編集部には1990年代に中高生だった〝直撃世代〟が多いんですよ。
「そうですか。あの頃は音楽がカルチャーのメインでしたよね。歌番組は毎日のようにあって、音楽業界全体のCDセールスもマックスを迎えて。でも20年前と比べると、カルチャーは細分化されて、音楽はより私的なものになって。だから、みんなが同じ曲を口ずさむのではなく、人それぞれの環境にBGMのように寄り添っている、それがいまの音楽のあり方なのかなと思いますよね」
TRF、安室奈美恵、華原朋美、globe……。90年代の音楽チャートを席巻した音楽プロデューサーの小室哲哉さん。ミリオン、ダブルミリオンを叩きだしたヒット曲は数知れず。プロデュース曲の総セールス枚数は1500万枚以上を誇る。
「ファッションにたとえていうなら、デザイナーの主張の強いブランドではなかったからヒットしたんだと思います。みんなそれなりに着こなせる、着回しができるというか(笑)」
哀愁を帯びたメロディライン、転調するコード進行、それらをハウスやテクノ系のビートと絡めた独特の「TKサウンド」。多くの人の心をとらえたのは、そのサウンドに乗って歌われる小室さんの詞でもあった。
「当時、渋谷がカルチャーの発信基地だったので、そこに憧れた子たちは日本全国にたくさんいたんです。奈美恵ちゃんが履いてるブーツ、109、ラフォーレ原宿、裏原。そういったあの時代の空気感を歌詞にしたというのはあります。でも、詞のバックグラウンドはそうであっても、具体的には書きませんでした。意識的にそうしたんです。たとえば、globeの『FACE』という曲の『少しくらいは きっと役にはたってる』というフレーズ。会社員だったら、仕事で役にはたってると思うし、学生だったらクラスの中で役にはたってると思う。多くの人に受け入れてもらえたのは、〝これは私のことだ〟とそれぞれの生活に当てはめやすかったからだと思いますね」