vol.5 「かわいい」と言われたい日
「好きっていうのはさ、つまり、この人には『かわいい』って言われたい!ってことじゃん」
そう真顔で話すと、友人はお茶を噴きそうになりながら「え、ちょっと、意外なんだけど」と目を白黒させていた。
さらに「誰かの好みに合わせるとか、興味ないんだと思ってた」と続ける友人。
確かに分かりやすいモテ服からはとっくの昔に卒業してしまったし、ミレニアル世代の私たちにとって「勝負服」なんて死語に近いとも思っている。
でも、たったひとりからの「かわいい」のひと言が欲しい日だってある。
それは相手に合わせるということではなくて、自分らしさを認めてもらうということ。
女性にとって「かわいい」という言葉は、存在の全肯定なのだ。
私は普段からオフィススタイルが好きなので平日・休日問わずブラウス+ミモレ丈スカート or アンクル丈のパンツというスタイルでいることが多いけれど、昔からここぞというときにはワンピースを着てきた。
一枚で印象が決まってしまうから、同じ人の前では何度も着ることができない、そんな特別感がワンピースにはある。
そして何より、ワンピースはデザイナーにとっても、一枚で着る側のコーディネートすべてをデザインするという気概に満ち溢れているものだ。
雑誌のモテ服特集や女子アナスタイルに惑わされず、「これだ」という一枚を選ぶこと。
そしてそれを「かわいい」と受け入れてもらえること。
自分に自信なんてなくても、洋服という魔法の力を借りて、私たちは自分の存在を肯定できるようになっていく。
さらに言えば、特別な人からの「かわいい」は自己発見の意味もあると思う。
『リッチマン・プアウーマン』というドラマの中で、石原さとみ演じる主人公がこんなことを言っていた。
「誰かに洋服を選んでもらうのって、すごい嬉しいの!それが、自分が思っていた以上に似合ってたらもっと嬉しいの。自分でも気付かなかった自分のいいところ、この人は分かっててくれてたんだって思うから。それで新しい自分を発見するから」
彼女や奥さんの買い物に付き合わされてうんざり…という声もたまに聞くけれど、買い物に付いてきてほしい心理はこのセリフの通り、新しい自分を発見する嬉しさにあるのではないかと思う。
自分では選ばないようなコーディネートを似合うと褒められたら、その瞬間からそれは特別な一着になる。
それは日常生活でも同じで、何気なく選んだ服を褒められるのは新しい自分を発見する嬉しさがあるはずだ。
普段は自分のために自分自身が好きな洋服を選んでいても、たまに誰かにかわいいと言われるために、鏡の前で思い悩んでみること。
そんな無言のやりとりもまた、大人の恋愛におけるスパイスになるのではないかと思う。