女がヒールで歩く日は〜私たちが服を買う理由 vol.2

新卒で入社した百貨店、ITベンチャーを経て、様々な媒体でファッションにまつわるメッセージを発信している最所あさみさん。東京の片隅で暮らし、東京から世界を見てきた彼女だからこそ思う買い物の愉しみと、おしゃれして街へ出かける幸福を綴る新連載、第二回めは──


いつかあなたに出会うための、運命のバッグ

少し前に、Twitterで靴とバッグのブランドで女の価値は決まる、という説が話題になっていた。

30過ぎてこのブランドはイタイ、いい女はこの金額以上のブランドバッグを持っている──

そうした極端な格付けには賛否両論の意見が飛び交っていたけれど、実際問題、ブランドもののバッグにそうしたステータスの側面があることは否めない。

例えば、たまたま立ち寄ったショップで手にとった素敵なバッグが、高級ブランドと同じくらいの値段だったとき。

「同じ金額であのブランドのバッグが買えるよな…」と悩んだことが、誰でも一度はあるはずだ。

アクセサリーをプレゼントしてもらったときだって、中身のデザインより先に、箱に刻印されたブランド名の方を気にしてしまう。

しかも「このブランドかぁ…」という落胆は、自分の好き嫌いではなくそのブランドをつけている自分がまわりからどう見えるだろうか、という不安に根ざしていることが多い。

私たちは、どうして自分の純粋な「かわいい」という感覚だけで買い物ができないのだろう。

なぜ、ブランド名に左右されてしまうのだろう。

ブランドの背景にあるストーリーに共感しているから?

品質に信頼を寄せているから?

心からそのブランドに陶酔している人もいるだろうけど、きっと大半の人は自分の選択に自信がなくて、自分の「かわいい」よりも最大公約数の「かわいい」を選んでしまう。

この年になったらそろそろあのブランドは恥ずかしいとか、最近の流行りだからひとつは持っていたいとか。

ブランドだけではなくて、雑誌に載っていたとか、あの子がインスタに上げていたとか、「失敗しないもの」ばかりを求めてしまう傾向が、私たちにはある。

そうやって周りからどう見られるかを意識しすぎて、ある日ふと自分が心からほしいものがわからなくなるのは、買い物だけじゃなく恋愛も、キャリアも、すべて同じことだと思う。

ひとめ見た瞬間の胸の高鳴りや、触れた瞬間のときめきといった直感は、あれこれ頭で考えるより正しいことの方が多いのだから。

まわりに「すごい」と言われるわかりやすいブランドじゃなくたって、自分にだけわかる素敵なものをこっそり身に纏う。

それはそのまま人生の肯定感につながるはずだ、なんて言ったら大げさだろうか。

歴史の重みと美しい物語をもつ有名ブランドのことも、もちろん愛している。

でも、あえて同じ金額を払って、他の人が知らない自分の感性だけで選んだものを身に付けてみる。

わかりやすいロゴのバッグに比べたら、まわりから憧れられることは減るかもしれない。

でも、だからこそ「それ、素敵ですね」と声をかけてくれる人は、きっと運命の人だ。

それはつまり、ブランドによって格上げされた私じゃなく、私というフィルターそのものを「素敵だ」と感じてくれたということだから。

他の人には伝わらない、でも自分にとって大切なこだわりを見つけてもらうことは、自分の目を信じてものを選べるようになった大人にだけ許される楽しみなのかもしれない。

自分が「かわいい」と思ったものを、誰より自分自身が信じて、慈しむこと。

人に評価されるためではなく、自分の感性を信じて選びとったバッグこそが、私たちの人生を本当の意味で切り開いていく。

最所あさみ
最所あさみ
さいしょ・あさみ

大手百貨店入社後、ITベンチャーを経て独立。Webメディアを起点としたコミュニティ形成やコマース事業のプロデュースを行うかたわら、個人でファッションや小売にまつわる有料マガジンを発行。

個人note:https://note.mu/qzqrnl
Twitter:https://twitter.com/qzqrnl


アートワーク/安藤晶子

個展で作品を発表するほか、雑誌の挿絵、CDのアートワーク、ファッションブランドのイメージビジュアル等を手がける。

 

Text:Asami Saisyo Cover illustration:Akiko Ando