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ちょっとだけ、夜の街に咲いてみたくて。 編集クロの銀座ママ修行part1

ちょっとだけ、夜の街に咲いてみたくて。 編集クロの銀座ママ修行part1

銀座、午後八時。あたりは夜の帳に包まれて、艶やかな香りが道に漂ってくる。そう、ここは日本でいちばん華やかで美しい夜を誇る街。私こと編集クロが、なんと、夜の銀座にデビューしてみた物語。


 

太陽のようなママに導かれ

 

ことの起こりは、GINZA 12月号の取材中。「銀座のママの美の秘密」なる企画で訪れたクラブ「榑沼」にて、ママの美しい着物姿に見惚れるクロ&ライターKさん(付き添いで飲みに来た)。「このハイボール今まで飲んだ中でいちばん美味しい!」と感動するKさんの傍、「いいな〜着物着たいな〜」と連呼する私。そんな二人を見かねたママが一言発した。「だったら、体験入店してみたらいいやん!」

突然だが、私が人間にとって重要だと思うキーワードに「ホーム感」がある。どんな時も、どんなに大勢がいる場でも、「ひとりじゃない〜」と思わせてくれる力。アウェイと感じさせずに寄り添う力。大阪・新地で勤めた後に「榑沼」をオープンした陽子ママは、ホーム感に満ち満ちている。だから、くだんの「やったらいいやん」も、ノリは軽いのにとても親密に響いたのだった。そして、「本当にやっちゃう?!」とKさんと言い合いながら、実に三日間(+別日で研修3時間)のママ修行が始まった。

 

気分は新入生。優しい先輩方との出会い

 

お店は八時オープン。七時半すぎには、その日入る女の子たちが集まって来る。一日に入るのは大体六〜八人くらい。

「おはようございます〜」「あれ、今日カオリさん早いですね!」・・・開店前ってもっと殺伐とした舞台袖のようなものを想像していたけど、こういう会話が交わされている様を見て、つい高校時代の部室を思い出す。ママがあらかじめ我々の体験入店をお店の女の子に知らせてくれたので、皆さん「あ、雑誌の方よね?よろしくお願いします」と挨拶してくれる。あぁ、優しい先輩たち・・・。

働いている女性の年齢は20代半ばから40代までとさまざま。「チーフ」と呼ばれる男性スタッフが最年少で、衝撃の19歳(!)。この青年がグラスを出してくれたり、どの席つくかを差配してくれたり、帰りの時間にこそっと声をかけてもくれる。(確かに、お客さんと話してる途中に時計とか見られないもんね。)

 

所作こそが女性の美を作るの

 

お話をするだけが銀座の仕事じゃない。お酒を楽しく飲んでもらうためには、きちんとお客様にお酒を提供できないとね。ただウイスキーと水をコップで混ぜればいいってものじゃない。所作とさりげない振る舞いこそが、美を作るから。

と偉そうに言ったが、私の経験値は体験前の研修三時間のみ。「ボトルを持つときの指を揃えると、綺麗に見えるよね」と、ママは丁寧に教えてくれた。脇は開くより閉じた方が美しいってこととか、マドラーの取り方一つでスムーズさが変わるなということに、初めて気がつく。ふと横を見たらライターKさんのノートにはメモがびっちり。<水割り:ウイスキーは指に本分、焼酎は濃いので1.5本分><マドラーで混ぜるときはなるべく音を立てない>・・・。本人も「どの取材の時よりもメモ取ったよ!!!」と刮目していた(※Kさんは超できるライターさんで、弊社媒体でいい記事たくさん書いてくれています。)

しかしいくら「水割り実習」を経ても、本番はいつだって練習より難しい。というか、実際にお客さんとお話していると、なかなかグラスに目がいかないんだな・・・(白目)。お代わりを用意するだけじゃなくて、お客様のグラスの水滴が増えてきたら拭くという仕事があるのだけど、一緒についてる別の女の子がそれをやってくれるたびに「ハッッッ」となること多数。けれどそう思ったのもつかの間、目の前のトークにまずは集中せねばと、ハートはてんわやんわ。あれ、もしかして普段の仕事ぶりが現れてる・・・?結局私は昼も夜も同じ人間・・・?

ああ、私って全然仕事してません・・・と、翌日八の字眉でKさんに話したところ、ちょうどものすごく混んだ時間帯(しかし私は同じお客さんと一緒に座っていた)にカウンターの内側に居合わせたKさんは、追加のレディスグラス(お店の女性がドリンクを頂くときの小さめのグラス)を出したりお酒作りの手伝いをしたりとかなり慌ただしくしていたらしく、「クロちゃんがずっと話してる間、私超働いてたよ!」と、すっかりマルチワークウーマンになっていた。ヒィ。

でも、ただ座っているのも楽ではないのだ(どんな言い訳)。銀座には、女の子は背もたれに寄りかかってはいけないというルールというかマナーがある。まぁ、美しくあろうとしたらそれは当然よね・・・。ピシッと、背筋を伸ばして座っていること。これを何十分も何時間も続けるには、私の腹筋背筋は未熟すぎる。そういえば昔ananのときに取材したパーソナルトレーナーの人が、「背もたれある椅子でも、寄りかかってない方が楽です」と言ってたな。そんなことあるかいな、と今でも思っているけれど、筋肉は人を変えるのだよな。美には筋力も必要であることよ・・・。

 

常に、お客さまを中心に話すこと

 

「初対面のお客さんと何を話したらいいですか?」「相手の仕事の話って聞かない方がいいんですか?」体験入店するにあたり、ママを質問攻めにする私たち。ライターKさんは美人だしインタビューのお仕事も多くて、私から見たら不安要素皆無!なのだけど、本人は「取材なら掘り下げて聞くのが仕事だけど、お店ではそれが失礼に当たることもあるし・・・。自分が面白い話をする自信もないし・・・」と弱腰。情報を聞き出すためのトークと、相手に楽しくなってもらうためのトークとは、やはり種類が違うということか。そしてママに取材と言わんばかりに根掘り葉掘りトーク術を尋ねるのであった。

ママの教えで印象的だったのは「どんな時も話の中心を相手に返すこと」。普通の雑談だったら、相手と関係ないところに話題が広がって行くことも多いけど、ちゃんとお客さまのことを意識すべし、ということだ。

例えば、ヨットが趣味だとあるお客さまが話してくれた。そういえば常連さんもヨットに乗るって言っていたな・・と思い出して、「この間、ヨット好きの人がいたんですよ」と口に出す、みたいなこと。友達同士や仕事の雑談だと私もよくやる。むしろ、そうやって知り合いが繋がることもありうるし、良かれと思ってやっている節すらある。しかしママ曰く、「お客さまと話してる時は、そこに例えば『今、ヨットって流行ってるんですか?』と付け加える。そうすると話の主役をお客さまのままにできるやろ」と。な、なるほど・・・!

開店直後、同伴のお客さまとお店に現れたのは、はんなり美人のホヅミさん。カウンター席に着いたお客さまが、「ホヅミさんはほんっとうに素敵な人ですよ!僕、2年かかって、やっと一緒にカラオケに行けたんですよ〜!」と頬を赤らながら熱弁。するとホヅミさんは「でも、カミちゃん(お客さまのあだ名)って本当に歌がお上手なんですよ」と私ににこやかにパス。こんなに自分のことに言及されているのに、全く嫌味なく、かといって相手の話をスルーするでもなく、きちんと会話の中心をお客さまにしていく。その口調の柔らかさまでもが完璧。

その控えめな魅力と対照的に、ものすごくフランクなキャラで愛されていたのがサヲリさん。ほぼタメ口で、友達同士で飲んでいるみたいにラフに話しているし、自分の話も普通にする。でも、その距離感が絶対に心地いいものに保たれているから、お客さんも楽しんでいる。

どんなタイプでも、お客さまへの態度が素敵な人は、お店で働く女性同士での気遣いも素晴らしい。たとえば、常連のお客さんとみんなで話して盛り上がっている時。飲み会あるあるだけど、「その話題知らねー、ついていけないから笑顔が不自然になるー(汗)」というシチュエーション。そんな時サヲリさんはすかさず、でもごくさりげなく、サクっと状況や関係性の説明をしてくれる。ねぇみなさん、これって本当に大切なことじゃありませんか?これを世間の飲み会人口みんながやったら、日本の幸福度が底上げされると思うんだ・・・。

 

要は真心なのかも、ネ

 

さて、私も三日間失態をさらさずに過ごせたわけではない。

ある夜、九時過ぎに4人組のお客さんがいらして、ソファ席でお話することに。女性も四人ついて、自然と1対1ずつで話す形になった。しかしお店の女の子たちにも興味津々な私は、一緒についたミナちゃんに「ネイルかわいい!」などと子犬のように話しかける。すると斜め後ろからスッとママが現れ、「隣の人と話さんとあかんよ」と耳元に一言。そして元の席に戻るまでの間、2秒くらい。ママは例のホーム感を少しも減じずに必要な注意だけをあたえてくれるのだ。

「しまった!」と思った私は、一呼吸置いてから、もう一度きちんと隣に座るお客さまに話しかける。そうしたらこのお客さま、知的でフレンドリーな紳士で、旅行の話や旅先の伝統行事に携わった時のお話などがとてもわくわくする。「父親も上司もこんなに有意義な話してくれたことないわ!!」とついいらぬ比較をしながらなんとなく思う。興味って、持てる持てないではなくて、持つか持たないかだし、目の前の相手と会話をしよう、楽しもうという気持ちこそがトークの要なのだ。それはテクニックではないし、ましてやマナーに縛られたものではない。人との出会いはいつだってとても有機的なものだから、何が来ても動じない真心を持って接すること。ママがあんなに輝いている理由も、そういう気持ちを自然に持っているからなのかもしれない。

(つづく)

編集クロ

GINZA歴二年三ヶ月。銀座歴は三日。接客仕事は学生時代のイスラエル料理屋バイトにて経験有。お酒については、量が飲めないこととビールが苦手なことが悩み。でも「榑沼」でハイボールの美味しさを知った。

Illustration: ボブ a.k.a えんちゃん

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