働くって何? 発明家 道脇 裕さんに聞く – 無理だと決めつける前に、無理な理由を証明しよう

世の中には、働くことに幸せを見出し、必要な稼ぎを得て毎日を生きている人たちがいる。一方で、自分の夢が見つからない。やりたいことがない。何のために働くのかわからない―。そんな疑問や迷いを胸に抱きつつ、毎日を過ごす人たちもいる。いったいこの差は何なのか? 働くって何なのか? 労働時間、適正な賃金、コンプライアンス…… 「働き方」が問われる今、職種も生き方も異なる6人の中に、その答えを探ってみることにした。


Revolution: 04

発明家
道脇 裕

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みちわき・ひろし≫ 1977年、群馬県出身。幼少期から2万件以上の発明、考案をし、人類史2000年級の難問をいくつも解決してきた天才。数学界で最大の禁じ手である「ゼロで割る」をも可能にした。


 

無理だと決めつける前に、 無理な理由を証明しよう

「道の脇は道より広し。どんな道よりも、その脇に広がる世界の方が遥かに広く、無限大です」

と、自分の名前を諺のように話してみせるのは、発明家・道脇裕さん(40)。「絶対に緩まないネジ」を発明し、橋やビル、工場などで用いる締結部材、接合技術を開発する会社「NejiLaw」を2009年に設立。

物心ついた時からずば抜けた独創性を発揮。あらゆるモノを発明し、周りを驚かせてきた。道脇さんは1時間に1個は何かを発明すると言う。なぜそんなにアイデアが出てくるのだろう?

「勝手に出てくるんです。内から出てくるモノをちゃんとアウトプットしたいって思ってるだけなんです」

そんな道脇さんが衝撃を受けたのは6歳の時に親からもらった永久磁石だった。なぜ2つのモノが反発したりくっついたりするのか?

間に〝見えない何か〟があった。

「この2人の縁を切れないかと、下敷き、ノート、鉄、アルミ、フライパン、茶碗、1000種類くらいのものを間に入れてみたんです。結果、何を入れても切れないということがわかった」

道脇さんはこれを「失敗」とは思わなかった。

「大発見ですよ! 何を入れても磁力線は切れない。そして距離を離すと急激に磁力が弱くなる。この2つのことを僕は実験によって発見したわけです」

後者は1785年に発見された「磁場に関するクーロンの法則」。その自然法則を6歳で見つけた瞬間だった。

 

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関東近郊にある研究所にて取材を行った。建物の入口には、道脇さんの大発明品「L/Rネジ」のサンプルが展示されている。

 

小学校に入ると1学期に配られる教科書やドリルを授業時間1週間で全部終わらせた。「解き方が全部教科書に載ってるから、なぜ同じことを教わる必要があるのかわからなかった」と言う。授業の時間はあまりに長く感じられ、退屈すぎてまるで拷問のようだった。次第に学校の教育システムに疑問を感じ、ドロップアウト。小学5年生から学校へ行くのを自らやめた。「日本の教育は独創性をなくさないと過ごせない仕組みになっている」と感じた。

「今の学校教育って、何かをインプットした結果として出てくるみんなの思考、つまりアウトプットが非常に近いんです。でもそれは人類の生命システムの側から言うとダメなんですよ。生命システムはそれぞれの観点、立場、能力、役割から多様なアウトプットをすることで人々が困難な状況を乗り越えるようにできているんです」

戦後の大量生産時代、日本は必要な人材を確保するため画一的な教育を施し、〝平均値〟の底上げを図ってきた。アメリカを真似して追いつこうとしてきた。昔はそれでよかった。でも、ある到達点まで来た時に日本は何をしたらいいのか目標を見失うだろう。その時に必要になるのが独創性なのではないか。道脇さんは小学生の時、すでに将来の日本を予測していた。

「予想通りになってきていますね。今も昔も、ゴールがないのに勉強しているような状態です。なんのためにやるかわからない。なんで勉強するかと聞くと、いい高校、いい大学に入って大手の企業に入りたいからと言う。じゃあなぜ大手がいいのかと聞くと『楽できるから』って言うんです。え、じゃあ楽するために勉強しているの? 勉強したことを使って社会の役に立つとか、やりたいことやるんじゃないの? 〝1、2ときたら3〟となるところが、〝1、2ときて-3とか-5〟なんです。合理的に成り立ってないんです」

なぜゴール(=自分のやりたいこと)が見つからないという人がいるのか。道脇さんは「それは人生をかけた本気の探りをしてないんですよ」と言う。大きな理由のひとつは恐怖心だ。親や学校や社会に「あれはダメ、これはダメ」と育てられることで枠ができ、さらに枠は小さくなる。そのうちはみ出ることが怖くなる。だからいろいろ試せない。狭い枠の中からしか道を選ぶことができない。それはもうほぼ選んでいないに等しい。

 

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gz06_revo5-6_15握力がない人でも簡単にペットボトルの蓋が開けられる器具。もちろん道脇さんの発明品。

 

gz06_revo5-6_26『日本の発明・くふう図鑑』(岩崎書店)に、2000年の歴史を変えた絶対に緩まない「L/Rネジ」が掲載されている。

 

何が好きで何が苦手か。道脇さんは、本当は子どものころからいろいろ試して〝内なるものをあぶりだす〟という作業がもっとも重要だと言う。苦労するし、辛いし、苦しいし、泣くこともあるだろう。時間だってかかる。しかしそうやって360度の方向から自分を見つめて、近くから遠くまで見渡して、掘り下げた時に初めて自分の適性や本当にやるべきことが見えてくる。

「遊び的にでもいいから、子どものころから仕事をさせたほうがいいと思います。親と先生しか大人を知らないのはあまりにも狭い。もっと世の中を広く、可能性を見せてあげることが大事です。なぜその職業につくのか。そもそもその職業が未来に存在しているかどうかということも含めて、もう一度よく考えたほうがいいでしょうね。道はもっといっぱいあります」

絶対に緩まないネジをつくる。これまで多くの人たちがそんなことは不可能だと言ってあきらめてきたことだった。しかし「不可能だ」と言われるということは、それまでのやり方の中に答えがなかったということだ。道脇さんは前提を本質的に見直したり、常識の外側から答えをもってきたりする方がよっぽど早く答えにたどり着けると言う。道脇さんが「磁力線は何を入れても切れない」ことを発見したのと同じように、無理だと決めつける前に、なぜ無理なのかを自分で証明してみせるのも大事なことだ。失敗ではなく発見。自分なりに試してわかったことを仕事につなげてみる。それはそれぞれの立場や個性が違っているからこそできることなのだ。

「仕事って結局は自分の存在として全体に対して果たすべきことを果たすということ。生命システムから見ると、人は存在しているだけで多様性を生む。人の間に存在しているということ自体に価値があるわけです」

「無理」な時こそチャンスだ。恐れる必要はない。堂々と脇道を歩こう。

 

gz06_revo5-6_5「午後の紅茶」のレモンティーは、糖分を摂取するのに最適だそう。1日10本程度は飲む。

gz06_revo5-6_21思い立ったらすぐ描き出せるよう、どの部屋も壁がホワイトボードになっている。

 

Photo: Takako Noel
Text: Sabu

GINZA2017年6月号掲載