずです。

 

──ヘンリーとアネットが対峙するラストシーンは、お二人の原案にはなく、カラックス監督が付け加えたそうですね。

ロン ええ。ラストシーンの「Sympathy for the Abysse」という曲も、レオスからのリクエストで加えました。ヘンリーとアネットの掛け合いで、二人の内なる反応を表現しています。自分たちが考えたかどうかなんて関係なく、ラストの二人のイメージをとても美しいと感じました。

ラッセル アネットが変貌を遂げ、ヘンリーに勇ましく立ち向かう。チャレンジングな演出でしたが、唯一無二のシーンになったと思います。

 

──この映画のメインテーマともいえる、アダム・ドライバーとマリオン・コティヤールが歌い上げる「We Love Each Other So Much」は、シンプルでエモーショナルなラブソングです。普段のスパークスの曲はもっとシュールでギミックが効いているので、新鮮に感じました。

ロン 愛のデュエットですから。1曲1曲誠実に作っていて、歌詞で茶化すようなことはしたくなかったんです。ただ我慢しきれず、典型的なラブソングではあまり聞かないような表現を少し入れてみたら、レオスは喜んでいました。たとえば「Counterintuitive, baby(直感に反しているね、ベイビー)」。

ラッセル あと「We’re scoffing at logic(私たちは論理を嘲笑している)」とか。

ロン ミュージカルの作曲には、さまざまなスタイルを経験できるという自由があります。ただ一方で、物語の文脈に沿っていなくてはなりません。『アネット』での経験はきっと、3〜4分の曲を作るときにも活きるはず。ポップミュージックとミュージカル。二つの仕事を交互にすることで、両分野の創造性がより刺激される気がします。

ラッセル 今はコンサートツアー中なんですが、『アネット』の曲もパフォーマンスしていますよ。「We Love Each Other So Much」では、アダムとマリオンのパートの両方を歌ってます(笑)。

 

──この映画の舞台であるLAは、お二人の生まれ故郷です。ラッセルさんは音楽を志す前、UCLAで映画を学んでいたそうですね。卒業制作は、ボートでサンタ・モニカ湾に出る映画だったとのこと。ひょっとして『アネット』の原点?

二人 (笑)

ラッセル (少し照れ臭そうに)偶然なのかどうなのか、自分ではよく分からないけど、言われるとたしかに2作とも海が舞台ですね。鋭いなぁ。

 

──映画愛が深いスパークスのお二人には、大物監督たちと映画を作ろうとして、うまくいかなかった過去があります。今こうして『アネット』にたどり着いたことを、どのように受け止めていますか?

ラッセル クレイジーの一言に尽きます。これだけ長いキャリアを持つバンドにとって、普通じゃないことが起きているんです。アダムやマリオンのような才能豊かな俳優が出演するミュージカル映画に参加したり、偉大な映画監督のエドガー・ライトがドキュメンタリー映画(4/8に日本公開の『スパークス・ブラザーズ』)を撮ってくれたり。今になってこんな素晴らしいことが起きるなんて、まるで若返ったような気分です。

ロン 理性がある人なら、ジャック・タチやティム・バートンとの企画が立て続けにダメになったら「もう忘れよう」と思うでしょうね。でも僕らには理性がないから(笑)、そのまま諦めずにいたら、とんでもないことになったんです。カンヌ国際映画祭のオープニングで、自分たちが関わった映画を観るなんて、人生で一番シュールな体験でしたよ。実は僕らは今、新作のミュージカル映画に取り組んでいます。もう病みつきなんですよ(笑)。

『アネット』

映画『アネット』 スパークス インタビュー

ロサンゼルス。攻撃的なユーモアセンスをもったスタンダップコメディアンのヘンリーと、国際的に有名なオペラ歌手のアン。“美女と野人”とはやされる程にかけ離れた二人が恋に落ち、やがて世間から注目されるようになる。だが二人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始める。

監督: レオス・カラックス
原案・音楽: スパークス
歌詞: ロン・メイル、ラッセル・メイル
出演: アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーグ
配給: ユーロスペース

2021年/仏・独・ベルギー・日/2時間20分/カラー/1.85:1

4/1(金)ユーロスペースほか全国ロードショー

© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

公式HPはこちら

Profile

Sparks スパークス

ロンとラッセルのメイル兄弟によるバンド。1971年のデビュー以来、独創的で大胆な25枚のアルバムをリリース。1974年、故郷ロサンゼルスからロンドンに渡り、アルバム『Kimono My House』をリリースするや、瞬く間に世界的な現象となる。以降、極めて重要なポップスのパイオニアとして、アルバムとライブの両方でユニークな伝説を残してきた。2017年のアルバム『Hippopotamus』はまたも批評とセールスの両方で成功を収め、数多くの“今年のベストアルバム”リストに選ばれた。2020年にリリースされ世界的に評価を得た最新作『A Steady Drip, Drip, Drip』では、UKチャートで『Kimono My House』と『Propaganda』がそれぞれ4位と9位を記録して以来のトップ10入りアルバムとなった。2021年3月には26枚目のスタジオアルバムの制作を開始したことを発表、2022年にリリースされ、ライブツアーも行われる予定だ。デビュー50年を迎えた2021年には、待望の『アネット』が完成。またエドガー・ライト監督(『ベイビー・ドライバー』)による、バンドの唯一無二のキャリアを追った長編ドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』がお披露目された。

Photo (Sparks) : Anna Webber Text&Edit: Milli Kawaguchi

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