23 Feb 2023
1000個のアイデアを生む秘訣は「ダメなアイデア」ゲーム作家・米光一成インタビュー後編

人気ゲーム『ぷよぷよ』の生みの親でもあり、近年は『はぁって言うゲーム』などのアナログゲームも手掛ける、ゲームデザイナー・米光一成さん。毎年新しいゲームを作り続ける、その発想の源はどこにあるのでしょうか。「アイデアが浮かばない」という悩みへのアンサーを聞きました。前編はコチラ。
──『はぁって言うゲーム』や『あいうえバトル』をはじめ、米光さんは数多くのゲームを制作されています。ゲームの元になるアイデアは、どのようにして考えているのでしょうか?
ひとことで言うと「いっぱい考えています」。ゲーム作りの講座では、「1000個考えて、そのうち100個メモして、そのうち10個を実際に作ってみて、最終的に1個が残る」と説明しているのですが……。これだと「1000個」というのが比喩だと思われるんです。
1000個というのが、「たくさん」の意味だと思われる。そうではなく、本当に1000個……いや、実際はもっと多く考えているんですよ。ほぼ毎日、ありとあらゆるものがゲームにならないか考えている。お風呂に入ってシャワーを浴びても、シャワーの水圧と穴の数の関係性でゲームにできないかと考えてしまいますしね。

米光さんがアイデアをメモしているノート。左側が空けてあるのは「裏移りするのが嫌だから」だそう
──1000個を越えるアイデアの中から、最終的に形にするものを選ぶ基準はどこにあるのでしょうか。
「選んでいない」です。たまにノートに書いたものを見返しながら、ずっと頭の隅に置いて、育てている感覚です。そうするうちに、いくつかのアイデアが偶然結びついたり、状況が変わったことでアイデアが活かせたりするんですね。ボツのアイデアはないんです。まだ芽が出てないだけで。
『あいうえバトル』のシステムも、いくつかのアイデアが結びついたものです。もともと50音表は何かに使えると思っていて、「50音表から文字をひとつずつ減らして絞り込む」のは面白いな、と思ったのがまずひとつ。それとは別に、お題に沿った言葉をみんなで考えるだけで面白いな、というアイデアもあった。「7文字以内の職業を挙げよ」というお題に、この人は「かんぬし(神主)」って答えるんだとか、なんかそれだけで面白いじゃないですか。
さらに「相手が考えた言葉を当てる」というアイデアがあって、これらがいろいろと結びついた結果がひとつのゲームになって……という感じです。
──点と点がつながって線となり、線と線が絡み合って面になり……というイメージが浮かびました。
まさにそのイメージですね。普段からたくさん点を打っていて、あるとき「この点とこの点を結ぶと、きれいな星座になるな」と気付くというか。なので、アイデアは「ある日突然ひらめく」というものではなく、結局は、地道な努力を積み重ねた先にあるものだと思っています。

米光「アイデアは、結局は地道な努力を積み重ねた先にあるもの」
──「なかなかアイデアが浮かばない」と悩まれている方も多いのでは思います。そうした方は最初の「1000個考える」から難しいと思うのですが、何かアドバイスはあるでしょうか。
アイデアが出ないという人は、最初から「良いアイデア」を出そうとしているんです。「良いアイデアが浮かばない」「良いアイデアを出さなくては」という力みが、アイデアを出すことを阻害している。ダメなアイデアでもどんどん出せばいいんです。「良いアイデア」なんて幻想だと言ってもいい。
『はぁって言うゲーム』だってそう。「相手の発した一言からシチュエーションを当てる」なんて、別に良いアイデアではないんですよ。何も知らない人に「この『はぁ』は何の『はぁ』か当ててよ」と言ったら、それこそ「はぁ?」って返されるでしょう(笑)。どちらかといえば、「ダメなアイデア」ですよね。

『はぁって言うゲーム』(1〜4発売中/(幻冬舎)。プレイヤーは共通の台詞を与えられたシチュエーションで演じ、他のプレイヤーは何を演じているか当てるゲーム。「はぁ」なら、「怒っている『はぁ』」「とぼけている『はぁ』」「感心している『はぁ』」といった選択肢がある
──その「ダメなアイデア」が、こうして形になったのはなぜなのでしょうか。
ひとまず、やってみるんです。特にボードゲームは「ちょっとやってみよう」と、すぐに試せますから。
『はぁって言うゲーム』の原形を思いついたのは、移動中のときなんです。当時「ゲーム作り道場」という講座を持っていて、講座後に飲み会があった。店まで歩いて移動するのに、受講生たちが仲良く話しているなか、僕一人になったんですね。
寂しいな、誰か話しかけてくれてもいいのにな、と思って、「好き」と言ってもらうゲームを思いつくんですよ。「好き」にいろんなシチュエーションを用意して、それを当てるゲームなら、ルール上「好き」って言ってもらえるぞ!

米光「寂しいな、誰か話しかけてくれてもいいのにな、と思って」
──「ダメなアイデア」とおっしゃる意味がわかってきました(笑)
いやいや、だが、いきなり「好き」を出すと怖がられるから、「はぁ」とか「んー」とかも用意したんですよ。店に着いたらすぐに全部メモして、「移動中にゲームを考えたからやろう」とプレイしたのが最初。だからもう、発端からしてダメなアイデアですし、もっと言うと個人の欲望ですよね(笑)。
でも結果として、みんなが遊んで面白がってくれた。製品としてリリースしたあとも、YouTubeなどでプレイした様子を配信してくれる人もいて。だから『はぁって言うゲーム』は、遊んでくれたみんなに面白さを育ててもらった感じがありますね。
──「良いアイデア」なのか「ダメなアイデア」なのか、思いついた時点でジャッジすることなどできないわけですね。
ジャッジできない……というより、最初は良いアイデアに見えないことが多いのではと思います。もちろん「これだ!」という瞬間もありますけど、それだってダメなアイデアをたくさん出して、ああでもないこうでもないと考えた末に、「これだ!」ってなるんです。だから、最初から「ダメなアイデアを出そう」と思うくらいで、ちょうどいいと思いますよ。
──今のお話は、仕事で企画を考えなければならない人にも、すごく役立ちそうだと思いました。
ただ、会社だとアイデアをジャッジする人がいるわけですよね。ダメなアイデアをそのまま出して、上司に「ダメ」とジャッジされたら意味がないですから……。
──確かに。上司にこそ「ダメなアイデア」について理解してもらいたいですね……。
とはいえ、上司もダメなアイデアを良きかなって言えないだけですよ。だから、「自分で作ってしまう」のがいいと思いますよ。企画書を出せばジャッジされるわけですが、そのジャッジ自体が正しいとは限らない。むしろ、斬新なものほどジャッジできないと思うんです。だったら、「もう作りました」と、ちょっと育てたものを持っていくほうがいい。
僕が好きなエピソードで、『もじぴったん』というコンピューターゲームを企画された方の話があります。『もじぴったん』は、ひらがなを組み合わせて言葉を作るゲームなんですが、このアイデアを成立させるには、その言葉が存在するのか判定しないといけません。何十万語も収録した辞書に権利料を払うのはハードルが高い。企画書を見た上司も「こんなゲームは無理だ」とジャッジする。
でもその方は、企画書を出す前に、自分で何十万語の辞書を作っていたんですよ。そうなったら、上司も断る理由がない。「作ってるならしょうがないか……」と企画が通ったそうなんです

プレイ中の『あいうえバトル』
──作ってしまうことで、熱意も伝わるでしょうね。
そうですね。説得力もあるし、ジャッジもしやすくなるし、そして上司も何回も落としにくい(笑)。デジタルの制作物でも、ひとまず紙で再現してみるとか、「とりあえず作ってみる」の精神でやってみるといいと思います。ちょっと暴走するくらいのつもりで。
それでも企画が通らなかったら……もう自分でやってしまえばいいんですよ。個人的に業者に見積を取ってもいいし、仲間を集めてもいい。会社というフレームから外れて考えてみないと、誰も見たことがないような新しいものは、世の中に出てきづらいのかもしれませんね。
Profile

米光一成 よねみつ かずなり
ゲーム作家、ライター。代表作に『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『変顔マッチ』『あいうえバトル』など。著書に『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法』(日本経済新聞出版社)、『思考ツールとしてのタロット』(こどものもうそうブックス)などがある。『神ゲー創造主エボリューション』(2023年2月23日23:45〜NHK総合:MC三浦大知)に出演。
Photo: Hiromi Kurokawa Text: Masaki Inoue Edit: Yukiko Arai