〈メゾン エウレカ〉デザイナー中津由利加に聞く、自分の「好き」の探し方。好きなものに囲まれて暮らすしあわせ。

〈メゾン エウレカ〉デザイナー中津由利加に聞く、自分の「好き」の探し方。好きなものに囲まれて暮らすしあわせ。

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どんなモノもいくらだって安く切り詰められる今。あえてデザインフルな家具やアートを家に置くのは、時代に逆行したスノッブな趣味? いえいえそんなことはありません。もっと自然体に、「好き」と思う感情に貪欲になってもいいんだと、デザイナー中津さんの暮らしぶりを聞いていて思いました。自分が自分らしくあり続けるために、好きなものに囲まれて暮らす生活のススメ。


ドイツ・ベルリンを拠点に活動するデザイナーの中津由利加さん。2015年にウィメンズブランド〈MAISON EUREKA(メゾン エウレカ)〉を立ち上げ、アンチコマーシャルなコンセプトのもと、クラシックテイストに遊び心が効いたデザインと、ユニークな色彩感覚が目を引くシューズやウェアを生み出してきました。

「わたし自身が心から着たいと思える服だけを作っています」と中津さんは話します。この「自分が惹かれるものだけを」という思いは、毎日の暮らしの中でももち続けているそう。だからベルリンのご自宅には、お気に入りのデザインの家具やアートをずらりと並びます。さらに好きが高じ、ついには自身がベルリンで買い付けた雑貨など、ライフスタイルに根ざしたアイテムを展開するポップアップショップ〈KAUFHAUS(カウフハオス)〉を開くまでに(11月11日まで中目黒COMPLEX BOOSTで開催中)。帰国中の中津さんに話を聞きます。

家で使うものを集めはじめたら、
自分の「好き」がわかってきた。

根が“オタク気質”で、感性のアンテナに引っかかったものは徹底的に調べ上げずにはいられないという中津さん。たとえば、ウェブマガジンでちらっと写っていた竹製のモビールに「かっこいい!」と一目惚れ、思いつく限りのワードで検索をかけた末にようやく、商品名や販売先のディーラーを見つけたこともあったそう。この「一目惚れ→リサーチ→発見」の3ステップを繰り返す中でわかってきたのは、自分がどういったものに惹かれるかということでした。

「“あそび”がある造形が好きなんだなと実感したんです。今って、ものも情報も飽和状態で、そんな中で作られるデザインはシンプル方向へ行きがち。削ぎ落とされすぎた、無難なデザインにはあまり惹かれません。そんなわたしが『わ、素敵!』と感じるものは、調べてみるとバウハウスをはじめ、1920~1930年代のモダニズム全盛期に関係があることが多いんです。あるいは、1970〜1980年のポストモダン。当時の人たちが夢見た“未来”が造形に体現されているから、もちろん機能的なんだけど、物としての美しさや驚きもあっておもしろくって」

家具やアートを集め始めたきっかけは、ドイツ・ベルリンへの移住だといいます。というのも、それまで暮らしていたイギリス・ロンドンでは、家具備え付きの部屋が普通で、自分のものをほとんど持てていなかったから。

「きっかけは、家の中のものを買い揃えなくてはならないという必要に駆られてでしたが、どうせなら自分の好きなテイストのものを見つけたいと思い、まずは蚤の市を回り始めました。ドイツでは、蚤の市がとても盛んなんです。おすすめは〈6月17日通りの蚤の市(Trödelmarkt)〉。行くたびに素敵なものが見つかりますし、自分が探しているものの情報も聞けます。あとはeBayのようなオークションサイトを通じてディーラーさんと知り合い、実際にアイテムを見せてもらいに行くことも。イタリアのムラーノグラス(ヴェネチアングラス)やトルコのキリムなど、特定の分野に特化した専門店は、質のいいものが多くて見応えがありますね」

この日の中津さんは、ウィッグを持ち歩くためのボックスをバッグ代わりに!

中津さんの好奇心に火をつけた、
色彩豊かなオブジェと絵。

惹かれるのは“あそび”のある機能美。ベルリンのご自宅には、モダンなインダストリアルデザインから職人による手工芸品まで、中津さんが「好きだ」と思えるものだけが並んでいるといいます。スマホの写真で、カラフルでユーモラスな2体のオブジェを見せてくれました。1981年設立の、ポストモダンのデザインを代表する多国籍のデザイナー集団〈Memphis Milano(メンフィス ミラノ)〉によるものだそう。

「Menphisの中心にいたエットレ・ソットサスというデザイナーが手がけた〈Carlton〉という棚があるんですが、わたしが持っているのはその4分の1スケールのミニチュアです。ミニチュアとはいっても、高さ・幅とも約50センチと結構大きいんですけどね。その横にあるのは、ソットサスの右腕として働いた梅田正徳デザインの〈Ginza〉です。両方とも『なんでこうなっているの?』と好奇心を掻き立て続けてくれるところが大好き。棚としても使えるので、生活空間にも馴染みますし」

Photo: Yurika Nakatsu

ふと、室内に置かれたものの色彩や形が、MAISON EUREKAのデザインにもインスピレーションを与えているのではと聞いてみると、「意識はしていないけど、そうなんじゃないかな」と中津さん。インテリアは、ちょくちょくマイナーチェンジするそう。たとえばそのときの気分に合わせて、壁の絵を掛け替えてみたり……。アートを選ぶときにも、頼りになるのは「直感」。たとえ無名な作家の作品でもピンときたら、ためらわずに購入してみるとか。

「この2枚の絵は、知り合いのディーラーさんのところで偶然見つけました。その方のおじいさんがロシア・アヴァンギャルドの作品をたくさんコレクションしていたみたいで、これらもそう。シュプレマティスム(至高主義)と呼ばれる様式の、ミニマルな抽象絵画です。この画家は別に有名じゃないんですけど、直感的にすごく好きな絵だなと感じ、10枚ほどまとめ買いしました。おもしろいのが、後から気づいたんですけど、わたしが高校生くらいの頃に描いていた絵にすごく似ているんですよね。魅力を感じるものって変わらないんだなぁと」

好きなものに囲まれた暮らしには嘘がない。
そのよさをお裾分けするための〈KAUHAUS〉。

「気に入ったものの中で生活するって、それだけで幸せじゃないですか」と話す中津さん。彼女の暮らしぶりは、MAISON EUREKAのクリエイション精神にもまっすぐコネクトしています。中津さんが作るシューズやウェアのコンセプトはまさに「自分自身が身につけたいもの」なのです。

「高校を卒業してからずっとファッション業界で働いてきましたが、ときには『売れるから』という理由で、納得のいかないものを世に出さなければならないこともあって。まるで嘘をついているように感じ、すごくストレスでした。自分でブランドを始めるからには、そのストレスだけは完全に排除したかった。もちろん自己満足で終わってはいけないけれど、自分も好きで人に喜んでもらえるものを今までも作ってきたし、これからもそうしていくつもりです」

実は中津さんには、MAISON EUREKAが始める以前からの壮大な夢があります。その空間にあるすべてが「ほしい」と思ったら即買えるお店、名づけて〈KAUFHAUS(カウフハオス)〉を開くことです。

「KAUFHAUSは、ドイツ語で“デパート、百貨店”という意味なんです。そこにはわたしが惹かれたものだけを並べて、お客さんはたとえば席についてお茶を出されたときに、コップが気に入ったらそのまま買えたり、テーブルが気に入ったら買えたりとか、そういう。MAISON EUREKAのショッパーには、当初からKAUFHAUSのロゴを入れているんです。いつか本当に実現させたいと思っていたから」

今、夢の第一歩としてのポップアップショップ〈KAUFHAUS〉が、中目黒COMPLEX BOOSTで11月11日(日)まで開催中。中津さんがベルリンで買い付けた雑貨、ヴィンテージ小物、陶器、ガラス、絵など、生活空間にすんなり溶け込みそうなアイテムが並びます。

「東ドイツで作られた吹きガラスのグラスやキャンドルスタンドは、すごく薄張りで繊細なのが特徴です。イタリアのムラーノグラスなら、“e giochi di vetro(直訳:ガラスのゲーム)”と呼ばれるアバンギャルドなデザインのものが特に好きで、それも今回置いています。なぜ変わったデザインになったかというと、ガラス職人さんたちがアトリエで使うコップが自分のものとわかるように変わった装飾をつけたのが始まりらしいですよ。

あとは“Fat Lava(ファット ラヴァ)”と呼ばれる、厚みのある陶器。 1950〜1970年代に、西ドイツで量産されていたみたいなんですが、溶岩のような特殊な釉薬を使って、赤や青などカラフルに仕上がっている。逆に同時期の東ドイツでは、陶器にその釉薬をあまり塗らなかったので、アースカラーの陶器が多いという違いがあるんです。オブジェとしても存在感がありますが、わたしは普段花器として使っていますね。あと夏は、ファット ラヴァのジャーとコップでサングリアを作って飲んでいます」

什器も一部は購入可能。この記事の始めで「商品名と販売先を調べ上げた」と紹介した、フランス人アーティストによる竹製のモビール〈Lo〉も吊るされるなど、独特の空間作りが楽しみ。自分の「好き」をわかっている人は、心に嘘がないからでしょうか、本当に魅力的。心から楽しそうに、集めたアイテムの説明をしてくれる中津さんのキラキラした表情にそう感じました。

【〈KAUFHAUS(カウフハオス)〉POP-UP STORE】
日程: 開催中~2018年11月11日(日)
時間: 13:00~20:00
会場: COMPLEX BOOST
住所: 東京都目黒区青葉台1-15-10

中津由利加 Yurika Nakatsu

1984年生まれ。〈MAISON EUREKA(メゾン エウレカ)〉デザイナー。2005年にロンドンへ留学し、バックパッカーとして欧州を旅する。帰国後、セレクトショップ〈ナンバー44〉の店長兼バイヤー、シューズブランド〈durbuy(デュルビュイ〉のデザイナーを経て、2011年に再渡英し、2013年にベルリンへ移住。2015年春夏にMAISON EUREKAをスタート。
@maisoneureka
www.maisoneureka.de/

Text: Renna Hata Photo: Yuka Uesawa Edit: Milli Kawaguchi

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