31 Jan 2023
バーテンダーに教わるホスピタリティ【仕事で活きる、心遣いのティップス】

深い思いやりと行動をもって、仕事に向き合う人。相手と接する際の意識と姿勢から、学ぶべきマナーが見えてくる。
バーテンダー
山谷頼子
「BAR燐光」オーナー
その夜のテンションに合わせて
居心地のよさを都度調整していく
神楽坂の路地裏にたたずむ「BAR燐光」は、木を基調としたシンプルな内装。美術書や演劇関連の本を並べた書棚もあり、バーというよりはカフェを訪れている感覚にもなる。
「背伸びをして過ごすよりも、落ち着ける場所であることを大事にしています。社交術を磨く空間として捉える人もいらっしゃいますが、誰とも話をせず、酒をお供に本を読み耽る日があってもいいんです」
誰もがいい時間を過ごすために席の配置も工夫を凝らす。
「カウンター7席の小さな店のため、訪れるお客さまによって雰囲気は時間帯でがらりと変わる時も。みなさんに満喫していただくために、座る位置を必ず案内します。サクッと飲みたい方は入り口付近に、ゆったりしたい人は奥へ。そして会話を楽しまれたい場合は、私の立ち位置と近い中央に座っていただきますね。一人になりたいお客さまを巻き込まないよう、賑やかな方には『今夜は私とお話ししましょう』と声がけをすることもありますよ。また、会話の内容も空気を左右するのでワクワクするトピックスを振るような心がけも。私が古典芸能好きなこともあって、同じ趣味を持った方とはつい花が咲いちゃいます。バーを一人で切り盛りしていく上で、いつもリラックス状態であるようにもしています。こちらが緊張していると、お客さまにも伝わるので」
飲みたいイメージを聞き取りして作るのがカクテルの基本。人によって感じ方が異なる味を的確に表現するコツは?
「お好みのテイストをいくつか挙げていただくことです。言葉の中で重なるポイントを見つけたら、そこに向けて味を組み立てていきます。会話のキャッチボールを経てからドリンクを作るので、提供をするのにお時間をいただく時も。その場合は事前に『お待たせをするかもしれません』と断りを入れます。カクテルをお出しするまでの間は中国茶のソーダ割りをサーブするなどして、お客さまが手持ち無沙汰にならないようにしていますね」
もちろんグラスの進み具合や、水を出す頃合いも配慮する。
「暑さを感じる時季の一杯目は、爽快感を堪能するためにシュワっとしたドリンクを頼まれる方がほとんど。喉越しを楽しんでいただくために、水は2杯目からお出しするようにしています」
山谷頼子 やまや・よりこ
老舗のバー4軒で研鑽を積んだ後、2019年に独立。季節の果実やハーブなど素材の味を活かしたカクテルが得意。低アルコールドリンクも充実する。
Photo: Kaori Ouchi Text: Mako Matsuoka