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手仕事の温もりと最新技術の融合。かわいいストップモーションアニメの秘密をTiny Inventionsに聞く

手仕事の温もりと最新技術の融合。かわいいストップモーションアニメの秘密をTiny Inventionsに聞く

伝統的なパペットアニメーションの技術に、最新のテクノロジーを組み合わせ、オリジナルの世界観の映像を生み出す。米国在住の注目のアーティストユニットにインタビュー、制作の秘密に迫ります!


タイニーインヴェンションズって?

アメリカ、ロードアイランド州にアトリエを構える、桑畑かほるさんとマックス・ポーターさんによる夫婦コンビ。『Negative Space』(17)は、第90回アカデミー賞で短編アニメーション賞にノミネートされた。

手仕事の温もりと最新技術の融合。かわいいストップモーションアニメの秘密をTiny Inventionsに聞く©Miyu Productions

手仕事の温もりと最新技術の融合。かわいいストップモーションアニメの秘密をTiny Inventionsに聞く

東京都出身の桑畑かほるさんと、NY出身のマックス・ポーターさん。共に、映画監督、脚本家、アニメーション作家、デザイナー。マックスさんはアメリカの名門美術大学、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインの准教授も務める。

 

二人のクリエイターによる
海を越え愛される小さな発明

NYでフリーランスとしてセットデザインやアニメーターをしていたRuさんこと桑畑かほるさんと、同じくフリーでデザイナー、アニメーターをしていたマックス・ポーターさん。二人が出会い、惹かれ合ったことから、目にも楽しい彼らのInvention(発明)の物語は始まった。

「当時は依頼された案件に応えることばかりしていたので、お互いにアーティストとしての不満が募っていました。マックスとは、同じスタジオで仕事をした経験から、好きなものや笑いのツボといった感性が似ていると思っていたし、そろそろ自分たちのデザイン、ストーリーで一緒に勝負してみようかということになったんです」

2007年、「タイニーインヴェンションズ」として活動をスタートした二人。屋号には、小さいチームで小さな発明から開拓していこう、という思いも込めたという。最初の短編作品となったのは、家にあるダンボールや古着の生地などを使って生み出した『Something Left, Something Taken(以下、SLST)』(10)。休暇で出向いたサンフランシスコで、友達の代わりに迎えに来たドライバーを、逃亡中の連続殺人鬼ではないかと疑うカップルを描く、自身が実際に体験したエピソードを元にしたダークコメディ。声優も自分たちが担当し、友人のアニメーターにも出演を依頼した。

「CMやMVの仕事で稼ぎながら、その合間をぬって3年かけて作ったんですよね。何か一作見せられるものがないと支援金の申請もできないので、『一本作ればなんとかなる!』と。声に出せば実現する、と思っているところがあって(笑)」

その思いは晴れて実を結び、『SLST』はサンダンス映画祭をはじめ多くの国際映画祭で招待上映され、名だたる賞を獲得。その功績からオランダの助成を受け滞在制作をした、『Between Times』(14)も各国で高く評価された。

手仕事の温もりと最新技術の融合。かわいいストップモーションアニメの秘密をTiny Inventionsに聞く

ストップモーション・アニメを作るには、たくさんの工程があり、短編でも少なくても2〜3年の月日が必要となる。まず前段階として、アイデアがあり、資金を集めるためのイメージ資料を一式用意する。そして、脚本、絵コンテを完成させ、声優の録音、動きを決めるアニメーションテストや、人形やセットの材料の選定を行う。その後、技術スタッフを集めて本番用のパペット作り、セット制作を経て、ようやく撮影が可能に。さらに、撮影したものやCG素材を組み合わせ、編集するポストプロダクションの作業が待っている。

脚本づくりは、卓球のように繰り広げられるRuさんとマックスさんの会話から始まるのだそう。シーンを想像して演技し、セリフにし、アイデアを出し合い形にしていくという。

「たとえば、私が『シャツにロゴが入っていた』と脚本にすると、『どんなロゴかちゃんと説明して!』とツッコまれることが多くて。ディテールをちゃんと積み重ねないと、リアリティが生まれないので、細部にこだわる部分はマックスに鍛えられたかもしれません」とRuさん。

彼女たちが手がけるアニメーションには、触感がある。観る者の記憶や体験にツンと触れ、自分も知っている物語みたいに感じさせる。父と子のつながりを綴ったアメリカの詩人ロン・カーチーによる詩が原作となる『Negative Space』では、韓国の観客の一人から、「まったく異なる世界で育ったのに、自分の幼少期とすごく重なった」という言葉をもらったというのも納得である。

手仕事の温もりと最新技術の融合。かわいいストップモーションアニメの秘密をTiny Inventionsに聞く

 

現実世界の記憶とリンクする
本物の手触りと感情

「『Negative Space』はたった150単語という短い詩から始まったからこそ、自分たちの過去を脚本に加えたり、ヴィジュアルとして混ぜたりして、物語の世界を膨らますことができた。アニメーションに限らず、ストーリーテリングの本質として、実際起こったことや感じたことを挟み込んでフィクションにする方が伝わりやすいと考えています」

役割分担はそこまでハッキリ分けてはいないが、主に、アートディレクションとパペットまわりはRuさんが、撮影まわり、編集、特殊効果はマックスさんによるリードで行われる。とはいえ、お互いのアイデアや意見がどちらから発せられたものか最終的にわからなくなるほど、二人三脚で制作は進んでいく。

「自分たちを、スキャナーと一体化したプリンターによくたとえるんです。一方が壊れるとどちらも使えなくなるように、仕事がダメになれば夫婦関係も崩れるし、その逆も然り。子育てもしながら、作品も一緒に作っているので、すべてにおいて運命共同体ですね」

予算も時間も体力も通常以上に必要になるストップモーションを彼らがあえて選択する理由はというと、「手づくりの質感がしっくりくるから、としか言いようがない」と二人。

「制作を始めた頃、同僚から『あえて手づくり感を出した方がいい』と言われて、『なるほど』と思って。マッシュポテトを作るときに、じゃがいもをつぶしすぎると、買ってきたものみたいに見えてしまう。じゃがいも感を残したほうが本物らしい。たとえば、ドールハウスも、わざとちょっと歪めたり、細部を雑にしたりしているのは、CGっぽくなりすぎたり、きれいになりすぎると噓っぽくなるからなんですよね。なので、制作するうえでいつもマッシュポテト感は意識しています」

ミニチュアの美術セットや小道具の素材となるのは、主に木材や布。そして、質感の見え方を決定するライティングも、フィクションを現実とつなぐ大きな役目を果たしている。

新作の主人公は、16歳の日本人留学生
数年後には日本で公開も?

手づくり感を重要視しているとはいえ、CGなどの最新技術を織り交ぜつつ制作する意図は、ストップモーションでは物理的に叶わない表現をクリアするためだ。

「CGはすべてを可能にしてしまうので、制限をかけることが重要になってきます。その上で、キャラクターの複雑な表情の幅を広げるという可能性を感じています」

現在、タイニーインヴェンションズは次回作となる長編『Porcelain Birds』を制作中。10代で単身でアメリカへ渡ったRuさんの経験をベースにした留学生の物語だ。

「16歳で日本を出てから、この国について何も知らないことや、質問された時に考えがない自分に気づいて愕然としたんです。当時うまくなじめずに、消化しきれなかった感情をどうにか映像化したくて。主人公は留学生なんですが、マックスの高校時代の経験もかなり入ってきているので、二人の要素を合わせたキャラクターになってますね」

ストップモーションアニメは、一番欲張りなクリエイション方法かもしれない、と二人は笑う。

「私たちがストップモーションにこだわるのは、素材、立体感、光、空気感といったさまざまなファクターから、もっとも独自な世界を生み出せるのではないかと感じているから。もともと、一から全部を作るのが好きで入ったので、技術者に頼むときも、ある程度知識をシェアしてもらえる。そこがまた楽しいところですね」

『Porcelain Birds』は、2023年には本編の映像制作を開始する予定だとか。二人の新たな発明をスクリーンで目にする日まで、ワクワクしながら待ちたい。


『Porcelain Birds』の予告映像

多くの人を夢中にさせる3つの魅力

① 琴線に触れるリアルな物語

 

② 厳密かつ温かみのあるキャラクターと背景美術

©IKKI Films / Manuel Cam Studio

 

③ アナログ×CGを掛け合わせた映像

キャラクターを作るためにスペシャリストのスタッフを集め、納得のいくキャラに仕上げていく。写真はCGで表現される『Porcelain Birds』の登場人物の表情のバリエーションを抜粋したもの。「キャラクターには、必ずベースとなる実在の人物がいます。そのため、原点となる人の動き方、雰囲気、ちょっとした癖などをよく観察します」。パペットでは表現しきれないディテールのリアリティを追求するために、CGが使用されている。

 

Text & Edit: Tomoko Ogawa

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GINZA2022年9月号掲載

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