正統を知る。誠実でいる。上質な品を持つ。今、かっこいいと思えるのは、そんな姿勢。オーセンティックな人々の証言や美しいモノの分析から、“本物”とは何かを探ります。いいものを知る人がバッグに入れて持ち歩いているものは?センスのいい3人の私物と“自分だけのオーセンティック”の話。#オーセンティックJOURNAL
いつも持ち歩いているものは? センスのいい3人が語る「バッグの中のオーセンティック」
料理家 長尾智子
右上 英国のレザーブランド〈スマイソン〉のポーチはバッグに入れやすい平らなデザイン。領収書入れに。右下 〈スマイソン〉の財布。左上 メモ用ノートはバスクの美術館で買ったミュージアムグッズ。左下 〈アスティエ・ド・ヴィラット〉の鉛筆と〈Bic〉のボールペン。キャップを外して使うタイプが好き。
「〈スマイソン〉の小物は、自分がきちんとするための先生」だと長尾さんは言う。それは小ぶりな革財布と領収書入れにしている革ポーチ。イギリスのものに特有の少し硬質な雰囲気もあり、「1日使い終わったら、お札もレシートも全部出し、お札だけ戻して次の日に備える。そういう丁寧さが求められるお財布です。カードもたくさんは入らないし、入れ過ぎて膨れてしまった時は、“ふさわしい使い方ができてなくてごめんなさい”と謝りたくなる」。
〈Bic〉のボールペンと〈アスティエ・ド・ヴィラット〉の鉛筆も、バッグの中に必ずセットで入れている。
「鉛筆は単純に好きだから。Bicは書き心地がちょうどいいんです。ペンが書きにくいとストレスが大きいので、ここは譲れない。小さなものも“何でもいい”に流れないことが私には必要」
長尾さんの場合、メモ用のノートは少し適当さがないと使いにくいので、美術館に行った時にミュージアムショップで気に入ったものを買っておく。
「財布もノートも、どう使うか考えること自体が自分の行動を変えることさえある。だから“先生”なんです」
タフで柔軟な名脇役
インテリアスタイリスト 作原文子
右 革作家・華順のキーケースは15年ほど前「イコッカ」で。カーキ色の表革でオーダー。中 〈ユライヤ〉のメガネケースは「HEIGHTS」で購入。左 重さが心地よいアルミボディのペンは〈カヴェコ〉製。「P.F.S. PARTS CENTER」で購入。「ハードな生活道具やパーツと一緒に並んでいたところにも惹かれました」
「365日使い続けても崩れない強さと、時間とともになじんでいく柔軟さ。タフなことが私にとっての上質です」
インテリアスタイリストの仕事は家具を運んだりトラックで移動したりが日常。その中で15年ほど愛用しているのが革作家・華順さんのキーケースだ。
「駐車場に落としてしまい、トラックにひかれた時も鍵を守ってくれたほど丈夫です。革ヒモだけ少しきれいなのは2代目だから。使い込んでボロボロになったのを見て、華順さんが新しいものを送ってくれたんです」
トラックの助手席で欠かせないサングラスの革ケースも相当タフ。革の質感だけで勝負している点や、バッグの底に紛れても平気なところが頼もしい。
「2つとも目立つものではないけれど、私の毎日に絶対必要な名脇役です」
そんな作原さんが、「傍にあると自分自身でいられる」と大切にしているのが、ドイツ最古の文房具ブランド〈カヴェコ〉のペン。アルミを削り出したボディは、4〜5年使って傷もついたし質感もマットに変わっているが、「愛おしいし、いいでしょ?とも思う。手にするたびに気持ちがあがります」。
5年後10年後も愛せるもの
スタイリスト 井伊百合子
右奥 〈ヴァレクストラ〉の財布。小さくても収納力がありパンツのポケットやクラッチバッグにも入る。右 〈リベコ〉のハンカチ。ヘムに繊細なハシゴレースの切り替え。左 〈スマイソン〉のノートは「裏表紙のさりげない箔押しの刻印も好き」。〈クロス〉のシルバーのボールペンは友人から誕生日に贈られたもの。
「5年後、10年後の、少し好みや生活スタイルが変わった自分を想像しても、きっと持っていられるだろう。そう思えることは、ものを選ぶ基準のひとつになっています」という井伊さん。たとえばリネンブランド〈リベコ〉の麻のハンカチ。白地に白い刺繡でYとEのイニシャルが入ったものを数枚持っていて、ずいぶん長い間愛用中。
「使う・洗う・乾かす…を何度繰り返してもへたれないほど丈夫。肌に触れた時の優しい風合いも変わりません」
多くの人やものの色と出会うのがスタイリストの仕事ゆえ、自身で持つのは無彩色が多く、デコラティブなものは少ないそう。〈ヴァレクストラ〉の黒い財布しかり、〈スマイソン〉のノートしかり。「細くて無駄のないデザインとシルバーの重みが、握った時に気持ちいい」と、9年前から使い続けている〈クロス〉のボールペンしかり。
「情報でいっぱいになった気持ちを静める意味もあって、無彩色やシンプルなデザインを選んでいるのかもしれません。他人の目に触れるものでもありますが、いちばん大切なのは、自分が使っていて心地よいかどうかですね」
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長尾智子
素材の味を生かした料理で人気。雑誌『クロワッサン』の連載をまとめたムック『素材の出会いで、季節を味わう。』が発売中。Instagram: @vege_mania
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作原文子
住む人が見えるような空間づくりで男女ともにファンが多い。インテリアを担当した映画『私をくいとめて』(原作: 綿矢りさ、監督・脚本: 大九明子)が2020年12月18日(金)公開。
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井伊百合子
都会的かつ意志あるスタイリングで雑誌や広告を中心に活躍。今回のノートには雑誌撮影のためのラフも。「実際ページになった後、自分の言葉や落書きを振り返るのも楽しい」
Photo: Satoshi Nagare Text&Edit: Masae Wako