歴史に名を残したデザイナーやアーティストは快適な住まいを作る達人でもありました。限られたスペースを工夫して自分好みに整えた4人の部屋と家具をじっくり解剖します。
トーベ・ヤンソンの夏の家【お手本インテリアvol.4】
トーベ・ヤンソンの夏の家
Tove Jansson
ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソンは50歳の時にパートナーのトゥーリッキ・ピエティラとともに、フィンランド湾の群島のひとつに小屋を建て、毎年5月初めから9月までをそこで過ごした。2人が手に入れたクルーヴ島は10分歩けばひと回りできるほどの小さな無人島だ。あちこち水たまりができる岩場だらけの環礁で、海が荒れれば船をつけることも困難だった。そんな絶海の孤島に知人の力を借りたとはいえ小屋を建てるのは相当大変だっただろう。しかし工事の苦労よりも、視界360度の海に囲まれて夏を過ごす魅力のほうが大いにまさった。
One-room cabin
ほぼ正方形の平面を持つ小屋は四方の壁に窓がある。刻々と変化する海や空や鳥の飛来を眺めるのが何よりも好きな2人だったからだ。作りつけの本棚、それぞれの書き物机、ソファを兼ねたベッド。地下にサウナ室もあった。電気も水道も通っていないからオイルランプは必需品で、家の外にはキッチンストーブ用の薪が積まれていた。週に一度は近くの大きな島までボートを出して水や食料の買い出しに行くが、自分たちで魚を釣って食べることもあった。
トーベの著書『島暮らしの記録』はこの家での暮らしを綴ったものだが、内装やインテリアについてはほぼ語られず、小屋の建設プロセスの話が多い。住居のベースづくりがいかに大変だったかがわかる。時に脅威となる大自然に身をおくことを優先した2人にとって、室内には最低限の生活用品とくつろぎさえあればよかったのだろう。仕事をし、絵を描き、本を読み、漁網を繕い、薪を割り、天気を観察する。自然の中で簡素に生きることこそが、島暮らしの最大の喜びだったのだ。海に浮かぶ25㎡のワンルームは、危険や不便を覚悟で本当に好きなことだけを選びとった人のインテリア論を示してくれる。
Window side
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Tove Jansson
児童文学作家、画家、小説家。1914年ヘルシンキ生まれ。風刺画家を経て『ムーミン』シリーズが世界的にヒット。クルーヴ島の家は91年まで毎夏通った。2001年没。