『丸』
不穏な空気と緊張感は増していくのに、おかしくて仕方ない。つまり、すごく変。『丸』はそんなあまりお目にかかれないタイプのSFだ。監督は、本作が長編デビューとなり、スピルバーグなどの処女作品を発掘した映画祭「New Directors / New Films」で上映されるなど、海外でも注目を浴びる鈴木洋平。舞台となるのは、平凡な鈴木家の一軒家。室内に突如現れた、見た人がなぜか静止してしまう謎の球体。父子心中未遂事件として片付けられてしまう家族と、謎を追求しようとする記者が不条理ナンセンスな世界に突入していく様を、シュールかつユーモラスに描く。シアター・イメージフォーラムで公開中。
『メアリと魔女の花』(17)
やることなすことうまくいかない、11歳の少女メアリが迷い込んだ森で禁断の花を見つけたことをきっかけに、魔法世界へ迷い込むという児童書『小さな魔法のほうき』が原作。『思い出のマーニー』(14)の米林宏昌が、脱ジブリ後、暴れまわる箒をなんとか乗り回す主人公のようにいたるところにぶつかりながら作ったに違いない勢いのある本作は、子どもも大人も童心にかえって冒険を楽しめる直球な魔法映画となっている。杉咲花が声優を務めるメアリが、最高にキュート。ジブリ愛が強ければ強いほどなんやかんや言いたくなる気持ちもわかるが、監督と作品からあふれるジブリ愛にはきっとかなわない。公開中。
©2017「メアリと魔女の花」製作委員会
『ブランカとギター弾き』(15)
世界中を旅しながら写真家として活躍し、短編映画でエミール・クストリッツァに見出され、と独特な活動をしてきた映像作家の長谷井宏紀。彼がヴェネチア国際映画祭「カレッジシネマ部門」に日本人として初めて選出され、製作されたイタリア映画で、マニラのスラムを舞台に、“母をお金で買う”ことを思いついた孤児の少女ブランカと盲目のギター弾きの姿を追う。考えさせるのは、生まれた場所でなくても帰る場所があること。そして、待っていてくれる人がいるということ。母親が不在のスクリーンからあふれているのは、誰もが持つ母性のような優しさだった。7/29より、シネスイッチ銀座ほか順次公開。
© 2015-ALL Rights Reserved Dorje Film