21 Feb 2023
理容師に教わるホスピタリティ【仕事で活きる、心遣いのティップス】

深い思いやりと行動をもって、仕事に向き合う人。相手と接する際の意識と姿勢から、学ぶべきマナーが見えてくる。
理容師
大嶋昭格
「理容米倉 銀座本店」店長
何十年と通う人にも緊張感を忘れず
「また来たい」と思わせるひとときを
「僕があまりにもいろんな情報を知っているもんだから、まわりから〝FM銀座〟なんて呼ばれているんですよ(笑)」
そう話すのは、1918年に創業し、100年以上の歴史を持つ「理容米倉」の大嶋昭格さん。熟練の技術はもちろん、理容師たちの気さくな人柄も客の心をつかみ、さまざまな業界にファンを持つこの店。訪れる人にとってはカット中の〝床屋談義〟も楽しみのひとつになっているようだ。
「どんな話題を振られてもトークを盛り上げられるよう、日々勉強しています。本や雑誌もたくさん読むし、お客さんから学ぶことも多いですね。『このあたりで美味しい店はどこ?』と聞かれた時のためのストックも常に用意していますよ。次に会った際に『教えてもらった店、すごくよかったよ』って言ってもらえるとうれしいし、そういうコミュニケーションには昔ながらの〝銀座らしさ〟も感じますね。もちろん、話すのが得意じゃない方もいるし、人それぞれ苦手な話題もあります。そこは顔色を見ながらうまく見極めて、柔軟な対応を心がけています。どこ出身でどんな仕事をしていて、どんなものが好きだとか、そういう一人ひとりのプロフィールは全部頭の中にメモしてあるんです」
本業のカットはもちろん、シャンプーとシェービングにも気合を入れている。自宅でもできる行為だからこそ、「自分でやるより気持ちいい」という、心地よさを感じさせる付加価値をつけることが重要なのだそう。そんな大嶋さんの心遣いの積み重ねにより、「理容米倉」を訪れる人々は、9割以上がリピーターだ。
「僕は、どれだけ長く通ってくれている常連さんに対しても『また来てくれるだろうか』という危機感を持って接しています。うちのお客さんは人生経験が豊富な方が多いから、少しでも気を抜いたらきっとすぐにバレてしまうと思うんです。だから、しっかりとしたサービスをするというのは大前提で、あとはとにかくお客さんに対して誠実であることが重要。1時間以上二人きりで過ごすわけだから、店に入ってから出て行くまで、ずっといいお気持ちでいてもらいたいなって思っています。帰り際に『また来るよ』って言ってもらえた時が一番うれしいし、ホッと緊張の糸がほぐれますよ」
大嶋昭格 おおしま・あきのり
就職時から銀座本店を担当し、来年で勤続50年。店舗は2回の移店を経て、18年前から現在の場所に。受付対応からカットまで一人でこなす。
Photo: Hitomi Kurokawa Text: Momoka Oba