SEARCH GINZA ID

大切に守っていきたい洋食店、老舗酒場、珈琲店。東京で出合えるオーセンティックな店

大切に守っていきたい洋食店、老舗酒場、珈琲店。東京で出合えるオーセンティックな店

正統を知る。誠実でいる。上質な品を持つ。今、かっこいいと思えるのは、そんな姿勢。 オーセンティックな人々の証言や美しいモノの分析から、“本物”とは何かを探ります。大切に守っていきたい昭和の味や、料理と真摯に向き合う洋食店を追い続けている井川直子さんが、読者に伝える「まっとうで美しい味」とは。#オーセンティックJOURNAL


人は、とくに東京の人々は最新が大好物。それは否めない。毎日のように新店や新しいフードカルチャーが生まれる街なのだから。けれどその潮流をつくっているナカの人、つまり気鋭と言われる若手シェフたちが襟を正して通うのは、案外オーセンティックな店だったりする。
合理的じゃないものが否定されがちな時代にあって、手間をかける、時間を待つ、無駄を選ぶ。真逆の在り方に、なぜ、若手は憧れるのだろう?料理人なら答はわかりきっている。それでなければたどり着けない境地、非合理から生まれる味というものが、確実にあるからだ。

たとえば明治38年創業、今年で1​1​5周年の洋食屋「ぽん多本家」のカツレツは、世界に誇りたいクリエイティビティだと思う。業者が選った肉をさらに厳しく選る、銘柄に頼らない目利き。赤身の芯だけを使い、上質な脂身で揚げ油を自家製する純粋主義。注文ごとに一から始め、ゆっくり揚げるからお客は少々待つのだけれど、それと引き換えにバターのような甘い香り、儚い衣の食感、知的な肉の旨味を綿密に組み立てた作品が味わえる。

湯島で大正13年創業。東京の老舗酒場である「シンスケ」の料理には、すべてに「そうすべき理由」がある。たとえば、ねぎぬたというシンプルな一品にしても、湯がいた分葱をざるに揚げ、しずくをぽとりぽとりと落とし、自然に切れるのを3時間ほど“待つ”。絞ったり、スピナーで強制的に水切りすると、独特のぬるりとした食感や旨味まで奪ってしまうから。征服しようとしない。その先に得られる、やわらかな口あたりである。

今や洋食の定番・ドリアは、昭和2年に開業した横浜「ホテルニューグランド」が発祥。初代総料理長のサリー・ワイル氏が、体調を崩した宿泊客に「のどごしのいいものを」と考案した一品。のどごしでドリア?そう、淡雪のようにふうわり溶けるベシャメルソースなのだ。ルウを裏ごしして牛乳でのばし、さらに熱々のまま布で搾る、このきめ細かさはシノワ(金属製の濾し器)では不可能。というサリー氏の精神は引き継がれ、なんと令和の今も同じ手法でつくられる。

「カフェ・ド・ランブル」の創業者・関口一郎さんは、2018年、103歳で他界されるまで生涯現役だった珈琲職人。情報をうのみにせず、常識にとらわれず、自分で動き、考え、経験したことだけを信じてきた。だから、生豆を10年以上も寝かせるオールドコーヒーが賛否を巻き起こしても、「飲めばわかる」と一点の曇りもなしに胸を張れる。深いのにクリア、というアンビバレントな味わいは、現在も同店で生き続けている。

茗荷谷のお菓子調進所「一幸庵」のわらびもちは、和菓子好きはもちろん、国内外の名だたるパティシエをも虜にしている。肌をすべる正絹のようになめらかな舌触りは、しかし格闘技のように鍋と闘い、木べらが擦り減るほど練り上げる手仕事のたまものだ。1日の終わりには精根尽き果てる重労働でも、菓子職人の水上力さんは「感動する味は機械じゃつくれない」から、日々そうしている。

最先端の技術をもってしても、体になじんだ道具と修練には追いつけない場所。それは「心を揺さぶる」というステージだ。人の手でつくられる味にそれができるのは、きっとつくる人のスピリットをのせて、食べる人の奥深くまで届くからだと思う。

【店舗情報】

「ぽん多本家」
住所: 東京都台東区上野3-23-3
Tel: 03-3831-2351
営業時間: 11:00〜13:45 LO・16:30(日祝16:00)〜19:45 LO
定休日: 月(祝日の場合は火)
カツレツ ¥2,700

「シンスケ」
住所: 東京都文京区湯島3-31-5
Tel: 03-3832-0469
営業時間: 17:00〜21:00LO(土20:00LO) 
定休日: 日祝
ねぎぬた ¥800

「ホテルニューグランド」
住所: 神奈川県横浜市中区山下町10
Tel: 045-681-1841 「コーヒーハウス ザ・カフェ」
営業時間: 10:00〜21:00LO
www.hotel-newgrand.co.jp/the-cafe
ドリアは本館1階「コーヒーハウス ザ・カフェ」で提供。シーフードドリア ¥2,300

「カフェ・ド・ランブル」
住所: 東京都中央区銀座8-10-15 SBMビル1F
Tel: 03-3571-1551
営業時間: 12:00〜19:30LO(日祝18:30LO)
定休日: 無休
www.cafedelambre.com
ストレートコーヒー(オールドコーヒー)シングル ¥900〜、ダブル ¥1,100。

「お菓子調進所 一幸庵」
住所: 東京都文京区小石川5-3-15
Tel: 03-5684-6591
営業時間: 10:00〜18:00
定休日: 日月*要確認

井川直子 いかわ・なおこ

文筆業。秋田県生まれ。料理人や生産者など、食と酒と人にまつわる取材・執筆を続ける。著書に『東京の美しい洋食屋』(エクスナレッジ)、『変わらない店』(河出書房新社)など。

Text&Edit: Masae Wako

GINZA2020年10月号掲載

#Share it!

#Share it!

FOLLOW US

GINZA公式アカウント

PICK UP

MAGAZINE

2021年12月号
2021年11月12日発売

GINZA2021年12月号

No.294 / 2021年11月12日発売 / 予価860円(税込み)

This Issue:
80年代カルチャーガイド!

賑やかだった時代
80年代にタイムスリップ

...続きを読む

BUY NOW

今すぐネットで購入

MAGAZINE HOUSE amazon

1年間定期購読
(17% OFF)