キュートなジャマイカのポーズ!オレたち老人には怖いものなし
ハマる人続出!昭和の名優たちが生き生きと老いを演じる、いま最もホットな国民的ドラマ『やすらぎの郷』。観ることがやすらぎ!というGINZA編集スタッフがアツい思いを語ります。
ハマる人続出!昭和の名優たちが生き生きと老いを演じる、いま最もホットな国民的ドラマ『やすらぎの郷』。観ることがやすらぎ!というGINZA編集スタッフがアツい思いを語ります。
編集長N
GINZA編集長。好きな倉本作品は『前略おふくろ様』『6羽のかもめ』『たとえば、愛』。自称『やすらぎの郷』普及委員長。
編集K
本特集の担当編集兼ライター。好きな倉本作品は『北の国から』、映画『冬の華』、『ライスカレー』。高倉健も好きです。
デザイナーO
本特集の担当デザイナー。オレの倉本作品ベスト3は『北の国から』『ライスカレー』『前略おふくろ様』。山田太一も好き。
♪人生百年 年金に頼るな 死ぬまで歩こう 自分の足で♪
編集長N(以下N) 今日も生きている〜それが人生〜明日はわからない〜それも人生〜♪ この歌詞すごくシュール(笑)。
編集K(以下K) 恋ダンスならぬ「老いダンス」と言われている「やすらぎ体操第一」。踊れますか?
N 最後のほうの「年金に頼るな」のあたり、手の動きがフクザツで難しいのよね。あれは誰が振付けしたのかしら?
デザイナーO(以下O) 「やすらぎの郷」の館内放送DJの人(中井竜介役=中村龍史)なんだって。作詞と作曲も。
K ピアノの演奏は及川しのぶ(有馬稲子)ですけどね。
N 出演者全員で踊ってる映像がよく流れるけど、姫(八千草薫)が最後に「ジャマイカのポーズ」をするのが可愛いよね。
K あ、そうか! いまさら気づきました。ボルトのポーズか! 志村けんの「変なおじさん」だと思い込んでた(笑)。
O 三波春夫のポーズは途中に挟まれてるけど(笑)。
K ということで。どうですか、『やすらぎの郷』は。
N ドラマが始まる前、倉本さんがインタビューで「オレたち老人には怖いものはない」とおっしゃってて。これは本気だなと。もう、観ないでどうするよ!って。いまは『やすらぎの郷』を観るのが私のやすらぎになってる(笑)。
K 私は世代的に倉本聰のドラマというと自動的に観ちゃうんですよ。『北の国から』世代なんで(笑)。Oさんもでしょ?
O うん。あと山田太一ね。ていうか、帯ドラマをやるのは『風のガーデン』が最後だと思ってた。まさかまたやるとは。 K 80歳を過ぎてこんなノリノリになるとは。
N 「怖いものなし」。老人力ですよね(笑)。
K まさに。石坂浩二さんと浅丘ルリ子さんと加賀まりこさんを共演させるなんて、倉本さんだからできちゃう。
O オレの勝手な想像なんだけど、倉本さんは『あまちゃん』に触発されたんじゃないかなと思うんだよね。メタフィクションとかそういったことも含めて、オレならこう書く!って。
N あり得るね。フィクションとノンフィクションをいったりきたりという点では『あまちゃん』と共通点はあるかも。
K 私は栄ちゃん(石坂浩二)が『北の国から』の黒板純に見えちゃって。純君の老後(笑)。主人公の心の声をナレーションにするのは倉本ドラマの特徴だけど、たとえば、栄ちゃんが脚本家志望の女の子から手紙をもらうシーンで「年甲斐もなくドキドキした」ってナレーションが入るけど、これがもう純君の「ドキドキしていた」と同じテンションなんだもん(笑)。
O オレは、栄ちゃんは「金田一耕助」に見えちゃうけどね。女たちに無理難題を言われて、頭をボリボリっていう(笑)。
K 「あなた鑑定得意でしょ!」とかヤイヤイ言われ。
O 「鑑定団」の栄ちゃんもブッ込まれてるもんね(笑)。
N 最初に観てビックリしたのは、ヘアメイクとスタイリストの多さですね。女優さんたちそれぞれについてるから、クレジットで画面いっぱいに名前が並んでて。そこは観てて感動(笑)。
K ちなみにお嬢(浅丘ルリ子)は衣裳を毎回チェンジしてるとおっしゃってました。「同じ服は絶対に着ないの。衣裳に合わせてネイルの色を変えるし、アクセサリー類も変えてるの」
N それは正しい。お嬢の起伏のあるスタイリングがドラマを生き生きさせてるもん。個人的には、姫のお上品なコーディネートも好き。ワンピースにカーディガンとか。あの清楚な感じで「ナスのはさみ揚げ」とかしちゃうのが最高。
O うん? 「はさみ揚げ」はナスをおいしく食べるやつでしょ。
K 「呪い揚げ」ですね。 N そうそう「ナスの呪い揚げ」(笑)。あれを、姫が可愛い顔して「揚げちゃうのよ」なんて言うともう。
K あれ、ホントに効くんですかね。嫌な人の名前を言いながらナスを揚げるとその人が呪われるって。やってみようかなあ。
N どうしよう、私、次の日具合悪くなったら(笑)。
O お嬢が揚げた「宮本かげろう」は死んだけどね(笑)。
N かげろう(笑)。そうそう、倉本さんのネーミングセンスにも驚いたなあ。シンプルで、言っちゃうとベタで。「バー・カサブランカ」とか「ラ・ストラーダ」とか、それは映画からの引用だけど、そもそも老人ホームが「やすらぎの郷」っていうのも直球だし。松岡茉優ちゃんが演じてるバーテンダーは「ハッピーちゃん」だし。ハ、ハッピーちゃん!?って(笑)。
O 倉本さんはわりとそう。こじゃれた感じを嫌うというか。
N だけどいまどき「ハッピーちゃん」はなくない?
O でも「ハッピーちゃん」と言われなければ、あの子にそんなに注目しなかったんじゃない?
N あ、言えてる! じゃあ、あえてなんですかね?
O それはわからん、オレ倉本さんじゃないもん(笑)。でも、ドラマが現実と地続きな部分があるし、役者もそれぞれのバックボーンを活かした設定だから、「韮川秀樹」みたいに、実在の人をちょっともじるくらいにしたほうがいいんだと思う。
N 確かに。観てるこっちも現実味が持てるもんね。
K ところどころ本当の俳優さんの名前も出てくるし。
O 樹木希林とかね。
N 美空ひばりとか阪東妻三郎も実名で出てきてた。
O 名前のことで言えば、藤竜也さんの「高井秀次」は『前略おふくろ様』の「村井秀次」が元だと思うんだよね。村井秀次は梅宮辰夫が演じてたんだけど、元ヤクザの花板で、「寡黙で義理人情に厚く男が惚れる男」っていう。だから、秀さんは高倉健がモデルだってみんな言うけど、オレは違和感があって。倉本ドラマで「秀さん」といえば“たっつぁん”だよなって。
N 確かに。秀さん、「やすらぎの郷」へは海からやってきたもん。カジキマグロは背負ってなかったけど(笑)。
K もうひとつ言うと、「白川冴子」の元は『2丁目3番地』です、たぶん。石坂さんと浅丘さんが夫婦役で、これがキッカケで結婚したという。浅丘さんは「石上冴子」で、石坂さんは「石上平吉」。倉本さんにとって浅丘さんは「冴子」なのかも。
O とにかく、「やすらぎの郷」という場所に全員をブチ込んでという、その状態が面白いんだよね。限られたシチュエーションの中だけでドラマが展開するっていう。
K シットコム(シチュエーション・コメディ)的だよね。
N 倉本さんのドラマは、『北の国から』に代表されるように、映像美も魅力じゃない。陰影あふれる照明で空間を出す、とか。それが今回はセット感があふれていて。男3人の釣り場のシーンはその最たるもので、背景がハメ込み画像っていう(笑)。
O まるでドリフのような(笑)。
K カミナリ様コントみたいな(笑)。
N でも、それが逆にシュールでいいんです。チープなセットとむちゃくちゃうまい演技の組み合わせがすごく新鮮。お嬢が栄ちゃんに「台本を書いて」と迫ったときなんて、脅しながらの凄みがすごかった。いままでは、お金の計算もできない世間知らずという感じだったけど、急に凄みが出てゾクッとした。
O 結局、演出がそんなにいらないんですよ。あの人たちが出てさえいればいい。台詞と演技だけで引っ張っていけるからね。
N ギミックに頼るドラマじゃないんだよね。エンタテインメントだけど、ずしんと重たい。しかも1話20分の中に毎回ゾクッとする話が入ってる。たとえば、姫の悲恋話。恋人が出征するときに爪を切ってあげてそれを取っといて、戦死を知ったときに「それ食べちゃったの」って。声出なかった、あのシーン観たとき。姫のたおやかで優美な中に突然生々しさがね……。
O それが倉本聰なんだよねえ。 N マヤ(加賀まりこ)の、死ぬ前に最後の手紙を出す相手がいない話もなんだかドキッとしちゃったなあ。
K いろいろ考えさせられますよ。身を寄せる場所がなくなっちゃう小春(冨士眞奈美)のこととか、他人事じゃないですよ。とりあえず年金は頼れないから、貯金しなくちゃなと思ったし。
O 仕事が不安定なフリーランスは身につまされるよね。
K あと、倉本さんの「頑固なこだわり」があるのも面白くて。「やすらぎの郷」では暖房は暖炉、灯りはランプでしょ。
O そこはもう、『北の国から』の黒板五郎だから。
K 「電気がなかったら暮らせませんよ! 夜になったらどうするの!」「暗くなったら寝るンです」。名台詞ですが(笑)。
N 施設で働く若い衆が全員前科者っていうのもすごくない? 女性のコンシェルジュは全員元CAだし。
O どんな老人ホームだよ(笑)。
K 今回の取材で、「やすらぎの郷」があったら入りたいですか?とみなさんに聞いたんです。浅丘さんは「入りたいわ」、石坂さんと藤さんは「遠慮しときます」。で、東海林のり子さんは「やすらぎの郷」から現場リポートしたいって(笑)。
N 私は入りたいなあ。今すぐにでも入りたい!
K 「出版業界やすらぎの郷」?
O 「あなた締め切り破りが多かったわねえ」って言われるよ。
N うーん、やすらげないかも(笑)。
Cooperation: TV Asahi