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伊藤万理華「誰かのホーム・スイート・ホーム」vol.03 SITEさん

伊藤万理華「誰かのホーム・スイート・ホーム」vol.03 SITEさん

映画『サマーフィルムにのって』で主人公ハダシ役を演じ『第31回日本映画批評家大賞』で新人女優賞を受賞するなど、俳優としての勢いが止まらない伊藤万理華さん。この秋公開の『もっと超越した所へ。』では、オカモトレイジさん演じるダメ男・泰造に染まる金髪ギャル役を熱演。プライベートでも、好奇心の赴くまま服や漫画をディグる日々。頭の中はつねに「好きなもの」でパンク状態の伊藤さんが、仕事仲間やクリエイターをゲストに迎え、勇気を出して部屋にお邪魔させていただく連載、第3回をお届けします。前回はこちら


第3回のゲストは、『週刊SPA!』で連載中の漫画『少年イン・ザ・フッド』著者、Ghetto HollywoodことSITEさん。その活動を遡れば多岐に渡り、NORIKIYO率いる相模原のHIPHOPクルーSD JUNKSTAのメンバーでありグラフィティライター、PUNPEEやSALUなどのMVを手がける映像監督、そして近年は、謎多きGEEKインスタグラマーとしてシーンをざわつかせています。まさに“HIPHOPなんでも屋”。伊藤さんがGhetto Hollywoodの存在をはじめてキャッチしたのはInstagram。その後、ひょんなことから知人を通じてSITEさんの漫画を手伝うアシスタントさんと出会い、意気投合。後日アシスタントさんに連れられ師匠の仕事部屋にお邪魔したときの感動を忘れられず、改めてお部屋訪問にやってきました。

伊藤万理華(以下、伊藤) 今日はよろしくお願いします!執筆でお忙しいところ取材を受けてくださって、とっても嬉しいです。

SITE 単行本が出て一息ついたタイミングだったんで、ちょうどよかったです。

伊藤 初めてSITEさんのInstagramを見たとき、投稿がおもしろくて夢中でスクロールしました。でも本人のプライベート内容はほとんど出てこないし「この人は一体何者なんだろう……!?」と思っていました。

SITE 最初は鍵をかけた状態で100人ぐらいの友だちに向けて、1日1個おもしろ画像をアップしていました。その頃自分のHPを作ろうとしていて、そこに誘導するために使おうと半年くらいで鍵を外して、タンブラー感覚で画像をポストしていくうちに、1年間でフォロワーが2万人くらいに増えて「あれ、ここ使えばもうHPいらないんじゃないか?」と思い始めて(笑)。どうしたもんかなと思ってたちょうど同じ頃に漫画の連載が決まったので、一部のフォロワーさんたちが「SITEの漫画が出るらしい」って感じで広めてくれて、結果的にスムーズに職業を変えられました。

伊藤 私もそれで『少年イン・ザ・フッド』に出会えた1人です!グラフィティとかHIPHOPの世界をあまりよく知らないから教科書のような感じで読ませていただいてます。毎号、図鑑くらいの情報量ですね!

SITE ありがとうございます。HIPHOP好きな人でも、あまり知らないことを書くようにしてます。

伊藤 1巻のカバーを取り外すと、SITEさんの最高なお部屋の写真が表れますね。部屋を見渡す限り天才なのですが、いつからこんな感じなのでしょうか?

SITE ここは“1991年から住んでいる”設定で、漫画の中に登場する部屋をイメージして作り始めたからリアルではないんです。実際にピンナップで埋め尽くし始めたのは5年ほど前から。ここは全部ホチキスで止めてるから剥がすのが前提だけど、実家に住んでた頃の自分の部屋は両面テープで何重にも重ねて貼ってたのでもっとジャンルもごちゃ混ぜだし情報量も凄いです(笑)

伊藤 もう新しいポスターを貼るスペースは無いくらいですね。

SITE そうなんだけど実はけっこう頻繁に貼り替えてるんですよ。締め切り前の夜中に、掃除し出す人とかいるでしょ?僕はそれがピンナップで。始めるともう止まらなくて、天井とか大変な場所でも満足いくまで貼り替え終わんないと漫画の作業に戻れないです。朝9時が締め切りなのに、午前3時とか4時とかに始めちゃって……。

伊藤 止まらなそうです(笑)。でも、本当にSITEさんの学生時代の部屋みたいで楽しい。

SITE そうですね。『ストレンジャー・シングス』に出てくる少年たちと同じの年齢設定なので。大人の経済力がちょっと加わっている部分も多いけど、そこら辺はほんとに意識していて「悪ガキと宇宙」が部屋全体のテーマです。

伊藤 かっこいい!一番お気に入りのポスターはあるんですか?

SITE 最近だと、このE.T.とマイケル・ジャクソンのポスターかな。あの『E.T.』の物語をマイケルが朗読するっていうレコードがあって、おまけでついてきたポスター。E.T.の背が異様にでかく見えてなんか良いんですよね。

伊藤 わあ、本当ですね。

SITE あと、ちょうどベッドで寝転がったとき真上に来るのはかわいい女の子にしようと思って、キョンキョンやビョーク、(水原)希子ちゃんのポスターを貼っています。風水的に、部屋の中で人形やポスターの「目」に見られている状態ってあまりよくないらしいんですよ。一度目線を数えたことがあるんですけど、そしたらHIPHOPとかロックの屈強な男たち50人に見られていて、慌ててここだけ貼り替えました。

伊藤 女の子のポスターが天井に多いのはそういうことだったんですね。

SITE そういえば、今日マリカさんが着てるTシャツは『レン&スティンピー』?いいですね!

伊藤 まさに!私、このアニメが大好きなんです。もともと母が好きなアニメを、幼い頃に家で一緒に何度も繰り返し見ていました。SITEさんのインスタアイコンが『レン&スティンピー』でテンション上がってしまいました。

SITE 昔全く同じTシャツ昔着てました(笑)この作品は、アメリカで90年代に流行っていた悪ふざけアニメの象徴みたいな感じです。僕は当時「ニコロデオン」で放送されていた日本語吹き替えの映像を全部ビデオで録っていて、今でもたまに見返します。声の高さがオリジナルとだいぶ違うんだけど。

伊藤 今度ぜひ見たいです!幼い頃は英語版を見ていたので、セリフの内容は正直ほとんど理解できていません。

SITE 放送が続いていくうちに、作者のジョン・Kが描くブラックジョークとか鬱やノイローゼの描写がだんだん過激になったことで問題になって、言うことを全く聞かないジョン・Kがクビになってその後1シーズンだけやって結局打ち切りになっちゃったんですよ。

伊藤 漫画はいつもどこで描かれているんですか?

SITE ずっとデスクの上で描いてたんだけど、2年前にスケボーで骨折しちゃって起き上がるのもきつかった時期があって、それからはベッドの脇にあるスケボースツールの上で描いてます。ここで描くようになってからはTVがよく見えることに気づいてしまい、ここで起きてシャワー浴びてここで描いて、TV見て、資料見て、描いて、ここで寝るっていう。もともと作業してた机はおもちゃに占領されました(笑)。僕は“ながら”がすごいので、映像はミュート、スピーカーからは音楽、読みかけの本や資料が常にベッドに置いてある状態です。

伊藤 おもしろいですね!漫画家さんはすごく大きなデスクで描いてるイメージがありますが、そうじゃなくても描けるんですね。

伊藤 フィギュアもすごい数ですよね。

SITE ホラーやSF映画に出てくるクリーチャーが大好きで、今はCGが大半だけど、80年代はモンスターって作るものだったんですよね。その頃の、クリーチャーと呼ばれる着ぐるみみたいなモンスターが好きで。

伊藤 私もモンスター大好きです。

SITE 80年代は世界的にホラーブームで、僕がはまった小学生の頃に当時カリスマ的人気だったのは『死霊のはらわた』の監督で後に『スパイダーマン』を撮るサム・ライミとか。『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンも、デビュー当時はスプラッターホラーを撮っていた1人です。ホラー映画ってみんなバカにするけど、すごいクリエイティブなんですよ。時間かけて作った人形とかを1発で壊したりするから、残酷なシーンほど、メイキングを見るとスタッフみんな拍手喝采で(笑)。僕はその雰囲気が超好きなんです。

伊藤 SITEさんにもクリーチャー作ってほしい!

SITE 一応、この猿のトニーが僕の分身というかオルターエゴなんだけど、トニーだったら自分でも作ってみたいな。ちなみにこいつは2回くらいオークションで負けて、やっとゲットしたものなんです。「誰が探してるんだ⁈」って思ってたらある日TVでいっこく堂が同じのを持ってて、要はプロユースのパペットだったんです。うちには大きいのと小さいの、2匹います。

伊藤 フィギュアはどこで買うことが多いですか?中野とか?

SITE メルカリかヤフオクが多いかなあ。昔は欲深いコレクターはヤフオクにいたけど、メルカリが普及してそっちに集まってきたから、逆に僕はヤフオクに戻っている感じです。

伊藤 本当に、SITEさんの部屋はどこを切り取っても絵になる。圧倒されっぱなしです。

SITE いろんなコレクターの人がいますけど、僕としては、手元に置いてない、視界に入ってないのは所有していないことと一緒だと思うんです。本棚とかポスターとか、正確に整理して並べたら、マインドマップというか自分の外付けハードディスクの機能になりますよね。好きなものが常に視界に入ってくるのは、精神衛生上もいい。

伊藤 私が集めているものは服が一番多いです。オークションサイトで欲しいものを見つけると「私がこれを持ってないと嫌だ」という所有欲で買っている気がします。

SITE 僕はこのコレクションをずっと自分で所有していたいわけではなく、ゆくゆくは誰かに共有したいんです。いま描いてる漫画がやがて映像化されて、この部屋を撮影で使ったとしたら、その後はすべてどこかのガレージに移して、中高生に向けて開放する児童館みたいなスペースにしたい。たぶん僕はお金に執着がないからどこかで無一文になる人生だと思っていて、そのとき、児童館で仲良くなったキッズが出世して「先生、ホームレスやってるんだったらうちで働きなよ」って声をかけてくれる。60歳くらいからどこかの管理人になって……っていう未来はけっこうリアルに想像しています。

伊藤 物語が出来上がってますね!ガレージめちゃくちゃ行きたいです。

SITE 最終的な夢は僕の周りに孤独死しそうな奴も多いし、超高齢化社会になっていくから、HIPHOP老人ホームが作りたいなって思ってて。これからどんどん潰れるであろう温泉付きの施設を安く買い叩いて、全国に3箇所くらいに作れたら年に数回そこをバスツアーで巡ったりして。老人ホームではこのコレクションが、記憶療法に役立つ気がします。友だちみんなでレコード聞いたり。

伊藤 みんなでコレクションを持ち寄ったら、すごい量になりますね(笑)。

SITE とりあえずガレージを始めるなら友だちが多い相模原エリアがいいかなって考えていたんだけど、最近は川崎の方が駅から近い場所に工場の空き物件が出る確率は高そうだなとも思ってて。例えばそれがシルクの印刷工場の跡地だったりしたら、何か使い回せる機械もありそうだし。

伊藤 若い世代の子たちはDIY大好きだから響きそう。

SITE 共通の趣味の人を探す、昔の雑誌のお便りコーナーみたいな、そういう情熱のあるコミュニケーションの場にしたいですね。14〜15歳の頃に熱中したものって、一生忘れないじゃないですか。だから僕がこのコレクションを共有したいのは、その世代。今は金持ってないけど、成長したらきっと誰かは金を持つから(笑)。

伊藤 たしかに人生で最も影響を受ける年齢ですよね。自分は何が好きなのかに気づく。

SITE 僕はおっさんで人生には何回か通過儀礼があるのを分かってるから、そのタイミングでちょっとした道案内の役をしていきたいなと。

伊藤 憧れている人からの「これいいから聴いてみなよ」という一言に影響を受けますからね。

SITE 作家の人に多いと思うけど、出発点として「15歳の自分」みたいな設定をして、迷ったとき、その道を志した当時の自分ががっかりしないように問い直すというか。この部屋の設定を中二くらいで止めているのも、その意識なんです。

伊藤 その頃の好奇心とか、童心に返れる場所が部屋って素晴らしいです。好きなものに囲まれていれば「やっぱり自分はこれが好きだ」と再確認できますね。

SITE 子供の頃の気持ちって1回忘れちゃうと、本当に思い出せない。児童文学とかって、記憶の彼方に行っちゃいますから。でも大切なことはピンナップしておけば絶対に忘れないんです。

伊藤 今10代の子にアドバイスするとしたら何と言いますか?

SITE 「今捨てようとしているそれを捨てるな!」かな。たとえば高校に上がるときとか、小学校の頃すごく好きだったものを捨てちゃう人いるけど、どうか捨てないでほしい。他の人には無価値でも、自分にとってはすごい特別で大切だった気持ちをどうか忘れないで欲しいです。

伊藤 めちゃめちゃ響きます!私も捨ててしまって後悔したことあったな……。

SITE あとは、最近の若い子たちはSNSの影響で知らないことが恥ずかしいと思ったり、カッコつけて知った顔をする傾向があるように思うんだけど、人から勧められたものは、まじで試した方がいい。僕も、今好きなものが100個だとしたら60個は人から勧められたもの、友だちが好きで真似したものです。好きなものは自分で見つけたいって気持ちもあるだろうけど、勧められたら試すっていうルーティーンはいいですよ。それを10年やり続けたら、すごい財産になると思います。

伊藤 目から鱗です。実際に見たり聴いたりしないとわからないですから。

SITE 他のジャンルの人が、自分のことを想って勧めてくれるものは、たとえ刺さらなかったとしても、何かしら意図を感じるはずだから。自分からも何かをお返しすればいいし。新しい友だちができるってことは、その友だちが好きなものに出会うってことなんです。

伊藤 自分の好きなもの、内面を伝えるツールとしてインスタは有効かもしれないですね。

SITE ただ好きなものをポストしていただけだったけど、僕のアカウントをフォローしてくれている人たちは僕の大切なものをちゃんと理解してくれているなっていう謎の安心感がある。単行本が出たときもシェアしてくれるし、SNSも捨てたもんじゃないですね。

伊藤 ところで漫画は何巻までで完結するか、もう決まっているんですか?

SITE 10巻以上続いたら名作っぽいから、とりあえずそこまでは続けたいですね。

伊藤 楽しみです!

さて、お気づきの方もいると思いますが、連載第3回の最高にクールな題字は、伊藤さんのリクエストを受け、SITEさんがグラフフィティのタッチで仕上げてくれました。摩訶不思議な色合いは、お2人の会話にも登場したクリーチャーをイメージしたのだとか。80年代のストリートシーンから火がついたグラフィティにも、テクニックやルールがたくさん。もっと詳しく知りたいと思ったのなら、その答えは『少年イン・ザ・フッド』の中にあります。

伊藤万理華  いとう・まりか

1996年大阪府生まれ。乃木坂46のメンバーとして活動後、2017年に卒業。映画、舞台など俳優としての活動を本格化する。2020年に2度目となる個展「HOMESICK」を開催し、漫画家やデザイナーなど数々のクリエイターとのコラボレーションが実現。2021年は主演を務めた映画『サマーフィルムにのって』が映画祭で数々の賞を受賞、ドラマ『お耳にあいましたら。』で主演を務めるなど、飛躍の一年となる。金髪ギャルの役を演じた映画『もっと超越した所へ。』の公開が10月14日に控えている。

SITE さいと

1979年、渋谷区生まれ。ヒップホップ特殊情報機関「Ghetto Hollywood」主宰。ラップグループSD JUNKSTA所属。中学からヒップホップに傾倒し、1990年代後半からグラフィティライターとして活動開始。映像監督としても、PUNPEEやSALU、BAD HOPなどラッパーの楽曲を中心に数々のMVを手がける。2019年より『週刊SPA!』で漫画『少年イン・ザ・フッド』の連載がスタート。自身のリアルな体験をもとに描かれたHIPHOPを取り巻くドキュメンタリー・コミックとして、瞬く間に話題を集める。今年7月、最新刊となる単行本の5巻が発売。

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Photo: Shiori Ikeno Text: Satoko Muroga Title logo: SITE & Marika Ito

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