この前、90年代から活躍する個性豊かなスケーターたちの人生に迫った「VICELAND」のドキュメンタリーシリーズ「Epicly Later’d」を観ていたら、男性ばっかりのメンツの中に紅一点、クロエ・セヴィニーが出てきた。ハーモニー・コリンの回では、もちろん映画『KIDS』(1995)の話になり、当時の裏話的なエピソードをクロエが披露していて、ジェイソン・ディルの回では、彼のブランド「Fucking Awesome」のスケートボードにクロエの写真を選んだ理由、いかにクロエがクールだかを彼が語るシーンが何だかとてもチャーミングだった。
結局、私たちは、あの頃からずっとNY・ダウンタウンのitガール、クロエ・セヴィニーに夢中になったままだ。
そんなことを思いながら、駅のホームに着いたら、ちょうどクロエが出演するオフブロードウェイの舞台「DOWNTOWN RACE RIOT」のポスターが貼られていた。映画、アート、音楽に比べ、なぜかミュージカル&演劇系は普段あんまり興味がないけれど、せっかく日本から姉が遊びに来ているしと誘ってみると、即答で「行く」という返事。チケットをチェックしたら、2日後の公演のチケットが運良く取れた。
(All production photos: Monique Carboni)
「DOWNTOWN RACE RIOT」は、1976年にワシントン・スクエア・パークで実際に起こった人種差別から派生した暴動をテーマにしたお話。クロエは二人の子供を育てるシングルマザーを演じている。元ヒッピーで自由奔放のハッピーなママとしての一面がありつつ、ドラッグアディクトである悪循環から抜けられない女性。トムボーイの長女は、そんな環境から逃げるように、知り合ったばかりの旅人たちとフランスへ行くと宣言し、息子はやんちゃなティーンでありながら、アディクトのママを支える心優しい青年。地元のギャングの仲間が計画中のライオット直前、実は狙われているのは、ハイチ出身の親友だと知る彼の葛藤を描いている。
会場が暗くなり、明かりとともにステージにクロエが登場した開始2秒で、「あぁ、今日来れてよかった!」と思った。まず一に、客席からステージまでが近いっ!幅広い舞台に対して、1階の客席はわずか5〜6列。ちょうどど真ん中に座った私たちの席からわずか2m先にステージがある。このクロエが手に届きそうな臨場感に興奮!
そして、さらに胸高まったのが、ディテールまで緻密に再現されたセットデザイン。長女の部屋には、マーヴィン・ゲイやドナ・サマーなどミュージシャンのポスターやフライヤーが壁一面コラージュのように飾られている。一方で、クロエが演じる母・メアリーの部屋はサイケデリックな雰囲気。その二部屋の間にある中央のダイニングキッチンは、コンパクトな空間にレトロなインテリアで、まさにグリニッジ・ヴィレッジにありそう。ストーリーは終始この小さなアパートメントのみで繰り広げられ、登場人物はわずか7人。
オフブロードウェイ初心者の私は、クロエを目当てに行ったようなものだけど、こだわりのつまったセットを凝視しつつ、各部屋で同時展開するストーリーを追っていると、年齢、性別、人種、貧富など、それぞれが抱える悩みが浮かびあがり、最後には思わず息をするのも忘れるくらい惹き込まれていた。70年代の設定でありながら、あらゆる問題に揺れる今のアメリカ・ニューヨークでこの舞台を観ることは、すごくタイムリーなことだと思う。
公演は12/23まで。年末年始のお休みシーズンには重ならないけれど、もしNYを訪れるチャンスがあったら、ぜひ観劇を!ステージの隅々まで観た方がぜったいに楽しめるので、座席はバーシャルビューではなくセンターをどうぞ!
DOWNTOWN RACE RIOT
by Seth Zvi Rosenfeld
directed by Scott Elliott
with Cristian DeMeo, David Levi, Moise Morancy, Josh Pais, Sadie Scott, ChloëSevigny and Daniel Sovich