8月23日まで青山・FAROにてイラストレーター・寺本愛による個展「Devotion」が開催している。
彼女の作品にはどこかファッションとの親和性を強く感じる部分があるが、それは武蔵野美術大学にてファッションブランド・YAB-YUMのデザイナー・パトリックライアンのゼミに出会ったことが影響している。授業では従来の服作りという観点だけではなく、映像・写真制作など様々なメディアを使って「ファッション」を捉えていた。例えば1枚のジャケットを作る課題にしても、無駄な装飾や型紙通りの制作ではなく純粋に身体が持つ生々しく繊細な美しさを感じ取り、いかにその美しさをパターンの曲線や生地で表現できるかという着眼点が必要だったそうだ。
そのような人間の身体と生活に寄り添った考え方から影響を受けて、いまでも彼女の作風は架空の衣服だとしても美しく、タイムレスな雰囲気を感じる。
思わず現物を見てみたいと思わせる彼女独特の衣服は、18〜19世紀のヨーロッパ、日本では幕末〜大正の農民・庶民の生活風景がわかる写真からインスパイアされたもの。それらの写真に映し出される服は、生活に根付いている服や着こなしであり、今よりも低身・短足にも関わらず当時の日本人が着る着物や当時の衣服の美しさである。
また、彼女の作品では「目」が特徴的。良い意味で鑑賞者を作品に誘導するキャラクター性も持ちつつも、あくまでも喜怒哀楽はそこには感じられない。しかし、本展では以前に増して「生っぽさ」に加えて、描かれる人物たちの表情も豊かになったように感じ取れた。あえて人間に感情を持たせてこなかった彼女にどのような変化があったのだろうか?
◆今回「キリスト教伝来直後」という特定的な時代背景をテーマに描いてますね。
今回の時代背景を選んだのは、芥川龍之介の切支丹関係の短編を読んだのがきっかけでした。
「きりしたん」という言葉がまさにそうですが、伝来時に日本語読みにされたキリスト教用語から漂う、湿気のようなものに惹かれました。
「ぱらいそ」「こんひさん」とか…。当時の日本の土地のにおいが伝わってくるような気がします。
そこから祈りの仕草や身に付けるものに興味を持ち、十字や格子柄、ベール、ゆったりとした布のイメージなどがピンときました。
◆以前より増して人間の表情や感情が伝わってきました。「目」より人間のポーズなど豊かになったように思います。
これまで身体・衣服といった外見の部分しか意識してなかったのが、去年の個展「Pilgrims」くらいからそれを纏う人間の内面・感情を描きたいと思うようになりました。
おそらく「祈り」「救い」といったテーマに行き着いたからだと思います。
◆コントラストや人間の生っぽさをより感じるようになりましたが、鉛筆で描くようになったきっかけは?
これまで主にペンやインクを使っていましたが、仕上がりが軽くなってしまうのが最近のテーマと合わないと思っていたのと、「印刷物」が完成形である漫画の画材を使用していることにも違和感があったので、画材を見直しました。
鉛筆はしっくりきつつも、以前よりも黒の印象が弱くなってしまったり、抜け感が無くなったりなど課題も多いので今後も試行錯誤していこうと思います。
現代のファッションにも通ずるような親和性を持ちつつも、絵によってますます人間、身体の生っぽさが浮き彫りになっていく。ぜひ新しい転機を迎えた彼女の作品を見てみてほしい。
寺本 愛 “Devotion”
会期: 7月7日(金) – 8月26日(土)
時間: 13:00〜19:00 (日曜休館日)
会場: FARO青山