悩まず気楽に 自由を謳歌するために生きているんですから
「愚かな女共はシワをかくそうとして、顔に化粧品を塗ったくるが、あれは女が美を知らんからです。 シワは美しい。究極の美です」 これは〝秀さん〟こと高井秀次の名台詞。普段は無口だが、こと「シワ」の話になると饒舌になる。秀さんはヤクザ映画で売った昭和の大スター。男も女も夢中にさせる存在で、噂になった女優は数知れず。そんなモテモテの秀さんを演じるのが藤竜也さんだ。
悩まず気楽に 自由を謳歌するために生きているんですから
「愚かな女共はシワをかくそうとして、顔に化粧品を塗ったくるが、あれは女が美を知らんからです。 シワは美しい。究極の美です」 これは〝秀さん〟こと高井秀次の名台詞。普段は無口だが、こと「シワ」の話になると饒舌になる。秀さんはヤクザ映画で売った昭和の大スター。男も女も夢中にさせる存在で、噂になった女優は数知れず。そんなモテモテの秀さんを演じるのが藤竜也さんだ。
「シワは水道です。人生の苦楽が、通過した跡の。 そう考えると、シワは美しい。」
『やすらぎの郷』 第34話より
秀さんは、倉本聰さんの中で戯画化されたスターなんだろうなと。いい意味で、愛すべき勘違いの男。秀さんと僕はずいぶんかけ離れています。現実の僕は大スターではありませんから。ただ、俳優ってどこか勘違いしてないと生きていけないところはあって。特に秀さんのような人は、常に愛され、彼に関わる人たちを経済的にも潤す存在。だから、愛すべき勘違いなら許していただけるのかなと。でも、秀さんは現実の世界ではモテませんよ。太宰治のようにグダグダ吹っ切れない人ですから(笑)。
シワに関しては僕もそう思いますね。老妻のシワは美しいんです。1本1本が彼女がつくったシワであり僕がつくったシワです。それはもう愛おしいですよ。僕は結婚49年の愛妻家ですからね(笑)。
僕は昔からこだわりなんてないんです。仕事に対してもそう。呼ばれれば行く。行って求められるように演じる。悩まない。気楽にやる。そのほうが広がるんです。自分だけで凝り固まると世界が閉じてしまいますから。タキシードでシャンパン飲んでみたいなことをしょっちゅうやってる顔してますけど、全然(笑)。先日、カンヌの映画祭に行ったんです。カンヌは4回行ってまして、タキシードは最初に行った41年前にあつらえたんです。でもさすがにもう着られませんから。近所の量販店へ行ったんです。そしたら生地がいいんですよ。シャツからニセモノのカフスまで、ひとそろえで4万か5万。これで十分だなって(笑)。 僕は横浜育ちで、いまも横浜の下町に住んでます。町内に仲間がたくさんいるんですよ。20〜30人いるかな。みんなが集まる店があって、そこへ行っては、飲んでしゃべっていい気持ちになって。みんなでバーベキューしたり、旅をしたり、しょっちゅう一緒に遊んでるんです。いちばん下は5歳、いちばん上は僕(笑)。やっぱりね、いちばんまずいのは孤独です。言い古されてることだけど、人は人に寄りかかって生きている。だから秀さんも「やすらぎの郷」へ来たんでしょう。一人でカッコつけるのはくたびれた。ちょっとぐらい迷惑かけてもいいかなって。
大島渚監督の『愛のコリーダ』に出演した頃。阿部定事件を映画化し「芸術か猥褻か」の議論を巻き起こした(『スタア』1976年1月号)。
1980年代、藤さんは「ダンディ」の代名詞。咥えタバコがこんなに似合う男は他にいない。当時38歳(『週刊平凡』1980年2月28日号)。
映画『化身』に出演した頃のインタビューカット。当時44歳。渋いっ!(『週刊平凡』1986年7月1日号)
藤竜也 ふじ・たつや≫
1941年中国・北京市生まれ。62年、映画『望郷の海』でデビュー。76年、大島渚監督『愛のコリーダ』に出演し話題に。2000年以降は、黒沢清監督『アカルイミライ』(03)など若手監督の作品に意欲的に出演。近年は、北野武監督『龍三と七人の子分たち』(15)、河瀨直美監督『光』(17)などに出演。『光』は今年度のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、『愛のコリーダ』もクラシック部門で上映された。