26 Jan 2023
テーラーに教わるホスピタリティ【仕事で活きる、心遣いのティップス】

深い思いやりと行動をもって、仕事に向き合う人。相手と接する際の意識と姿勢から、学ぶべきマナーが見えてくる。
テーラー
山本祐平
「テーラーケイド」代表
しっかり信頼関係を築きつつ
一線を超えず、心地よい付き合いを
1920〜60年代の名優やジャズミュージシャンたちにインスピレーションを得た、現代のアメリカントラディショナルを表現する「テーラーケイド」。山本祐平さんのビスポークスーツ作りは、訪れる客の一人ひとりに〝取材〟をすることから始まる。
「ただ服を作るのではなく、相手の人生を演出するのがテーラーの仕事だと思っているので、お客さんがどんな仕事をしていて、どこがチャームポイントで、どんなふうになりたいのか……まずはパーソナリティを引き出します。オーダーメイドは時間とお金がかかるし、向こうからしても僕が本当に信頼できる人なのか不安な部分もあると思うんです。その強張った雰囲気を『きっといいものになりますよ』とほぐしていかないと。しっかりコミュニケーションがとれていれば間違った方向へ行ってしまうことはないと思うし、満足してもらえるものを作るためにも対話をもっとも大切にしています」
完成までにかかる期間は、およそ3カ月。仮縫いに1〜2回の試着を挟んで、アトリエの職人たちが本格的に仕上げていく。「難しい注文が入るのは日常茶飯事」と山本さんは話す。「頼まれたイメージを壊すようなことは決してしないけど、『もっとこうしたらかっこよくなるだろうな』って時は、正直に伝えます。言いたいことを言い合えるような関係を築くのが理想ですね」
山本さんが集めた写真集や雑誌、レコードが並ぶ店の雰囲気は、まるで友達の部屋を訪れたような、不思議な安心感がある。
「中には『まだ注文できないけどスーツについて教えてほしい』っていう、若い方もいらっしゃいますよ。お客さんと店の外で会うことも多いけれど、どれだけ関係が深まっても絶対に手を抜くこともないし、逆に『友達だからサービスして』って言われる場面もありません。そういう最低限の礼儀を守らないと、関係性が崩れると思うんです。まさに〝親しき中にも礼儀あり〟だと感じます」
山本祐平 やまもと・ゆうへい
2002年、渋谷に「テーラーケイド」を創業。古き良きトラディショナルスタイルを追求し、具現化できる希少なテーラー。カルチャーへの造詣も深い。
Photo: Natsumi Kakuto Text: momoka oba