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60s英国ファッションを堪能できるドラマ『ハリー・パーマー 国際諜報局』衣装:キース・マッデンにインタビュー

60s英国ファッションを堪能できるドラマ『ハリー・パーマー 国際諜報局』衣装:キース・マッデンにインタビュー

〈バレンシアガ〉のスーツ、ハロッズでゲットした帽子、『ヴォーグ』のヴィンテージパターンによるドレス……。誰もが憧れる60sファッションが詰め込まれた、英国発のスパイドラマ『ハリー・パーマー 国際諜報局』が配信中(※6/30まで第1話無料配信中)。衣装のキース・マッデンに、各キャラクターをどのようにファッションで表現したか、話を聞きました。


──物語の舞台は、1963年のロンドンですね。

ちょうど新しい時代の幕開けの時期です。ファッションの面では、60年代の初め、多くの若者は自分の親と同じような格好をしていました。いわゆる〈マリー クヮント〉やショートヘア、ツイッギーなどのようなルックスでは全くありません。男性なら厚手のスーツを1着持っていれば、それで十分でした。

 

──たしかに60年代のロンドンといえば、今おっしゃったように華やかなスウィンギング・ロンドンのイメージですが。

それは60年代半ばから後半にかけてのカルチャーなんですよね。60年代は、ティーンエイジ・レヴォリューション(※英国では50年代から、「テッズ」と呼ばれる流行に敏感な若者たちによってティーンならではのライフスタイルが生まれ、60年代を通じてより大衆化していった)、ビートルズ、〈マリー クヮント〉と、さまざまな社会現象が目まぐるしく巻き起こった時代で。だからこそ、衣装を手掛ける上ではしっかりしたリサーチが欠かせません。1年ずれるだけで見当違いなことになってしまうんです。

 

──原作はレン・デイトンが1961年に『007』シリーズへのアンチテーゼとして発表した小説『イプクレス・ファイル』。1965年には『国際諜報局』として映画化され、今もカルト的人気を誇っています。衣装について伺う上でまず挙げたいのが、ジョー・コール演じるハリー・パーマーのメガネです。

原作小説を踏襲したのは、ハリーがコウモリのように目が悪く、反ジェームズ・ボンド的な、平凡な男性であること。彼は小説でもずっとメガネをかけていて。そのことにより少し不完全な人物だと感じられるんです。

 

──『国際諜報局』から始まる“ハリー・パーマー3部作”で、ハリー役のマイケル・ケインがかけていたメガネはアイコニックです。映画『キングスマン』シリーズもオマージュを捧げていますね。

監督のジェームズ・ワトキンスと私は、早い段階からメガネについて話していました。まずジェームズは、「マイケル・ケインが着用したタイプのメガネはまだ売られているのかな?」と。そこで私は〈カリー アンド パクストン〉に連絡を取ってジョーを連れて行き、メガネの試着をしてもらったんです。でも、彼には似合わなかった。

 

──違和感があったと。

代わりに〈カトラー アンド グロス〉に行ってみたところ、そこでジョーが劇中でかけているメガネに出合いました。これはある意味、嬉しいことです。おかげで、ジョーは独自のハリー・パーマーになったんですから。

 

──ハリーが着ている服のヒントはどこから?

ツイードのジャケット、シャツ、ニットのタイなどは、マイケル・ケインを参考にしました。『国際諜報局』へのオマージュですね。でもそれだけでなく、60年代に人気だった有名人のスタイルについても調べました。たとえば、ショーン・コネリー、スティーブ・マックイーン、ポール・ニューマン、ロバート・ワグナー……。

 

──スティーブ・マックイーンやポール・ニューマンというと、ちょっと不良っぽいアンチヒーローなイメージがあります。

こういった人たちのおかげで、ハリーのルックの幅を広げていくことができて。さまざまなエッセンスが一気に混じり合い、独自のスタイルを持ったハリー・パーマーが完成しました。

 

──特にどんなところにこだわりましたか?

ハリーは労働者階級の若者です。だから滑らかだったり、いかにも上質だったり、そういう質感は避けたかった。ガッチリとした生地を用い、ちょっとした男らしさを感じさせたいと思いました。その階級ゆえ、ハリーは少し外れた存在になれるんです。

 

──ガッチリとした生地とは?

ハリーはトニック(※モヘアとウールの混合。ちょっとした光沢があり、「ルーディ」や「モッズ」といった当時のファッショナブルな若者たちが愛用した)のスーツを着ています。非常に長持ちする生地で、微妙に光沢がある場合も多いのですが、今回はなるべく避けました。ハリーはそういうタイプではないので。彼の着こなしは控えめで、ある意味クラシックです。でもニットのタイとか、生地の質感とか、細部にエッジが効いていて。象徴的なコートは〈メイソン アンド サンズ〉のものです。スタイリッシュになりすぎないように気を付けました。

『ハリー・パーマー 国際諜報局』 キース・マッデン インタビュー

 

──その控えめさがハリーのスタイルの特徴なんですね。

ええ。彼の父親、そのまた父親と世代を遡るようなイメージで、労働者階級としてのルーツにもうなずけるようにと。当時、労働者階級の人々は長持ちする生地の服を好んでいました。まだ第二次世界大戦の記憶も色濃い時代で、お金を節約することが大事だったんです。

 

──ルーシー・ボイントン演じるジーンの衣装については、どんなリサーチをしましたか?

参考にしたのは、60年代のさまざまな女性たちです。オードリー・ヘプバーン、ナタリー・ウッド、カトリーヌ・ドヌーヴなどはもちろんのこと、最大のインスピレーション源は、ジーン・シュリンプトン。デヴィッド・ベイリーが彼女を撮ったファッションフォトを研究しました。

 

──ジーン・シュリンプトンはツイッギーよりも早く、1960年からキャリアをスタートさせて活躍していたブリットモデルですね。

ジーン・シュリプトンがデヴィッド・ベイリーとの撮影で着ていたあるドレスがあって、それをどうしてもルーシー演じるジーンに着せたいと思いました。オリジナルが手に入らなかったので、パターンを引いて作って。それが、ブロンズのドット柄で、パテントレザー風のベルトが付いたドレスです。ジーンは財産、階級、学歴など、すべてを手にしています。そんな彼女のことを、諜報員として銃を持ち歩き、ハリーの面倒を見ながらも、とびきりグラマラスな女性にしたいと思いました。

 

──ジーンのルックは色も素敵でした。

60年代は色彩にあふれていましたから。ジーンが最初に登場するシーンで着ている服はターコイズブルーですが、これは典型的な60sカラー。ブークレ(※表面に糸の輪ができるように加工されたニット生地)のツーピースドレスとジャケットで、1962〜63年当時の『ヴォーグ』のオリジナルパターンによるものです。帽子はハロッズで購入した60年代のヴィンテージで、自分で調達しました。ジーンの母は50年代を彷彿とさせる格好ですが、ジーンには60年代の流行をバンバン取り入れました。

 

──控えめでクラシックなハリーのスタイルとは対照的なんですね。

あとは、〈バレンシアガ〉のヴィンテージスーツ。出合った瞬間、ジーンに着せるのに理想的だと思いました。結構な金額だったので躊躇しましたが、「これをテーラーに渡せば、同じ技術で似たようなものも作ってもらえるな」と。そう考えれば大した出費じゃないと自分を正当化したんです(笑)。結果的に、いい買いものができました。

 

──劇中にはロンドン以外にも、ベルリン、ベイルート、ヘルシンキ、ローマ、そして太平洋の島々のシーンが登場します。

ロンドンのシーンはリバプールで、そのほかのシーンはクロアチアで撮影しています。クロアチアはロケーションが豊富で、とても素晴らしいところでした。ただEU圏外ですし、コロナ禍のせいもあって、アイテムの輸送には苦労しましたね……。

 

──ベイルートのシーンでの、リゾートスタイルも観応えがありました。

ツイードの重厚さからしばし離れ、より軽やかでカラフルな生地を使うことができました。60年代前半のベイルートの記録映像を観て研究したんですが、ファッショナブルな若者がたくさんいたり、クラブが盛り上がっていたりして、こんなにコスモポリタンな街だったんだ!と驚きましたね。

 

──あなたのフィルモグラフィにおいて、このドラマはどんな存在になりましたか?

正直に言って、一番好きな仕事でした。ジェームズのようにこちらを信頼してくれる監督と組むと、自分の持っているものすべて、いやそれ以上を提供したいと張り切ってしまうものなんです。続編が作られる可能性は大いにありますが、どうなるかはまだ誰にもわかりません。でももし今シーズン限りだったとしても、参加できて本当によかったです。

 

『ハリー・パーマー 国際諜報局』(全6話)

1963年、冷戦下の西ベルリンに配属されていた英国陸軍軍曹ハリー・パーマー(ジョー・コール)は、軍の物資を盗み東側に横流ししていた罪でロンドンの軍事刑務所に投獄される。その頃、核兵器を開発していた英国人教授が誘拐される事件が起き、ドルビー(トム・ホランダー)率いる特別諜報機関W.O.O.C.が救出作戦に動き出す。ドルビーは誘拐に関与している男と一緒に写真に写っていたパーマーを訪ね、服役免除を条件に協力することを要請。かくして諜報員になったパーマーは、同じく諜報員のジーン(ルーシー・ボイントン)と共に、ベルリン、ベイルート、そして米国が核実験を行う太平洋の環礁へと世界を飛び回る。果たして誘拐事件の黒幕は誰なのか?

監督・脚本: ジョン・ホッジ(『トレインスポッティング』)
製作総指揮: ウィル・クラーク(『ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』)
監督・製作総指揮: ジェームズ・ワトキンス(『ブラック・ミラー』)
出演: ジョー・コール、ルーシー・ボイントン、トム・ホランダー、アシュリー・トーマス、ジョシュア・ジェームズ、デヴィッド・デンシック

動画配信サービス スターチャンネルEX にて全話配信中
6月30日(木)まで第1話無料配信中
© Altitude Film Entertainment Limited 2021 All Rights Reserved. Licensed by ITV Studios Ltd.

公式HPはこちら

Profile

Keith Madden キース・マッデン

衣装デザイナー。これまで手掛けた作品に、映画『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』(12)、『パーフェクト・プラン』(14)、『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(15)、『追想』、『英国総督 最後の家』(共に17)、『グッドライアー 偽りのゲーム』(19)、『クーリエ:最高機密の運び屋』(20)、ドラマ『パトリック・メルローズ』(18)など多数。

(写真提供:ITVGE)

Text&Edit: Milli Kawaguchi

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